Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2024/05/15)
はじめに
やぁ、みんな!
この間のプロツアー『サンダー・ジャンクション』でエスパーミッドレンジを使い、10位に入賞した。上位に入れたのはドラフトが5-1という好成績だったこともあるが、エスパーミッドレンジのパフォーマンスはなかなか良かったと思っている。ちょっとした差で勝敗が決まった試合も多くて、マジックの醍醐味を存分に味わいながら、至福の時間を過ごせたよ。
プロツアーに何度出場しても、そこにはふたつとない冒険、経験が待っている。今回のプロツアーでいうと、選手として個人的な変化があった。長年晴れる屋の赤いユニフォームをまとって大会に臨んできたけど、Team HandshakeがUltimate Guardにスポンサーされることになり、晴れる屋の選手でありながらUltimate Guardともマジックを盛り上げていくことになったのだ。
ということで、今回は2つのロゴが入った黒いユニフォームを着用してプロツアーに参加した。何でもないことのように思われるかもしれないけど、ずっと赤いユニフォームを着て大会に出ることが当然だったから、自分にとっては大きな変化だったんだよ!
今回のプロツアーに向けた調整を始めるまで、エスパーミッドレンジを使った経験はほとんどなかった。スタンダードにずっとあったアーキタイプだし、去年の世界選手権の調整時期にもあったデッキだけど、調整で少し触ったぐらいの経験しかなかったんだ。
つまり、ラフィーンとは昔ながらの相棒じゃなかったってことだね。
なぜエスパーミッドレンジを選んだのか
Team Handshakeのメンバーは、エスパーミッドレンジを選んだ人がほとんどだった。その最大の理由は、エスパーミッドレンジよりも良い選択肢が見つからなかったからだ。あまりにもあっけない理由に思えるかもしれないが、今回は準備期間がとても短く、リスクをとることが賢明ではないと考えていたことが背景にある。
一般的に、スタンダードはデッキ構築やデッキ調整のやりがいがある。ちょっとした変化であっても、それが大きなアドバンテージになるからだ。プレイングの観点でいえば、たしかにマッチアップごとの戦いを熟知していることも大きな違いを生むけどね。
とはいえ、大会準備期間が短いなかで良いデッキを持ち込みたいのであれば、さまざまなデッキを吟味することにはリスクが伴う。今回はセット発売日とプロツアーの時間がかなり短く、いろいろなアーキタイプを試すのではなく、ドラフトを練習し、スタンダードのデッキを確実に形にするほうがもっとも効率的だとチームで考えた。ほかのプロツアー参加者やチームも同じことを考えたのではないかと思う。
もう少し調整期間が長ければ、デッキ構築にイノベーションが起きていたと思う。地域チャンピオンシップのシーズンが進んでいき、スタンダードがこれから大きく動いても不思議ではない。ただ、調整時間が十分にあっても、そのぶん早く環境が煮詰まってしまう可能性があるから、セット発売日とプロツアーの期間は長くても短くても一長一短だろう。
エスパーミッドレンジとは?
プロツアー『サンダージャンクション』で使ったデッキリストがこれだ。
ミッドレンジと称しているものの、《策謀の予見者、ラフィーン》が攻撃的なカードであることもあり、アグロ寄りのミッドレンジになっている。
ただ、それ以外のカードは受け身の展開でも機能するから、《喝破》や《忠義の徳目》などで相手をさばいて勝つこともできる。エスパーがこれほど息の長いアーキタイプであり、どんな相手とあたっても戦えるのは、採用しているカードのほとんどが高い柔軟性を備えているからだ。
攻撃的に使うこともできれば、守備的に使うこともできる。だからこそ、経験豊富なプレイヤーであっても、エスパーを使いこなすのは相当難しいんじゃないかと思うよ。
この手のデッキを乗りこなすには、戦況を慎重に見極めて、自分の盤面を展開するのか相手の展開を妨害するのかを選べるようにならなくてはけない。そして、その上達の近道はない。戦況の分析をするために自分がやっていたのは、終盤戦で有利になるのはどちらなのかを考えることだった。エスパーは版図ランプに対してロングゲームで勝てるポテンシャルがあるから、これは思うよりも難しい。
自由枠
《喉首狙い》を4枚採用することは誰の目にも明らかだろうけど、チーム内で意見が割れた枠もあった。そういったカードはほかのチームと採用枚数が違っていたから、ここで意見を述べておこう。
《大洞窟のコウモリ》
《大洞窟のコウモリ》は議論を呼ぶ1枚だ。自分は2枚にしたが、多分これは正解じゃなかった。このカードは単体のカードパワーが極端に高いわけではなく、過大評価されていると思っている。
とはいえ、《忠義の徳目》が機能し出した状況でどれだけ強力になるのかを過小評価していた。このカードは手札で重なると扱いに困るから4枚は多いと思うけど、2ターン目に出して《婚礼の発表》のために前方確認をしたいと思うことが多々あった。
《婚礼の発表》
《婚礼の発表》は4枚にして良かったと思っている。ジェス・ハンプトン/Jesse Hamptonは調整期間を通じて強く主張していたけど、結果的に彼の意見に乗って正解だった。このカードは1枚目が弱いマッチアップの場合、2枚目が実質的なマリガンになってしまう。だから手札に複数枚来ないほうが良いと思っているけど、それでも4枚採用することを肯定するほど、このエンチャントはカードパワーが高い。
《忠義の徳目》
アンソニー・リー/Anthony Leeは《忠義の徳目》を4枚採用すべきと強い確信を持っていたけど、これも意見に乗って正解だった。2マナ域でありながら、ゆったりとしたゲーム展開でフィニッシャーになるため、エスパーミッドレンジがロングゲームでも戦える理由になっている。サイドボード後は相手ターンに構える戦い方になるため、その点においても《忠義の徳目》を過小評価していたと思う。
《切り崩し》
正直なところ《切り崩し》は好きじゃない。その除去できる範囲の狭さから、《長い別れ》を1枚採用するに至ったチームメンバーもいる。《切り崩し》は《策謀の予見者、ラフィーン》を効率的に除去できるようデザインされているが、除去できるのは1ターン、よくても2ターンの猶予しかない。つまり、いつ《切り崩し》を使うのか選ぶ余地がないことが多く、ゲームプランを練るうえでかなり扱いづらいんだ。
《最深の裏切り、アクロゾズ》
今回のプロツアーで《最深の裏切り、アクロゾズ》には心底驚かされた。それから発音がすごく難しいことも(もっと言いやすい名前にしてくれ!)。
《最深の裏切り、アクロゾズ》はミラーマッチの切り札であり、劇的な逆転ができるとしたらこのカードしかない。そのかわり(《忠義の徳目》は除いて)唯一の純粋な5マナ域でもあるから、タップイン土地で痛い目にあうこともある。プロツアーでは2枚目を採用しておけばと思うこともあったけど、そうしていたらビッグマナ戦略に対して弱くなっていただろう。
メインデッキには《ティシャーナの潮縛り》が1枚も入っていなかったけど……
これからのエスパーミッドレンジ
エスパーミッドレンジのようなデッキは仮想敵をおくことが望ましい。そのため、大会の数週間前からデッキリストを完成させてしまうのは賢明ではない。仮想敵を念頭におくことで、採用すべきカードが見えてくる。
コントロールデッキとよく当たるメタゲームであれば、《否認》《軽蔑的な一撃》といった追加の打ち消し呪文をサイドボード、場合によってはメインデッキに用意することが考えられる。プロツアーの調整中は、勝利を決定づけたのは2枚目の打ち消し呪文であって、1枚目ではないことがよくあった。
もし版図ランプやティムールランプを仮想敵とするなら《ティシャーナの潮縛り》が切り札になる。
《ティシャーナの潮縛り》はミラーマッチだとあまり強くないため、個人的にはそこまで好きなカードではない。しかし、《策謀の予見者、ラフィーン》のおかげでデッキ内のカードのほとんどにアクセスできるのがエスパーミッドレンジだから、1枚でも《ティシャーナの潮縛り》を挿しておくとランプ系との相性をひっくり返せる可能性が生まれる。
プロツアーでは採用しなかったけど、今後は採用を真剣に検討するだろう。ティムールランプを意識したカードではあるものの、あらゆる受動的なデッキに対して一定の用途がありながら、4色レジェンズに対しても強い。少なくとも1枚は採用してみたくなったよ。
《切り崩し》の枚数を減らすとミラーマッチの相性は多少悪くなるだろうけど、その枠を《ティシャーナの潮縛り》のようにゲームを決定づけるカードに使えば、《切り崩し》が腐ってしまうすべてのマッチアップで勝率が劇的に上がるだろう。
また、今のスタンダードは除去が多すぎると、メタゲームの大部分に対して弱点をさらしてしまう状態になっている。そのため、自分なら除去の枚数を6枚以下に抑えた構築を試すだろう。除去を1枚減らすだけでも、コントロールデッキとの相性は目に見えて変わる。
除去を7~8枚採用する環境があるとしたら、それはミラーマッチが非常に多い環境だけだろう。そういう環境であったとしても、追加の除去はサイドボードに入れておいて、メインに2枚目の《最深の裏切り、アクロゾズ》を入れる形が良いように思う。
サイドボードガイド
みんなお待ちかねのサイドボードガイドだ!
エスパーミッドレンジはどのカードが腐るのか明確にわかるから、比較的サイドボーディングはわかりやすい。ただ、あらゆるカードを少しずつ要求してくる相手と当たると、途端に難しくなる。
ミラー
vs. ミラー
ミラー対策のサイドカードを追加で用意している構築なら、除去が多い相手に対しては《策謀の予見者、ラフィーン》を抜くことも検討できる。《大洞窟のコウモリ》を4枚採用していたり、重い呪文をあまり採用してない相手に対しては《喝破》を抜こう。
ボロス召集
vs. ボロス召集
アゾリウスコントロール
vs. アゾリウスコントロール
アゾリウスコントロールに対するサイドボーディングは、相手の構成に大きく左右される。《長い別れ》と《覆い隠し》なら《砂塵の憎悪》をはじめとする脅威を処理できるはずだ。ただ、クリーチャー偏重の構成に対しては《喉首狙い》を何枚か残しておくと良いだろう。《不穏な投錨地》があるから《喉首狙い》が腐ることはないしね。
ティムールランプ
vs. ティムールランプ
4色レジェンズ
vs. 4色レジェンズ
もっとも警戒すべきカードは《伝説の秘宝》だろう。《否認》や《強迫》をサイドインできればいいが、4色レジェンズのほかのカードに対してあまりにも無力だからサイドインしないほうがいい。
エスパーミッドレンジのデッキガイドを楽しんでもらえただろうか。このデッキは今後も戦えるデッキだと思う。メタゲームを正確に予測し、ひとつひとつのマッチアップに対する戦い方を習熟した人にはそのご褒美をくれるはずだ。
ここまで読んでくれてありがとう!
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