準決勝: 成田 知聡(埼玉) vs. 八十岡 翔太(東京)

晴れる屋

By Yuya Hosokawa


 【準々決勝】をスタンダードフォーマットで戦い、3勝2敗の接戦の末に制したHareruya Prosの八十岡 翔太。

 だが今度の対戦相手は、スタンダードを選択することはほとんどないであろう。なぜならその相手は日本レガシー選手権3位、成田 知聡。プロプレイヤーですら、八十岡の使うエスパー・ドラゴンにはできる限り当たりたくないと思っているはずだ。スタンダードを主戦場としない成田がレガシーで勝負を挑むのは必然だ。

 八十岡が使用するのはANT。《時を越えた探索》の禁止によりオムニテルが弱体化を余儀なくされ、レガシー最強のコンボデッキとして近頃台頭してきている。【グランプリ・京都2015】でオムニテルを使っていた八十岡がANTに鞍替えしたのは、実に自然な変化なのだ。


時を越えた探索


 対する成田は、そんな《時を越えた探索》の禁止の影響を直接受けたオムニテルの親戚と言うべきか元祖というべきか、Sneak Showを使用している。

 《時を越えた探索》が禁止になったことにより、《実物提示教育》《全知》、そして《狡猾な願い》を揃えることが難しくなったオムニテル。ならばそもそものコンボ自体の枚数を増やしてしまえば良い、というのがこのSneak Show……ではなく、元々はこの《騙し討ち》を入れたSneak Showがレガシーでは主流なアーキタイプだった。だが、《時を越えた探索》という大型新人の加入により、オムニテルが台頭してきたのだ。つまり、オムニテルはこのSneak Showの子のようなものなのである。

 一流のプロプレイヤーと一流のレガシープレイヤーが織り成す、どこからでも相手を死に至らしめるコンボ対決。

 一瞬も目が離せない。






Game 1



 八十岡の《思案》が準決勝最初の呪文となった。

 トップの3枚を積み替えてドローすることにした八十岡は、2ターン目に《ギタクシア派の調査》で成田の手札を覗き込む。

 《師範の占い独楽》《全知》《呪文貫き》と残りは全て土地という手札に安堵したであろう八十岡だったが、2枚目の《思案》には不満だったようで、シャッフルを選択する。

 《陰謀団式療法》で成田から《呪文貫き》を引き出させると、続くターンに《渦まく知識》をプレイする。するとそこには欲しかった《陰謀団の儀式》が2枚。

 整理しよう。現在、成田がコントロールしているのは《師範の占い独楽》。青マナは立っているがフェッチはない。八十岡が知らない成田のカードは、1ドローと《師範の占い独楽》の3枚の合計4枚。

 八十岡の墓地は5枚だ。八十岡はまず《暗黒の儀式》をプレイし、次に《ライオンの瞳のダイアモンド》をキャスト。成田は全て通す。

 そして《水蓮の花びら》が戦場にあるにも関わらず、生贄に捧げずにスレッショルドが達成していない《陰謀団の儀式》をプレイする。成田は墓地の枚数を指摘するが、八十岡は「はい」と返す。


陰謀団の儀式


 《陰謀団の儀式》の2枚目をプレイし、今度こそスレッショルドを達成する。そして《暗黒の儀式》から、最後の1枚の《冥府の教示者》を公開する。

 《Force of Will》が無い未来を既に《師範の占い独楽》で知っていた成田は、フィニッシュを見届けることなく、次のゲームに進むことを選んだ。


成田 0-1 八十岡


 八十岡が「スレッショルド」を達成させなかったのは勿論ミスではない。

 仮にもし成田が《Force of Will》を持っていたとしても、トップにはもう《渦まく知識》で既に《冥府の教示者》が積み込んである。《冥府の教示者》をカウンターしなければ《苦悶の触手》のストームでライフが0になってしまう成田は、《冥府の教示者》そのものをカウンターするしかなく、この積み込みを防ぐことは出来ないのだ。

 そしてすぐにコンボを再始動するためにはマナが必要となり、《水蓮の花びら》を無駄に使うわけには行かなかったのだ。1枚目の《陰謀団の儀式》がスレッショルドを達成していようといまいと、それは大きな問題ではない。

 少し考えれば簡単に出る結論だ。だが八十岡はこの全ての判断をおよそ3秒以内に行っている。脅威のスピードだ。



Game 2



 《墓掘りの檻》からスタートを切った成田だったが、2ターン目にもドロースペルを打つことはなく、対照的に八十岡は《思案》から《ギタクシア派の調査》とデッキを掘り進める。

 《ギタクシア派の調査》で見えた手札は《グリセルブランド》《ヴェンディリオン三人衆》《渦まく知識》《思案》《引き裂かれし永劫、エムラクール》という妨害の薄い内容。そしてここに《陰謀団式療法》を刺す。

 成田は手札を守るために《渦まく知識》を打ち、戻すカードを慎重に吟味する。そして発声の権利を八十岡に与えた。

《ヴェンディリオン三人衆》

 八十岡の読みは的中し、成田は《ヴェンディリオン三人衆》をライブラリーには戻していなかった。が、良いニュースばかりではない。成田の手札に残ったのは《実物提示教育》《グリセルブランド》《Force of Will》だ。


実物提示教育


 それでも次のターンにコンボが決まるわけではない。成田の土地は2枚で止まっている。そして《渦まく知識》でトップに置いているカードは土地ではない。もし3枚目の土地があったのなら、それを手札に加えて、《実物提示教育》《グリセルブランド》をライブラリートップに置くべきだ。どちらも手札に残しておく道理がない。

 3枚目の土地がない成田は《沸騰する小湖》を起動して土地を求める。引いたのは土地ではなく、《思案》で土地を求める。引き込んだのは《渦まく知識》

 しかし返す刀で八十岡は《強迫》。成田は今引いた《渦まく知識》をすぐに使い、新しい手札をそのまま公開した。

 《Force of Will》が2枚、《ギタクシア派の調査》《グリセルブランド》という悩ましいはずの内容から、八十岡はまたしても2秒ほどで結論を出した。

 ディスカードさせたのは《ギタクシア派の調査》

 そしてこの攻防からドローゴーが続く。八十岡は文字通りカードを引いてターンを返し、成田はトップデッキした《師範の占い独楽》を起動する。

 三度目のドローゴーを経て、八十岡は《渦まく知識》を唱える。が、ここには成田が即座に《紅蓮破》

 八十岡は再び自分のターンを1秒で終える。そして未だに成田は3枚目の土地を引かず、《グリセルブランド》を場に出せない。

 そしてついに機が熟す。



八十岡 翔太


 珍しく八十岡が5秒ほど静止する。そして静かに《暗黒の儀式》を唱えた。

 成田は静かに《暗黒の儀式》をスルー。そして《水蓮の花びら》をキャストすると、ストーム2で《巣穴からの総出》を唱える。

 このマッチ初めて戦場に現れた生物である6体のゴブリンを見て、成田はターン終了時に《渦まく知識》で手札を充実させ、《師範の占い独楽》で更にライブラリーの奥まで掘る。

 そして努力の甲斐あり、ついに土地を手に入れた成田。《裏切り者の都》を置き、《師範の占い独楽》を起動すると、ライブラリーのトップに置いていた《紅蓮地獄》をプレイし、ゴブリンをなぎ払う。

 手札に3枚の《Force of Will》《狼狽の嵐》、青い呪文2枚を手札に持つ成田。ほぼ磐石のように見えた。

 が、成田が土地を引いたように、八十岡も待望の1枚をドローしていた。

 八十岡は今引いたカードを、迷うことなく瞬時にプレイした。その名は《陰謀団式療法》

 3枚の《Force of Will》を持っている成田は勿論これを1枚目の《Force of Will》で打ち消す。

 間髪入れずに《Tropical Island》から《ザンティッドの大群》をプレイ。たまらず成田は2枚目の《Force of Will》

 果たして八十岡の手札に更なる弾は……あった。2枚目の《ザンティッドの大群》

 《ザンティッドの大群》に3枚目の《Force of Will》を使うか悩む成田。既に《師範の占い独楽》でライブラリーも知っている。

 この《ザンティッドの大群》をカウンターしても良いのか? 負ける可能性はないか? 何度も自問したに違いない。

 長考を重ねて成田は結論を出した。《ザンティッドの大群》に最後の《Force of Will》を使ったのだ。

 これで成田の手札は《グリセルブランド》のみ。

「今はストーム6ですよね」

 手札を消耗した成田に確認を取る。《陰謀団式療法》《ザンティッドの大群》2枚、《Force of Will》3枚で確かに呪文はこのターンに6回唱えられている。

 そして7回目の呪文、《陰謀団の儀式》

 8回目の呪文、《陰謀団の儀式》

 手札の残る1枚は、9回目の呪文、《冥府の教示者》


冥府の教示者


 10回目の呪文は成田の投了宣言に遮られ、唱えられることはなかった。


成田 0-2 八十岡


 八十岡は、ゲームを決定づけた《ザンティッドの大群》を初手からずっと手札に抱えていた。色マナがなかったわけでもない。出すタイミングはそれこそいくらでもあったはずだ。

 それでも八十岡は《ザンティッドの大群》を温存し続けた。その結果、《Force of Will》を1ターンに3回打たれながらも、コンボを決めることに成功したのだ。

 まさに神懸かり的なプレイ。



Game 3


 
 デッキに1枚しか入っていない《師範の占い独楽》をまた持っている成田。手札破壊を絡めた攻防が主となるANT戦で《師範の占い独楽》を引いている成田は、間違いなくノっているはずだ。だがそれでも、八十岡がこのマッチを現在は2-0でリードしている。成田もこの状況に嫌な予感がしていたかもしれない。



成田 知聡


 それは現実のものとなって訪れてしまった。《師範の占い独楽》をいくら起動しても、成田の場には青マナが供給されないのだ。

 《古えの墳墓》でひとまず土地が止まる事態は避けた成田だったが、手札に控えている《狼狽の嵐》が泣いている。

 それでも、すぐに負けてしまうような手札をキープはしていない。きちんと《Force of Will》は握っている。そして《師範の占い独楽》もある。第一波さえ凌いでしまえば青マナを引いて一気に追いつくことができるはずだ。

 そう、それは相手が普通のプレイヤーだった場合だ。成田の目の前に座る男は八十岡 翔太だ。

 八十岡は《思案》《渦まく知識》とドロースペルを軽快に打ち続けると、《ギタクシア派の調査》で成田の手札をじっくりと見る。

 《思案》《Force of Will》《狼狽の嵐》《グリセルブランド》《ヴェンディリオン三人衆》《渦まく知識》という内容。

 そして八十岡の決断は早かった。

 《暗黒の儀式》を唱えてまずは成田の様子をうかがう。少し考えるもここに《Force of Will》を使うわけにはいかない成田はこれをスルー。

 生み出した黒マナのうち1つを使い、《陰謀団式療法》。指定はもちろん《Force of Will》

 そして《ライオンの瞳のダイアモンド》を置き、《陰謀団の儀式》

 《冥府の教示者》をキャストし、《ライオンの瞳のダイアモンド》で1枚残った手札を捨てる。これで八十岡は「暴勇」状態に。

 応えて、成田は《師範の占い独楽》を起動する。果たして成田は《Force of Will》を積んでいるのか。八十岡にはもう策はない。

 ライブラリーのトップから成田が叩きつけたのは、《渦まく知識》だった。


渦まく知識



成田 0-3 八十岡



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