本戦、グランプリ・静岡のフォーマットであり、また、現在サイドイベントであるスーパーサンデーシリーズでも行われているフォーマットであるスタンダード。
プロツアー「テーロス」で青単・黒単を代表とする多くの信心デッキが結果を残し、最新セット「テーロス」の有用性が発揮されたが、その後、多くのグランプリ・Magic OnlineによるDaily Eventによってさらにメタゲームは進んでいった。
そして、グランプリ本戦、そして併催のスーパーサンデーシリーズによってさらにメタゲームが進むことは間違いないだろう。しかし、変化を知るにはベースを知る必要がある。この週末でのメタゲームの動きをさらに楽しむために、まずはここまでのトップメタ、いわゆるTier 1と呼ばれるアーキタイプについて、日本マジック界を代表するこの男に分析してもらいたいと思う。
「ジャパニーズ・ジャガーノート」渡辺 雄也(神奈川)。
3年後の殿堂入りは間違いないと言われ、国内ではTeam MINT所属のプロプレイヤーとして活躍する渡辺。もちろん、スタンダードの分析はばっちりだ。
今回、渡辺にはTier 1のデッキとして、以下の4つを選んでもらい、語ってもらうこととした。
・黒単信心(当記事)
・青単信心
・赤単信心タッチ白
・青白系コントロール
まずは、黒単信心について語ってもらおう。
なお、記事中に登場するデッキリストに関しては、特に記載がない限りはhappymtg内デッキサーチから選出したものであり、渡辺自身のテストプレイなどとは無関係であることにご留意いただきたい。
■黒単信心とはどんなデッキか?
19 《沼》 3 《欺瞞の神殿》 4 《変わり谷》 -土地(26)- 4 《群れネズミ》 4 《夜帷の死霊》 4 《冒涜の悪魔》 4 《アスフォデルの灰色商人》 -クリーチャー(16)- |
4 《思考囲い》 4 《肉貪り》 2 《ファリカの療法》 4 《英雄の破滅》 4 《地下世界の人脈》 -呪文(18)- |
4 《強迫》 3 《生命散らしのゾンビ》 3 《闇の裏切り》 2 《死者の神、エレボス》 2 《ファリカの療法》 1 《破滅の刃》 -サイドボード(15)- |
川崎 「まずは、個人的には環境で一番強そうだと思っている黒単信心についてお話をお聞きしたいのですが、黒単信心も最近では白をタッチしたものが主流ですよね。たまに青をタッチしたものもありますが」
渡辺 「そうですね。ショックランドと占術ランドがありますから。青を足す形も悪くはないと思いますが、《ヴィズコーパの血男爵》を取れることを考えると、基本的には白をタッチするのが主流になるんじゃないでしょうかね」
川崎 「それで、白タッチの黒単信心といえば、より白をフィーチャーしたオルゾフ・コントロールとも言えるデッキが、先日のグランプリ・ダラスで優勝してるじゃないですか」
12 《沼》 4 《神無き祭殿》 4 《静寂の神殿》 4 《変わり谷》 1 《平地》 -土地(25)- 4 《群れネズミ》 1 《罪の収集者》 4 《冒涜の悪魔》 4 《ヴィズコーパの血男爵》 -クリーチャー(13)- |
4 《思考囲い》 2 《強迫》 4 《肉貪り》 2 《今わの際》 2 《究極の価格》 4 《英雄の破滅》 4 《地下世界の人脈》 -呪文(22)- |
1 《強迫》 3 《生命散らしのゾンビ》 3 《闇の裏切り》 1 《真髄の針》 3 《ファリカの療法》 1 《破滅の刃》 1 《減縮》 2 《罪の収集者》 -サイドボード(15)- |
川崎 「まずは、単純な黒単信心についての話ではなく、このデッキとの差異についてお尋ねしたいのですが」
川崎 「細かいカード選択は色々あるとして、最大の違いはメインの5マナ域のカードを《アスフォデルの灰色商人》にするか、《ヴィズコーパの血男爵》にするか、ですよね。グランプリでは《ヴィズコーパの血男爵》型が優勝したわけですが、現在のメタゲームだと、ここはどういう選択するのがベーシックですかね?」
渡辺 「そうですね……僕は現状だと、メインデッキには《アスフォデルの灰色商人》を入れるのがいいと思っています」
川崎 「《ヴィズコーパの血男爵》はそこまで有効ではない、と?」
渡辺 「いや、もちろん《ヴィズコーパの血男爵》はものすごい強いカードですし、さっき言ったように白をタッチする最大の理由も《ヴィズコーパの血男爵》です。ただ、メインデッキに《ヴィズコーパの血男爵》を入れた形がグランプリで優勝したのは、カードとしての強さもありますが、相手がリストをまだ知らなかったことでサイドミスなどを誘えたアドバンテージも大きかったからだと考えています。これだけリストが浸透してしまった今ではその効果を狙うのは苦しいかと」
川崎 「デッキのベースのパワーとしては《アスフォデルの灰色商人》の方が有効なタイミングが多い、と?」
渡辺 「そうですね。少なくとも、Tier 1の4つの中で言うなら、青単と赤単に対しては《アスフォデルの灰色商人》の方が有効ですね」
川崎 「どちらもある程度のライフリソースを期待できるわけですが、早いデッキ相手には即効果がある《アスフォデルの灰色商人》の方が有効ということですか。逆に《ヴィズコーパの血男爵》が有効なのは、青白コン系と黒単同型ですか?」
渡辺 「基本的に遅いゲームになるなら《ヴィズコーパの血男爵》は有効なんですけどね。青白やエスパーに対しては《ヴィズコーパの血男爵》でいいんですが、黒単同型に対しても《ヴィズコーパの血男爵》が有効なのは間違いないんですが、むしろ、このマナ域のカードをどれだけデッキにとっているかという勝負になりやすいので」
川崎 「メインに《アスフォデルの灰色商人》を取りつつ、サイドに《ヴィズコーパの血男爵》を用意する形が、リスト全体で5マナ域をより多く用意できると?」
渡辺 「そういう感じじゃないでしょうか。現時点では細かいメタゲームについては触れていませんが、青単や赤単が多いメタゲームなら間違いなく《アスフォデルの灰色商人》でしょうね」
川崎 「それでは、《アスフォデルの灰色商人》をメインボードで採用した形での話として、ですが、他のTier 1のデッキとの相性を教えて下さい」
渡辺 「一番有利なのは青単信心相手ですね。タッチ白の赤単信心相手は……ほぼ五分なんじゃないでしょうか」
川崎 「デッキ相性よりも先手後手が重要になる、という感じですか」
渡辺 「そうですね。青白系相手はメインボードはかなり厳しいですが、サイド後は採用しているカード次第ですが有利になる場合が多いと思います」
川崎 「手札破壊を増やしつつ、重めのパワーカードを追加できるから、ですか。もちろん、黒単信心同士は五分ですよね」
■黒単信心を使用するメリット・デメリット
川崎 「これはすべてのデッキに聞こうと思っているんですが、黒単信心を使用するメリットとデメリットを教えて下さい」
渡辺 「黒単信心を使用する最大のメリットは、プレイの簡単さですね。プレイングのミスをしにくいので、それによって星を取りこぼすことが少ないのはメリットだと思います」
川崎 「さっき相性の話しを聞いた限りでは、他のTier 1に対しても大きく不利がつくことが少ないみたいですし、悪い所はあまりなさそうに見えますね」
渡辺 「全体のカードパワーも十分に高いですからね。《変わり谷》も有効に使えますし、《思考囲い》も強い」
渡辺 「《思考囲い》からの《群れネズミ》はフェアリーの《思考囲い》からの《苦花》を彷彿とさせる環境最強最悪クラスのわぁい!コンボー!ですからね。デッキが強い上でこういうわかりやすい勝ちパターンがあるのもいいですね」
川崎 「話を聞いているとまったく欠点がないデッキにも見えるんですが、逆に黒単信心を使うデメリット、というかリスクってなんですか?」
渡辺 「さっき、同型戦は五分って話をしていたと思うんですが、黒単信心同士の五分は普通の五分と違って、パーフェクトに近い五分なんですよ」
川崎 「パーフェクトに近い五分!?」
渡辺 「同型対決で差を付けられるところがほとんど無いんです」
川崎 「それはプレイングの差をつけにくい、ってことですか?」
渡辺 「プレイングの差もそうなんですけどね。デッキを構築するときに構成で差をつけることも一応は可能なんですけど、実際にプレイするときにその差が影響することは少ないです」
川崎 「元々の黒単の持っているポテンシャルを考えると、デッキ構成で作る差は微差でしかないってことですか」
渡辺 「そういうことです。もちろん、大きく同型対策を考えてダイナミックに構成を変えた黒単信心を構築すること自体は可能ですが、その場合は、元々の黒単信心が持っているデッキ構成のメリットをそいでしまうことになるので、中々難しいのではないですかね」
川崎 「今回は、あくまでもベースとしてのデッキの形、ってことですしね。逆に今後のメタゲームで黒単信心そのものの強さを保ちつつ、同型に強い形が登場してくるかどうかに注目するのも面白いかもしれないですね」
渡辺 「そういうデッキを組めれば理想だとは思いますね」
《恐怖》の時代から、黒の最大の敵は黒だった。
有り余るカードパワーとポテンシャルを持ちながらも、同型が最大の敵。あまりにも黒単らしすぎるところこそが、現在の黒単の最大の魅力と言っていいのではないだろうか。