Translated by Kohei Kido
(掲載日 2020/10/18)
はじめに
プレイヤーズツアーファイナルと同じように、2020年シーズン・グランドファイナルのあとにも新しい禁止制限告知があった。つまり、両方の大会について話したかったことは、時期を逸してしまったということだ。スタンダード環境は一変し、私たちが今までやってきた調整はほとんど無意味なものになってしまった。
しかし、ヒストリックはスタンダードほど影響を受けていない。《創造の座、オムナス》の禁止によって1つのデッキ(オムナスランプ)は消滅したが、調整過程で得た知識は今も生きている。
今回話したいのは直前までグランドファイナルで使おうと思っていたデッキ、私が研究してきたスーサイドブラックについてだ。
グランドファイナル自体では、最後の最後で調整チームと同じ4色ミッドレンジ(スゥルタイタッチ白)を使う決断を下してしまった。このデッキを使ってヒストリックラウンドの成績を4-1-1とし、ベスト8に席を確保したものの、自分が育ててきたデッキを使わなかったことは後悔を生んだ。
2 《森》
1 《平地》
1 《沼》
4 《寓話の小道》
4 《インダサのトライオーム》
4 《ゼイゴスのトライオーム》
4 《繁殖池》
2 《湿った墓》
1 《草むした墓》
1 《寺院の庭》
1 《水没した地下墓地》
1 《氷河の城砦》
-土地 (28)- 3 《ハイドロイド混成体》
4 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
2 《鎮まらぬ大地、ヤシャーン》
-クリーチャー (9)-
3 《サメ台風》
3 《覆いを割く者、ナーセット》
2 《鎮まらぬ大地、ヤシャーン》
1 《長老ガーガロス》
1 《霊気の疾風》
1 《魔女の復讐》
1 《墓掘りの檻》
-サイドボード (15)-
デッキの成り立ち
あまり確かな記憶ではないが、MTGアリーナのランク戦のプラチナ帯で、《スカイクレイブの災い魔》を使うデッキと対戦したことだったと思う。相手のデッキは明らかに練りきれていなかったが、《スカイクレイブの災い魔》自体には多くの可能性を感じたため、このカードを中心に据えてデッキを組んでみることにした。
たくさんの実験と何時間ものデッキの試運転、そしてTwitchのチャットから受けた助言を活用して以下のデッキリストへとたどりついた。
スーサイドブラック
スーサイド軍団
このデッキの中核にあるのは、自分のライフを代償にして3種類のパワーカード(《漆黒軍の騎士》《騒乱の落とし子》《スカイクレイブの災い魔》)を使いこなすことだ。
《漆黒軍の騎士》のテキストに書かれている隠された効果は、「あなたの終了ステップの開始時に、プレイヤーがこのターンにライフを4点以上失っていた場合」に誘発するというもので、このプレイヤーには“自分も”含まれている。このデッキでは《漆黒軍の騎士》を唱えたターンに+1/+1カウンターが乗ることもよく起こる。
よくあるパターンは1ターン目に1マナのクリーチャー、2ターン目に《ショックランド》をアンタップインして《思考囲い》を唱え、そして《漆黒軍の騎士》を出すというものだ。ショックランドと《思考囲い》によって4点のライフを失ったことですぐに2/3となり、もし1ターン目にパワー2のクリーチャーを出していた場合は、早ければ3ターン目から《漆黒軍の騎士》が雪だるま式に大きくなっていく。
3ターン目以降には、《ショックランド》と《迅速な終わり》を組み合わせて、4点のライフを失うこともできる。
《騒乱の落とし子》は、スタンダードでは十分なカードパワーをもっていた1枚であり(今年の前半にこいつを使っていたのを覚えている)、ヒストリックでもおそらく同じことがいえる。打点が高く早く出せるという点以外にも、自らライフを失うというデッキコンセプトとも合っている。
《漆黒軍の騎士》と《スカイクレイブの災い魔》をサイズアップするためにどんどんライフを失っていくのでライフはすぐに10まで減り、《騒乱の落とし子》を出してまもなく+1/+1カウンターを置けるようになる。
ほかの2枚に比べて《スカイクレイブの災い魔》を出す準備は少し大変だが、マナ・コストが軽い割にとんでもない大きさへと成長することができる。先手なら序盤に出して、雪だるま式に成長させることは難しくないはずだ。このデッキは雪だるま式なことばかりだ。
2/2で場に出したとしても、早々に6/6~10/10くらいになる。対戦相手のライフの減少に合わせて自分のライフも減少させることは可能だから、《スカイクレイブの災い魔》は毎ターン大きくなり続ける。
使うにはデッキ全体の方向性を合わせる必要があるが、デッキリストを完成させたとき、恋に落ちた。
1マナのクリーチャー
《スカイクレイブの災い魔》を出すためには、対戦相手のライフが20より少ない必要がある。それを1番簡単に達成する方法は、軽いマナ・コストのクリーチャーで攻撃を始めることだ。
(グランドファイナルのために調整していたデッキを含め)初期の構築には《敵意ある征服者》が含まれていなかった。指摘されるまでこのカードが一考に値するとは思っていなかったのだ。しかし《悪魔》を呼び出そうとするなら、対戦相手がブロッカーをコントロールしていようとも、プレイヤーに直接ダメージを与えられることで話が大きく変わってくる。
このデッキで1番強いカードを使わせないためにライフを20に保つ必要があるとわかると、相手はこちらの計画を崩すために普通では考えられないようなプレイをしてくる。例えば《どぶ骨》の最初の攻撃を、《生皮収集家》や《ラノワールのエルフ》でブロックするといった行動だ。しかし、《敵意ある征服者》はそういうプレイングを無視できる。
また、《スカイクレイブの災い魔》と相性も良い。《敵意ある征服者》と《スカイクレイブの災い魔》が同時に攻撃すると、まず誘発型能力によって1点のダメージが入り、戦闘ダメージが入る前にサイズを大きくすることが可能というのも覚えておいて欲しい。
《戦慄の放浪者》と《どぶ骨》は繰り返し出せる《サバンナ・ライオン》として機能する。
補助カード
多くの黒いデッキにとって、《思考囲い》は疑いようもなく自動的に入るカードであり、このデッキでは可能なら8枚使いたいほどだ。相手の手札を見ることでゲームプランを作れて、全体除去かほかの強いカードを捨てさせられて、さらに2点のライフを失うことができる。これ以上は望みすぎなくらい、デッキに適したカードなのだ。
除去一式を調整してもいいのは確かだ。《血の長の渇き》も《無情な行動》も特に好きなわけではないが、必要悪だと考えている。このデッキはマナにあまり余裕がないため、除去に多くのマナを使うことはできない。
また、クリーチャーに対する除去をそこまで多くデッキに入れることもできない。《取り除き》のように対象が限定的なカードをデッキに足すのもよくない。
対して、《残忍な騎士》は除去の相補関係を完成させながら、必要があればクリーチャーとしても使えるカードだ。《迅速な終わり》はほかのカードと強いシナジーがあり、本体の絆魂は万が一ライフが減りすぎたときに少し取り戻す手段になる。残念ながら、自らの《騒乱の落とし子》の誘発型能力によって敗北することは起こり得る。
16枚の1マナクリーチャーの存在もあって、《悪魔の抱擁》は地上が攻めづらくなったときに最後の一押しとなってくれる切り札だ。墓地から再び唱える際に支払うライフ3点は、このデッキでは問題にならないことが多い。
マナ基盤
黒単だからといって、マナ基盤で悩むことがないわけではない。《イフニルの死界》はこのデッキで素晴らしい働きをする。土地が23枚も入っているので、この土地によって相手の小型クリーチャーを除去することも稀ではない(おそらく読者の方が思っているよりもかなり多い)。
しかし、大事なのは黒マナを出すために1点のライフを支払うことだ。このデッキで使いこなすことが1番難しいカードかもしれない。特にオートタップ機能のあるMTGアリーナではね。
初手と相手のデッキ次第では、手札に《沼》があったとしても《イフニルの死界》をセットランドしてクリーチャーを出していく状況はよくある。対戦相手のライフの減少に合わせて自分のライフも減らしていけるかどうかで、《スカイクレイブの災い魔》が戦闘で生き残れるか、後々相手にとどめを刺せるか左右されるためだ。《騒乱の落とし子》も同様であり、4ターン目のアップキープに5/5になることが可能だ。
MTGアリーナの操作で注意すべきこともある。マナ・コストに不特定マナを含んだカードを唱える際には《イフニルの死界》から無色マナを出してしまうこと、また、(相手のターンの終わりに黒マナを出してライフを失いたいなら)《イフニルの死界》だけがアンタップ状態だと優先権をもらえないことを覚えておかなければならない。そのためにはフルコントロールモードを使用したり、エンドステップで止まるように設定する必要がある。
《ロークスワイン城》はいいカードだ。まとまった量のライフを失う方法となる。前のターンに《騒乱の落とし子》を出していて、アップキープの間にライフを10以下に落としてカウンターを乗せたい時に有効なことが多い。
例えば、ライフがすでに15で手札が2枚なら、《イフニルの死界》から黒マナを出してライフは14、《ロークスワイン城》でカードを引いて11、《騒乱の落とし子》の効果で10になる。盤面が有利で相手にライフを削り切られる心配がないのなら、これが勝利へつながる。
ショックランドの活用についてはもうすでに語ってきた。8枚という枚数に根拠があるわけではない。妥当そうだとは感じているが、7枚や9枚も正解かもしれない。《思考囲い》を含めて1ターン目にライフを失う手段が16枚もあるので、ライフが20から減らずに《スカイクレイブの災い魔》が出せなくなるという心配はあまりしなくていい。
どうして《アガディームの覚醒》を入れないの?このデッキに必要そうなカードなのに!
《アガディームの覚醒》は初期の構築に入っていたが、必要になることはなかった。以下の3つの理由からだ。
デッキは機能するのか
あなたはまだ、疑問に思っているかもしれない。
「自分のライフが減ることは本当に問題ではないの?」
「自分を傷つけすぎていない?対戦相手を助けてしまっているのでは?」
「そんなことはない」というのが答えだ。コントロールデッキや遅いデッキ相手には、自分のライフが大事になることはあまりない。《世界を揺るがす者、ニッサ》がクリーチャー化した土地で相手が殴り始めて、プレインズウォーカー本体を対処できなかったら、ライフが10だろうと18だろうと関係ない。どちらにしろ負けるだろう。
一方で、アグロ相手には自分を傷つける必要はない。相手がそれを代わりにやってくれる。《イフニルの死界》で自分を傷つける必要はないし、ショックランドは最後に使おう。カードの使い方を変えればいいだけだ。
この通りシナジーは機能的であるため、ヒストリックで強いアーキタイプとして台頭すると信じているよ。
サイドボード案
サイドボードには、多くのデッキに対処する手段を持ち合わせている。上記のサイドボードは単なるひとつの案で、直近で自分が使っていたものだ。ラクドス《戦慄衆の秘儀術師》や黒単《王神の贈り物》は戦いにくい相手だから、環境に多くみられるようになれば《虚空の力線》を増やしていい。
《反逆の行動》を使用している一部のジャンドや白単デスタクのようなローグデッキには苦戦することになる。代わりに、あらゆる遅いデッキに対して圧倒的に有利だ。相手にとって速すぎる上に、多くの干渉手段を持っているからね。
おわりに
このデッキで試合をするのは楽しいうえに、ときにはとても難しい。使えばわかるよ!このデッキを試してみたい気持ちになってくれていたらうれしいね!
グランドファイナルで応援してくれたみんなありがとう。次は優勝できるようにしたいと思うよ。
その日が来るまで、みんな健康には気を使って。