優勝者デッキテク:土屋 幸広の黒単アグロ
晴れる屋メディアチーム
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By Tsutomu Date
今期のスタンダード東海王決定戦は、2020プレイヤーズツアーファイナルと同日の7月26日に行われた。MTGアリーナがリリースされて2年が経ち、スタンダード環境の攻略速度はかつてないほどに著しい。『基本セット2021』発売から1か月足らずと言うのに、すでに環境はティムール再生を軸に固まりつつあるように見える。
果たして、今回のスタンダード東海王決定戦はいかなるデッキが勝利するのか。下馬評通りティムール再生が横綱相撲を見せるのか。はたまた王者を討つべく対策を完成させたデッキがそれを討つのか。
決勝戦のフィーチャー席に着いたのは、スイスラウンド4位通過の土屋 幸弘と、6位通過の越本 喜季。
本日最後の戦いは遠巻きながらも多くのギャラリーが行く末を見守っていた。3ゲーム目までもつれこんだ最終戦を勝利し、『第10期スタンダード東海王』の座に就いたのは土屋 幸広だった。土屋は『第9期スタンダード東海王決定戦』でもトップ8の受賞を筆頭に、多くの東海圏の大会での受賞歴を持つ。
土屋が東海王への挑戦として選んだデッキは、Tier1のティムール再生ではなく、はたまた支配率で次ぐバントランプでもない。そしてそれらを倒す緑単アグロでもなく……なんと土屋が選んだのは『黒単アグロ』だった。
果たして現環境における黒単アグロはどのような動きを見せるのか。土屋にデッキについてのインタビューをお願いした。
――優勝おめでとうございます。まずは本大会にあたり黒単アグロを選択された理由を教えてください。
土屋「《霊気の疾風》が嫌すぎるんですよね」
――と言いますと?
土屋「2週間前はグルールを使っていたのですが、対戦相手の《霊気の疾風》でボコボコにされたんです。その後は緑単アグロを使いましたが、これもまた《霊気の疾風》が当たってしまう。普通なら勝てるゲームが、1枚の《霊気の疾風》で逆転されてしまうことが多かったです」
――なるほど、それで赤でも緑でもないデッキを使おうと思われたのですね。
土屋「赤・緑がダメとなると白・青・黒のいずれかになるのですが、青は《神秘の論争》が当たるのが嫌だったので候補から外れ、白か黒に絞られました。そこで《朽ちゆくレギサウルス》と《悪魔の抱擁》を使いたかったので、黒に決めました。以前から《朽ちゆくレギサウルス》は好きでしたし」
――特にアグロに強い組み合わせですよね。
土屋「実際、この2枚の組み合わせで今日は2ゲーム取っています。好みでデッキを選んだこともありますが、アグロだけでなく主要なデッキとも相性がいいですね。ティムール再生とバントランプには6:4から7:3ぐらいで有利と思っています。もちろん緑単アグロや赤単アグロにも有利ですね」
――有利なマッチがここまで多いとなると、もはや苦手なデッキはないように思えるほどですが……
土屋「サクリファイス系には勝てないです。勝率は2割を切ると思いますね。黒単の勝ち手段はクリーチャーで殴るだけなのですが、回避能力に乏しいのでブロッカーが豊富な相手にビタ止まりします。膠着しているところに相手の《初子さらい》でこちらのクリーチャーが奪われたうえに《魔女のかまど》や《忘れられた神々の僧侶》で生贄に捧げられ、最後にはこちらの戦場に何も残らない状態になってしまうのです」
土屋「サイド後の対策も黒単色ではしようがないし、もうこのマッチは諦めています。今回は当たらなかったのが幸運でした」
――なるほど、相性差はそこまではっきりしているのですね。今回はサクリファイス系に当たっていないとのことですが、どのような相手に当たってきたのでしょうか?
土屋「赤単アグロに勝ち、ティムール再生に負け、ティムール再生に勝ち、バントランプに勝ち、スイスラウンド最終戦はID、決勝ラウンドに入ってからはティムール再生に勝ち、緑単アグロに勝ち、最後に赤単アグロに勝ち、でした。だいたい想定したメタゲーム通りでしたね」
――ではデッキの基本的な動きを教えてください。
土屋「マナカーブに沿って展開しビートダウンするのが基本ですが、コントロール相手には軽いクリーチャーで戦い、手札破壊で相手のプランを確認しながら除去を当てていきます。除去はメインで《取り除き》《闇の掌握》《残忍な騎士》の3種類、サイドボードも合わせると《見栄え損ない》《害悪な掌握》などあるのですが、噛み合いになるので選択が難しいですね」
――この環境では、軽量の万能除去はありませんものね。
土屋「また、《黒槍の模範》の使い方には気を使いますね。アグロ同士の対戦は殴り合いになるので、絆魂でダメージレースを有利に持っていくのか、接死で相打ちを取っていくのかが難しいところですね。これの使い方でゲームの流れが変わってきます」
――このデッキの中でも特に選択肢が多いクリーチャーですよね。
土屋「そうなんです。あと、《黒槍の模範》の騎士シナジーを生かすために《鋸刃蠍》を抜いて《残忍な騎士》を追加しています」
――構築上、ほかに調整したところを教えてもらえますか?
土屋「先ほどの《鋸刃蠍》を4枚抜いたスロットに2枚の《残忍な騎士》を入れているのですが、残りの2枚は《死より選ばれしティマレット》を入れています」
――メタゲームを意識した選択に見えますが、採用の理由はなんでしょうか?
土屋「《自然の怒りのタイタン、ウーロ》への対策としてサイドボードに《魂標ランタン》を入れているリストがあるのですが、それよりはメインから対策になり、クロックにもなる《死より選ばれしティマレット》が優秀と考えました。今回は3回ぐらい《自然の怒りのタイタン、ウーロ》を追放できました」
――ではデッキの一押しカードを教えてください
土屋「やはり《朽ちゆくレギサウルス》です。これは特に好きなカードで、グランプリ・名古屋2019でもラクドス騎士デッキを使って、これを入れていました。 《エンバレスの宝剣》を装備するのは楽しかったですね」
――デッキの調整で悩んでいるところ、これから変更したいところがあったら教えてください
土屋「しっくり来ていないのは《死より選ばれしティマレット》ですね。《自然の怒りのタイタン、ウーロ》を追放できたとはいえ、今回は戦場に出したときにはすでに有利でしたし」
――では主なデッキとのマッチアップやサイドボードプランを教えてください
土屋「先手だと1ターン目にクリーチャーを出せるのがキープ基準です。続いて2ターン目に手札破壊で相手の《成長のらせん》を抜くことができれば、《長老ガーガロス》が間に合わなくなくなるので、そのままビートダウンが間に合います」
土屋「メインで《朽ちゆくレギサウルス》と《悪魔の抱擁》を意識させることで除去を出し惜しみさせたり、手札破壊で除去を抜いていくのが狙いです。サイドからは抜きますけどね。一般的なリストでは手札破壊は《強迫》4枚のみですが、このプランのために《苦悶の悔恨》を追加しています」
土屋「基本的にはティムール再生を相手にした場合と戦い方は同じです。バントランプのほうが《害悪な掌握》の対象が多いので使いやすいのですが、《時を解す者、テフェリー》や《世界を揺るがす者、ニッサ》のために温存しておく必要があります。また、《空の粉砕》などの全除去のあとに残るプレインズウォーカーに対処できないと、敗色が濃くなります」
土屋「前の2つのマッチアップはコントロールに対するアグロとして振る舞いましたが、こちらは自分が除去コントロールとして消耗戦を仕掛けます。基本的に有利なのですが、クリーチャーの質は緑のほうが上なので、クリーチャー同士の戦いになると不利です。相手は《ガラクの先触れ》というキラーカードを持っています。これにはこちらから触れないので、そのまま落としたゲームもありましたね。あと、《死より選ばれしティマレット》は《水晶壊し》でついでに壊されるので弱いです」
――Tier2以下のデッキについても簡単に教えてください。
土屋「赤単相手はサイズの大きい《朽ちゆくレギサウルス》が強いので有利だと思っています。サクリファイス系は勝てないマッチアップですが、ティムール再生やバントランプに対して相性が良くないデッキなのでだいぶん減っているのが追い風ですね」
――このデッキを使いたい人へアドバイスをお願いします。
土屋「《朽ちゆくレギサウルス》と《悪魔の抱擁》のコンボはロマン!これで10点!狙っていきましょう!《朽ちゆくレギサウルス》はアグロ相手に3ターン目に着地したときの勝利貢献度が高いので、相手にムーブを意識させることで有利にゲームを進めることができます。あとは《黒槍の模範》の使い方を盤面によって柔軟に変えていきましょう。いぶし銀なカードです」
――では最後に一言お願いします。
土屋「今日はサクリファイス系に当たらなかったのが良かったです。相手の手足を縛りでもしないと勝てない(笑) 当たったらスイスラウンドでは負け星がついて、もし決勝ラウンドに進んだとしても、対戦することになったらその時点で今日はおしまい!と思っていましたから。完全に10/7飛行のコンボで遊ぶ気で参加したので、優勝できるとは思っていませんでした。そういうわけであまり優勝の実感はありませんね」
――ありがとうございました。
土屋の黒単アグロに初めは意外性を感じたが、その選択理由や主要デッキとの相性、ゲームプランを聞かせてもらうと、実に理にかなったものであることが実感できた。今期の優勝も決して偶然ではないことがわかる。
土屋は環境初期に《精霊龍、ウギン》を用いたスゥルタイランプを使用しており、インタビューの通り、グルール、緑単アグロと乗り換え、遂に黒単アグロにたどり着いた。『基本セット2021』発売からの3週間、長きにわたるスクラップ&ビルドが遂に成就した形と言えよう。自らの相棒と言える《朽ちゆくレギサウルス》とともに東海王の座に就いた、土屋に惜しみない称賛を送りたい。
おめでとう、『第10期スタンダード東海王』は土屋 幸広!