はじめに
近年、MTGアリーナが導入されたことで、Magic: The Gatheringのオンラインイベントはかつてないほどの隆盛をみせています。自宅にいながらグランプリと同様のハイレベルなプレイと緊張感、達成感を味わえるものです。
本稿では盛り上がりをみせるオンライン上で開催された大会結果をまとめて、みなさんにお届けしていきたいと思います。今回は先々週末に開催されたMythic Qualifierの結果を振り返っていきましょう。
Mythic Qualifierとは
Mythic QualifierとはMTGアリーナ最高峰のイベントであるミシックインビテーショナルへの参加権利をかけた大会である。各シーズン終了時点で1200位以内のプレイヤーが参加可能であり、2敗するまでに10勝達成することでミシックインビテーショナルへの参加権利が獲得となる。
Mythic Qualifier Zendikar Rising 10勝デッキ
デッキタイプ | 使用者数 |
---|---|
ジェスカイルーカ(ヨーリオン) | 8 |
アゾリウスコントロール(ヨーリオン) | 2 |
ティムール再生 | 2 |
ティムールアドベンチャー | 2 |
白単オーラ(ルールス) | 1 |
ラクドスサクリファイス(ルールス) | 1 |
赤単アグロ(オボシュ) | 1 |
合計 | 17 |
Mythic Qualifierでは予選突破者の約半数にあたる8名がジェスカイルーカを選択しました。ほかのデッキの使用者数は拮抗していますが、アーキタイプ別にみるとアグロデッキの突破率が芳しくありません。クリーチャーベースのデッキには速度よりも何かしらのアドバンテージエンジンが求められているようです。また、「相棒」に目を向けると13名とこちらも高い使用率となっています。
10勝デッキリストはこちら。
ジェスカイルーカ
2 《島》
2 《山》
4 《ラウグリンのトライオーム》
4 《神聖なる泉》
4 《聖なる鋳造所》
4 《蒸気孔》
4 《寓話の小道》
3 《天啓の神殿》
3 《アーデンベイル城》
2 《ヴァントレス城》
-土地 (35)- 3 《裏切りの工作員》
-クリーチャー (3)-
4 《轟音のクラリオン》
2 《空の粉砕》
4 《海の神のお告げ》
4 《メレティス誕生》
4 《太陽の神のお告げ》
4 《創案の火》
4 《サメ台風》
4 《覆いを割く者、ナーセット》
4 《時を解す者、テフェリー》
4 《銅纏いののけ者、ルーカ》
-呪文 (42)-
揺るぎなき環境最強デッキの名を欲しいままにするジェスカイルーカ。同アーキタイプを代表してRyuzo選手のデッキリストを見ていきましょう。
ジェスカイルーカはアグロデッキに対してボードを掌握するために《海の神のお告げ》《覆いを割く者、ナーセット》を使って《轟音のクラリオン》《空の粉砕》を探しにいきます。しかし《空を放浪するもの、ヨーリオン》の弊害としてデッキ総数が80枚となっているため、4枚のリセット呪文が見つからずに押し切られてしまう場面もあります。
このデッキリストは2種6枚のリセット呪文に加えて、《火の予言》までも採用しています。単にクリーチャー戦を有利に進めるだけではなく、インスタント除去である《火の予言》の加入は《鍛冶で鍛えられしアナックス》への意識が感じられます。
問題となるのはどの部分を削り《火の予言》のスロットを捻出したかですが、なんとメインボードに《エルズペス、死に打ち勝つ》の姿が見えません。メイン戦は赤単アグロや各種《夢の巣のルールス》デッキへの勝率を高めることを念頭に構築されているようです。
『イコリア:巨獣の棲処』からはこの2枚の採用が光ります。《火の予言》はテンポ除去であり、相手のターン中に《鍛冶で鍛えられしアナックス》を除去して自身のターンで《轟音のクラリオン》《空の粉砕》へ繋ぐといったプランが見えます。対アグロ戦において、除去とカードの入れ替え(ルーティング)を一挙動で行える優秀な1枚ですね。
《魂標ランタン》は厄介な《大釜の使い魔》《魔女のかまど》パッケージをつぶせるだけではなく、「サイクリング」系デッキに対しても効果的なカード。一度キャストすればマナを使わずに墓地をすべて追放できるため、《天頂の閃光》を無視してゲームをすすめることができるようになります。
このデッキのオススメ!
元々ボードコントロール力には定評のあったジェスカイルーカですが、アグロ側もスピード特化や《夢の巣のルールス》を用いてのリソース回復など対抗してきています。今回のデッキリストは数あるジェスカイルーカのなかでも、対アグロ仕様としては最高峰!アグロデッキを取りこぼしたくないなあなたにオススメ!
アゾリウスコントロール
6 《平地》
4 《ラウグリンのトライオーム》
4 《神聖なる泉》
4 《啓蒙の神殿》
3 《寓話の小道》
2 《アーデンベイル城》
2 《ヴァントレス城》
2 《爆発域》
-土地 (36)- 4 《厚かましい借り手》
-クリーチャー (4)-
2 《本質の散乱》
2 《否認》
1 《物語の終わり》
4 《神秘の論争》
2 《悪意ある妨害》
1 《中和》
2 《空の粉砕》
4 《海の神のお告げ》
2 《メレティス誕生》
3 《太陽の神のお告げ》
1 《エルズペス、死に打ち勝つ》
4 《サメ台風》
4 《覆いを割く者、ナーセット》
4 《時を解す者、テフェリー》
-呪文 (40)-
2 《霊気の疾風》
2 《否認》
2 《空の粉砕》
2 《神秘の制圧》
1 《時の一掃》
1 《ヘリオッドの神罰》
1 《ガラスの棺》
1 《空を放浪するもの、ヨーリオン》 -サイドボード (15)-
7 《平地》
1 《ラウグリンのトライオーム》
4 《神聖なる泉》
4 《寓話の小道》
4 《啓蒙の神殿》
3 《アーデンベイル城》
2 《ヴァントレス城》
-土地 (36)- 2 《厚かましい借り手》
3 《夢さらい》
-クリーチャー (5)-
4 《吸収》
4 《神秘の論争》
1 《意味の渇望》
4 《空の粉砕》
4 《海の神のお告げ》
4 《メレティス誕生》
3 《エルズペス、死に打ち勝つ》
4 《サメ台風》
4 《覆いを割く者、ナーセット》
4 《時を解す者、テフェリー》
-呪文 (39)-
2 《厚かましい借り手》
2 《太陽の恵みの執政官》
2 《軽蔑的な一撃》
2 《敬虔な命令》
1 《ドビンの拒否権》
1 《エルズペス、死に打ち勝つ》
1 《空を放浪するもの、ヨーリオン》 -サイドボード (15)-
アンチジェスカイルーカとしての地位を築きつつあるアゾリウスコントロールは2名が予選突破を果たしましたが、その構成は全く違ったものとなっていました。Red Bull Untapped International Qualifier 1の覇者Gob123と合わせて3つのデッキリストを比較してみたいと思います。
カード名 | Kumazemi | NeeftheProG | Gob123 |
---|---|---|---|
《島》 | 9 | 11 | 9 |
《平地》 | 6 | 7 | 6 |
《ラウグリンのトライオーム》 | 4 | 1 | 0 |
《神聖なる泉》 | 4 | 4 | 4 |
《寓話の小道》 | 3 | 4 | 4 |
《啓蒙の神殿》 | 4 | 4 | 4 |
《アーデンベイル城》 | 2 | 3 | 3 |
《ヴァントレス城》 | 2 | 2 | 2 |
《廃墟の地》 | 0 | 0 | 1 |
《爆発域》 | 2 | 0 | 0 |
《厚かましい借り手》 | 4 | 2 | 4 |
《夢さらい》 | 0 | 3 | 2 |
《ドビンの拒否権》 | 4 | 3 | 2 |
《本質の散乱》 | 2 | 0 | 0 |
《否認》 | 2 | 0 | 0 |
《物語の終わり》 | 1 | 0 | 0 |
《吸収》 | 0 | 4 | 4 |
《神秘の論争》 | 4 | 4 | 4 |
《悪意ある妨害》 | 2 | 0 | 0 |
《中和》 | 1 | 0 | 0 |
《意味の渇望》 | 0 | 1 | 0 |
《空の粉砕》 | 2 | 4 | 4 |
《薬術師の眼識》 | 0 | 0 | 3 |
《海の神のお告げ》 | 4 | 4 | 4 |
《メレティス誕生》 | 2 | 4 | 3 |
《払拭の光》 | 0 | 0 | 1 |
《太陽の神のお告げ》 | 3 | 0 | 0 |
《エルズペス、死に打ち勝つ》 | 1 | 3 | 3 |
《サメ台風》 | 4 | 4 | 4 |
《ガラスの棺》 | 0 | 0 | 2 |
《覆いを割く者、ナーセット》 | 4 | 4 | 3 |
《時を解す者、テフェリー》 | 4 | 4 | 4 |
サイドボード | 15 | 15 | 15 |
《空を放浪するもの、ヨーリオン》 | 1 | 1 | 1 |
《魂標ランタン》 | 3 | 0 | 0 |
《霊気の疾風》 | 2 | 0 | 3 |
《否認》 | 2 | 0 | 0 |
《空の粉砕》 | 2 | 0 | 0 |
《神秘の制圧》 | 2 | 0 | 0 |
《時の一掃》 | 1 | 0 | 0 |
《ヘリオッドの神罰》 | 1 | 0 | 0 |
《ガラスの棺》 | 1 | 4 | 1 |
《厚かましい借り手》 | 0 | 2 | 0 |
《太陽の恵みの執政官》 | 0 | 2 | 3 |
《敬虔な命令》 | 0 | 2 | 0 |
《軽蔑的な一撃》 | 0 | 2 | 0 |
《ドビンの拒否権》 | 0 | 1 | 2 |
《エルズペス、死に打ち勝つ》 | 0 | 1 | 0 |
《太陽の神のお告げ》 | 0 | 0 | 3 |
《物語の終わり》 | 0 | 0 | 2 |
NeeftheProG、Gob123両選手がボードコントロールとカウンターを持ち合わせた平均的なレシピに対して、Kumazemi選手のものはメインボードから《否認》などを採用するカウンターに特化した構成となっています。フィニッシャーに関しても《夢さらい》を排除して《厚かましい借り手》と《太陽の神のお告げ》とし、ボードコントロールスペルは《空の粉砕》《エルズペス、死に打ち勝つ》ともに削減されています。
対ジェスカイルーカ非常を意識した構成であり、クロックパーミッション戦略が取られています。サイドボードも一貫してカウンターを阻害することなく盤面へと干渉できるカードが多く選択されています。
対してNeeftheProG選手は《空の粉砕》4枚に《エルズペス、死に打ち勝つ》《夢さらい》とどっしりと腰を据え、横綱相撲を目指す構成となっています。ジェスカイルーカだけではなくアグロデッキへのガードを下げることなくデザインされており、カウンター/リセット呪文を適切に唱えることでメイン戦での取りこぼしを抑えています。サイドボードではアグロデッキへの勝率を高めるために低コスト除去2種類と《太陽の恵みの執政官》の採用が目を引きます。
両デッキともに《神秘の論争》に追加して3マナのカウンターを採用していますが選択は異なっています。Kumazemi選手はあくまでもジェスカイルーカへ焦点を絞り、対アグロに優れた《吸収》ではなくライブラリー操作を持ち合わせた《悪意ある妨害》と《中和》を選択しています。
『イコリア:巨獣の棲処』からは《神秘の制圧》が採用されています。《本質の散乱》/《否認》と一緒に構えられ、実質的にクリーチャー除去となっています。パワーが下がるだけではなく能力も失うため、このデッキが苦手とする《エッジウォールの亭主》《忘れられた神々の僧侶》《鍛冶で鍛えられしアナックス》などのシステムクリーチャーに対しても有効なカードとなります。
このデッキのオススメ!
一口にアゾリウスコントロールといってもメタゲームに合わせてその構成は千差万別、1枚のスロットを入れかえただけでも勝率は変わってくるでしょう。現在のアゾリウスコントロールはどっしりと構えるよりも、相手によって動きを変える器用なデッキのようです。環境分析から最適解を見出すことが好き、相手によって静と動の可変的なプレイを得意とするなあなたにオススメ!
セレズニアオーラ
2 《森》
4 《寺院の庭》
2 《寓話の小道》
4 《豊潤の神殿》
2 《アーデンベイル城》
-土地 (21)- 2 《石とぐろの海蛇》
4 《命の恵みのアルセイド》
4 《ジンジャーブルート》
3 《癒し手の鷹》
-クリーチャー (13)-
最後にご紹介するのは1マナクリーチャーへオーラを張りつけることによってビートダウンするセレズニアオーラです。クリーチャーのほとんどが回避持ちであり、絆魂によってダメージレースも優位に立つことができます。《きらきらするすべて》はオーラ先のクリーチャーがエンチャント/アーティファクトであることも相まって、大きく打点を上げる必殺の1枚です。
リセット呪文などを用いた大振りなコントロールに対しては《ケイラメトラの恩恵》のようなカウンターカードが存在するため、逆に《きらきらするすべて》で隙をつきダメージを稼ぐことができます。単体は小粒であり、1枚のクリーチャーへ複数のオーラをベタ貼りする一騎当千によるダメージレースが多いため、サクリファイス系を苦手としています。
除去に弱いのがオーラの常でしたが、このデッキではその弱点も克服されています。《石とぐろの海蛇》は《轟音のクラリオン》《時を解す者、テフェリー》に強いプロテクション(多色)をもっているため、対ジェスカイルーカ時はオーラ先として優秀です。《命の恵みのアルセイド》《神々の思し召し》はほかのクリーチャーを単体除去から守ってくれるだけではなく、相手のブロッカーをすり抜け最後の一撃を与えてくれるカードです。
単一除去ではなく、プロテクションを無視できるリセット呪文を使用された際に輝くのがこちらの3枚。「破壊不能」を得る《ケイラメトラの恩恵》は一度オーラがつけば常に頭に浮かぶ1枚です。《夢の巣のルールス》はいうまでもありませんが、《成長の季節》も大量のリソースを稼いでくれるカードです。実質オーラにキャントリップが付属する効果であり、これさえ場にあれば除去を恐れずに展開が可能となります。
このデッキのオススメ!
一見するとクリーチャーへオーラを貼り続けるだけの直線的なデッキに見えますが、リソースを稼ぐカードや守るカードも豊富にあります。クリーチャーやオーラ選択にはじまりどこまでオーラを貼るか、また、相手よって貼るべきオーラも変わってくる奥深いデッキです。《夢の巣のルールス》を用いたデッキのなかでもダメージレースに特化しているものを使いたい、重めのコントロールに有利に立ち回りたいあなたにオススメ!
おわりに
いかがだったでしょうか。
王者ジェスカイルーカは不動の地位を確立しつつありますが、ほかのデッキたちもメタゲームに合わせて構成を変えてきています。また、来月6/1にはスタンダードと「相棒」に何らかのテコ入れがある告知がされました。
【お知らせ】来週の6月1日(日本時間該当日深夜)に最新の禁止制限告知が行われます。対象フォーマットはスタンダードおよびヒストリック、また「相棒」メカニズムについても対応を行う予定です。 https://t.co/FUohnn2Gm8
— マジック:ザ・ギャザリング (@mtgjp) May 27, 2020
これによりスタンダードはどのように変わっていくのか、今は発表を待ちたいと思います。
それでは来週もスタンダードの情報をお届けしたいと思います。