プロvsプロ。
これまでの神決定戦でも、たとえば【第4期レガシー神決定戦】のようにいくつかの好カードが繰り広げられてきた。
だがプロプレイヤークラブの恩恵を受けられるほどマジックにのめり込んだ者たち、いわゆるプロプレイヤー同士の対決はこのマッチングが初めてとなる。
Hareruya Prosシャツに身を包む高橋。BIGMAGICパーカーを纏う和田。
共にシルバープロという立場を持ち、ショップにスポンサードされるこの両者。
プロはその存在証明として勝たなければならない。でもだからこそ、そのアプローチは千差万別でありそれこそが個性たりえる。
フォーマットは『ゲートウォッチの誓い』フルスポイラーも発表され、末期中の末期ともいえるスタンダードで。
はたして2人の選択は……?
Game 1
両者マリガン。シャッフルの神は公平な痛みを各プレイヤーに与え、平等な6枚をもってゲームの火蓋は切られた。
フェッチランドを多く持つ高橋はセットランドを慎重に吟味した上で《魂火の大導師》を呼び出す。
動きのない和田を前に高橋は《カマキリの乗り手》を続け、対する和田のリアクションは……なし。高橋が先手の利を活かし、大きくリードをとった形となる。
展開が遅れてしまった和田のファーストアクションは変異。これが《魂火の大導師》と相打ちとなるものの (変異の正体は《死霧の猛禽》) 、依然として高橋の《カマキリの乗り手》が唯一のクロックとして機能し続けている状況だ。
和田の後続は《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》。だがこの英雄も空からの強襲ではやや分が悪いか。
高橋は《時を越えた探索》で手札を補充すると、《はじける破滅》でトークンごと《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を薙ぎ払う。
だがここで和田のビッグターン。《棲み家の防御者》を大変異させ《死霧の猛禽》の復活とともに《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を回収と、後手に回りつつも攻め返せる盤面を築いてみせた。
細かいアドバンテージに長けるダークジェスカイだがボードに大きく干渉できるカードは少ない。その弱みにつけ込むシステム、それがアブザン大変異より続く《棲み家の防御者》・《死霧の猛禽》の黄金コンビである。
ただ依然として高橋が《カマキリの乗り手》で大きく先行しているという事実は変わらない。《苦い真理》により選択肢を広げ、再展開された《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》には《軽蔑的な一撃》。
《棲み家の防御者》と《死霧の猛禽》が重い一撃を加えるもののこの時点で和田のライフは6、高橋のライフは10。
手札が潤沢な高橋は選択肢を吟味した上で《乱脈な気孔》をアクティベート。ライフ差と手札を加味した上で詰めていく。
だが展開は高橋の予想を裏切る。和田が手札から見せたのは《正義のうねり》!
これにより和田のライフは変わらず6、高橋のライフは12へ。再び《棲み家の防御者》・《死霧の猛禽》が攻めかかり、さらに追加の《死霧の猛禽》。ダメージレースは事実上の五分だ。
クロックとしての《カマキリの乗り手》を失い、さらにはライフ回復。算段が狂った高橋は決死の《時を越えた探索》。
ここまで優位を保ち続けていた高橋だが、これほどまでに追い込まれてはもはやできることをするよりない。《カマキリの乗り手》・《ヴリンの神童、ジェイス》・《魂火の大導師》を並べて和田のアクションを待つ。
和田は《絹包み》で《カマキリの乗り手》を処理するとフルアタック。高橋は《魂火の大導師》でのブロックで盤面をしのぎ、残りライフが2。
高橋はフェッチランドを起動。ライフが1。
《はじける破滅》。《ヴリンの神童、ジェイス》を起動。《はじける破滅》を墓地から再プレイ。
和田に対抗手段はなかった。
高橋 1-0 和田
結論から言えば、挑戦者である和田は高橋のデッキ選択を読み切った。
【和田のインタビュー】を見てもらえば分かる通り、【第2期モダン神決定戦の砂田】を髣髴とさせる断定的な決め打ちである。
だが高橋は和田の思惑の上をいく。第1ゲームを先取したのは高橋だった。
ゲームの趨勢を決めたのは《カマキリの乗り手》で、これは和田が戦前に語っていた負けパターンそのもの。「ダークジェスカイ側の早いクロックに触れない」というやつだ。
Game 2
1ゲーム目を落とした和田は長考の末にマリガンを選択する。
デッキ読みを当てたからこそ。必勝を期するだけにかかるプレッシャーはさぞ重いことだろう。
ただ運命は高橋だけに味方したわけではなかった。和田に続いて高橋もマリガンを選択し、互いに再度6枚ずつの手札から第2ゲームが開始される。
タップインランドを並べるしかない高橋を尻目に、和田が《棲み家の防御者》・《死霧の猛禽》とプレイ。1ゲーム目と対照的に和田が大きく先行した。
展開的にも後手に回ってしまった高橋はここで土地も止まってしまう。
初動となる《ヴリンの神童、ジェイス》は《絹包み》を受け、続けた《カマキリの乗り手》も2枚目の《絹包み》。
高橋も何とか土地を引き始めるものの、今のところ和田の妨害が噛み合ってしまっている状況だ。後続となる《魂火の大導師》にも《停滞の罠》が。
だが対応して《焦熱の衝動》を《棲み家の防御者》に放つと和田の対応がない。おまけに後続もない!
和田のクロックが《死霧の猛禽》のみなことが明らかとなった。おそらく手札状況も芳しくはないだろう。
勢いづく高橋は《オジュタイの命令》による延命を経て《カマキリの乗り手》を再展開。
これには《ドロモカの命令》を合わせられるものの、高橋が続けたのは《影響力の行使》。ついに和田の場からクロックを排除することに成功する。
1ゲーム目で《正義のうねり》を見ている高橋はここまで《カマキリの乗り手》を一度も攻撃に出さず、徹底した防戦の構え。時間が経てば《時を越えた探索》がある分優位に立てるからだ。
だがこのゲームは和田の執念が高橋を上回った。
再度《死霧の猛禽》を展開すると、コントロールを奪われた《死霧の猛禽》には《絹包み》。
トップデッキを繰り返し、和田が1本取り返す。
高橋 1-1 和田
高橋 優太はガチプレイヤーである。
こう言い切ってしまうと語弊があるかもしれないが、少なくともプレミアイベントでのデッキ選択に緩手はない。
フェアリー、ジャンド、黒信心、アブザン。
俗に言うTier1を乗りこなす技術でいえば、日本国内でも高橋の上を行くプレイヤーはほぼいないと言っても過言ではないだろう。
多くのプロツアーでスタンダードが採用されるということもあり、最強のデッキを見つける嗅覚は今のプロプレイヤーに求められる才覚だ。
環境のベストデッキを選び、そして誰よりも使いこなす。
スタンダード神という立場、王者のデッキ選択をもって挑戦者を待ち受ける。
Game 3
先手となった高橋は手札を見るやキープを宣言。ここにきて7枚でのキープができた。
対して和田はまだツキがないか。三度6枚からのスタートになってしまう。
イーブンとなった3ゲーム目は高橋の《ヴリンの神童、ジェイス》が幕開けとなった。
ここには《絹包み》が刺さり、高橋が《苦い真理》で手札を補充すれば和田も《白蘭の騎士》。アドバンテージの応酬を共に譲らない。
和田は追加された《黄金牙、タシグル》をエンド前の《勇敢な姿勢》で処理すると、とったテンポを活かし2マナ余らせた状態で変異を追加。《苦い真理》でライフをすり減らした高橋に攻めの矢を突き付ける。
後手に回った高橋はここで変異に《影響力の行使》を。
変異は当然《棲み家の防御者》だったため《勇敢な姿勢》は回収できたものの、和田にはここで追加できるパーマネントが存在しなかった。
だが《カマキリの乗り手》を《正義のうねり》で捌かれると高橋も苦しい。《苦い真理》で引き増しているにも関わらず手札が土地ばかりなのだ。
《白蘭の騎士》と《棲み家の防御者》がただすれ違い続ける展開が続く。高橋のライフは残り少なくなっている。
後続に《白蘭の騎士》を追加されても高橋に動きはなかった。引いてきていた《否認》では抵抗のしようがない。
和田が《搭載歩行機械》をプレイする。
続く高橋のドローは《苦い真理》。
高橋 1-2 和田
一方挑戦者の和田 寛也。彼のイメージは曲者だ。
【挑戦者インタビュー】で語られている通り、環境を理解して周囲の想定の上を行くこと。
モダンのマーフォーク。アブザンに投入された《白蘭の騎士》。
その戦略は決してマジョリティたりえない。だからこそ瞬間に光り輝く。
そんな彼が持つ今回の刃は「ダークジェスカイに勝つための」緑白大変異。
サイドボード後のゲームが多く、たとえばアタルカレッドのような偏ったデッキ選択が難しいだろうと考えられていたスタンダード神決定戦。
和田は想像の上をいく。そして今のところ高橋をリードできている。
Game 4
先取していた高橋だがスコアカウントは1-2。ついに追い詰められた格好となった。
最初に展開できた《カマキリの乗り手》は《停滞の罠》を受け、戦場には和田の《棲み家の防御者》と《死霧の猛禽》が並ぶ。
これまでのゲームを考えれば先行できているプレイヤーが圧倒的に有利であり、今その状況に直面しているのが高橋だ。
だがこのゲームはサイドボーディング後のものである。
展開された《棲み家の防御者》・《死霧の猛禽》を《光輝の炎》で一掃して見せると、和田が《搭載歩行機械》を呼べば《時を越えた探索》。早くもサイドボード後らしい消耗戦の体を見せてきた。
ただ手札数で優る高橋といえども《搭載歩行機械》は処理が難しい。《苦い真理》に手をかけるも明快な回答は見出だせなかった。
とはいえこれだけドローを進められると和田としても判断が難しい。すなわち《搭載歩行機械》で攻撃するのか?それとも育てるべきか。
《影響力の行使》が頭をよぎりつつも、《苦い真理》で摩耗したライフを狙わないわけにもいかない。選択は攻撃の一手。
とにもかくにも耐えたい高橋はさらなる《時を越えた探索》を放ち……。
ついに整った。《否認》によるバックアップから《影響力の行使》が《搭載歩行機械》に差し向けられる。
思いに沈んだ和田は対応して《停滞の罠》。
だがこれは痛い失着だった。高橋の指摘によりジャッジが呼ばれ、《停滞の罠》が「対戦相手」のクリーチャーのみにしか効果を及ぼせないことが確認される。
1枚のカードを無駄にしてしまった和田、だからといって《搭載歩行機械》は放置できない。《絹包み》が改めて《搭載歩行機械》を除去することとなった。
ここで高橋は《強迫》。
和田の手札が《絹包み》・《勇敢な姿勢》・《停滞の罠》であることが明かされ、能動的に動けないことが露わになってしまう (指定は《停滞の罠》) 。
和田も変異をトップデッキして食い下がるものの、高橋はこのゲーム3枚目となる《時を越えた探索》。
ここから先は詰将棋だ。
まず《光輝の炎》により変異の正体は《死霧の猛禽》であることが明かされ、続けて《ヴリンの神童、ジェイス》を追加。
和田が《絹包み》で《ヴリンの神童、ジェイス》を除去しにかかればそこへは《否認》。
この時点で高橋の手札には《カマキリの乗り手》・《黄金牙、タシグル》・《否認》。クロック、アドバンテージ、カウンター。
そして《ヴリンの神童、ジェイス》も生き残っている。
《強迫》が《束縛なきテレパス、ジェイス/Jace, Telepath Unbound》により再利用され、手札を《死霧の猛禽》のみとされてしまった和田の前には《カマキリの乗り手》と《黄金牙、タシグル》。
高橋の手札には《否認》。そしてオープンになっている4マナ。
和田がトップデッキした《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》には《龍王シルムガル》までもが。
高橋 2-2 和田
「対戦相手がジェスカイブラックを選択することにオールインしました。ジェスカイブラックなら勝ちます。」
和田はたしかに高橋を追い詰めた。だが現実のスコアは2-2、イーブンとなってしまっている。
はたして最後の決着は和田の思惑通りになるのか。それとも高橋の地力がそれを上回るのか。
2時間を超えるマッチもいよいよラストゲームへ。
Game 5
最後の手札を見る両者。これに運命を託せるのか?それとも?
ここまでマリガンに泣かされてきた和田が7枚のキープを果たすと、一方の高橋はマリガンに。終わってみれば互いに同じマリガン回数だ。
和田の《搭載歩行機械》X=1がゲームのキックオフを告げ、高橋の応手は《ヴリンの神童、ジェイス》。
先手後手であるということ以上に、攻める和田と受ける高橋という構図が明白な立ち上がりとなった。
ここから和田は《ドロモカの命令》で《ヴリンの神童、ジェイス》を効率よく屠ると、余りマナで《始まりの木の管理人》。
高橋は手札の《焦熱の衝動》を確認する。攻め続ける和田を前にして、高橋は赤マナにアクセスすることができていない!
押せ押せとなった和田は《見えざるものの熟達》をプレイするもののこれはやや迂闊だったか。本来このターン何もプレイできないはずだった高橋が《否認》で捌くと、続くターンには《時を越えた探索》。
もし和田が《見えざるものの熟達》を見送っていたのなら、本来なら墓地が足りないはずだったのだから。
か細い糸を手繰り寄せ《時を越えた探索》にたどり着けた高橋は開いた7枚を見て長考する。
赤マナはある。《光輝の炎》もある。だがその選択肢ははたして正しいのだろうか。
手札には《焦熱の衝動》・《龍王シルムガル》。幾度も《魂火の大導師》・《苦い真理》に手をかけ……。
高橋は決断した。《光輝の炎》ではなく《苦い真理》を。
《苦い真理》でライフを4にすり減らし、《始まりの木の管理人》に《焦熱の衝動》を放つ。こうなっては高橋もただ祈ることしかできない。
はたして和田のレスポンスはなかった。高橋は水際で踏みとどまることに成功する。
追い詰めている和田だがここは《搭載歩行機械》をX=4まで育てることしか出来ない。あと一押しがほしくても我慢のターンだ。
防衛線を敷くのに必死な高橋は《魂火の大導師》を呼び、延命のため《焦熱の衝動》を放てば対応して和田が《停滞の罠》。
だがここは高橋のリスクテイクが勝った。《苦い真理》のドローもあって高橋はこの局面で《否認》を持っている。貴重なライフ回復により、ギリギリのターンが続く高橋は貴重な1ターンを稼ぎだす。
凌いだターンを活かして《カマキリの乗り手》の追加、そして《乱脈な気孔》もがアクティベート。《魂火の大導師》のライフリンクと合わせ、不利が続いていた状況を一気に五分近くへと引き戻すことに成功した。
和田は《ドロモカの命令》で《カマキリの乗り手》を屠ると《搭載歩行機械》で攻撃する。残る高橋のライフは2だ。
手札には《龍王シルムガル》と《苦い真理》。高橋は《龍王シルムガル》を一瞥すると《魂火の大導師》の攻撃によりライフを引き上げ、《苦い真理》をプレイした。
《否認》と《時を越えた探索》が手札に加わり、ターンさえ返ってきたならほぼ勝ちだろうという状況を作り上げる。
この5ゲーム目、どのシチュエーションを見ても高橋が一方的に不利な状況が続いていた。にも関わらず高橋は緻密なプレイングによりここまでたどり着いた。
それでもなお最後は和田の執念が高橋のプレイングを上回った。
「《勇敢な姿勢》を《搭載歩行機械》に」
残りライフは2。和田のクロックはX=5の《搭載歩行機械》。高橋のブロッカーは《乱脈な気孔》。
《勇敢な姿勢》を通してしまえば5体の飛行機械トークンを止める術はない。
手札には《勇敢な姿勢》を退ける《否認》がある。使ってしまうと《乱脈な気孔》をアクティベートできない。
ついに高橋が崩れ落ち。
和田が吠えた。
高橋 2-3 和田
高橋はあくまで王者のマジックを求めた。
そのプレイは精密であり、それに応えうる「ダークジェスカイ」はやはり環境最強に近しいデッキであるという印象を皆に与えたに違いない。
でもだからこそその信念は裏をかかれることとなった。
挑戦者として、和田が用意した「緑白大変異」という「ダークジェスカイ」に勝つための武器。
高橋の信念が理想のデッキを使うことなら、和田の信念は環境前提を裏切ること。
たしかに環境最強のデッキには最強たる理由がある。でもだからこそ強く意識され、それを抑える力が働くこととなる。
和田は自身の信念、戦略をもってメタゲームを体現した。
たとえそれが今この瞬間だけのものであっても、その意志は高橋のそれを凌駕したのだ。
第5期スタンダード神決定戦、和田 寛也が高橋 優太を下しスタンダード神の座を奪取!