Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2021/7/6)
《ウルザの物語》だけじゃない
みなさん、ごきげんよう。
『モダンホライゾン2』で注目されているレアは《ウルザの物語》で間違いないだろう。今後も頻繁に見かけるはずだ。しかし、『モダンホライゾン2』にはかつてのアーキタイプを復活させたカードもあれば、新たなデッキを誕生させたカードもある。今回はそういったカードをチェックしていこう。
本題に入る前に、この記事は環境を概観する記事になっているため、《アスモラノマルディカダイスティナカルダカール》デッキには言及しないとお断りしておこう。あのデッキは記事1本を使わないといけないデッキであり、簡易的に説明したところで無意味だろう。
《断片無き工作員》《緻密》:《衝撃の足音》続唱
おかしな話で、『モダンホライゾン1』のリリースイベントが行われている時期、私はジャンドの記事で「4ターン目に《血編み髪のエルフ》の続唱から《衝撃の足音》を毎回唱えられるとしても、モダンに通用する動きではない」と書いた。この考えに変わりはないが、3ターン目となれば話は変わる。
このデッキが『モダンホライゾン2』発売以降に勢力を強めた理由は主に2つある。
《断片無き工作員》は環境で最強の「続唱」呪文だ。色が青であり、パーマネントであり、「続唱」以外の部分でも活躍できる。ひとつひとつの特徴が活躍する機会はそう多くないかもしれないが、トータルで見ればデッキを大きく躍進させる存在となる。
《緻密》。このデッキは1枚のカードから爆発的なアドバンテージを得られるため、不利なリソース交換であっても許せる。また、《緻密》と《否定の力》は大きなテンポアドバンテージを生む可能性がある。クリティカルヒットすれば、0マナの《Time Walk》に近い働きをするだろう。
3ターン目までに「想起」する必要がなく、《時を解す者、テフェリー》や戦場に出たときに致命的な効果を誘発する《原始のタイタン》が出てこないと思うのであれば、私は《緻密》をすぐさまクリーチャーとしてプレイする。このカードのすごいところは「打ち消し」ではない点で、《魂の洞窟》の打ち消し耐性を無視することができる。
カード選択
デッキ構成はプレイヤーによってまちまちだが、基本的な構造は大体同じだ。一部のカード選択を簡単に解説してみよう。
「続唱」呪文
8枚を超えると過剰な印象だ。2種類を4枚積みすれば良い。《断片無き工作員》は確定として、もう1種は《献身的な嘆願》か《暴力的な突発》だ。
リビングエンドを長く使ってきた身としては《暴力的な突発》をひいきしたくなるが、このデッキなら《献身的な嘆願》のほうが合っているだろうと思う。比較的優しい色拘束であるし、《断片無き工作員》と同じ強みを持っている。つまり、一度デッキが回り始めたら《緻密》や《否定の力》のピッチコストに充てられるし、サイトークンがもっと必要なら《時を解す者、テフェリー》でバウンスして再利用することもできる。
+1/+0修正よりも「賛美」のほうが若干強いというのもある。《時を解す者、テフェリー》《厚かましい借り手》《火/氷》を使えば、戦闘で死亡するはずだったサイを救える場面もあるだろう。
《暴力的な突発》がインスタントであることは大したことないように思えるかもしれないが、ピッチスペルとしての《否定の力》で守れる利点がある。覚えておくと良いだろう。
《時を解す者、テフェリー》
《献身的な嘆願》入りの構成にするならば、《時を解す者、テフェリー》は絶対に採用すべきだ。ミラーマッチで痛烈に刺さるし、コントロールにも強い。《緻密》や《否定の力》のコストとして投げることもできる。そして《ウルザの物語》もバウンスできる!
“2マナ”域
《厚かましい借り手》が適役だろう。相手のパーマネントしかバウンスできないのは残念だが、それを踏まえても十分なカードだ。
《火/氷》はその汎用性の高さが売りになっている。《氷》は相手のアップキープに土地をタップすることができ(50%はこの使い方をする)、ときにこれが大打撃を与える。《ウルザの物語》がII章に達する前にタップしたり、《原始のタイタン》や《霊気の薬瓶》もタップしたりもできる。《火》は《敏捷なこそ泥、ラガバン》をはじめとして、厄介なクリーチャーをさばける。《火/氷》はどちらのモードも特別強いわけではないが、デッキ構成の制約上やむを得ない。
私見では、《砕骨の巨人》はデッキに入らない。除去の役割は《火》が担えるし、3マナで4/4が2体出てくる世界で3マナ4/3は魅力的ではない。
マナベース
マナベースは複雑ではない。トライオームを入れないリストもあるようだが、私としては1ターン目に何かプレイするわけでもないし、1~2枚入れて全く問題ないと思っている。その次に重要な土地は《宝石の洞窟》だ。マッチを戦えば少なくとも一度は後攻がくる。3枚採用する構成でも良いだろうが、私は今のところ2枚が適正だと考えている。
サンプルリスト
このデッキはおおまかに2つの構築方法がある。より一般的なのは、白なしの《暴力的な突発》型。もうひとつは、赤を軽くタッチした《時を解す者、テフェリー》型だ。
Magic Onlineから引っ張ってきたサンプルリストを下に示した。ここでは、実績のあるカードで構成された定番のリストを紹介しているが、使ってみてみなさん好みの調整をしても良いだろう。
ティムール型
4色型
《悲嘆》:リビングエンド
最初はリビングエンドも《断片無き工作員》《悲嘆》《緻密》で強化されると思っていた。しかし、実際に使ってみると問題が露呈した。
リビングエンドは戦略にブレが生じている。かつては直線的なデッキであり、ひたすら「サイクリング」を繰り返して《死せる生》が通ることを祈るデッキだった。もちろんこれほどシンプルなものではないが、仮に完璧に打ち消しや墓地対策をケアした動きをできることがあったとしても、普通は腹をくくって《死せる生》を放つデッキだった。
現在のリビングエンドは《否定の力》や《厚かましい借り手》を採用している。これらは確かに良いカードだが、このデッキにとって悠長さは敵であり、墓地は高速で肥やさなければならない。
リビングエンドに希望をもたらすカードが1つある。《悲嘆》だ。0マナで唱えられ、《死せる生》の前に安全を確保しながら、《死せる生》解決後のゲーム展開も形作る。しかし、《悲嘆》には食料が必要であり、新しい構築にはそれが不足している。《悲嘆》の「想起」に黒の「サイクリング」カードを使っている余裕はなく、唯一ピッチコストに充てたいのは《死せる生》しかない。
ここは立ち戻って、完全に新しいデッキを組むよりも昔ながらのリビングエンドの構成を試したほうが良いのかもしれない。このリストはまだ試作段階だが、サポート呪文を減らして「サイクリング」を増やし、《悲嘆》にエサを与えられるようにしている。
サンプルリスト
《大爆発の魔道士》は少々廃れてきているが、《悲嘆》や《激情》のピッチコストに充てられるし、手札破壊で相手のプランを崩したところに妨害を畳み掛けることができる。
《死の一撃のミノタウルス》はデッキ内で最弱のカードで、黒でもない。しかし、1マナで「サイクリング」できるし、噛み合えば《ドラゴンの怒りの媒介者》を撃ち落とすことができる。
《激情》は素晴らしいサイドカードだ、《スレイベンの守護者、サリア》《敏捷なこそ泥、ラガバン》《翻弄する魔道士》などの煩わしいクリーチャーを除去し、ときには一挙に2体を除去できる。
マナベースは複雑だ。最初の2~3ターン目はマナを無駄なく使いたい。フェッチランドを8枚採用すれば、土地は2枚目まで理想的に配備することができるだろう。土地の基本的は置き方は、1ターン目に(赤+手札に合う1色)の土地、2ターン目に(黒+1枚目の土地が出せない色)の土地だ。
たとえば、《尖塔断の運河》に続いて《草むした墓》を置く、あるいは《燃え柳の木立ち》に続いて《湿った墓》を置くという感じだ(後者の置き方のほうが若干弱い)。青緑の2色土地がないのは、青マナと緑マナを必要とするときは必ず別々の土地からマナを出す必要があるからだ。
《敏捷なこそ泥、ラガバン》:ミッドレンジ
この猿が『モダンホライゾン2』のトップレアになるのは必然だった。あまりにもカードパワーが高いのだ。しかし、このカードを一番うまく使えるデッキは何なのだろうか?おかしいと思うだろうが、ボロスバーンやイゼット果敢のようなアグロ戦略は《敏捷なこそ泥、ラガバン》を必要としない。純粋なダメージ量が物足りないのだ。
まず、デッキの色が多いほど良い。追放したカードを唱えながらも、宝物トークンは後々の展開に温存できる。
次に、軽い手札破壊や打ち消しを用いる戦略。《敏捷なこそ泥、ラガバン》を止められず、アドバンテージが積み重なっていけば、瞬く間にゲームの勝敗が決まる。
最後は《夢の巣のルールス》。セットが出るたびに軽くて強力なクリーチャーが登場している。今回のセットで《敏捷なこそ泥、ラガバン》《ドラゴンの怒りの媒介者》《ダウスィーの虚空歩き》が加わり、《夢の巣のルールス》の「相棒」条件は一切の苦ではなくなっている。
ラクドスルールス
ラクドスルールスがTier0だったときもあったが、とうとうこのデッキを意識したメタゲームが形成された。このデッキは新たなおもちゃを手に入れて蘇ったのだ。
新しく1マナ域のクリーチャーが8枚加わり、2ターン目までにクリーチャーを3体並べることも夢ではなくなった。《敏捷なこそ泥、ラガバン》 or 《ドラゴンの怒りの媒介者》 + 手札破壊 + 除去という動きは手のつけようのないスタートだろう。
《邪悪な熱気》は「赤1マナ、対象のクリーチャーかプレインズウォーカーを破壊する」と読み替えるべきだ。《致命的な一押し》が追い出されたのも驚きではない。《原始のタイタン》や《嵐翼の精体》はもはやラクドスカラーにとって処理しづらい脅威ではなくなった。
《ダウスィーの虚空歩き》は手札破壊の最高のパートナーだ。《思考囲い》で落とした《ドミナリアの英雄、テフェリー》を踏み倒すほど気持ちの良いプレイはない。常在型能力もゴルガリサクリファイスや《アスモラノマルディカダイスティナカルダカール》デッキなどを完全にシャットダウンできる。これらの能力が回避能力付きの3/2に付いている。
《虚空の鏡》も言及しておくべきカードだ。エルドラージトロンはこの手のデッキにとって宿敵だった。《虚空の鏡》が見た目通りの働きをするか見守る必要があるが、最悪の相性であろうマッチアップをひっくり返せるポテンシャルがあるなら試してみる価値はある。
クリーチャー枠は若干自由がきく。焦点になりやすいのは、《戦慄の朗詠者、トーラック》を選ぶか《闇の腹心》を選ぶかだ。どちらも検討に値するが、未知のメタゲームなら《闇の腹心》を選びたい。
最初の2ターン目まで明確なプランがあるのであれば、《ミシュラのガラクタ》を温存しておく手もある。そうすれば《ドラゴンの怒りの媒介者》を引いたときに「諜報1」ができる。
ジェスカイ石鍛冶
《敏捷なこそ泥、ラガバン》をミッドレンジで使う2番目の候補は、ジェスカイ石鍛冶だ。アドバンテージを積み重ねていく1マナのクリーチャーと《否定の力》。これ以上に素晴らしい組み合わせはあるだろうか?
《石鍛冶の神秘家》の解禁以降、プレイヤーたちは石鍛冶デッキを作ろうとしてきたが、私の知る限りでは大きな成功を収められていない。年々カードパワーは上がっていっており、石鍛冶のパッケージは現代のモダンに通用しなくなっていたのだ。しかし、ここにきてデッキを後押しする《カルドラの完成体》が登場した。
石鍛冶パッケージの問題点は攻撃力が不足していることだった。《殴打頭蓋》は防御に優れたカードではあるが、勝とうと思うと随分と時間がかかってしまう。その点、《カルドラの完成体》は速攻・破壊不能・トランプルを持っており、3~4回殴れば勝ててしまうだろう。
装備品といえば、このデッキでは「剣」を使う気になれない。10回に1回ぐらい「剣」をサーチする状況はあるだろうが、残りの9回は《カルドラの完成体》か《殴打頭蓋》だろう。
《虹色の終焉》は3色デッキで素晴らしい除去になるが、大半は1マナで唱える。1マナのクリーチャーは環境に多くいるし、《霊気の薬瓶》《精力の護符》《地獄料理書》などもある。
やろうと思えば《時を解す者、テフェリー》や《レンと六番》も対処可能だ。最近は《大歓楽の幻霊》を見かける機会が減ったが、《虹色の終焉》を4マナで唱えることで2点ダメージを受けずに除去できた場面もあった。
このデッキの基本的なゲームプランはシンプルだ。《敏捷なこそ泥、ラガバン》と《石鍛冶の神秘家》はどちらも即刻除去しなければならない対象。もし次のターンまで生存を許されたら、打ち消しでバックアップする。こうすれば勝利に大きく近づくだろう。
《飢餓の潮流、グリスト》:ゴルガリヨーグモス
以前にこのデッキについて記事で触れたことがあったが、当時から大きな変化はないので、ここでは深く言及しない。
このデッキにとって収穫だったのは《飢餓の潮流、グリスト》だ。《召喚の調べ》や《異界の進化》からサーチできる。《下賤の教主》も良い強化だったね。
サンプルリスト
おわりに
今日はここまで。今自分がデッキを選ぶならラクドスルールスだ。長い間使ってきたジャンドと一番近いデッキだからね。
ここまで読んでくれてありがとう。では、オンラインで会おう。
ドミトリー・ブタコフ (Twitter)