本戦、グランプリ・静岡のフォーマットであり、また、現在サイドイベントであるスーパーサンデーシリーズでも行われているフォーマットであるスタンダード。
様々なデッキが登場しては消えていくこの環境を「ジャパニーズ・ジャガーノート」渡辺 雄也(神奈川)に語ってもらうという趣旨のこの企画。なお、語ってもらうのはTier 1として選んでもらった以下の4つのデッキだ。
・黒単信心
・青単信心
・赤単信心タッチ白(当記事)
・青白系コントロール
3つ目となるのは、プロツアー後に急速に勢力を伸ばしてきたデッキから、赤単信心タッチ白について語ってもらおう。
なお、記事中に登場するデッキリストに関しては、特に記載がない限りはhappymtg内デッキサーチから選出したものであり、渡辺自身のテストプレイなどとは無関係であることにご留意いただきたい。
■赤単信心タッチ白とはどんなデッキか?
11 《山》 4 《聖なる鋳造所》 4 《凱旋の神殿》 2 《ボロスのギルド門》 4 《ニクスの祭殿、ニクソス》 -土地(25)- 4 《凍結燃焼の奇魔》 4 《炎樹族の使者》 4 《灰の盲信者》 4 《ボロスの反攻者》 4 《モーギスの狂信者》 2 《鍛冶の神、パーフォロス》 4 《嵐の息吹のドラゴン》 -クリーチャー(26)- |
3 《ミジウムの迫撃砲》 3 《岩への繋ぎ止め》 2 《パーフォロスの槌》 1 《紅蓮の達人チャンドラ》 -呪文(9)- |
4 《ボロスの魔除け》 3 《神々の憤怒》 3 《戦導者のらせん》 2 《摩耗+損耗》 2 《軍勢の集結》 1 《岩への繋ぎ止め》 -サイドボード(15)- |
川崎 「プロツアーでトップ2だった青単信心と黒単信心の後は、プロツアー後に出てきたデッキについて語っていただきましょう。赤系の信心デッキ自体はプロツアーではいましたよね?」
渡辺 「そうですね。Channel Fireballが使っていたタッチ緑で《ドムリ・ラーデ》が入った形が、プロツアー時の赤単のスタンダードだったんじゃないでしょうかね」
川崎 「中村 修平さんが、チャネル久々の罠と言っていましたよ、そういえば」
渡辺 「結局、環境トップとなった青単信心の《波使い》に全く触れないのが厳しすぎたので、タッチする色を緑から白に変えて、《岩への繋ぎ止め》を採用した形が今の赤系信心のスタンダードになりますね」
川崎 「盤面に触れるカードは重要ですもんね、特にこれだけパーマネントが強い環境になると。やはり、このデッキを支えているのは《岩への繋ぎ止め》ですか?」
渡辺 「うーん……このデッキに限って言えば、そんな単純な話はしにくいのですが……ただ、ひとつの要因は赤い除去が触れないカードに触れる《岩への繋ぎ止め》、そして赤い除去である《ミジウムの迫撃砲》という組み合わせにあるのは間違いないですね」
川崎 「逆に《ミジウムの迫撃砲》は、環境のほとんどの除去が聞かない《ヴィズコーパの血男爵》を触れる数少ないカードですもんね」
渡辺 「《ミジウムの迫撃砲》をうたれないなら強い、ってカードやデッキは多いですからね。Tier 1ではないですが、最近出てきた白黒ビートみたいな細かいクリーチャーで殴ってくるデッキも、《ニクスの祭殿、ニクソス》でマナを出しての《ミジウムの迫撃砲》超過で勝てたりしますから」
川崎 「《ミジウムの迫撃砲》超過は《至高の評決》に並ぶラスクラスの威力ですからね。そして《ミジウムの迫撃砲》が届かないところには《岩への繋ぎ止め》が活躍するってことですね」
渡辺 「《波使い》はもちろんですし、《冒涜の悪魔》みたいなサイズがデカイクリーチャーも対処できるのはいいですよね」
川崎 「ただ、除去の役割がはっきりしているだけに、裏目で引いてしまったときは苦しいですよね」
渡辺 「まぁ、そのあたりは追々。とは言え、盤面の様々な状況に対処できて、デッキの構造的には詰んだ状況でできにくい一方で、自分自身は青単や黒単に負けないレベルのブン回りのパターンを持っていて、相手に詰んだ状況を作れるってのはこのデッキの強さを支えていると思います」
川崎 「2ターン目に信心2を貯めつつ、《ボロスの反攻者》《モーギスの狂信者》っていう動きは他の信心系デッキとも遜色ない動きですし、だからこそプロツアー前には赤系信心が注目されていましたもんね」
渡辺 「そうですね。そして、ブン回りだけじゃなくて、除去や、《凍結燃焼の奇魔》や《ボロスの反攻者》といったカードで地上を止めつつの《嵐の息吹のドラゴン》でフィニッシュといった、自分より早いデッキに対して受けながらの長期戦や、遅いデッキに対しても《嵐の息吹のドラゴン》でやはり長期戦を仕掛けられたりとバリエーションに富んだ戦い方ができるのは赤単信心の魅力じゃないでしょうかね」
川崎 「《ニクスの祭殿、ニクソス》を絡めれば、いきなりの怪物化で大ダメージを狙えますもんね」
渡辺 「そうですね。さっき、除去が噛み合わないとって話が少し出ていましたが、金太郎飴のような通り一遍の動きではなく、攻め手も受け手も選択肢が多くバリエーションが多いのは、相手がケアしようとするときにかなり不自由な動きを強いることができますからね。これは不安定さを超えたメリットがあると思います」
■赤単信心タッチ白のメリット・デメリット
川崎 「それでは、赤単タッチ白を使う上でのメリット・デメリットについてですが、メリットは今話題に上がっていた動きのバリエーションの豊富さですかね?」
渡辺 「そうですね。デッキパワーが高くて、動きにバリエーションがあるのはかなりのメリットです。端的に言うと、相手にするときにプレイが非常に難しいんです」
川崎 「プレイミスしやすい、ってことですか」
渡辺 「プレイミスしやすいですし、そもそもプレイの裏目も多いです」
川崎 「そもそも、デッキパワー自体が高いからケアしきれなくて、仕方なくより勝率が高い選択肢を取ったものの、裏目の動きのパワーが高すぎて受けきれず負け、みたいなパターンがあるってことですか。というか、そうなると正着打自体がなかったりしますよね?」
渡辺 「まぁ、そんな極端な話じゃないとしても、とにかく不自由な動き・不自由な選択を突きつけられることが多いので、相手をしていると理不尽に感じるゲームは多いと思います。サイドボード後は顕著ですね」
川崎 「それは、自分のサイドボードが難しいってことですか?それとも、相手のサイドカードが厳しいってことですか?」
渡辺 「うーん……両方ですね。慣れてないとサイドボードで入れるカードはミスすることが多いと思いますよ。どこを止めればいいか、なにに対処すればいいかはかなり練習しないとわかりにくいでしょうし、実際に相当難しいです。さらに、相手は《ボロスの魔除け》みたいに器用なカードを入れつつ、こちらに対して無駄になりそうなカードを抜いてくるので、弱点であるブレが少し小さくなりますからね」
川崎 「逆に、そのブレが最大のデメリットですか?」
渡辺 「最大ではありませんがデメリットのひとつですね。結局噛み合わないと悲しいというか、ダメな場合が多いのがつらいところですね」
渡辺 「特に、他の信心系のデッキは、ブン回らなかった場合は《変わり谷》でうまくごまかしてライフを詰めていったりするわけですが、赤単タッチ白は《変わり谷》を基本的には入れられない信心系デッキですからね。信心系は全部ブン回りとそれ以外のブレはあるものですが、赤単タッチ白は《変わり谷》の分、下へのブレも大きいですね。不安定さはこのデッキのいいところでもありますが、もちろん、リスクでもあるわけです」
川崎 「最大のデメリットではない、とのことですが、最大のデメリットはなんですか?」
渡辺 「このデッキを使う上で、一番厳しいのは、圧倒的有利なマッチアップ、いわゆるボーナスゲーム的なマッチアップが無いってことですね」
川崎 「それはTier 1にかぎらず、ですか」
渡辺 「そうですね……Tier 2も含めても五分よりちょっといいみたいなマッチアップが多いですね。相手が慣れてなければ、さっき言った対処が難しいって部分でより有利に戦える相手もいるとは思いますが、勝ち進んでいくと、対処法に慣れたプレイヤーに当たっていくので、アドバンテージが減っていくんじゃないでしょうか。特にグランプリレベルになっていくと」
川崎 「Tier 1相手はどうですか?」
渡辺 「黒単相手は、先手後手で有利が変わるレベルの五分ですが、青単相手は《岩への繋ぎ止め》をとっても、まだまだ不利です。青白系コントロール相手は、少なくともメインボードは超ド不利ですね」
川崎 「超ドレッドノート級の不利ですか」
渡辺 「超ドレッドノート級ですね」
厳密なマッチアップを追求していくと、圧倒的有利は無いものの、動きの不安定さが有利に働くことも多く、ブン回りの魅力もあるという赤単タッチ白。
逆に言えば、シークレットテックが活躍しやすいアーキタイプでもあるというわけで、今後のスタンダードで赤単にどのようなシークレットテックが登場するかに注目するのも面白いのではないだろうか。