はじめに
みなさんこんにちは。晴れる屋メディアチームの富澤です。
ダンジョンズ&ドラゴンズ(以下、D&D)とのコラボエキスパンションである『フォーゴトン・レルム探訪』がリリースされ、各フォーマットにも変化が現れています。新メカニズム「ダンジョン」や「クラス」はスタンダードにどんな影響を及ぼしたのでしょうか。
今回は『フォーゴトン・レルム探訪』のカードに注目しながら、THE BIG PARTY Torneo AniversarioとStandard Challenge #12318578の大会結果を振り返っていきます。
新環境の注目デッキ:オルゾフダンジョン
今回の注目デッキは、『フォーゴトン・レルム探訪』のメカニズムである「ダンジョン」を中心に構築されたオルゾフダンジョンです。
Standard Leagueの5-0リストであるこのデッキは、攻めながら3種類のクリーチャーが「ダンジョン探索」を行うアグロベースのデッキです。探索先はどんな相手に対しても安定してアドバンテージを稼げる《ファンデルヴァーの失われた鉱山》の探索がオススメですが、ゲームが詰めの段階まで進んだならば《魂を喰らう墓》を選択して押し切りを狙います。《狂える魔道士の迷宮》は5階層以降は強力な効果ではあるものの序盤が防御的であり、守勢に立たされた際には踏破までかなり時間のかかってしまうのがネックとなります。総じて使いどころが難しいダンジョンとなります。
さて、「ダンジョン探索」をするには冒険者が欠かせませんね。このデッキには3種類のクリーチャーがダンジョン踏破を目指して突き進んでいきます。
最軽量の《勝利した冒険者》は攻撃時に接死と先制攻撃を持つため、呪文で除去されない限り単独でダンジョン踏破を狙える優秀なクリーチャーです。防御に回っても1対1交換ができる疑似除去でもあります。
3マナ域には《無私のパラディン、ナダール》と《アーチリッチ、アサーラック》が控えています。両者ともダンジョンを踏破することで追加ボーナスがある優秀なクリーチャーですが、《アーチリッチ、アサーラック》は《魂を喰らう墓》を踏破しない限り戦場に出ることができません。そのため戦場への影響が小さく、戦況が不利な場合は使いにくいカードとなります。
《勝利した冒険者》からスタートできれば3ターン目に2階層まで進むことも難しくありません。《ファンデルヴァーの失われた鉱山》ならばいずれかのトークンが戦場に出るため、一気にゲームの主導権を握ることになります。
「ダンジョン探索」が進めば進むほどアドバンテージを稼げる反面、後手番や攻め込まれる展開では除去を使いながらボードを作っていく必要があります。《忠実な軍用犬》は先手と後手をひっくり返してくれるだけではなく、頭でっかちなスタッツなため自分よりマナコストの大きいクリーチャーとも相打てます。2マナの除去が多く採用されていることもあり、4マナへと到達すれば複数行動がとりやすくなりますね。
4マナにはフィニッシャーである《ドラコリッチ、エボンデス》が控え、相手の隙を伺っています。瞬速を持つため攻撃に関しては相手の意表を突きやすく、除去されても繰り返し使えるデザインとなっています。《無私の救助犬》や《魂を喰らう墓》を利用すれば戦闘を介さずとも再度プレイできそうです。
THE BIG PARTY Torneo Aniversario
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Salvador Woinilowicz | 緑単アグロ |
準優勝 | Daniel Schmoller Swett | スゥルタイ根本原理 |
トップ4 | Gabriel Perriello | マグダグルール |
トップ4 | Alejandro Sepulveda | ラクドスサクリファイス |
トップ8 | Achux | スゥルタイ根本原理 |
トップ8 | Cristobal Fermandois | ナヤアドベンチャー |
トップ8 | RALC | スゥルタイ根本原理 |
トップ8 | Felipe Guzmán | イゼットドラゴン |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
参加者101名で開催されたTHE BIG PARTY Torneo Aniversarioは緑単ストンピィを使用したSalvador Woinilowicz選手が優勝しました。《群れ率いの人狼》と《レンジャー・クラス》、2種類の2マナ域を獲得したことで以前よりも展開力、ダメージ効率ともに向上しています。
トップ8にはスゥルタイ根本原理が3名残っており、引き続き安定したデッキであることを証明しています。
メタゲーム
デッキタイプ | 使用者数 |
---|---|
赤単アグロ | 11 |
スゥルタイ根本原理 | 10 |
ディミーアローグ | 9 |
イゼットドラゴン | 9 |
マグダグルール | 8 |
緑単ストンピィ | 8 |
ナヤアドベンチャー | 7 |
白単アグロ | 5 |
ラクドスサクリファイス | 5 |
その他 | 29 |
合計 | 101 |
環境初期らしく単色~2色の速いアグロデッキが増加傾向にありますが、メタゲームは拮抗しています。イゼットドラゴンとラクドスサクリファイスはその単色アグロを狙った選択でしたが、スゥルタイ根本原理が上位に多かったことで苦戦したようです。トップ16には3名のディミーアローグがいるものの、アグロの壁を打ち破るには至りませんでした。
トップ8デッキリストはこちら。
大会情報はこちら
イゼットドラゴン
前環境から存在していたイゼットドラゴンは高効率の単体火力と軽いドローソース、「出来事」など複数交換できるカードの集合体。ボードをコントロールしつつ《ガラゼス・プリズマリ》と《黄金架のドラゴン》を着地させ、加速したマナから《アールンドの天啓》へと強引に繋げる対アグロに特化したアーキタイプです。『フォーゴトン・レルム探訪』加入後も戦略に変更はありませんが、一部のカードが入れ替わっています。
《星山脈の業火》は打ち消しに強く、ライフを詰める攻めに特化したフィニッシャー。除去耐性こそないものの速攻があるためソーサリーの除去を掻い潜ることが可能です。クリーチャーの性能だけみても十分なスペックですが、次に紹介するカードと組み合わせも必見です。
《星山脈の業火》の相棒となるのが《ドラゴンの火》。単体でも《焦熱の竜火》や《火の予言》と同じテンポ火力であり、相手の初動をさばくのに最適なカードとなります。しかし、これらのカードには賞味期限と色相性があり、極端にいえばタフネスが4をこえる状況下ではカード1枚分の価値すらありません。
《ドラゴンの火》は同じ3点火力でありながら、手札か戦場にドラゴンがいることでダメージ量が増加する可能性があるのです。《星山脈の業火》が手札にあれば《探索する獣》や《恋煩いの野獣》、《長老ガーガロス》といった厄介な緑のクリーチャーに対して、わずか2マナでトレードできるようになります。ドラゴン+《ドラゴンの火》のパッケージは今後イゼットドラゴンで良くみることになるでしょう。
サイドボードにもドラゴンが追加されています。単体除去の多いマッチアップでは《砂漠滅ぼし、イムリス》の出番。「護法」で4マナを要求するため、先手5ターン目に《砂漠滅ぼし、イムリス》が着地した場合、返しの除去手段はほとんどありません。除去の多いコントロールマッチでは頭を悩ます存在となりそうです。
《バーニング・ハンズ》は緑単ストンピィなどに強い火力であり、《魂焦がし》に代わるカード。2マナ2点と最低限の効果を持ちながら、緑相手には6点と破格の性能となります。役割は《ドラゴンの火》と近いものの、手札や戦場に依存しないのが利点となります。《鎖を解かれしもの、ポルクラノス》や《長老ガーガロス》を狙っていきましょう。
Standard Challenge #12318578
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | AndyAWKWARD | スゥルタイ根本原理 |
準優勝 | karatedom | 白単アグロ |
トップ4 | Edel | 緑単ストンピィ |
トップ4 | Xuxa | 緑単ストンピィ |
トップ8 | JMM | ディミーアコントロール |
トップ8 | Cabezadebolo | ラクドスサクリファイス |
トップ8 | Mogged | ティムールルーカ |
トップ8 | air_vengeance | 緑単ストンピィ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
Standard Challenge #12318578はスゥルタイ根本原理が貫禄を見せつけて優勝。しかし、緑単ストンピィが大躍進を遂げ、トップ8に3名を送り込みました。優勝こそ逃しましたが、新カードも多く採用されており、『フォーゴトン・レルム探訪』の恩恵をもっとも受けたアーキタイプといえそうです。
メタゲーム
デッキタイプ | 使用者数 |
---|---|
ラクドスサクリファイス | 8 |
スゥルタイ根本原理 | 6 |
緑単ストンピィ | 5 |
白単アグロ | 2 |
ティムールルーカ | 2 |
黒単信心 | 2 |
サイクリング | 2 |
その他 | 5 |
合計 | 32 |
意外なことに、トップ32のデッキ分布ではラクドスサクリファイスが使用者トップとなっています。単色アグロの増加を見越した選択であり、一定の成功をおさめていますが、懸念すべきは人気のスゥルタイ根本原理に相性が悪いこと。結局のところトップ8には1人しか進むことができませんでした。速度勝負を望めるほどのアーキタイプではないにもかかわらず、強引にゲームをひっくり返す《出現の根本原理》をプレイされる前に決着が求められる、シビアなマッチアップです。
トップ8デッキリストはこちら。
大会情報はこちら
緑単ストンピィ
新環境で一番恩恵を受けたのは緑単ストンピィに間違いないでしょう。これまで不足していた2マナ域を2種類獲得したことで大幅に強化され、スタートダッシュに成功しました。序盤から終盤まで隙はなく、かつ単色のため事故にも強い構築となっています。
《群れ率いの人狼》は3/3のサイズに加えて、アグロデッキに噛み合う2つの能力を持っています。ひとつ目の能力は攻撃時に条件を満たせば追加でカードが引けるというもの。1マナクリーチャー、《群れ率いの人狼》の流れから《水晶壊し》を「変容」できれば、3ターン目から追加ドローが可能です。中盤以降の手札不足解消に貢献してくれます。
さらに土地ばかり引き過ぎてしまった場合もご安心を。《群れ率いの人狼》は4マナ支払えば5/3のトランプルクリーチャーへと早変わりし、打点を稼いでくれます。しかもパワーが上がることで自身の持つドローの誘発条件も緩くなるため、2マナのクリーチャーながらいつ引いても無駄になりません。
《レンジャー・クラス》は新型のエンチャントであり、マナを支払ってレベルを上げることでそれに応じた常在型もしくは誘発型能力を発揮するカードです。なかでも《レンジャー・クラス》は戦場に出ただけでクリーチャートークンを生成するため、序盤はマナカーブを埋めるクリーチャーとして換算できます。《レンジャー・クラス》の強さは自軍の展開を阻害せず、未来の脅威を用意できる点にあり、マナが余ればいつでも追加の効果をもたらしてくれます。
戦場にクリーチャーが生き残ったなら、レベルを2へと引きあげます。攻撃するたびに任意のクリーチャー1体へと+1/+1カウンターが配置できるようになり、毎ターン自軍が自動的に強化されるようになります。隣に《群れのシャンブラー》を用意できるなら、+1/+1カウンターを分散することで単体除去への耐性を付与できる点も見逃せません。
レベル3は4マナとやや重いものの、ゲーム終盤や消耗戦では頼もしい味方となってくれます。ライブラリートップから直接クリーチャーをプレイできるようになるため、クリーチャーが続く限り手札は無限といっていいでしょう。スゥルタイ根本原理やイゼットドラゴンとの消耗戦では、特に活躍が見込めます。しかも《グレートヘンジ》などと違い、プレイする事前準備も必要ありません。《レンジャー・クラス》は緑系のデッキで良くみる1枚になりそうです。
また、マナベースにも注目です。これまでは強力なクリーチャー化土地である《不詳の安息地》を採用するため、必然的に《冠雪の森》が大半を占めていました。これによりほかの能力土地が採用しにくくなったり、対戦相手の《傑士の神、レーデイン》などの影響を受けてしまうことがありました。
このデッキでは《不詳の安息地》に代わって《ハイドラの巣》を採用しています。マナがあればあるほど巨大になるため、土地を引き過ぎたゲームでこそ真価を発揮します。このデッキは単色ながら序盤からダブルシンボルやトリプルシンボルのクリーチャーが多いため、色マナが生成できる《ハイドラの巣》の方が最序盤の展開は阻害しません。ただし、3枚目以降に置くとタップインとなってしまうことだけは注意して使いましょう。
白単アグロ
前節から続投の白単アグロ。序盤から小型クリーチャーで攻めたて、中盤以降は回避能力を持つ《軍団の天使》や装備品で押し切ります。《ドラニスの判事》《精鋭呪文縛り》《傑士の神、レーデイン》と3種類のメタクリーチャーもおり、能動的に相手を妨害しながらビートダウンしていくスタイルになります。
『フォーゴトン・レルム探訪』加入により、白単アグロには劇的な変化が生まれました。それはアグロスタイルのデッキに、コンボ要素が取り入れられたのです。
新カード《高貴なる行いの書》はライフゲインすることでトークンを生成しますが、このデッキでは下の起動型能力に注目しています。悟りカウンターを天使クリーチャーへと配置することで、このカウンターを置かれたクリーチャーを除去しない限りあなたはこのゲームに敗北することができず、対戦相手はこのゲームに勝利することができない状況になってしまうのです。通常の天使ならば除去やバウンスなどで対処されてしまいますが、このデッキの天使は《不詳の安息地》であり、土地であるがゆえに対処手段が非常に限られます。
コンボには計7マナを必要としますが、ひとたびカウンターが配置できれば負けることはほとんどありません。悟りカウンターが置かれた《不詳の安息地》は息をひそめ、土地となるのですから。速いゲーム展開では難しいものの、ソーサリー中心のデッキ相手や消耗戦では強力なコンボとなりそうです。
そして、このコンボ達成をサポートするのが《栄光の探索》。3種類のカードタイプを探すチューター(《吸血の教示者》などのデッキから特定のカードを探し出す効果を持つものの総称)ですが、なんと《栄光の探索》はコンボパーツである《高貴なる行いの書》と《不詳の安息地》の両方を探し出すことができるのです。これ1枚でコンボの達成がぐぐっと楽になることに加えて、このデッキでは《高貴なる行いの書》の誘発条件を満たす数少ないカードです。
アゾリウス鍛冶
今回紹介するなかで、異彩を放つのがこのアゾリウス鍛冶です。アーティファクト中心に構築されたアグロデッキであり、小型クリーチャーで攻めつつ中盤以降は《ウォーターディープの黒杖》や《きらきらするすべて》でのダメージ加速を狙います。以前のスタンダードに存在した《アーティファクトの魂込め》に近いアーキタイプになります。
シナジー重視のデッキであり、最序盤から《ジンジャーブルート》や《シルヴァー・レイヴン》などの1マナクリーチャーで攻め立てます。これらのクリーチャーは回避能力を持つため、マナカーブを埋めつつ中盤以降も立ち止まることなく攻撃に向かえます。
2ターン目にはこのデッキの主力アタッカーである、《巧妙な鍛冶》が控えています。デッキ内の30枚がアーティファクトであるため、展開と同時に後続を確保できる優秀なクリーチャー。しかも、毎ターン1度だけサイズアップができます。仮にプレイするタイミングが遅れたとしても、後続さえあれば瞬く間に成長し、ダメージ源となってくれます。
《巧妙な鍛冶》との相性も考慮して、除去はアーティファクトで統一されています。《ポータブル・ホール》は相手は選ぶものの、2マナ以下のパーマネントなら何でも対処できます。小型クリーチャー以外では、《狼柳の安息所》や《精神迷わせの秘本》、《型破りな協力》などが候補にあがります。
高速アグロデッキということでいかにライフを詰めるかが課題でしたが、このデッキには2種類のフィニッシャーが控えています。1枚目はオーラデッキでお馴染みの《きらきらするすべて》。もう1枚は《ウォーターディープの黒杖》です。この杖はトークンでないあらゆるアーティファクトを4/4クリーチャーにしてしまう新たな《アーティファクトの魂込め》。サイズこそ本家に劣りますが起動コストは軽く繰り返し使え、《ウォーターディープの黒杖》は自体を対処するまで攻撃は続きます。
《ウォーターディープの黒杖》は非クリーチャーアーティファクトをクリーチャー化して頭数を増やすこともできますが、クリーチャーを対象にすることでサイズアップも可能です。もとの能力を有したまま4/4クリーチャーとなるため、序盤に出した《ジンジャーブルート》や《シルヴァー・レイヴン》に使用すれば、回避能力付きの4/4が出来上がり。
極端にアーティファクトシナジーに寄せたデッキですが、その分詰めカードが活き、カードパワー不足を感じることはありません。心配なのはリソース面ですが、《巧妙な鍛冶》に加えて《夢の巣のルールス》が「相棒」として採用しています。これによりクリーチャーだけでなく、除去や押し込み用の《きらきらするすべて》などすべてのカードが使い回せるようになるのです。
さらに使用者であるhamudamtg選手によると最新のStandard Challengeではトップ4まで進んだようです。
Let's go, TOP 4 Standard Challenge with my UW smith, a fine achievement for me with my brew, deck has some powerfull plays, and I just hate sultai ultimatum! pic.twitter.com/c1ksolRqXy
— hamudamtg (@hamudao3) July 19, 2021
おわりに
今回は『フォーゴトン・レルム探訪』後のスタンダードをみてきました。しかし、紹介した以外にも黒単信心やラクドスサクリファイスなど魅力的なデッキはまだまだありました。次回はどんなデッキが登場するのか、今回のデッキがどのように洗練されていくのか楽しみです。
今週末には日本選手権2021 SEASON2が控えていますね。次回はそれらの情報をお届けしたいと思います。