Just Nowスタンダード! vol.60 -プロツアー優勝は赤単!メタゲームと「勝ち組デッキ」を振り返る-

紳さん

最新のスタンダード大会結果をチェック!

こんにちは!晴れる屋メディアの紳さんです。

先週、競技マジック世界最高峰の大会であるプロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』が開催され、日本の行弘 賢(@death_snow)選手が優勝するという快挙を成し遂げました!

それでは、プロツアーのメタゲームと結果を振り返りながら、最新のスタンダード環境を追っていきたいと思います。

プロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』

プロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』には世界各地から出場権利を持った強豪プレイヤーたち、331名が集結しました。名の知れたプロプレイヤーも多く参加しております。

フォーマットはドラフト全6回戦 + スタンダード全10回戦(ドラフト3回戦 + スタンダード5回戦を2日間)の混合フォーマットで行われ、全16回戦という長丁場となりました。

メタゲームブレイクダウン

デッキ 使用者数 使用率
イゼット果敢 140 42.3%
アゾリウス全知 66 19.9%
赤単アグロ 36 10.9%
オーバーロード 14 4.2%
ディミーアミッドレンジ 11 3.3%
ジャンドルーツ 8 2.4%
アゾリウスコントロール 6 1.8%
オルゾフピクシー 6 1.8%
ゴルガリルーツ 5 1.5%
ボロスアグロ 4 1.2%
ジェスカイコントロール 4 1.2%
その他 31 9.4%
総計 331
迷える黒魔道士、ビビ巨怪の怒りコーリ鋼の短刀

総勢331名の参加プレイヤーのうち、40%以上がイゼット果敢を選択するという、支配的なメタゲームとなりました。『マジック:ザ・ギャザリング――FINAL FANTASY』からの新カード、《迷える黒魔道士、ビビ》も採用されています。

全知アブエロの覚醒マラング川の執政

使用率で2番手となったアゾリウス全知も5人に1人が選択しており、かなりの人気を集めました。

トップ16デッキリスト

プロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』

優勝 赤単

準優勝 イゼット果敢

3位 赤単

4位 イゼット果敢

5位 イゼット果敢

6位 赤単

7位 イゼット果敢

8位 赤単


9位 オーバーロード

10位 アゾリウス全知

11位 アゾリウスコントロール

12位 赤単

13位 イゼット果敢

14位 イゼット果敢

15位 赤単

16位 イゼット果敢

トップ8デッキリスト

トップ8のうち、半数が赤単、半数がイゼット果敢という極端な結果となりました。

トップメタであったイゼット果敢は「もっともメタられたデッキ」でありながらもトップ16に7名を送り込んでおり、人気に応えて圧倒的なパフォーマンスを見せつけています。まさしく、プロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』を代表するデッキとして歴史に名を刻みました。

赤単

デッキリストページ

魔道士封じのトカゲ叫ぶ宿敵

出場するだけでも難しいプロツアーにおいて、これまでに何度も決勝ラウンド進出を果たしている行弘選手。赤単を使用して、悲願の初優勝となりました。

トップメタであるイゼット果敢に対して無類の強さを発揮する《魔道士封じのトカゲ》や、赤単ミラーで強すぎる壁となる《叫ぶ宿敵》が輝いています。

双つ口の嵐孵り自爆心火の英雄

繰り返し使える5点火力の《双つ口の嵐孵り》(前兆面)や、《心火の英雄》《叫ぶ宿敵》ともシナジーがある新カードの《自爆》が重要な場面で活躍しました。《巨怪の怒り》などでパワーを上げたところに《自爆》を使うのも強力です。

行弘選手は『FINAL FANTASY V』の大ファンということで、今回のプロツアーでしっかり《自爆》が活躍したというのはエモーショナルな出来事でした。ギリギリのライフ管理がとても難しい試合が続いたと思いますが、集中力を切らさずに最後まで戦い抜いたのは本当に素晴らしいです。

解説の市川 ユウキ(@serra2020)氏による情報では、「行弘選手はイゼット果敢を使っていて赤単に勝てなかったから、赤単を選択した」とのことです。

今回のプロツアーでは赤単はイゼット果敢と130回マッチアップしており、赤単側の80勝50敗(勝率62%)というデータがあります。赤単はイゼット果敢に有利なデッキということになりそうですね。イゼット果敢側がマナを使いきる動きが多いのに対し、赤単は《巨怪の怒り》などで一瞬の隙を突くことができるのが有利なポイントなのかもしれません。

ちょうど9年前、プロプレイヤーとして東京に進出してきたばかりの行弘選手にインタビューさせてもらったことがあり、こんなことを言っていました。

カードゲームのプロって生きていけるの?業界を牽引する2人に聞いてみた。(前編)より引用


デッキ選択の際はTier1を使わないということを意識しています。

これはつまらない意地とかではなく、僕がプレイヤーとして世界一を目指すための考え方です。例えば、プロ同士がTier1のデッキを使って戦った場合、最終的にカードのめくり合い、いわゆる運という要素によっての決着になりがちです。

そうではなく、Tier1に有利なオリジナルのデッキを作り、自分の勝つ確率を上げることが正しい選択だと考えているからです。

9年前からプレイスタイルがまったくブレていない……!

勝てない時期があっても、あきらめずに挑戦しつづけたことが今回の優勝に繋がっているのでしょう。イゼット果敢に対する赤単、見事にハマりましたね。

優勝、本当におめでとうございます!

イゼット果敢

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迷える黒魔道士、ビビ嵐追いの才能コーリ鋼の短刀

前回のプロツアー『霊気走破』につづいて、連続でトップ8に進出するという偉業を成し遂げたイアン・ロブ選手。なんとまだ21歳という若さとのことで、今後は競技マジック界を背負う偉大なプレイヤーとなることは間違いないでしょう。

《迷える黒魔道士、ビビ》という新戦力が加わり、今回のプロツアーにおいて圧倒的なトップメタとなったイゼット果敢を使用して準優勝という素晴らしい成績を収めました。

呪文貫き

準決勝のトニ・ポルトラン選手とのイゼット果敢ミラーマッチにおいては、後手となった4戦目、タップイン土地が手札にあるのに、あえてアンタップインの土地を先にプレイするというシーンがありました。当然、《呪文貫き》を構えるためなのですが、先手のトニ選手は1ターン目の時点では《呪文貫き》の有無はわからないはずなのに、これをケアします。

つづく2ターン目、イアン選手がタップイン処理をしたことで《呪文貫き》を持っていることを確信し、トニ選手は4ターン目に満を持して2マナ浮きの状態で《コーリ鋼の短刀》をプレイ。これに対し、イアン選手は構わず《呪文貫き》をプレイします。トニ選手は当然、2マナを支払って《コーリ鋼の短刀》を着地させますが、イアン選手はこの状況を1ターン目から思い描いていました。

削剥ドレイクの孵卵者ドレイクトークン

マナを使いきってしまったトニ選手はつづくアクションができずにターンを返します。実質的に1ターン目から4ターン目まで、ずっと《コーリ鋼の短刀》を封じ込めることに成功しており、返ってきたターンでは《削剥》《コーリ鋼の短刀》を破壊し、圧倒的に有利なゲームへと持ち込みました。

トニ選手の手札が芳しくなかったことも影響しているとはいえ、1ターン目にアンタップインの土地を置いただけで、ここまでの展開に持ち込めるイアン選手のプレイングは天才的といえるのではないでしょうか。土地の置く順番一つで、ゲームがまったく違うものになるという好例だと思います。

そんなイアン選手ですが、直後に《ドレイクの孵卵者》の能力を相手のターン終了時に起動することを忘れ、《ドレイクトークン》で殴る回数を1回損してしまいます。天才だけど、凡ミスはする。マジックというゲームの奥深さを体現した、非常に印象的なマッチだったと思います。

試合後のインタビューでは、勝利の喜びもそこそこに、ミスプレイをした自分に対する怒りを表明しておりました。そのイアン選手が、決勝では行弘選手の勝利パフォーマンスを微笑みながら拍手で迎えるところが本当に良いシーンで、めちゃくちゃ感動的なので、ぜひ見て欲しいです。イアン選手の立ち振る舞いを。デジタルハイビジョンで。

スタンダードで好成績を収めたデッキたち

最終的な順位はドラフトの成績にも大きく左右されます。ここからは、順位に関係なくスタンダードの成績が良かったデッキもチェックしたいと思います。

勝率1位 ゴルガリルーツ

マジックの殿堂プレイヤーであり、データサイエンティストでもあるフランク・カーステン(@karsten_frank)氏が今回のプロツアーを通じて、スタンダードの各デッキが最終的に残した勝率をまとめてくださいました。

データによると、勝率61.4%でゴルガリルーツが「勝ち組デッキ」となったようです。使用者1名のオルゾフデーモンが勝率70%を記録していますが、母数が少なすぎるので今回はノーカウントとさせていただきました。

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イーライ・カシス選手、サイモン・ニールセン選手、そして我らがHareruya Prosのマッティ・クイスマ選手など、錚々たる顔ぶれ5名が使用したゴルガリルーツ。「Team Handshake Moxfield」による持ち込みデッキで、特にイゼット果敢に対して強いデッキであることがわかっています。

陰湿な根歓喜する喧嘩屋、タイヴァーベイルマークの大主

《陰湿な根》《歓喜する喧嘩屋、タイヴァー》が揃うと、植物・クリーチャー・トークンがものすごい勢いで盤面を埋め尽くします。植物たちは《歓喜する喧嘩屋、タイヴァー》の能力によって即座にマナが出せるため、一度走り出したら止まらないビッグターンを作ることが可能です。

《ベイルマークの大主》は墓地を肥やしつつ、クリーチャーだけでなく《歓喜する喧嘩屋、タイヴァー》も回収することができる便利なクリーチャーです。また、クリーチャーを回収する動きも「墓地を離れている」ため、《陰湿な根》が誘発します。

漁る軟泥浚渫機の洞察

《漁る軟泥》《浚渫機の洞察》と合わせれば、2点のライフを得ながら《陰湿な根》を誘発させるエンジンとなります。《浚渫機の洞察》が戦場に複数枚あれば獲得するライフの量も増え、フェアデッキのリーサルターンを大幅に遅らせることになるでしょう。

さらに、地上を植物たちが制圧することで飛行以外の戦闘ダメージはほとんど通らなくなる点も強力です。横並べの強いイゼット果敢に対して有利なのもうなずけますね。

精鋭射手団の目立ちたがりドレイクトークン龍を狙い撃つ者

警戒すべき飛行戦力に対しても、《龍を狙い撃つ者》というピッタリな壁が用意されていました。このデッキなら墓地のクリーチャーを何度でも戦場に呼び出すことができるため、飛行クリーチャーと相討ちした《龍を狙い撃つ者》を再び壁として出すことできます。

《機能不全ダニ》や『マジック:ザ・ギャザリング――FINAL FANTASY』で新しく加わった《町の歓迎者》も使い回すクリーチャーとして優れており、ロングゲームでも粘り強く戦うことが可能です。

メタゲームの上位3デッキに対する勝率ですが、対イゼット果敢が勝率67%、対アゾリウス全知が勝率57%、対赤単が勝率60%と驚異的なパフォーマンスを見せており、母数が少ないながらも今大会におけるベストデッキの一つとして考えられています。

もっとも、Team Handshake Moxfieldのメンバーが実力的に上位であることを考えれば、優秀な数字が出るのは当然のことです。今回のデータだけでゴルガリルーツが「勝ち組デッキ」だと断定するのは難しいのですが、「どうしてもイゼット果敢に勝てない!」という方は使ってみるのもいいかもしれません。

スタンダード9勝 アゾリウス全知

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全知アブエロの覚醒マラング川の執政

世界選手権を2度も制覇した英雄、ハビエル・ドミンゲス選手は全10回戦のスタンダードを9勝で終えました

ドラフトの成績が奮わずに惜しくもトップ16入りは逃しましたが、今大会のスタンダードラウンドでもっとも優秀な成績を収めたデッキであることは間違いありません。全体の勝率でもアゾリウス全知は53.6%と勝ち越しており、現スタンダードの有力デッキであることを証明しています。

不穏な変換第三の道の創設

《不穏な変換》の採用は目から鱗でした。勝ち手段でありながら、いざとなればクリーチャー除去としても使える斬新なカードです。これがなくても《マラング川の執政》で勝つことはできるので、ピンチのときは迷わず相手のクリーチャーを封じ込めるために使えますね。

アグロデッキが全盛の今、《第三の道の創設》よりも有効かもしれません。こういったカードを見つけて実戦で投入できるのは、さすがの一言に尽きます。

スタンダード8勝 アゾリウスコントロール

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一時的封鎖クチルの側衛跳ねる春、ベーザ

メインからイゼット果敢・アゾリウス全知・赤単をメタったアゾリウスコントロールがスタンダードで8勝という成績を残していました。使用者のミッチェル・タンブリン選手は11位に入賞しており、素晴らしいパフォーマンスを見せています。

古代魔法「アルテマ」ラグナの記憶

新カードとしてはアーティファクトを巻き込める全体除去、《古代魔法「アルテマ」》とドロースペルの《ラグナの記憶》が採用されています。

《ラグナの記憶》は軽いインスタントドローとして優秀で、諜報1が地味に良い働きをしてくれそうです。《推理》と比べると自らの《一時的封鎖》で調査・トークンを吹き飛ばす裏目がないことに加え、いざとなれば《マラング川の執政》の出来事面などで墓地に捨てたあともフラッシュバックという手段が残るのが強みですね。

アゾリウスコントロールは全体的な勝率は高くなかったものの、対イゼット果敢とのマッチアップにおいて14勝3敗、勝率82%を記録しており、かなり興味深いデッキとなっております。

調整次第では、十分に上位メタと戦えるデッキになるのではないでしょうか。

スタンダード7勝 オーバーロード

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豆の木をのぼれホーントウッドの大主永遠の策謀家、ズアー

メタゲーム的にけっして優位とはいえないランプデッキですが、リード・デューク選手がカスタマイズしたオーバーロードはスタンダード7勝という優秀な成績を収めました。

ライフを安全圏に保ったままゲームを終盤まで長引かせることができれば、オーバーロードに勝てるデッキはそうそうありません。しかし、現在のメタゲームではそれを実現するのが一苦労です。

領事の権限真昼の決闘一時的封鎖

メインから《領事の権限》2枚、《真昼の決闘》4枚、《一時的封鎖》2枚と、メタにメタを重ねてイゼット果敢・アゾリウス全知・赤単を警戒しています。

《一時的封鎖》にいたっては、せっかく出した《領事の権限》《真昼の決闘》ばかりでなく、生命線の《豆の木をのぼれ》まで吹き飛ばす可能性があり、プレイングがめちゃくちゃ難しそうなデッキです。逆にいうと、ここまでしないとオーバーロードは勝てないデッキなのかもしれません。

とはいえ、《永遠の策謀家、ズアー》が戦場に出てしまえばエンチャントがすべて有効牌となり、報われる瞬間が終盤に必ずやってきます。どうしてもランプを使いたいという方はぜひ、今回のリストを参考にしてみてはいかがでしょうか。

おわりに

迷える黒魔道士、ビビ全知叫ぶ宿敵

トップメタのデッキを使うか、それともトップメタのデッキを倒す側に回るか

マジックの競技プレイヤーは常に、デッキ選択についていろいろな考えを張り巡らせます。ただ、最終的にどんなデッキを使うことになっても、そのデッキを選ぶ明確な優位性を証明できるかどうかは重要なポイントだと思います。

「流行っているから」「勝率が高いから」「カードパワーが高いから」「自分が上手に回せるから」という理由だけでは、「次の大会でそのデッキが勝てる理由」に繋がりません。

大型大会でなかなか結果が出せないという方は、まずは「次の大会のメタゲームを正確に予想する」ということから始めてみるのもいいかもしれませんね。まぁ、なんやかんや書いてる私も、ぜっんぜんメタゲームについては外しまくっているのですが。悔しい。

そして、今週末にはスタンダードの大型大会「マジック・スポットライト:FINAL FANTASY」が開催されます。今回のプロツアーの結果を受けて、また違ったメタゲームが展開されるのではないでしょうか。

来週の「Just Nowスタンダード!」はマジック・スポットライト:FINAL FANTASYの結果を中心にお伝えしますので、お楽しみに!

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紳さん マジック愛に生きるフリーライターです。モダン、パイオニア、スタンダードでローグデッキを使い、勝利を目指す! 至って真剣勝負の毎日です。 紳さんの記事はこちら