ダーウィニズムとデッキ構築

Pierre Dagen

Translated by Yoshihiko Ikawa

原文はこちら

(掲載日 2018/09/07)

ダーウィニズムについての簡単な説明

“最も強いものが、あるいは最も知的なものが、生き残るわけではない。最も変化に対応できるものが生き残る。”

― チャールズ・ダーウィン

ダーウィン論、もしくはダーウィニズムというのは、著書『種の起源』の中でチャールズ・ダーウィン/Charles Darwinが提唱した、上記のような生物進化理論である。『種の起源』では、”時を経た進化”や、”1つの種が生息地、捕食者、およびその環境をより良く適応させるための獲物に依存して、時間に応じてどのようにして進化できるか”といった「種の進化」の裏にあるメカニズムを理論化している。

適者生存

かなり簡単に要約すると、本筋はこんな感じだ。

当たり前ではあるが、環境それ自体も変化し続ける。捕食者や獲物たちも進化するだろうし、気候も変化する。種としてそれらと競争し続けるには、永続的に進化することを求められているのだ。もし進化し続けることができなければ、待ち受けているのは -例えばサーベルタイガーを想像してほしいのだが- 種の絶滅だろう。

たとえカッコイイカードになれるとしても、俺は愛用のデッキをサーベルタイガーみたいにはしたくないな。

この「適者生存」をマジックに適用してみる

俺がなんでこんなことを話しているのか、君は不思議に思っているかもしれない。実際、この記事のアイディアは、友人たちとモダンの青白コントロールについて議論しているときに浮かび上がったものだ。俺はこの1年間青白コントロールを使い続けているし、ほぼ全てのカードを試してみた。だがそれでも青白コントロールは進化し続けている。青白コントロールのデッキリストにはよく1枚挿しなどの無作為に思える要素が見受けられるし、これを合理的な説明をもって正当化することは俺にはできないんだ……そう、ダーウィニズムを用いなければ。

差し戻し

例えば、俺が使う青白コントロールには大抵1枚だけ《差し戻し》が採用されている。つい最近、GPバルセロナでトップ8に入賞したときも実際そうだった。「1枚だけの《差し戻し》には明確な意図がないし、どんなマッチアップでも輝かないじゃないか」と多くの人が笑っているだろう。じゃあ、なんで俺は採用しているんだ?そう、1枚だけ《差し戻し》が入った俺のデッキリストは、モダン環境を生き残るためのより良い能力であり、俺の青白コントロールのデッキリストがアップデートされる際に受け継がれている「特徴」なんだ。

実際、これと同じようなことはもっと大規模なスケールで起こっている。そう、マジック・オンラインだ。構築フォーマットのメタゲームがどのように形成されていると思う?これもダーウィニズムなんだ。青白コントロールのような、ある1つの種族 -このケースだと、あるアーキタイプだな- を考えてみよう。すべてのメンバーは同じ一般的な特性を共有している。白と青が入っていて、カウンター呪文を使っていて、《流刑への道》《天界の列柱》を4枚ずつ使用していて、《神の怒り》のようなリセット呪文とキャントリップ呪文があって…。それでも初期段階では、種族の個体それぞれ(すなわち、それぞれのデッキリスト)がそれぞれ特有の特徴を持っている。あるリストには《思考を築く者、ジェイス》が1枚入っていたり、あるリストは《神の怒り》効果のカードを《終末》4枚に統一していたり、あるリストではカードアドバンテージを《アズカンタの探索》に頼っている一方、別リストでは《祖先の幻視》を採用していたりするんだ。

思考を築く者、ジェイス終末アズカンタの探索祖先の幻視

だがこの種族から、ある個体が生き残り、繁殖することとなる。あるリストがリーグで5-0したり、MOPTQでトップ8に残ったりして、デッキリストが公開されるのだ。デッキビルターたちが提示した優位性を理解するにつれ、そのリスト特有の特徴はより一般的になっていき、そしてある時点で、それらの「特有の特徴」は「一般水準」になるのだ。

もちろん、その多様性のせいで(そしてどのリストを掲載するか彼らが選ぶというMTGOのシステムの欠陥もあるが、これは今回焦点をあてたい話ではない)、欠陥のある変異がいくつかの5-0リストとして現れることもある……種の個体の中で、自身が最も適応されたり、最も進化したものである必要はないように。しかし長い目で見れば、遺伝していくにつれ、そういった変異はより少数派になっていき(すなわち、デッキリストの欠点を適正化していき)、最終的にはそういった欠陥は消失する可能性が多い。

これは、まさに今青白コントロールに起こっていることでもある。《祖先の幻視》は3ヶ月前ではあまり評価されておらず、《アズカンタの探索》がシェアを伸ばしていた。だがゆっくりと、少数のデッキリストが《祖先の幻視》を使用して結果を出し、今では比較的一般的な選択肢にまでなった。先月のプロツアーで9位入賞したマッティア・リッツィ/Mattia Rizziのリストでは《祖先の幻視》が4枚採用されていたな。

悪斬の天使黎明をもたらす者ライラ

逆に、トーマス・メチン/Thomas Mechinと俺自身がGPバルセロナにてサイドボードに《悪斬の天使》を採用したが(原案はイマニュエル・ガーシェンソン/ Immanuel Gerschensonだって信じてるぜ)、その当時はほとんどのリストでは採用されていなかった。そして俺たちはそれぞれ参加者1,200名ぐらいの中で7位と11位に入賞した結果、「サイドボードに《悪斬の天使》」はあっという間に広がり、今では《悪斬の天使》《黎明をもたらす者ライラ》1枚ずつ、というのは青白コントロールのサイドボードの定番になったんだ。

ダーウィニズムをデッキ構築に活かす

ダーウィニズムは本当に素晴らしいな。で、それがどうしたって?もしメタゲームを形成するデッキリストたちが”進化のプロセス”を経ていたとしたら、ダーウィニズムはまったく差を生み出さないのだろうか?もしくは、ピーナッツ型のエイリアンが、その「メタゲームを形成するデッキリストたち」を毎年クリスマスの朝にブラッド・ネルソン/Brad Nelsonに送っていたとしても、まったく同じようになるのだろうか?いや、そんなことはないだろう。

あぁ、俺はダーウィニズムを活用することがアドバンテージにつながると思っているぜ。少なくとも、俺は活用している。なぜなら、大抵の場合直線的である「種の進化」 ――たとえ俺が見るために金を支払いたいと思っても、俺たち人間がブロントサウルスやサーベルタイガー、または海の偉大な哺乳類に”退化”するなんてことはほとんどありえない―― とは違って、エターナル・フォーマットの進化は主に周期的だからな。デッキの流行は移り変わり、捕食者と獲物が時々入れ替わるからだ。

捕食者の一撃捕食

「あるアーキタイプにおいて、どのカードをどの時点で使い始めたのか」を記録していれば、即座に適応させて、新しい環境(メタゲーム)を捕食することができるだろう。基本的に、俺が言っていることは、「もし同じデッキを長い期間使い続けるなら、記録を付けるべきだ」ということだ(スタンダードではローテーション前に1サイクル以上使えることはほとんどないので、これはモダンとレガシーについて言えるだろう)。これまで試したすべてのカードを記録するのはとても簡単だし、どのデッキが獲物(言い換えれば、その微調整のおかげで倒せた相手)で、どのデッキが捕食者(言い換えれば、その微調整のせいで負けた相手)なのかも書いておくようにしよう。

サンプルとして、モダンの青白コントロールについての、俺自身の記録の一部を紹介しよう。

捕食者 特徴的なカード 獲物
5色人間、スピリット、マーフォーク 4枚目の《謎めいた命令》 ミラー、トロン、KCI
ミラー、ストーム、トロン、KCI、親和 メインに《機を見た援軍》 バーン、ホロウワン、5色人間
5色人間、ジャンド、カンパニー 《残骸の漂着》 ホロウワン、呪禁オーラ、親和
ミラー、ホロウワン 《アズカンタの探索》 5色人間、ジャンド、ジェスカイ
5色人間、バーン、親和 《祖先の幻視》 ジャンド、ミラー、KCI
トロン、ジェスカイ、バーン 《思考を築く者、ジェイス》 マルドゥ、ストーム、KCI
トロン、スケープシフト 《払拭》 ミラー、ジェスカイ、バーン、ストーム
etc
払拭否認

目くじら立てる前に、すべてのことは俺の「種」の範囲内で書かれたことだってことを思い出してくれ……言い換えれば、青白コントロールを調整しようと思ったら、あまりにも多くの余地があることを心に留めておいてくれ。

例えば、《払拭》の「捕食者」欄に5色人間やホロウワンといったアグロデッキが記載されていないことに衝撃を受けているかもしれない。確かに、《払拭》はそれらのデッキに対しては文字通り何もしない。本当にだ。だが、このスロットに入れるカードが何であれ、5色人間やホロウワンに対するカードではない、つまりこのスロットはコントロールやコンボデッキに対するものなのだ。したがって、《否認》のようなカードに置き換わる可能性はある。《払拭》の方が1マナと軽い分ストームと対峙した際に《否認》より価値が高いが、トロンやスケープシフトに対しては《払拭》のスロットが《否認》《軽蔑的な一撃》になっている方が圧倒的に良いからな。

アズカンタの探索祖先の幻視

これは《アズカンタの探索》にも同じことが言える。このカードはミラーマッチではそれほど悪いカードではないが(どう見たって《終末》よりは優れてるよな)、他のアドバンテージカードの代わりに《アズカンタの探索》を使っているということであり、お互いに《廃墟の地》が4枚あるので他のアドバンテージカードよりも《アズカンタの探索》は劣るんだ。例えば、ミラーマッチにおいては《祖先の幻視》の方が俺は好きだ。したがって、もし俺が《アズカンタの探索》を複数枚採用しているリストを使っているとしたら、ミラーマッチにおいては相手に優位を譲っていると認めざるをえないだろう。

一方、5色人間に対して《アズカンタの探索》は素晴らしいカードでは決してないが、それでも5色人間に対峙する際のアドバンテージカードとしてはベストなんだ(例えば、《祖先の幻視》よりは圧倒的に優れている)。なぜなら変身すると土地になるので《終末》の通常プレイがしやすくなるし、機能不全になることもないからな(墓地対策もないし、《真髄の針》もないし、《廃墟の地》もないし…)。このように、「追加の《祖先の幻視》の代わりに《アズカンタの探索》を選ぶ」ということは、5色人間を倒す方向に意識しているといえるんだ。

まとめ

俺自身の実際の記録は今回例示した表よりもっと乱雑だが(手書きは得意じゃないんだ)、記録を始めてからは、速やかに環境に適応させるのが簡単で、毎回0から調整をスタートしなくても良くなった。その結果が、今年のモダンの、特に青白コントロールを使ったときの、非常に良い勝率として現れている。もし君が自分のお気に入りのデッキを持っていたり、1つのデッキを調整しつづけることに興味があれば、俺と同じように試してみてくれ。

それじゃあ、またな。

ピエール・ダジョン

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