第一回は【こちら】
第二回は【こちら】
さて時系列にエクステンデッドを見ていったが、今回がちょうど終盤となる。
指定される禁止カードの量は激減し、早まるローテーション。
使われるカードはちょうどレガシーに現存するデッキに似ているし、デュアルランドを失いつつもギルドランド、対抗色フェッチランドと変わりゆくマナベースはモダンに引き継がれていくもの。
そんなエクステンデッドがモダンに時代を譲り渡すまでのカードたちを見ていこう。
・タルモゴイフ/Tarmogoyf
限定構築、スタンダードからモダン、レガシーまで、もちろんエクステンデッドでも。
かつてこれほど使われたクリーチャーがあっただろうか。
緑を採用する理由、緑の代名詞。
圧倒的なマナレシオと価格を併せ持つ、それが《タルモゴイフ》。
カードという観点から見るのなら、こいつは《ルアゴイフ》の末裔で、《エイトグ》シリーズ同様幾度もバリエーションが刷られた奇妙な生き物だ。
スーサイドオース(墓地再利用を原則持たない《ドルイドの誓い》デッキ)に《認識を食うもの》が使われたり、《燎原の火》と共に《猛烈に食うもの》が採用されるなど、○○ゴイフというカードはしばしばトーナメントシーンに姿を見せていた。
他には《土を食うもの》は《平等化》で使われたり、一部レガシーで使われた時期もある。
墓地を力に出来ること。
かつてのスタンダードにおける5CB(5-colored MonoBlack)が《ネクロエイトグ》を用意していたように、墓地の数だけ強くなるということは中長期的なプランニングにおいて心強い存在となる。
必然的にアグロ戦略においての保険となるか、あるいはコントロールのフィニッシャーに据えられる事が多い。
とはいえカードの役割というものは必然的にマナコストに比例する。
軽いカードは相応のスペックしか持たず、ゆえに単体で盤面に影響することは出来ない。
重ければその代償としてデッキを選ぶ。
3マナという破格のコストでアグロもこなし、コントロールのフィニッシャーとしての役割も兼ね備える。
必要とあらばビートダウンからの壁となり、8マナ2枚コンボは一撃必殺。
前項で紹介した《サイカトグ》、かのカードも時代を変えた一枚だった。
しかしその6年後に現れた《タルモゴイフ》はさらに時代を塗り替えた。
8 《島》 2 《繁殖池》 1 《蒸気孔》 4 《溢れかえる岸辺》 4 《汚染された三角州》 4 《変わり谷》 3 《激浪の研究室》 -土地(26)- 4 《タルモゴイフ》 4 《呪文づまりのスプライト》 3 《ヴェンディリオン三人衆》 2 《造物の学者、ヴェンセール》 -クリーチャー(13)- |
4 《祖先の幻視》 4 《呪文嵌め》 4 《マナ漏出》 2 《謎めいた命令》 3 《仕組まれた爆薬》 2 《梅澤の十手》 2 《ヴィダルケンの枷》 -呪文(21)- |
3 《もみ消し》 3 《古えの遺恨》 3 《大祖始の遺産》 2 《瞬間凍結》 2 《炎渦竜巻》 2 《不忠の糸》 -サイドボード(15)- |
《タルモゴイフ》といえば登場から上がり続けた価格も有名な部分だろう。
何しろ神話レア登場以前の話だ。
もちろんリミテッドも含め剥かれにくい第3セットということもあるが、それでもよほど古いカードを除けば珍しいケースと言える。
理由としてはレガシーの普及で汎用性の高い、もしくは代替が利かない強カードの需要が高まったこと。
端的に言えば、マジックにおける高額カードの定義は単純になる。
それだけ<タルモゴイフ>は強い。
そして強いことを証明するだけの結果も出している。
何しろ《タルモゴイフ》が登場して以降、エクステンデッドにおけるプレミアイベント優勝デッキだけで考えても、その5割-実に半分が《タルモゴイフ》を四枚採用したデッキであった。
2007プロツアーヴァレンシア -Countertopgoyf
2008グランプリバンクーバー -Next Level Blue
2008グランプリウィーン -Next Level Bule
2008グランプリフィラデルフィア -The Rock
2009グランプリシンガポール -Zoo
2009グランプリ神戸 -Zoo
2009プロツアーオースティン -Punishing Zoo
ここで面白いのが《タルモゴイフ》の運用方法がはっきり二極化しているところだ。
Zoo、一般にナヤ、白赤緑アグロのもの。
もう一つがネクストレベルブルーと呼ばれるコントロールである。
《タルモゴイフ》に求められているものはデッキにより様々だが、やはりマナコストに見合わぬ防御力が大きなポイントになるだろう。
例えばZoo同系なら《タルモゴイフ》の枚数、もしくは《タルモゴイフ》を処理できるカード(《流刑への道》や《バントの魔除け》等)、または《タルモゴイフ》を制圧出来るカード(《聖遺の騎士》、《悪斬の天使》)がポイントになる。
それは他のクリーチャー、火力で《タルモゴイフ》を排除することが困難であり、そうなると戦線が膠着しやすくなってしまうからだ。
そしてその防御力が《サイカトグ》亡き後の青いデッキを支えることになった。
パワーよりタフネスが1大きい、ゆえに工夫無しに《タルモゴイフ》同士が相打てない。
だからこそZooミラーマッチではお見合いが起き易く、ネクストレベルブルーは戦線を維持しやすくなる。
緑色のカードにも関わらず、青いコントロールデッキの勝利貢献度が高いとは何とも皮肉なことだが、これにはギルドランドの登場とフェッチランドによる充実したマナベースによる恩恵も大きい。
何しろ《ヴィダルケンの枷》を使いながらの四色デッキだ。
ダメージランドを使っていた時代の人間が見たら違うゲームのデッキとしか思えない。
このように良くも悪くも《タルモゴイフ》によって環境は動かされていた。
そしてヤツはモダン、レガシーにも居る。
はたして今後《タルモゴイフ》の立ち位置を脅かすクリーチャーは現れるだろうか?
・垣間見る自然/Glimpse of Nature
マジックにおける部族デッキの系譜は長い。
それもそうだろう、最初に発売されたセットから《ゴブリンの王》《アトランティスの王》《ゾンビ使い》が居た。部族というのはマジックの基本テーマの一つだ。
そして意図的な部族テーマデッキのブロック、オンスロートとローウィンブロックの影響は相当に大きかった。
前回紹介したゴブバンテージのラストピースは《ゴブリンの戦長》の登場だったし、《スカークの探鉱者》《ゴブリンの群衆追い》無しには語ることも出来ない。
さてここで語られるのはエルフ。
ゴブリン、マーフォークと並んで人気の部族の一つ。
オンスロート期には半ばファンデッキとして生息していたエルフデッキも、ローウィン発売後にはスタンダードにおけるTier1デッキとして活躍していた。
それは《ラノワールのエルフ》のように元々実戦的なエルフカードが存在していたことだったり、《レンの地の克服者》《狼骨のシャーマン》のようにスペックの高いエルフカードが登場したからとも言える。
部族テーマで構築されている以上、部族テーマのセットが追加された際の恩恵は計りしれない。
だがエクステンデッドで、はたまたレガシーでエルフという部族を脅威たらしめた原因は全く違うセットから現れていた。
神河物語だ。
3 《森》 1 《草むした墓》 1 《寺院の庭》 4 《吹きさらしの荒野》 4 《樹木茂る山麓》 3 《光り葉の宮殿》 1 《ペンデルヘイヴン》 -土地(17)- 4 《ラノワールのエルフ》 4 《樺の知識のレインジャー》 4 《ワイアウッドの共生虫》 4 《本質の管理人》 4 《遺産のドルイド》 4 《イラクサの歩哨》 4 《ワイアウッドの養虫人》 3 《エルフの幻想家》 1 《鏡の精体》 1 《威厳の魔力》 -クリーチャー(33)- |
4 《召喚士の契約》 4 《垣間見る自然》 2 《召喚の調べ》 -呪文(10)- |
3 《思考囲い》 2 《ブレンタンの炉の世話人》 2 《オルゾフの司教》 2 《原基の印章》 2 《アメジストのとげ》 1 《ガドック・ティーグ》 1 《ヴィリジアンのシャーマン》 1 《思考停止》 1 《召喚の調べ》 -サイドボード(15)- |
トーナメントシーンでは度々突如として化けるカードが登場する。
《ゴブリン徴募兵》はその最たる例だし、最近の例では《冒涜の悪魔》《地下世界の人脈》もその類だろう。
これは各レギュレーションにおけるカードプールの増減に起因するもので、《冒涜の悪魔》なら《未練ある魂》等トークンカード、《地下世界の人脈》なら効率的なライフ回復(《アスフォデルの灰色商人》、《エレボスの鞭》)が原因になる。
スタンダードという短いローテーションでもこうなのだから、サイクルの長いフォーマットにおいてはこれがさらに顕著となるわけだ。
そして「こんなカードあったっけ?」と思う瞬間が実に面白い。
《夜明けの宝冠》がプロツアークラスのイベント、ましてや世界選手権の決勝で使われると思った人がどれだけ居ただろうか。
この《垣間見る自然》も、トーナメントシーンで使われるまで実に四年。
もちろんポテンシャルは秘めていたカードだったが、例えば親和で運用するには悠長すぎた。
アドバンテージのためにクリーチャーを溜め込むのなら、展開して《頭蓋囲い》を付けた方が遥かに速かったし、緑マナを安定して供給することもまた難しい。
手札が無くなってから引いても全くの不要牌で、それなら《物読み》の方が格段に有用というものだ。
では《垣間見る自然》に欠けていたものは?
それはマナ、引いてきたクリーチャーを効率的に展開できること。
そしてその連鎖を連結させるシステム、最後にアドバンテージをゲームの決着に結びつけ得る術。
必要なパーツは全てローウィン/シャドウムーアブロックに揃っていた。
マナは《遺産のドルイド》が供給する。
例え召喚酔いでも関係ない。
システムの拡大と連鎖させるキーは?
サイクルは《イラクサの歩哨》の枚数が増えるほどに高まる。
そしてそのマナが《威厳の魔力》に結びつくことが出来たなら、ライブラリーの大半を引きつつエルフで戦場を埋め尽くすことが出来るというわけだ。
ここではローウィンブロックの恩恵を主体に並べてみたわけだが、その潤滑油となるカードたちが各セットから抜擢されていることも興味深いところだろう。
《召喚士の契約》はタイムスパイラルブロック、《召喚の調べ》はラブニカブロック。
フィニッシャーに抜擢されている《捕食者のドラゴン》はアラーラブロックからのものだし、レガシー版に目を向ければ《緑の太陽の頂点》はミラディンの傷跡ブロックであり、《孔蹄のビヒモス》はイニストラードブロックになる。
《自然の秩序》に至ってはミラージュブロックだ。
このように長年活躍しているデッキ、その中でもシナジーが豊富にあるタイプのデッキはカードが増えるたびに強化されていくし、またデッキリストを眺めるだけで歴史を感じさせる。
こういうところもマジックの醍醐味の一つだと思う。
なおここで取り上げたエルフのデッキレシピには無限コンボが仕込まれている。
内容を知らない諸兄は、以下に掲載するので少し考えてみると面白いかもしれない。
・エルフ無限コンボ
必要なパーツは四種。
《鏡の精体》を「X=1」で起動、全てをエルフに。
《遺産のドルイド》の能力で《ワイアウッドの共生虫》《イラクサの歩哨》《遺産のドルイド》をタップしてGGGマナを生成、、その後《ワイアウッドの共生虫》の能力を使用して+αのカードをアンタップ(コストで《ワイアウッドの共生虫》自身を戻す)。
G使用で《ワイアウッドの共生虫》をプレイ、《イラクサの歩哨》がアンタップ。
この一連のサイクルで1マナずつ増えていく。
後は召喚酔いしていないクリーチャーで攻撃、好きなサイズに変化させてフィニッシュ。
《イラクサの歩哨》が居なくても手札から1マナクリーチャーを増やしていくことは可能だし、《垣間見る自然》プレイ後なら連鎖させていけることもある。
また《ワイアウッドの養虫人》含みだとマナは爆発的に増えたりもする。
現レガシーに対応させた場合なら《ティタニアの僧侶》があるとかなり簡単になる。
・野生のナカティル/Wild Nacatl
カードパワーのインフレーション。
これはゲームにおけるジレンマの一つで不可避なテーマだ。
《Ancestral Recall》を例にすると極端かもしれないが、マジックにおけるスペルのカードパワーは古い時代と比較するなら抑制されていると言える。
リミテッドのコモン除去カードを見てみると分かりやすいだろう、昨今のマジックはクリーチャーを中心にしたいというテーマが見え隠れしている。
まあ実際スペルが強いならコントロールデッキがのさばり続ける事になるし、いくらクリーチャーが強いといい続けたところでコントロールを使うプレイヤーが居なくならないというのも事実。
ましてやコンボデッキは禁止カードの根源とも言えるわけで、クリーチャー主体の環境を目指すというのも環境の健全化には正しい路線なのかもしれない。
さてクリーチャーのカードパワー、その定義とは?
レガシーで使われているカードを見てみると、例えば《死儀礼のシャーマン》のような異様な汎用性。
そんな混成カードなのに多色より強い不思議カードだったり、はたまた《石鍛冶の神秘家》のように2マナでアドバンテージを獲得するカードだったりするのだろう。
《山賊の頭、伍堂》が泣いてるぞ。
そんな多機能なカードを除くと、非常に分かりやすいポイントがある。
パワー/タフネスのマナレシオだ。
レシオとは効率性という意味で、例えば《番狼》は《灰色熊》よりマナレシオが高い。
《羊毛鬣のライオン》になればなおさらだ。
そして《野生のナカティル》は非常に分かりやすいステータスを持って生まれてきた。
1マナ3/3、デメリット無し。
1 《森》 1 《島》 1 《平地》 2 《踏み鳴らされる地》 2 《寺院の庭》 1 《神聖なる泉》 1 《聖なる鋳造所》 1 《蒸気孔》 4 《乾燥台地》 4 《霧深い雨林》 4 《沸騰する小湖》 1 《樹上の村》 -土地(23)- 4 《貴族の教主》 4 《野生のナカティル》 4 《タルモゴイフ》 4 《聖遺の騎士》 4 《悪斬の天使》 -クリーチャー(20)- |
4 《流刑への道》 4 《稲妻》 3 《稲妻のらせん》 4 《バントの魔除け》 2 《梅澤の十手》 -呪文(17)- |
4 《翻弄する魔道士》 4 《否認》 4 《貪欲な罠》 3 《トーモッドの墓所》 -サイドボード(15)- |
カードパワーの話で《石鍛冶の神秘家》と《山賊の頭、伍堂》というある種の上位互換を例に挙げたわけだが、《野生のナカティル》もまた比較対象には事欠かない。
まあ10年以上前のカードだから《はぐれ象》さんの場合は仕方がないかもしれないが。
《野生のナカティル》の登場はナヤ系デッキの速度をさらに加速させた。
かつては1ターン目の《ジャッカルの仔》、はたまた《サバンナ・ライオン》や《密林の猿人》が出るか否か。
そのことがアグロ側の勝率を大きく変える要因になっていた。
《山》がタップされてから出てきたのが《モグの狂信者》だった時の安心感。
これが《ジャッカルの仔》だったら《Force of Will》を悩むところだ。
はたまた《アイケイシアの投槍兵》ばかり並んで思わず笑ってしまったり、それほどまでに1ターン目に用意できるクロックの大きさは重要だった。
ところがそんな《サバンナ・ライオン》《密林の猿人》も格下げにあってしまったわけだ。
あれほどまでに対戦相手を脅かしていた1マナパワー2クリーチャーも《野生のナカティル》の前には前座も前座。
かつての四番も今では下位打線、時代の流れとは残酷なものだ。
エクステンデッドにおけるナヤカラーの躍進は間違いなく《野生のナカティル》の貢献によるもの。
齊藤友晴のグランプリ二連覇、Brian KiblerのPunishing Zoo(《罰する火》入りZoo)。
より重くなっていく構成もミラーマッチを意識してのものだし、当時のメタゲームが如何にZooを中心に回っていたかが窺い知れる。
個人的には元々三色構成のZooが青に手を伸ばしていったことを特筆したい。
これは《部族の炎》《ガイアの力》を行使していたドメインZooのようなパターンではなく、より重い構成になったが故の選択肢になる。
例えば《バントの魔除け》はアグロ戦略の癌になる《タルモゴイフ》《悪斬の天使》を排除出来るし、《梅澤の十手》ゲーを回避することも出来る。
はたまたサイドボードからは《翻弄する魔道士》《否認》が追加され、かつてのカウンタースリヴァーを彷彿とさせるクロックパーミッション戦略にシフトすることも出来るのだ。
他には《エーテル宣誓会の法学者》によるヘイトベアー的なアクションを交えることもあり、Zooもただ愚直なビートダウンというわけではない。
この方針はモダンにおいてカウンターキャットという名前で成果を残し、結果《野生のナカティル》の禁止という結末を迎えてしまうわけだが・・・
それはまた別の話だ。
・黄泉からの橋/Bridge from Below
このFrom the Vault:Extendedではカードに焦点を当てて話を進めていくことにしている。
結果的にデッキの話になってしまうことも多いのだが、一応主題のカードを基軸にしているつもりだ。
だがここだけは例外とさせてもらいたい。
便宜上《黄泉からの橋》を取り上げているものの、ドレッジというアーキタイプは相当数が専用パーツであり欠かせないものだからだ。
何を持ってドレッジの顔とするかは意見が分かれるところだろう。
これがヴィンテージなら《Bazaar of Baghdad》と答えればいいのだが。
ドレッジのパーツは大別するなら四つに分かれることになる。
(1)ドレッジ……『発掘』と書かれたカード。
(2)カードを墓地に送り込むカード。
(3)墓地に置かれることに意味のあるカード。
(4)ゲームを決める手段。
それぞれ全てに意味があるし、欠かすことは出来ない。
ではドレッジのキーパーツと共にドレッジというデッキのアップデートを見ていくことにしよう。
まずドレッジというアーキタイプの元になるコンセプトだが、これは明らかにBenzoでありワイルドゾンビであると言える。
リアニメイト戦略はともかくとして、墓地を肥やすことこそが力という価値観。
《灰燼のグール》や《Krovikan Horror》がその根源になるからだ。
そして今でいうドレッジというデッキが初めてトーナメントシーンに姿を見せたのは2005年末(2006?)に登場した時だろう。
当時フリゴリッドと呼ばれたデッキ、それが今でいうドレッジの原型だった。
(1)《ゴルガリの墓トロール》《臭い草のインプ》《ゴルガリの凶漢》《壌土からの生命》《暗黒破》
(2)《サイカトグ》《トレイリアの風》《入念な研究》《朽ちゆくインプ》《ゾンビの横行》《セファリッドの円形競技場》《陰謀団式療法》
(3)《イチョリッド》《サイカトグ》《綿密な分析》《陰謀団式療法》《壌土からの生命》《暗黒破》
(4)《イチョリッド》《サイカトグ》《ゾンビの横行》《ゴルガリの墓トロール》
ドレッジの中で常に変わらないポケットがある。
それは(1)で、『発掘』というシステムが再録されない以上は不変のものになる。
統率者のセットで気紛れが起きない限りはあまり現実的ではないだろう、おそらく以降も変わり得ない。
だがドレッジというデッキの中で最も危険視されるパーツもまた『発掘』カードだ。
現行のモダンで《ゴルガリの墓トロール》が禁止されていることでも分かるだろう。
フリゴリッド以降のドレッジは手札に来ることがマイナスになる専用パーツばかりになってしまうし、中長期的な戦略は半ば放棄している。
しかしそれはドレッジというデッキが完成系に近づいた時の話であり、フリゴリッドにおける《ゴルガリの墓トロール》は立派なフィニッシャーの一つだ。
各役割において一番顔を見せている《サイカトグ》を見ると分かると思うが、フリゴリッドはコンボデッキ風のアグロデッキである。
そして時は流れ、ドレッジと呼ばれるデッキが環境を半ば席巻したのは2009年のプロツアーオースティンだった。
2 《島》 3 《湿った墓》 2 《繁殖池》 1 《蒸気孔》 4 《霧深い雨林》 4 《沸騰する小湖》 3 《新緑の地下墓地》 -土地(19)- 4 《面晶体のカニ》 4 《溺れたルサルカ》 4 《ナルコメーバ》 3 《恐血鬼》 4 《臭い草のインプ》 1 《炎の血族の盲信者》 1 《失われた真実のスフィンクス》 4 《ゴルガリの墓トロール》 1 《エメリアの盾、イオナ》 -クリーチャー(26)- |
4 《不可思の一瞥》 3 《留まらぬ発想》 1 《壌土からの生命》 4 《黄泉からの橋》 3 《戦慄の復活》 -呪文(15)- |
4 《虚空の力線》 3 《思考囲い》 3 《残響する真実》 2 《暗黒破》 2 《古えの遺恨》 1 《壌土からの生命》 -サイドボード(15)- |
(1)省略
(2)《面晶体のカニ》《不可思の一瞥》《留まらぬ発想》《溺れたルサルカ》《失われた真実のスフィンクス》
(3)《ナルコメーバ》《黄泉からの橋》《戦慄の復活》《恐血鬼》
(4)《黄泉からの橋》《炎の血族の盲信者》《エメリアの盾、イオナ》
ここに来てドレッジはコンボデッキとしての完成を遂げる。
もはや《ゴルガリの墓トロール》をプレイすることはほとんど無いと言ってもいい。
上手くいけば第3ターンにはライブラリーのほとんどを墓地に叩き込み、《ナルコメーバ》が《戦慄の復活》のフラッシュバックコストへ。
《黄泉からの橋》が複数のゾンビトークンを生成し、後は《炎の血族の盲信者》と走り抜けるだけだ。
こうしてドレッジは一つの完成を見た。
そして過剰な墓地対策も不可避のものとなった。
それもそうだ、メインボード最強の名は伊達ではない。
ミラーマッチですら《虚空の力線》が使われる始末で、常にサイド後のプランが課題になっている。
ここがドレッジの一番難しいところ。
例えば親和やコンボデッキは一般にサイドボードは必要最小限というのが基本になる。
それはコンセプトに必要なカードを減らしすぎるとデッキ全体が機能しなくなるから。
しかしドレッジの場合墓地対策されてしまうとデッキそのものが否定されてしまう。
墓地を経由しないことに何もしない、もしくは構築戦では笑ってしまうような2マナ1/1飛行をプレイしなくてはいけなくなってしまうのだ。
このことに対するベストな回答はなかなか得られない。
《面晶体のカニ》や《不可思の一瞥》でライブラリーアウトという選択肢もあることにはあるのだが、そもそも現行のレガシーやヴィンテージのドレッジには《面晶体のカニ》の居場所自体が存在していないため難しい。
結局のところ警戒されているかどうか、そのことが一番重要なデッキということになるだろう。
サイドボードにおける墓地対策カードも半ば専用パーツになってしまうため、メタゲーム次第で薄くなることは普通に良くあること。
ドレッジはその存在が他者に命題を突きつける。
ドレッジが居るか否か、そして当たるか否か。
・暗黒の深部/Dark Depths
本稿のトリを務めるのは《暗黒の深部》。
通称DDコンボである。
その中でも《飛行機械の鋳造所》《弱者の剣》による二枚コンボを併用したDDソプターを取り上げていきたい。
ただし事実上エクステンデッドの最後を飾るデッキ、メタゲーム上の強デッキというとそれはおそらくフェアリーになると思われる。
それは2010世界選手権エクステンデッド部門の結果だったり、はたまた八十岡翔太が優勝した2011グランプリ神戸の結果からみても明らかだろう。
しかしフェアリーというデッキはスタンダードで活躍した時から基本的なコンセプトは変わっておらず、また同時期に活躍したオーメンヴァラクートは現モダンでも現存する。
そのためここでは割愛させてもらいたい。
さて話を戻そう。
DDソプターというデッキはその名の通りDD、ソプターそれぞれ二つのコンボを融合させたデッキである。
まずDDコンボ。
これは《暗黒の深部》と《吸血鬼の呪詛術士》によるコンボで、20/20飛行破壊不能という大変頭の悪いクリーチャーを生成するものだ。
ゼンディカーというセット、その中のたった一枚のアンコモンの存在。
ただそれだけでコールドスナップで登場した冗談のようなカードが突如トップメタに躍り出た。
このことは別項で紹介した《垣間見る自然》に似ているかもしれない。
エルフはローウィン/シャドウムーア期に幾つかのキーパーツを獲得し、そこまで目立たない存在だった《垣間見る自然》によって一気に話題を浚うことになった。
かたや追加されたものは《吸血鬼の呪詛術士》単独ではあったが、それでも有用なカードがほとんどされてないとされたセットからの成り上がりは十分な話題性になる。
実際2009プロツアーオースティンにおけるメタゲームでは、開催前からDDコンボが《幽霊街》によってある程度マークされていたくらいだ。
そしてそれでもDDコンボはベスト8に入った。
それはPaulo Vitor Damo da Rosaという希代のパイロットが乗っていたからかもしれないが、それでも弱いデッキが勝てるわけもない。
つまり意識されていても結果を残せる、それだけDDコンボは強かった。
そして一方のソプターコンボ。
こちらは件のプロツアー、オースティンでさほどの結果を残さなかったこともあり、当初はそこまで注目されていなかった。
しかしその後は2009世界選手権のエクステンデッド部門で全勝を記録するなど、コンボというよりはコントロール好きなプレイヤーに人気を集め始めることになる。
コンボの性質はDDとまさに真逆。
DDが迅速な死を対戦相手に与えるものならば、ソプターコンボのそれは悠長そのものとも言える。
その反面防御力と耐久力は天下一品、ライフ回復もあいまってビートダウン耐性は非常に高い。
このようにDDとソプター、それぞれコンボとしての特性は対照的なものだ。
そもそも一般的なコンボデッキの場合、複数のコンボを内蔵したものというのは珍しい。
複数のフィニッシュパターンを持つデッキはあっても、それはストームであったり方向性が同じプロセスを経由する場合がほとんどになる。
これがDDとソプターでは大きく異なり、この両パーツには互換性が全く無い。
だからこそこのDDソプターは過去のデッキに比べて若干特異である。
DDが瞬殺コンボとして有用なことはDD単独でプロツアーベスト8に入賞したことを考えれば自明だろう。
そこに加わるソプター部分はデッキの根幹に作用するものではないが、ソプターコンボ自体がDDに耐性を持たせる。
そしてアグロ戦略に対しては絶対的に強い。
また《闇の腹心》《思考囲い》が要求してくるライフ供給にもなる。
さらにどちらも《交錯の混乱》からサーチし得るというのも特筆すべきメリットになるだろう。
3 《島》 2 《沼》 4 《涙の川》 4 《沈んだ廃墟》 4 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》 2 《トレイリア西部》 1 《幽霊街》 4 《暗黒の深部》 -土地(24)- 4 《闇の腹心》 4 《吸血鬼の呪詛術士》 -クリーチャー(8)- |
4 《思考囲い》 1 《強迫》 2 《撤廃》 2 《燻し》 1 《残響する真実》 4 《交錯の混乱》 3 《知識の渇望》 1 《強迫的な研究》 4 《金属モックス》 3 《飛行機械の鋳造所》 2 《弱者の剣》 1 《精神を刻む者、ジェイス》 -呪文(28)- |
3 《死の印》 3 《根絶》 2 《滅び》 2 《精神を刻む者、ジェイス》 1 《マラキールの門番》 1 《ジュワー島のスフィンクス》 1 《暗黒破》 1 《強迫》 1 《ファイレクシアの闘技場》 -サイドボード(15)- |
かつてソリューションによって2001プロツアー東京で優勝した殿堂プレイヤー、Zvi Mowshowitzによる’The Most Dominant Decks Of All Time’というコラムがあった。
環境を継続的に支配したデッキを紹介しており、ネクロに始まりデッドガイレッド、トレイリアンブルー等が紹介されていたものだ。
原文(SCG)
邦訳
これが奇しくも最後がDDソプターで締められていた。
無論このコラムの書かれた時期が2011年ということもある。
今だったらカウブレードが追加されていることだろう。
とはいえZviがDDソプターを、往年の悪魔的なデッキたち……ネクロドネイトやティンカーとある程度まで近しい、支配的なデッキと考えていたことには違いない。
それではDDソプターが出来ること、対戦相手が忌み嫌う部分とは何だろうか。
まずどこからでもゲームを決め得る部分。
インスタントというわけにはいかないが、2マナと土地だけでゲームを決め得ることは対戦相手に安易なタップアウトを躊躇わせる。
そして何よりも重要な部分として、DDソプターはコントロールとして振舞えること。
コンボデッキというのはアグロ戦略に対しては迅速にコンボを決めるだけでも勝てたりするが、他のコンボデッキやコントロールに対してはそうは行かない。
その際の基軸が既にメインボードから用意されている。
これほど心強いものは無い。
またデッキの根幹たる《思考囲い》《闇の腹心》というパーツはそれだけ強力なものだ。
現レガシーでも現役のこの二枚さえあれば、コンボパーツとは無関係にゲームプランを立てることが出来る。
コンボパーツが中途半端にあるくらいなら《闇の腹心》の方がよほど嬉しい。
特に下の環境になればなるほどクリーチャー除去が薄くなるのも相まって、《闇の腹心》はそれ単体でゲームを決めるだけの力がある。
その安直さは往年のネクロドネイトに似ているかもしれない。
ネクロドネイトは他が何であれ《ネクロポーテンス》さえあれば全て成立してしまう。
DDソプターもまた《闇の腹心》さえあればどうとでもなってしまう感がある。
結局青黒という組み合わせは、10年前から変わらずコンボ界の最上位に君臨しているといったところか。
以上で三回にわたって続いたFrom the Vault:Extendedは終わりだ。
もはやエクステンデッドは存在しない。
だが競技フォーマットとして公認されてなくてもゲームを遊ぶことは出来るし、完全に使えなくなったカードでも無ければ再び手に取ることが出来る。
《ドルイドの誓い》が使いたければヴィンテージへ。
《納墓》でリアニメイトがしたければレガシーに参加してみたらいい。
《タルモゴイフ》はモダンでもレガシーでもうんざりするぐらいプレイされている。
そう、エクステンデッドの系譜は確かに受け継がれているのだ。
もしデッキ構築に詰まった時など何か新しいアイディアを求めたい時があったなら、再びその歴史を紐解いてみたらいい。
でもあえて言っておこう。
いちプレイヤーとしてお世話になり、広いカードプールによる深いデッキ構築を学ばせてくれたフォーマットに。
さらばエクステンデッド!
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