統率者戦の宝物、もとい”恐喝者”を考える
2017年、『イクサラン』で「宝物・トークン」は生まれました。
2022年のいま、宝物・トークンは存在感を増しています。
先日リリースされたばかりの『ニューカペナの街角』は統率者戦と噛み合いのいいカードが多数登場しています。フルスポイラー直後に発表されたCRC(統率者戦ルール委員会)の声明を見るに、「今回のセットで宝物を生み出す(利用する)カード」が増えたことに注目しているようです。
巷では「《波止場の恐喝者》は禁止になるのではないか」「そろそろ再版されるのではないか」とうわさが飛び交っています。それぐらい注目されている強力なカードだということですが、実態はどうなのでしょうか。
今回はあらためて「宝物・トークン」について考えてみようと思います。
宝物・トークンの定義
宝物(ほうもつ)・トークン
アーティファクト
(T),このアーティファクトを生け贄に捧げる:好きな色1色のマナ1点を加える。
能力を見れば《水蓮の花びら》とほとんど同じパーマネントと言えます。
手札1枚を失って1マナを得る《水蓮の花びら》と違い、宝物・トークンはその多くがクリーチャーが戦場に出たり、死亡したり、戦闘ダメージを与えたりといったクリーチャーの能力で戦場に出ます。基本的にはアドバンテージを失うことなく戦場に出て、一時的なマナ加速をさせてくれるものです。
ところが近年では宝物・トークンの役割は単に一時的なマナ加速だけでは失くなってきています。
スタンダード・セットからも宝物・トークンを生け贄に捧げて強力な能力を発揮するカードが次々と登場しているのです。もちろん、《ガラゼス・プリズマリ》や《リスの将軍、サワギバ》のように、アーティファクトとのシナジー、トークンとのシナジーも良好です。
宝物・トークンの利用
例:コルヴォルドの場合
統率者戦においても、宝物・トークンの利用は単にマナを出す手段にとどまりません。
第1回統率者神決定戦でも予選15位通過であったカワライ選手の《フェイに呪われた王、コルヴォルド》でも《波止場の恐喝者》が非常に大きな役割を持っていました。デッキリストはこちら
《フェイに呪われた王、コルヴォルド》は戦場に出たとき、攻撃したときにパーマネントを生け贄に捧げなければいけませんが、「パーマネントを生け贄に捧げるたびにドローする」能力も持っています。
フェッチランドを生け贄に捧げてドローでき、《迷える探求者、梓》や《ラムナプの採掘者》が絡むと大量のアドバンテージを獲得します。
さらに、《波止場の恐喝者》が供給した宝物・トークンからマナを出すだけでドローが出来てしまいます。《波止場の恐喝者》を《弱者選別》《スカークの探鉱者》などで生け贄に捧げて《再活性》することでまた大量のマナと手札を獲得できてしまいます。
《無情な屍技術師》はマナとアーティファクト(宝物・トークンでも可)さえあれば墓地から好きなだけクリーチャーを吊り上げられる「テクノマンサー」であり、《波止場の恐喝者》を無限に出し入れさせることが可能。無限宝物・トークンが成立したなら墓地のクリーチャーを好きなだけ吊り上げることも可能になり、《フェイに呪われた王、コルヴォルド》デッキなら無限ドローも成立してしまいます。
赤を最強色にしているカード
第1回統率者神決定戦の優勝者にして現統率者神であるツボイ選手はインタビューでこう答えています。
――現在の統率者戦で最強の色はなんだと思いますか。
「爆発力という意味では赤」
「《波止場の恐喝者》は4番手が一気にまくるパワーがありながら、コンボパーツでもあるため、このカードを軸にすることでデッキをきれいにまとめることもできました」
《波止場の恐喝者》は固有色に赤を含める理由になる強力なカードで、《タッサの神託者》と同じく環境を定義づけるカードの1枚と言えるでしょう。
第1回統率者神決定戦のトップ16のデッキを見てみると、《波止場の恐喝者》の採用率は75%で、固有色に赤を含むデッキすべてで採用されています。
あなたが《魔力の墓所》を手札に持っているとします。このターンはこれを唱えても無色マナの使い道がなく、次のアップキープで3点のダメージを受ける可能性がある。こんなとき、あなたは《魔力の墓所》を唱えますか?
「対戦相手が《リスティックの研究》を出してくるかもしれない。それなら先に《魔力の墓所》を出してしまおう。3点くらっても仕方ない」と、《魔力の墓所》を唱えたほうがいいかもしれません。対戦相手の《Timetwister》でライブラリーに戻されてしまう恐れもありますしね。
ところが昨今では《波止場の恐喝者》を警戒して「対戦相手に赤い統率者がいるなら、状況次第では必要になるまで出さないほうがいい」と考えるプレイヤーもいます。
もちろん、どちらが絶対的に正しいということはなく、互いのデッキやイベントの特性によって「どうしたほうがより有利か」は常に変わります。
宝物は危険物か?
ここまで話してきたことはハイレベルな統率者戦の話で、カジュアルなゲームでは《波止場の恐喝者》1枚からそのターン中に即座にゲームが終わることなんてそうそうありません。
『カジュアルからガチまで。 統率者のテーブルどう分ける?』で以前お伝えしたように、高額なカードをカジュアルなテーブルで使ってはいけないなんてことはありません。《魔力の墓所》や《波止場の恐喝者》が強いのは、そこから出た少ないマナで強力な行動がとれるようにデッキ構築されているからであって、これらのカードは対戦相手のライフもパーマネントも、なにも奪いません。「持っているなら使うべき」です。
《船殻破り》が統率者戦で禁止されたのは《意外な授かり物》や《Wheel of Fortune》と組み合わせて対戦相手の手札を0にしてしまう戦法がカジュアルなゲームにまで蔓延したためでした。《不屈の巡礼者、ゴロス》も同様で、カジュアルなゲームに再現性が高く「つまらない」ゲームパターンが生まれてしまったのが問題視されました。
一方、《波止場の恐喝者》はCRCの言う通り、カジュアルなゲームでは問題を起こしておらず、《波止場の恐喝者》を強く使うデッキは同等のレベル感を持ったデッキどうしで戦えば問題ないのかもしれません。
さんざん「禁止だ禁止」と言われてきた《タッサの神託者》でさえ、いまだ禁止される気配はありません。《タッサの神託者》を強く使う(使いたい)プレイヤー層と、《波止場の恐喝者》を強く使う(使いたい)層はほとんど同じであることを考えると……
宝物・トークンを利用するカードが増えていくことで、《波止場の恐喝者》のカードパワーも高まっています。果たして統率者戦の「宝物」をめぐるメタゲームは今後どのように変化していくのでしょうか。第2回統率者神決定戦や、その前哨戦であるコマンダーサミットの最強統率者決定戦に注目です。