ここまでフルセットマッチが無かったモダン神決定戦。
デッキ相性が顕著なモダンというフォーマットは、デッキ選択がゲームの結果に与えるウエイトが極めて大きいからだ。
【第2期モダン神決定戦】では砂田のソウルシスターズが小堺のバーンを完封しているし、続く【第3期】では市川の《血染めの月》が砂田のウルザトロンを粉砕している。
そしてデッキ選択の幅が広く、何よりその決定がまた難しいのもそのモダンである。あるときはBG系のデッキが支配を強め、またあるときはバーン、はたまた親和が勝ったりと環境に絶対的なデッキが存在し得ない。
それゆえデッキ選択の妙がこのフォーマットの特色といえる。
そう、無難なデッキなど存在しない。至上命題はただ一つ。
「どこまで自身の読みに賭けられるのか?」
Game 1
高野がダイスロールにより先手。
互いにマリガンもなく、高野《幽霊街》、市川《血染めのぬかるみ》と土地を置き合う静かな立ち上がりとなった。
この時点ではまだデッキが絞り込めない。
《幽霊街》をヒントとするならば、バーンと親和が選択肢から外れるが、それ以上のヒントはまだない。
一方の《血染めのぬかるみ》にしても、エルフやマーフォーク、親和ではないというそれだけの意味のみだ。
そして高野の第2ターン。
高野のセットランドによりデッキは大幅に絞りこまれた。
《魂の洞窟》が指定「シャーマン」でセットされ、《獣相のシャーマン》が現れる。
これにより高野が持ち込んだのはエルフ、ないしはそれに準じた《集合した中隊》系デッキということが衆目の事実となった。
そして同ターン、ターン終了時にとったアクションにより市川のデッキもまた明かされる。
《血染めのぬかるみ》から《山》がフェッチされ……《死の一撃のミノタウルス》サイクリング!
このカードを採用するデッキはモダンにただ一つだけだ。
サイクリングにより墓地へクリーチャーを溜め、《暴力的な突発》に代表される「続唱」スペルで《死せる生》へと繋ぐ。
《電結の荒廃者》の存在ゆえ対親和戦に難はあるが、およそクリーチャーデッキにとって最悪の存在、それが市川の選択した「リビングエンド」である。
この時点で第4期モダン神決定戦における高野の不利が確定した。
だがその事実があろうとも高野は可能性を求めてプレイを続けるしかない。
一方市川にとっては楽なマッチである。
展開された《獣相のシャーマン》を《叫び大口》「想起」で屠ると、高野が《エルフの幻想家》《大爆発の魔道士》とプレイする間《死の一撃のミノタウルス》《巨怪なオサムシ》のサイクリングを続け、《タルモゴイフ》が追加されるに至って《暴力的な突発》に手をかける。
高野も「続唱」で導かれる《死せる生》に対応して《大爆発の魔道士》を起動するのだが……
この場が、
1対5という絶望的な場に変貌してしまう。
そして何よりこの暴力的な交換が行われたのが高野のターンということ。
市川としては戦力の逆転そのまま、ただ全軍を突撃させるだけでいいのだ。
最初の突撃を耐えた高野が《タルモゴイフ》が追加されるものの、物量差は如何ともしがたい。
2度目の攻撃宣言を受け、高野は投了する。
このゲームで《死せる生》が稼いだアドバンテージ:クリーチャー7体
市川 1-0 高野
プロプレイヤーの中で初めて「神」就任を成し遂げた市川。
プロといえば無難な強いデッキを使うプレイヤーが多く、その中でもいわゆる「フェアデッキ」を使うイメージの強い市川が「リビングエンド」を選択した、そのインパクトは計り知れない。
事実高野の読みも双子かグリクシス系のデッキじゃないかというものだったこともあり、完全にハマってしまっている。
市川 「8割エルフだろうと読んでいたので、青いデッキで出たくはなかったんですよ」
【ソウルシスターズを使った砂田】もそうだが、必要に応じて変幻自在の戦略を取ることができる。
この柔軟さこそが「モダン神」に求められていたものなのかもしれない。
市川 「全然使ったことなかったので、前日に一人回しをたくさんしました(笑)」
Game 2
続く2本目も特に両者マリガンはなく、最初に展開されたパーマネントが高野の《獣相のシャーマン》と1本目と同様のスタートとなった。
ただこれは特に不思議なことではなく、そもそも高野の「シャーマンカンパニー」は第1ターンのアクションを持たない。
初動が必ず2ターン目となるため、この速度が高野の限界である。
そして前ゲームと異なり高野の《獣相のシャーマン》は除去されることもなく、無事第3ターンを迎える。
このターンの追加は《エルフの幻想家》に留まり、起動用の緑マナが残った状態で市川の動きを待つ。
そう、《獣相のシャーマン》が動き出しさえすれば《死せる生》への対抗策になる。
墓地から蘇りうるカードを次々に生産できるからだ。
高野が能動的に勝てる手段としては「《獣相のシャーマン》がアクティブになる」こと、そして「《漁る軟泥》が機能する」こと。
だからこそ。
市川はサイクリングを繰り返し、最速の《死せる生》に踏み切った。
自身の第3ターン、3マナを揃えるや否や《漁る軟泥》へ《悪魔の戦慄》を差し向ける。
《獣相のシャーマン》が処理できない以上、時間をかければかけるほど《死せる生》の効果が薄くなるからだ。
何より《獣相のシャーマン》が導くのは《漁る軟泥》であろうことが明白であり、だからこそ待つことはできない。
この《死せる生》の解決を経て、盤面は以下に変化した。
↓
高野 《永遠の証人》
市川 《意思切る者》《死の一撃のミノタウルス》《巨怪なオサムシ》《通りの悪霊》×3
※《永遠の証人》が《獣相のシャーマン》を回収、《意思切る者》が高野のライブラリーを操作している。
市川 《意思切る者》《死の一撃のミノタウルス》《巨怪なオサムシ》《通りの悪霊》×3
※《永遠の証人》が《獣相のシャーマン》を回収、《意思切る者》が高野のライブラリーを操作している。
ここで功を奏したのは市川が《通りの悪霊》を多く引いていたことであった。
《猿人の指導霊》を経由しない場合、1-2ターン目のサイクリングに費やせるのは3マナのみとなるのだが、ライフのみでサイクリングできる《通りの悪霊》はその例外になる。
ただ1本目と異なるのはこの《死せる生》が市川のターンに使われたことである。
たとえ6体のクリーチャーを呼び戻したとはいえ、すぐさま攻撃に移ることができるわけではないのだ。
4マナを残し市川の攻撃を待つ高野。
一瞬動きの止まる市川だが、すぐに思い当たり攻撃プランを検討する。
横並びするクリーチャーデッキが4マナを構えたなら、使われるカードはほぼ一つしかない。
サイクリングからの《叫び大口》により《永遠の証人》を退かせ、フルアタックを敢行した市川。
《集合した中隊》。市川の想像通り、高野の防御はこの1枚に託されていた。
6体のアタッカーに対し、《集合した中隊》が導いたのは《永遠の証人》と《タルモゴイフ》。
(《永遠の証人》は《集合した中隊》を回収。)
《タルモゴイフ》が《巨怪なオサムシ》を止めるのだが、「リビングエンド」のクリーチャー陣は意外と中量級揃いである。
パワー3のクリーチャー×5体が通り、フェッチランドを使用している高野のライフが一撃で4まで落ちてしまう。
後続こそ出せないものの依然としてクリーチャーの頭数が5対2。残りライフが4しかないことを考えると風前の灯火だ。
だが高野が2体目の《タルモゴイフ》、そして《漁る軟泥》を追加すると状況は変わる。
何故なら高野は知るべくもないのだが、市川の手札には2枚の《死せる生》。
すなわち「続唱」からの《死せる生》ルートはすでに途絶えており、度重なる《通りの悪霊》サイクリングによるライフ減少も相まって、戦線が膠着したなら市川が不利になるのは明白だからだ。
ここで勝負を分けたのは1点のライフだった。
市川のフルアタックに対し、受けた高野の選択肢は全てブロックすることしかない。
そして《樹木茂る山麓》から《森》がフェッチされ(高野ライフ4→3)、《漁る軟泥》を起動(ライフ3→4)。
高野はできることをやった。
そして通った《通りの悪霊》により高野はライフ1で踏みとどまるはずだったのだが。
市川が手札から公開したのは《暴力的な突発》!
本来の効果によりパワーが上がった《通りの悪霊》が高野の未来を断ち切った。
このゲームで《死せる生》が稼いだアドバンテージ:クリーチャー7体
市川 2-0 高野
「エルフマスター」高野が選択したのは「シャーマンカンパニー」だった。
この聞き慣れないアーキタイプを選んだ理由は何だったのだろうか。
高野 「エルフは絶対やめておけとみんなに言われたので(笑)《稲妻》や《神々の憤怒》に耐性が付くようなクリーチャーでタフな構成にしました」
当初は《憤怒の鍛冶工》も入っていたらしいが、全体除去に弱いことによりクビになったという。
たしかに市川がフェアデッキを使っていたなら。
BG系は《集合した中隊》に手を焼いただろうし、双子なら《炎樹族のシャーマン》が癌になったことだろう。
だが市川の選択は高野の想像を上回っていた。
Game 3
追い詰められた高野がマリガンを選択している間、市川は初手を見て悩んでいた。
マナはある。《暴力的な突発》もある。
懸念材料はサイクリングカードが《巨怪なオサムシ》だけということ、さらに引いても邪魔な《死せる生》までもが。
とはいえ高野がマリガンしている上に《叫び大口》もある。結局はキープすることに。
ゲームの進行はやはりというべきか、これまでのゲームと似た立ち上がりを見せた。
高野の《漁る軟泥》が《叫び大口》で討ち取られ、《タルモゴイフ》が着地するところまで。
市川が3マナを揃え高野の動きを待つところまで、マッチアップから考えられる順当な流れと言える。
だが第4ターン、早くも分水嶺が訪れる。
《タルモゴイフ》に続いての《大爆発の魔道士》。
《死せる生》と相性の良いユーティリティクリーチャーであり、高野の「シャーマンカンパニー」にとっても単体で唯一《死せる生》に耐性のあるクリーチャーである。
市川の手札には《暴力的な突発》。しかし致命的な問題を抱えていた。
直前のドローで2枚目の《死せる生》を引いてしまっているのだ。
事実上「続唱」から《死せる生》を使えるチャンスは一度しかない。
さらに言えばサイクリングカードも切らしているので、状況が好転するかどうかも分からない……。
市川は決断する。《大爆発の魔道士》プレイにスタックした《暴力的な突発》。
高野 《タルモゴイフ》
市川 なし
市川 なし
↓
珍しく小規模の嵐が起こった後、高野の《大爆発の魔道士》が着地した。
最初で最後の「続唱」=《死せる生》を使った市川、あとは手持ちの戦力で攻め切るしかなくなった。
自身の土地に《内にいる獣》を使い戦力を補強すると、《エルフの幻想家》にまで《叫び大口》「想起」をぶつけ、積極的に短期決戦を仕掛けていく。
高野にしてもマリガンしているわけだし、持てるリソースで押し込もうという戦略そのものは間違っていなかっただろう。
しかし高野も2枚の《四肢切断》で《巨怪なオサムシ》とビーストトークンを除去。
《叫び大口》には《大爆発の魔道士》でチャンプブロックしてマナを阻害と耐えに耐える。
こうして残ったのは消耗戦の極致であった。
選択肢のなくなった高野が《怒り狂う山峡》を起動し始めると、戦力の乏しくなった市川はこれに抵抗できない。
絶対的に相性が悪いと思われていた高野が1本を取り返す。
このゲームで《死せる生》が稼いだアドバンテージ:クリーチャー3体
市川 2-1 高野
サイクリングによる安定感。インスタントタイミングで吹き荒れる「続唱」。
対クリーチャー戦に無類の強さを誇る「リビングエンド」だが、わずかながらの隙があった。
それがこの第3ゲームで露呈した、《死せる生》を素引きした場合に「続唱」の機会が減ってしまうことである。
もし初手に2枚あった場合はほぼ無条件マリガンとなってしまうし、1枚の場合も引いてしまうリスクが少なからず存在する。
例えばドレッジのように。はたまた《Demonic Consultation》。
爆発力には相応のリスクを要求される。それもまたマジック。
Game 4
不利なマッチからゲームを取り返す。
これが漫画だったら流れが変わったというべきところなのかもしれないが、現実の相性差は非情であった。
そう、市川の動きは完璧だった。
初手はこちら。
土地こそ《沼》1枚だけなものの、サイクリング、「続唱」、《大爆発の魔道士》と3点揃った初手をキープした市川。
《通りの悪霊》を始めサイクリングを繰り返すと、第3ターンには《大爆発の魔道士》をプレイして即起動。
高野も《タルモゴイフ》は呼ぶものの、手札が《台所の嫌がらせ屋》《大爆発の魔道士》と3マナだらけのため、土地を破壊されては動くことができない。
そして高野の第4ターン。市川は悪魔的に宣告する。
「あなたのアップキープに」
サイクリングに1マナを使うと、手札から《暴力的な突発》が公開される。
「続唱」から《死せる生》が吹き荒れ……
高野 《タルモゴイフ》
市川 なし
市川 なし
↓
市川の場に土地が4枚&クリーチャー6体。高野の場には土地が2枚。
高野は2マナで動けない。市川は《大爆発の魔道士》をコントロールしている。
抵抗の術は残されていなかった。
市川 3-1 高野
市川と高野の差を分けたのはどこだったのだろうか。
市川 「モダン神決定戦は”限定じゃんけん”みたいなもんでしょ」
これはある意味では正しい。
出される可能性が高い手を読むことも重要だし、一度伏せた手を変えることもできず運命には粛々と従うしかない。
だが何よりこの会話だ。マッチ終了後に二人が交わしたこの言葉、これが全てを物語っている。
高野 「双子かグリクシスを使ってくると思ってました」
市川 「君は上手いよw 普通のデッキでは相手にしたくない。こっちもリスクを取らないと勝てないから」
相手の力量を見誤らず、必要に応じてリスクを受け入れ、最適戦略を行使する。
心理面も含めた分析能力と変幻自在な柔軟性。
市川 ユウキ、この男に死角なし。
第4期モダン神決定戦。
市川 ユウキが高野 成樹を下し、モダン神を防衛!