高橋純也のデッキ予報 vol.16 -プロアクティブ強風帯-

高橋 純也



 こんにちは。らっしゅです。

 先週末は世界中で【ワールド・マジック・カップ予選】(以下WMCQ)が開催されました。環境後期の煮詰まったメタゲームのなかで、どのようなデッキたちが活躍したのか。まだ各国の結果は出揃っていませんが、今週の記事では見えている範囲で活躍したデッキたちに注目していきます。

 現環境のメタゲームの登場人物については【Kenta Hirokiの記事】をご覧ください。



【話題1】各国のWMCQから見る現環境の姿について

 1ヶ月後には『異界月』の発売を控えて、『イニストラードを覆う影』スタンダード環境はいよいよ終盤の様相を呈してきました。登場人物は出揃い、メタゲームも周回し、あとはどのデッキが勝利するかを見届けるだけです。


国名 プレイヤー名 アーキタイプ
オーストラリアJames Wilks
緑白トークン
ベルギーPascal Vieren
カナダJacob Wilson
緑白トークン
チリJavier Vera
スゥルタイ・ミッドレンジ
ハンガリーAkos Kenyeres
イスラエルGal Barak
白黒コントロール
イタリアMattia Rizzi
リトアニアAndrius Averjanovas
緑白トークン
ニュージーランドMatt Rogers
ネザーランドTijmen Blankevoort
バントカンパニー
ノルウェーMikael Gyhagen
白単人間(タッチ赤)
フィリピンMark Ramos
青赤ウラモグ
ポルトガルJose Rodrigues Bandeira
緑白トークン
セルビアMiodrag Kitanovic
スウェーデンPer Nystrom
バント人間
アメリカOwen Turtenwald
白黒コントロール
ベネズエラLuis Azocar
日本有田 賢人
白単人間


 これは今週の始めまでに明らかになったWMCQの通過者とその使用デッキのラインナップです。「緑白トークン」「バントカンパニー」「白単人間」「白黒コントロール」など見慣れたデッキタイプが活躍しています。

 これといって代わり映えのしない内容にも思えるなか、これまでの数週間と比較して大きな変化だといえるのは、「白単人間」が活躍していることです。



有田 賢人「白単人間」
WMCQ大阪2016(1位)

14 《平地》
4 《戦場の鍛冶場》

-土地 (18)-

4 《ドラゴンを狩る者》
4 《探検隊の特使》
4 《スレイベンの検査官》
4 《町のゴシップ屋》
3 《アクロスの英雄、キテオン》
2 《勇者の選定師》
4 《白蘭の騎士》
4 《サリアの副官》
2 《領事補佐官》

-クリーチャー (31)-
4 《石の宣告》
3 《グリフの加護》
4 《永遠の見守り》

-呪文 (11)-
4 《鋭い突端》
4 《無謀な奇襲隊》
2 《族樹の精霊、アナフェンザ》
2 《停滞の罠》
1 《奇妙な幕間》
1 《グリフの加護》
1 《絹包み》

-サイドボード (15)-
hareruya



 日本の【大阪予選】を勝利した有田 賢人選手が使用したのも「白単人間」でした。【vol.13】でも簡単ながら触れた内容ではありますが、《衰滅》の流行によって一度は環境から姿を消したあと、「緑白トークン」「バントカンパニー」などの流行によって遅くなった環境を咎めるために再び登場しました。

 サイドボードが整理されて《無謀な奇襲隊》《鋭い突端》による”対全体除去”の戦略が見つかったこと。単色であることを活かして1ターン目から戦場のテンポに干渉できること。

 いくつか活躍の背景にある理由はありますが、特に重要なのは環境で唯一1マナ域を多用しているデッキであることです。プロツアー当時は《焦熱の衝動》《スレイベンの検査官》《膨れ鞘》などの1マナ域は見られましたが、今となっては中速以降のデッキが増えたことで、それらは姿を消しました。

 このことから「白単人間」は1枚1枚のカードの展開量において、常に他のデッキを凌駕します。1ターン目に《探検隊の特使》、2ターン目に《勇者の選定師》《アクロスの英雄、キテオン》のような“1、1+1”のロケットスタートを前に、ほとんどのデッキが1枚の2マナ域でしか対応できないのです。


探検隊の特使勇者の選定師アクロスの英雄、キテオン


 こうして環境に後押しされた「白単人間」は数を増し、今では「緑白トークン」と「バントカンパニー」に次ぐ【第3勢力】にまで成長しています。はたしてこれからも成長し続けることができるのか。それともここが打ち止めなのか。これからの環境の姿を知る鍵は、他のデッキの動向にあります。

 しかし、そもそも環境が遅く重い方向へとシフトしたのはなぜだったのでしょうか。次なる話題は、その疑問の整理です。



【話題2】コントロール化する「緑白トークン」について

 さて、これは本来なら先週の記事で語るべき内容ですが、書きそびれたので今週に紹介します。ここ1ヶ月のなかでスタンダードに関する情報で最も衝撃的だったのは、Gerry Thompsonが提唱した“Go Bigger”(より大きく)という「緑白トークン」についてのアドバイスでした。



Gerry Thompson「緑白トークン」
SCG Standard Open Orlando(7位)

10 《森》
8 《平地》
4 《梢の眺望》
4 《要塞化した村》

-土地 (26)-

4 《搭載歩行機械》
4 《森の代言者》
2 《棲み家の防御者》
3 《大天使アヴァシン》

-クリーチャー (13)-
4 《ドロモカの命令》
2 《石の宣告》
4 《ニッサの誓い》
2 《進化の飛躍》
1 《隔離の場》
4 《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》
4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》

-呪文 (21)-
2 《白蘭の騎士》
2 《ラムホルトの平和主義者》
2 《巨森の予見者、ニッサ》
2 《保護者、リンヴァーラ》
2 《次元の激高》
2 《絹包み》
1 《棲み家の防御者》
1 《石の宣告》
1 《隔離の場》

-サイドボード (15)-
hareruya



 これはサイドボード後のゲームで差をつけるために、1枚でゲームに与える影響がより大きいカードを採用するというアイデアです。すでに多くの記事で紹介されていますが、具体的には《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》をサイドアウトし、代わりに《棲み家の防御者》《巨森の予見者、ニッサ》《保護者、リンヴァーラ》を投入して「緑白コントロール」として振る舞います。


棲み家の防御者巨森の予見者、ニッサ保護者、リンヴァーラ


 ミッドレンジ同士の戦いは往々にして、少しだけ重い構成が勝ります。基本的に同じマナ域のカードをぶつけあうため、最終的には一手だけでも重い、あるいは影響の大きいカードを握っていたほうが有利に立てるからです。

 「緑白トークン」「バントカンパニー」。環境を牽引するデッキたちに差をつけるGerry Thompsonのサイドプランは理に適ったアイデアとして、メインボードから2枚の《進化の飛躍》を採用したデッキリストと共に世界中に広まりました。



Weerawat Suwannoi「緑黒コントロール」
WMCQ2016タイ(1位)

5 《森》
5 《沼》
1 《島》
4 《進化する未開地》
4 《風切る泥沼》
4 《ラノワールの荒原》
2 《ヤヴィマヤの沿岸》
1 《伐採地の滝》

-土地 (26)-

4 《森の代言者》
2 《薄暮見の徴募兵》
1 《棲み家の防御者》
4 《不屈の追跡者》
2 《巨森の予見者、ニッサ》
2 《ゲトの裏切り者、カリタス》
2 《龍王シルムガル》
1 《森林の怒声吠え》

-クリーチャー (18)-
3 《究極の価格》
2 《闇の掌握》
3 《破滅の道》
3 《衰滅》
4 《ニッサの誓い》
1 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》

-呪文 (16)-
2 《ラムホルトの平和主義者》
2 《強迫》
2 《精神背信》
2 《無限の抹消》
2 《死の重み》
2 《悪性の疫病》
1 《ガイアの復讐者》
1 《翼切り》
1 《衰滅》

-サイドボード (15)-
hareruya



 一歩遅く、一手重く。このような工夫を始めたのは「緑白トークン」だけではありませんでした。たとえば最近頭角を現してきた「スゥルタイミッドレンジ」なども《不屈の追跡者》《龍王シルムガル》によって中速以降の戦いで優位に立つ構成をしています。

 また、「バントカンパニー」もかつては戦場のテンポに干渉する必要性から《跳ねる混成体》が定番の選択でしたが、今では《変位エルドラージ》《不屈の追跡者》が代わりに採用されるようになりました。

 こうして、あらゆるデッキたちが中速以降のゲームを意識した構成をするようになり、それに応じて環境は次第に遅く、重くなったのです。



【話題3】プロアクティブであることと「白黒コントロール」について

 上の「緑白トークン」の話題で触れたGerry Thompsonの《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》をサイドアウトするアイデアは、各所で様々な議論を呼び起こしました。そもそもの是非から先手後手での選択など、あらゆる内容が検討されましたが、なかでも特別に盛り上がったのはこの話題でした。

 そもそもメインボードに《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》は必要なのか。

 ミッドレンジが環境には多く、それらに対してGerry Thompsonのサイドプランでは《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》をサイドアウトすることになっています。つまり、それならばサイドアウト率の高い《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》は最初から採用しなくてもいいのではないか、という疑問が発端でした。


ゼンディカーの代弁者、ニッサ


 しかし、この疑問にはGerry Thompson自らが解答しています。その答えとは、”スタンダード環境にはミッドレンジだけでなく様々なデッキがいるため、すべての可能性を踏まえると、メインボードでは《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》を採用してプロアクティブであるほうが強い”というものです。

 ここでいうプロアクティブとは、主導的、積極的といったニュアンスをもっています。つまり、《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》を排して「緑白コントロール」として構築することもできるが、メインボードにおいては対応するのではなく、ゲームを自ら動かせる構成がいい、という話です。

 この連載では初めて取り扱う単語ですが、プロアクティブは『イニストラードを覆う影』以降のスタンダード環境を語るひとつのキーワードとして、各所で指摘されてきました。

 このキーワードが使われる場面には決まって、現環境がとても多角的な攻撃手段に満ちている、という一言が共にあります。《集合した中隊》《大天使アヴァシン》といったインスタントの脅威、人間や《謎の石の儀式》の展開力、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》などのプレインズウォーカー。環境で有力なデッキの多くがこれらを複合した戦略で攻撃してきます。そのため、相手の戦略を受けきること、コントロールすることが困難なのです。

 そこで、自らゲームを動かすこと、プロアクティブであることが何より重要なのだと。そう語られてきました。Gerry Thompsonの解答はまさにお手本のような内容です。相手がわかっているサイドボード後だからこそ「コントロール」として振る舞う意味があり、メインボードではより良い形がある。そもそもの前提としてプロアクティブなデッキであることが重要だという話でした。



Owen Turtenwald「白黒コントロール」
WMCQ2016アメリカ(1位)

7 《沼》
2 《平地》
4 《コイロスの洞窟》
4 《乱脈な気孔》
2 《戦場の鍛冶場》
4 《放棄された聖域》
3 《ウェストヴェイルの修道院》

-土地 (26)-


-クリーチャー (0)-
2 《荒野の確保》
4 《闇の掌握》
2 《神聖なる月光》
2 《精神背信》
2 《究極の価格》
4 《骨読み》
3 《破滅の道》
2 《苦渋の破棄》
4 《衰滅》
1 《次元の激高》
4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》
2 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》
2 《死の宿敵、ソリン》

-呪文 (34)-
2 《変位エルドラージ》
2 《ゲトの裏切り者、カリタス》
2 《難題の予見者》
2 《現実を砕くもの》
2 《強迫》
1 《大天使アヴァシン》
1 《保護者、リンヴァーラ》
1 《精神背信》
1 《鞭打つ触手》
1 《死の重み》

-サイドボード (15)-
hareruya



 しかしプロアクティブではない、いわゆるコントロールがまるでいないかというと、そうではありません。Owen TurtenwaldがアメリカのWMCQを突破した「白黒コントロール」は、現環境では異例のコントロールらしいコントロールとして活躍しています。

 プロツアー以後に「《謎の石の儀式》」へのカウンターとして登場した「白黒コントロール」でしたが、環境を支配する「緑白トークン」にやや不利なこと、「《謎の石の儀式》」が減少したこともあって次第に数を減らしていきました。

 それが今再び注目を集めている理由は、「白単人間」や「バント人間カンパニー」といった《衰滅》《次元の激高》に弱いデッキタイプが顔を見せ始めたからです。これによってコントロール系のデッキタイプが成立する余地が生まれました。プロツアー当時に《衰滅》が流行したように、「《謎の石の儀式》」を倒すべく再登場したように、環境に存在すべき理由さえあればプロアクティブではないデッキにも活躍する機会が与えられるからです。


衰滅次元の激高


 また、「白黒コントロール」も再登場を果たした際にデッキリストがアップデートされました。それは《現実を砕くもの》の発見です。ドイツのWMCQでは【Florian Kochがメインボードから2枚採用したリスト】を使用して、惜しくも優勝は逃したものの2位に入賞しています。これは主にミッドレンジやプレインズウォーカーを巡る戦いにおいて強力で、苦手にしていた「緑白トークン」とのマッチアップを改善してくれるのです。

 本当にプロアクティブではないデッキは活躍できないのか。環境終盤に差し掛かり、前提とも考えられていた命題にプレイヤーたちは疑問を投げかけます。「白黒コントロール」が成立するならば「グリクシスコントロール」は?「緑白コントロール」は?その答えはきっと、これからの数週間の結果に表れるでしょう。



【まとめ】いよいよ最後の大詰めに

 多角的で環境を定義してきた「緑白トークン」と「バントカンパニー」。大きな弱点を抱えつつも環境に後押しされた「白系人間」と「黒系コントロール」。

 最終的な環境の姿はここで落ち着くのでしょうか。それともまだ一悶着が待っているのか。『異界月』のカードプレビューも始まったことで、いよいよ環境も見納めといった雰囲気も出てきましたが、今週末に開催される【グランプリ・台北2016】を含めて大きなトーナメントがいくつか残されています。

 「緑白トークン」に始まり、「緑白トークン」に終わる。

 スタンダードを楽しんだ身としては、そんな結末にはやはりと思いつつも、やや寂しく感じてしまいます。最後に思わぬどんでん返しがあることを期待して、今週はここで筆を置こうかと思います。

 それでは、また来週お会いしましょう。



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