我々はなぜ、マジックをプレイするのだろう?
楽しむため。勝利の喜びを味わうため。友人との話題作りのため。あるいは、名誉や賞金を手にするため。
どういった理由であれ、このThe Last Sun2016で優勝する者は、恐らくその理由を満たす何かを手に入れることができるのだろう。
ゆえに負けられない。
ゆえにここまで来た。
ここまでの長く険しい道のり。全14回戦のスイスラウンドと強者ぞろいの決勝ラウンドを突き進んできた原動力は、すなわちその問いに対する解答であるはずなのだ。
余談は置いておいて、ここに並び立つ2名のマジックプレイヤーの紹介に移るとしよう。
三宅 恭平(東京)。
2016年マジック・プロツアー殿堂顕彰者である渡辺 雄也の愛称としても有名な「ミスターPWC」。関東の歴史ある草の根トーナメントである【Planes Walker’s Cup】に端を発するその名は今なおPWCポイントランキング1位のプレイヤーへ継承されており、三宅はその【10代目】および【11代目】と2代連続でその称号を受け継いでいる。
そして、「ミスターPWC」を巡るPWPポイントランキングは毎年凄まじいデッドヒートが繰り広げられていることでも有名だ。ほぼ毎週末PWCに参加し、結果を残し続けるだけの根気と実力が必要とされる。
実際、過去のミスターPWCも上述したジャパニーズジャガーノート・渡辺 雄也をはじめとして「菊名合宿」の主催者である中村 肇、第6-7期スタンダード神の和田寛也、【プロツアー『マジック・オリジン』】への出場経験もある中道 大輔など錚々たるメンバーが名を連ねている。
彼らとともに競い、切磋琢磨してきた三宅がこの『The Last Sun2016』の優勝を懸けた戦いへと駒を進めていることは何ら不思議なことではないだろう。
相対するは清水 直樹(神奈川)。
通称「シミックの王子」。謎の自信に満ちた言動とやや天然な人柄から、周囲によくいじられている愛されキャラ(?)だ。
しかしながらその実力は並のプレイヤーを遥かに逸しており、【トップ8プロフィール】に書き連ねられた【プロツアー・オースティン09】3位入賞や【プロツアー『アヴァシンの帰還』】8位入賞など、数々の輝かしい戦績に一切の粉飾はない。
家庭を持ち、最近は第一線を退いていたもののつい先日の【プロツアー『霊気紛争』地域予選】では見事に権利を獲得。その実力がまったく衰えていないことを証明した。プロシーンの第一線で磨かれた勝負強さは現役プレイヤーにも勝るとも劣らず、今日も準決勝では【グランプリ・千葉2016】準優勝の木原 惇希を全5ゲームの大熱戦の末に下して決勝の舞台へ辿り着いた。
スタンダードとモダンの2種目で争われるThe Last Sun2016の決勝ラウンドはスイスラウンドの成績上位者がフォーマットを決定し、その後のダイスロールによって先攻・後攻を決定する。
ここでのフォーマット決定権を持つのは三宅だ。両者ともに、試合前にジャッジに手渡されたデッキリストを見つめながら悩む。
三宅「スタンダードが『ティムール《霊気池の脅威》』で……モダンは『ドレッジ』か。サイドボードに枠取ってはいるけど《神々の憤怒》引いたからって勝てるわけでもないよねw」
清水「そっちはスタンダードが『4Cドレッジ』でモダンが『ブルームーン』? 俺的にはモダン選んでほしいけどねw モダンにしようよ」
冗談を交えながらも互いのデッキリストを隅々までチェックし、ジャッジに促された三宅が「スタンダードで。」と重々しく決断を下す。三宅の「4Cドレッジ」と清水の「ティムール《霊気池の脅威》」。決して相性がいいとは言えないモダンよりも、互いにブン回りのあるスタンダードでのマッチアップの方が分があるという判断だろう。
さて。
我々はなぜ、マジックをするのか? 冒頭に記したこの茫漠とした問いに、彼らはどのような答えを持っているのだろう。
信念。賞典。忘憂。名誉。あるいはまったく別の何か。
問いへのアンサーとなるであろう勝利を求め、2人は戦いに駆る。
The Last Sun2016、決勝の幕開けだ。
三宅 恭平 vs. 清水 直樹
Game 1
試合前の歓談が嘘のように押し黙った2人は、緊張した面持ちを湛えながらオープニングハンドをじわりと睨みつける。
一呼吸。二呼吸。間を置いて2人が口を開く。三宅がマリガン、清水がキープ。続く6枚の手札をキープした三宅は、素早く占術を終えた後《尖塔断の運河》から《査問長官》をプレイ。第2ターンにはその能力を起動し、《コジレックの帰還》や《秘蔵の縫合体》といった“当たり”を墓地に置きつつ《密輸人の回転翼機》を戦場に送り込む。
これに対して、清水は「昂揚」の達成と《霊気池の驚異》の発掘に寄与する《発生の器》を設置しつつ、三宅が《密輸人の回転翼機》をクリーチャー化するとすかさず《蓄霊稲妻》。容易にはリードを許さないスタートとなった。
さらに清水は《織木師の組細工》を繰り出して《発生の器》を起動。これによって「昂揚」を達成したかと思えば《蓄霊稲妻》を空撃ちしてエネルギーを蓄える。三宅が若干もたついている間に着実に勝利への道筋を立てていく。
やがて満を持して叩きつけられたのは《霊気池の驚異》! 設置後に即起動し、捲った6枚の中から予定調和のごとく《約束された終末、エムラクール》が飛び出す。
これにより三宅のコントロールを得ると、これまで三宅が懸命に肥やしてきた墓地を《終わりなき時計》の2つめの起動型能力で一掃する。
成す術なくなった三宅は手札から《憑依された死体》をプレイして反撃の手立てを探るが、清水がダメ押しとばかりに叩きつけた《墓後家蜘蛛、イシュカナ》が蜘蛛トークンを引き連れて戦場に降り立つと、速やかに土地を片付け始めたのだった。
三宅 0-1 清水
環境屈指のパワーカードである《約束された終末、エムラクール》がその強烈な能力で清水に先勝をもたらす。安堵の一息とともに、清水が次のゲームに向けて素早くシャッフルを始める。対する三宅はというと、その眼差しに宿る闘志は尽きることなく、かえって燃え上がるかのようであった。
動作に瞬刻の間さえ持たず、待ち切れないとばかりにカットを終えた2人は素早く第2ゲームを開始した。
Game 2
第1ゲーム同様に三宅が《査問長官》、清水が《発生の器》でスタート。続く三宅は《査問長官》で墓地を肥やしつつ《屑鉄場のたかり屋》を戦線に投入し、清水は《蓄霊稲妻》で《査問長官》を焼く。
さらに清水は《つむじ風の巨匠》をプレイし、《屑鉄場のたかり屋》の攻撃にぶつけるが、三宅も負けじと《憑依された死体》で二の矢を継いで攻め手を途切れさせない。
能動的なアクションのない清水の第4ターンを見届けた三宅は《ウルヴェンワルド横断》で《老いたる深海鬼》をサーチ。さらに余ったマナで《縫い翼のスカーブ》を追加して攻め立てる。
清水も《墓後家蜘蛛、イシュカナ》で対抗するが、対する三宅は《老いたる深海鬼》をキャストして《コジレックの帰還》を誘発させ、戦場を一掃。さらに余ったマナは《屑鉄場のたかり屋》の起動型能力に費やし、一挙8点のクロックで清水を追いつめる。
後がなくなった清水だったが、ようやく引き込んだ《霊気池の驚異》をプレイし即起動! ライブラリーから6枚のカードを捲り……
そして、カードを片付け始めた。
三宅 1-1 清水
プロツアー準拠のBest of Five(3本先取)方式で行われるThe Last Sun2016の決勝ラウンド。第2ゲームまでが終了し、ここからサイドボードが解禁される。
ゲームカウントがイーブンに戻ったことと、頼みの綱のサイドボードに触れたためかここまでの緊張が一瞬ゆるみ、歯を見せながら互いのサイドボードを一度交換して内容を精査する。両者手のつけられないブン回りがあるコンボデッキを操る中、サイドボードなしで戦った第2ゲームまではどちらも気が気でなかったことだろう。
三宅 恭平
三宅「何のためにマジックをするのか? 楽しむためですね。浅いかもしれませんが、一言で言うならそれしかないです」
冒頭で問うた質問に対し、彼の答えは明白だった。
楽しむため。それはマジックをプレイする全ての人間が普遍的に抱いているであろう、シンプルにして力強い解答。しかしそれゆえに、マジックに没頭していく中で置いてきてしまいがちなもの。
楽しむということに対して、ただひたすら真摯に、貪欲に、まっすぐに向かう。
其れが為に、三宅はこの舞台へと到達できたのだろう。
両者速やかにサイドボーディングを終えてシャッフルを終えると、第3ゲームが開始された。
Game 3
清水がテイクマリガン。三宅はキープ。
第1ゲーム、第2ゲーム同様《発生の器》から動き出す清水に対し、三宅も《査問長官》から動き出す。清水が《織木師の組細工》でエネルギーを得ると、三宅は《査問長官》で墓地を肥やしながら《終わりなき時計》でさらに墓地肥やしを加速させる。
エネルギーを使い切った《査問長官》がアタックに向かう。清水は《霊気池の驚異》!
だが三宅は清水の第2メインフェイズ終了時に《憑依された死体》を戦場に戻し、《秘蔵の縫合体》3体が戦場に戻る。13点クロックで清水を強襲!
清水は2枚目の《織木師の組細工》をプレイ。これにスタックで《老いたる深海鬼》をプレイするが、《蓄霊稲妻》を空撃ちして3Eを得て《霊気池の驚異》起動。6枚の中に《約束された終末、エムラクール》を見つけ、プレイ。
三宅の手札に2枚目の《老いたる深海鬼》を現出でプレイ。《コジレックの帰還》を誘発させ三宅の戦線を壊滅させると、《終わりなき時計》でその墓地もリムーブ。
戦場・墓地ともに空にされてしまった三宅にできることはなく、《終わりなき時計》をプレイしてリカバリーのわずかな可能性にかけるが、清水はわずかな猶予も与えることな速やかに《約束された終末、エムラクール》で三宅のライフを奪い取っていった。
三宅 1-2 清水
日本選手権で2回のトップ8、グランプリで2回、そしてプロツアーで2回のトップ8入賞を果たしている清水だが、未だ優勝の栄誉に浴した経験はない。
だが。清水がいよいよ優勝の2文字に王手をかけている。歴戦の猛者である彼でさえ、タイトルの懸かったマッチでは気が詰まるのだろう。言葉に出すことこそないが、大きく息をついてシャッフルするその姿からは緊張した心理状況が見て取れた。
清水 直樹
清水 直樹はなぜ、マジックをプレイするのか?
清水「何ってそりゃあ家庭のためですよ。マネーフィニッシュしないと嫁に怒られますからw」
半ば冗談気味にそう答えた清水だったが、夫であり、父であり、そしてマジックプレイヤーでもある彼がマジックを続けていくには、当然家庭や周囲からの理解と協力が必要であることに違いないだろう。
背負っているもののために戦う。それは彼が自分に架している誓約であり、その誓約こそが彼の勝利を支えている根源なのだ。
熱戦を繰り広げるフィーチャーエリアを取り囲むギャラリーは不気味なほどに静まり返り、決勝戦の緊張感が空気を支配していた。最後に笑う者は、ただ1人のみだ。
Game 4
互いに大満足とは言えない表情を浮かべながら、6枚に減らした初手をキープする。
先攻の三宅は2ターン目に《査問長官》をプレイしつつ3ターン目には《ウルヴェンワルド横断》で《沼》を手札に加え、《精神背信》で清水の手札にあった《コジレックの帰還》と《墓後家蜘蛛、イシュカナ》の2択のうち、後々の脅威となりそうな《墓後家蜘蛛、イシュカナ》を抜き去る。
対する清水は1ターン目に《発生の器》を設置すると《導路の召使い》でエネルギーを得て、3ターン目には《蓄霊稲妻》で《査問長官》を焼き払って応戦する。
これを受け、三宅はすぐさま2枚目の《査問長官》をプレイして墓地を肥やす手筈を整えるが、清水は落ち着いて《発生の器》を起動して《つむじ風の巨匠》を手札に加え、《コジレックの帰還》で《導路の召使い》もろとも《査問長官》を焼き払う。
三宅はなかなか目論見通り墓地を貯めることができずにいたが、引き込んだ《屑鉄場のたかり屋》を戦場に送り込んで攻勢に転じると、清水も負けじと《つむじ風の巨匠》を呼び出し、2体のトークンを得て空から三宅にダメージレースを挑んでいく。
だが、返す三宅は《屑鉄場のたかり屋》を生け贄に「現出」で《膨らんだ意識曲げ》。清水の手札を枯らせつつ、クリーチャーサイズで勝負を挑む。
5/5と1/1飛行による激しい殴り合いが勃発する。清水はチャンプブロックで時間を稼ぎながら《織木師の組細工》でライフを得て、飛行機械トークンで地道にダメージを与える。一見するとダメージレースは優位だが、当然いつまでもチャンプブロックを続けられる由もなく、ターンが進むにつれ頭を抱える展開が増える。
いよいよ三宅が《屑鉄場のたかり屋》、《膨らんだ意識曲げ》に加えて《老いたる深海鬼》までをも戦場に追加すると、一手のミスが致命傷に繋がりかねない複雑な盤面となってくる。
だが、ターンを稼いだ甲斐あって清水も《霊気池の驚異》に辿り着く。その起動コストを捻出するほどのエネルギーは残されていないが、トークンをチャンプブロックに供しながら《つむじ風の巨匠》で新たなトークンを生むサイクルが見えてくる。
三宅も徐々にライフを消耗しており、いつまでも消耗戦を続けていられる状況ではない。勝ち筋を残すには攻撃を続けるしかないのだが、清水の擁する飛行機械トークンの壁が行く手を阻み、エネルギーへと変換される。やがてエネルギーが6つ溜まると、《霊気池の驚異》が起動され《墓後家蜘蛛、イシュカナ》が飛び出す。
清水 直樹
再びトークンが並び、今度は三宅が頭を抱えることとなった。三宅が攻め、清水が守る。そうした殴り合いのサイクルを続けるにつれ、《霊気池の驚異》の誘発型能力によって清水にエネルギーが供給されてゆく悪夢のサイクル。
そして、その瞬間が訪れる。清水が起動した《霊気池の驚異》がついに《約束された終末、エムラクール》を顕現させた。
辿り着いた《約束された終末、エムラクール》が清水 直樹の名をタイトルに刻みつける。
三宅 1-3 清水
三宅が差し出した右手を確かに握り返し、清水が両手を突き上げる。三宅に一礼して立ち上がる清水のその姿は、守るべきものを持った者の力強さと活力に満ちていた。
我々はなぜマジックをするのか。
その答えは人それぞれで、何が正しく、何が間違っているというものでもない。
だが、今日の清水の勝利は、彼を支える内助の功と確実に結びついているのだろう。そしてそれこそが彼の強さなのだ。
The Last Sun 2016、優勝は清水 直樹(東京)!
おめでとう!!
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