はじめに
みなさんこんにちは。
早いもので『ファイレクシア:完全なる統一』発売から2ヶ月あまりが経ち、各フォーマットの主力デッキがあらかた決まってきていますね。核となるパワーカードを活かすべく、日夜研究が進み、カードも厳選されてデッキ構築は洗練されてきています。
そんななかにあって、現在進行形で進化を続けるデッキがあります。《偉大なる統一者、アトラクサ》を《新生化》により踏み倒す“ネオフォーム”です。突如としてパイオニアへと降臨したネオフォームとは一体どんなデッキなのでしょうか。
今回は、これまで開催されたプレミアム予選のメタゲームから現在のパイオニア環境を分析しつつ、ネオフォームをご紹介していきます。
現在のパイオニア環境は?
プレミアム予選のメタゲーム
まずは『チャンピオンズカップ・プレミアム予選』のメタゲームブレイクダウンから始めましょう。2月11日から3月19日までの間に、全国の晴れる屋で開催されたプレミアム予選のメタゲームをまとめました。
(編集者注:上記の表は、7つのプレミアム予選での合計使用者数が7名以上のデッキタイプのみを表示しています。また、縦軸は大会ごとのメタゲームを、横軸はプレミアム予選での各デッキタイプ使用者数の合計を表しています)
まずパイオニアを語る上でおさえておきたいのが、代表するデッキである「ラクドスミッドレンジ」です。ほぼすべての大会でトップメタに位置しており、使用者数を合計してみると90名ものプレイヤーが選択しています。この数は2番手であるアゾリウスコントロールの3倍近くにあたり、パイオニアではラクドスミッドレンジは無視できない存在であることがわかります。
ラクドスミッドレンジは2枚看板である《思考囲い》と《致命的な一押し》により、序盤から積極的にゲームへ干渉でき、五分以上の状況で中軸へと繋げます。極端に不利な相手がほとんどおらず、前述の《思考囲い》のおかげで相性差を覆すことも少なくありません。同デッキはプレミアム予選序盤から現在までメタゲームの筆頭として、環境をリードしつづけています。
次点はアゾリウスコントロール、緑単信心、アブザンパルへリオン、グルール機体と地力が高い、もしくはラクドスミッドレンジに有利なデッキが続きます。アブザンパルへリオンを除くこれらのグループはあくまでもフェアデッキに分類されるため、マッチアップ間における有利不利こそあれど致命的なサイドカードもなく、選択しやすいデッキタイプになります。
ラクドスミッドレンジをつけ狙うのは、何もフェアデッキばかりではありません。先のアブザンパルへリオンに加えて、エニグマファイヤーズ、イゼット独創力といったマナコストを踏み倒すコンボデッキが位置しています。いずれもラクドスミッドレンジを狙いつつ、ほかのフェアデッキに対しても速度や干渉を受けにくい攻め手で差をつけようとしているのです。
特にアブザンパルへリオンは増加傾向にあり、三宮店のプレミアム予選では最大勢力まで成長していました。自分より遅いコンボやラクドスを意識したミッドレンジを狙い、墓地対策の甘さも織り込み済の選択となります。
ラクドスミッドレンジなどの中速デッキ、それらに強いコンボデッキとくれば、対コンボを意識したデッキです。ロータスコンボはボード上のプレッシャーが低く比較的ゆっくりとしたコントロールやミッドレンジを、白単人間はスペルを多用するコンボデッキを狙う位置づけとなります。
依然として最大勢力はラクドスミッドレンジに変わりありませんが、その下にはいくつものデッキがあり、ラクドスの首を狙っている状況です。標的ラクドスに集中するあまりコンボデッキへのガードは下がっているため、今が使いどきといったところ。極端に対策されない限りコンボデッキは一定の勢力を保つと予想されるため、コンボデッキのなかでも速度に傾倒したアブザンパルへリオンは良い立ち位置にいます。
『ファイレクシア:完全なる統一』の影響
『ファイレクシア:完全なる統一』からの強化ポイントはファストランドによるマナベースの変更、一部クリーチャーや除去の入れ替えなど細部にとどまる程度でした。ですが、ここにきて新たなデッキ「ネオフォーム」が生まれています。
新デッキの中核は《新生化》であり、6マナの「探査」クリーチャーを追加コストにあてることで、デッキから直接《偉大なる統一者、アトラクサ》を出す踏み倒しデッキの一種です。現在のところプレミアム予選では一大勢力にはなっていないものの、派手さが売りの《偉大なる統一者、アトラクサ》を使ったデッキということで、注目を集めています。
アブザンパルへリオンと同じく墓地を活用するデッキであり、マークの薄い今が使いどき。事実、先週末に開催された『第10期パイオニア神決定戦』ではトップ16以上に3名のプレイヤーを送り込み、最終的に挑戦権の獲得に成功しています。
それでは大会結果をみていきましょう。
第10期パイオニア神決定戦
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | 齋藤 慎也 | 魂剥ぎネオフォーム |
準優勝 | 髙橋 順 | ラクドスミッドレンジ |
トップ4 | 細川 侑也 | ネオフォーム |
トップ4 | 宮下 翔太 | ラクドスサクリファイス |
トップ8 | 松島 直人 | アブザンパルへリオン |
トップ8 | 高木 遊馬 | アゾリウスコントロール |
トップ8 | 中島 篤史 | 《白日の下に》 |
トップ8 | 山下 善旗 | ラクドスミッドレンジ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
参加者185名で開催された『第10期パイオニア神決定戦』は《魂剥ぎ》入りのネオフォームを使用した齋藤 慎也選手が制しています。
ネオフォームに加えてアブザンパルへリオンもトップ8に入っており、墓地へのガードがやや下がっていたようです。パイオニアには《未認可霊柩車》や《安らかなる眠り》《真っ白》と致命的な墓地対策カードがありますが、適正ターンにプレイできなければ止めることはできません。対策する側にも猶予はなく、マリガンと速度を強いるのが墓地活用デッキの強みでもあります。
ネオフォーム
ネオフォームはデッキ名にもなっている《新生化》を使い、6マナの「探査」クリーチャーを追加コストに、デッキから直接《偉大なる統一者、アトラクサ》を戦場へと出すコンボデッキ。その速度も相まってシンプルながら非常に強力な戦略であり、「切削」カードを用いて瞬間的に墓地を肥やして、最速3ターン目に天使が着地します。
アブザンパルへリオンと同じ速度感ですが、「探査」クリーチャーから《新生化》までの一連のプレイに除去呪文で割り込むタイミングはなく、打ち消し呪文以外では対抗できません。仮に《偉大なる統一者、アトラクサ》を除去されたとしても、着地した時点で大量の手札が手に入ってしまっているため後の祭りです。クリーチャーに頼っていながら対処の難しさが特徴といえます。
《黄金牙、タシグル》と《わめき騒ぐマンドリル》はコンボのタネでありながらスタッツが高く、《新生化》がない場合はビートダウンの遂行が可能です。これらのクリーチャーはパイオニアの定番除去である《致命的な一押し》や《突然の衰微》《砕骨の巨人》で対処される心配もありません。
「探査」コストを貯めるのは《忌まわしい回収》《巧みな軍略》《第三の道の創設》の3種類の「切削」カード。ここでは見慣れない《第三の道の創設》をみていきます。
《第三の道の創設》はⅠ章から入ればマナを使わずに自分のターン中に「切削」できるため、《真っ白》のようなソーサリータイミングの墓地対策をケアできる優れもの。優先権を放棄せず「探査」コストにあてることで《未認可霊柩車》を起動するタイミングすらありません。もっとも安全に、かつ複数枚のカードを墓地へ準備してくれます。
また「切削」効果にプラスして、墓地へ落ちてしまった《新生化》をプレイする役割を持ちます。事前に「探査」クリーチャーを用意しておくか、4マナそろえて《第三の道の創設》の「先読み」を利用しましょう。
コンボの仕掛け前からダメージレース完結まで、妨害呪文でサポートしていきます。定番の《思考囲い》に加えて、1マナの《否認》として機能する《頑固な否認》が用意されています。《偉大なる統一者、アトラクサ》以外のクリーチャーもそのほとんどがパワー4以上であるため、戦場にクリーチャーさえいれば「獰猛」の条件を満たしてくれます。
序盤から積極的に動いていくため、3色デッキながら《ゼイゴスのトライオーム》のようなタップイン土地を許容できません。それでいて、1ターン目から/、2ターン目は/+、3ターン目には///+と複数の色マナを要求されます。ファストランドとショックランドの組み合わせていますが、2色土地だけでは引いた土地によっては裏目が生まれてしまいます。
《マナの合流点》はタイトなマナベースを支えるこのデッキの屋台骨。ライフと引き換えに好きな色マナを生み出し、最速かつ円滑に、ときには手札から《偉大なる統一者、アトラクサ》の着地を実現してくれます。
マナを生み出すたびにライフを支払っていては、アグロやミッドレンジとのダメージレースで押し負けないか気になるところです。仮に大量のライフを失っていても一度《偉大なる統一者、アトラクサ》が攻防へと繰り出せば、絆魂により一瞬で取り戻してくれます。
数点のライフ損失を気にするよりも序盤から妥協なく動いて墓地を貯め、最速で《偉大なる統一者、アトラクサ》へ繋げることが勝利への近道となります。理想的な動きを実現するためにも《マナの合流点》は必須の土地カードなのです。
おわりに
今回はプレミアム予選のメタゲームからパイオニア環境を振り返ってみました。現在はミッドレンジに強いコンボデッキが隆盛しており、ラクドスミッドレンジの立ち位置は芳しくありません。特に墓地活用デッキはその再現性と速度からコンボデッキの筆頭に位置しています。過度に墓地ばかり対策してはほかのデッキへのガードが下がってしまうため、対策する側も一筋縄ではいきません。
対応力の高いラクドスか、それとも急角度から攻め入る墓地コンボか。対策する側とされる側のいたちごっこが続きそうです。次回のプレミアム予選ではどのようなメタゲームが形成されるのでしょうか。
今週末には晴れる屋 トーナメントセンター 大阪と日本橋店での予選が控えていますね。次回はそれらの情報をお届けしたいと思います。