おそらく世界中で最もプレイされているフォーマットであろうスタンダードは、一年を通して高い人気があり、いつでも多くのプレイヤーの興味を惹いています。それでも今年の春は、日頃から人気フォーマットであるスタンダードに更なる注目が集まる事になるでしょう。
それは、WMCQという世界選手権予選(World Magic Cupの代表選手決定戦)に加えて、秋口に開催されるプロツアー「テーロス」の予選大会(PTQ)がスタンダードで行われるからです。
プロツアー「ギルド門侵犯」の後も目まぐるしく動き続けた環境は、更なる転機を迎えつつあり、ジャンクリアニメイトが支配的な立場となりました。今回の記事では、現環境の姿をジャンクリアニメイトを中心に紹介し、それぞれのアーキタイプとの関係から攻略の鍵を探っていきます。
■二つのジャンクリアニメイト
まず、現在のスタンダード環境を語るにあたって避けて通れないアーキタイプがジャンクリアニメイトです。前回の記事では、これから注目すべきひとつとして紹介しましたが、今では環境をリードするアーキタイプとなっています。
それを象徴するものが3月末に開催されたオンライン最強プレイヤーを決める大会である2012 Magic Online Championshipです。16名の参加者のうち5名もがジャンクリアニメイトを選択し、決勝戦はジャンクリアニメイトのミラーで競われました。
2 《森》 2 《平地》 1 《沼》 4 《寺院の庭》 1 《神無き祭殿》 4 《草むした墓》 3 《陽花弁の木立ち》 4 《森林の墓地》 1 《ガヴォニーの居住区》 1 《大天使の霊堂》 -土地(23)- 4 《アヴァシンの巡礼者》 3 《東屋のエルフ》 2 《国境地帯のレインジャー》 3 《ケンタウルスの癒し手》 4 《修復の天使》 4 《スラーグ牙》 3 《静穏の天使》 2 《孔蹄のビヒモス》 -クリーチャー(25)- |
2 《オルゾフの魔除け》 2 《根囲い》 4 《忌まわしい回収》 4 《堀葬の儀式》 -呪文(12)- |
3 《死儀礼のシャーマン》 2 《忌まわしきものの処刑者》 4 《酸のスライム》 1 《古鱗のワーム》 2 《悲劇的な過ち》 1 《究極の価格》 1 《突然の衰微》 1 《血統の切断》 -サイドボード(15)- |
4 《森》 4 《寺院の庭》 2 《神無き祭殿》 4 《草むした墓》 4 《陽花弁の木立ち》 4 《森林の墓地》 1 《ガヴォニーの居住区》 1 《大天使の霊堂》 -土地(24)- 4 《アヴァシンの巡礼者》 3 《東屋のエルフ》 4 《ソンバーワルドの賢者》 4 《スラーグ牙》 4 《静穏の天使》 2 《孔蹄のビヒモス》 -クリーチャー(21)- |
1 《突然の衰微》 3 《根囲い》 4 《忌まわしい回収》 3 《未練ある魂》 4 《堀葬の儀式》 -呪文(15)- |
3 《死儀礼のシャーマン》 3 《ロクソドンの強打者》 3 《ロウクスの信仰癒し人》 2 《酸のスライム》 1 《孔蹄のビヒモス》 3 《突然の衰微》 -サイドボード(15)- |
これらが決勝を争った二つのレシピなのですが、よくよく見ると、ジャンクリアニメイトとは言ってもやや形が違うことがわかります。
《アヴァシンの巡礼者》
《スラーグ牙》
《静穏の天使》
《忌まわしい回収》
《堀葬の儀式》
このあたりの核はどちらにも共通していますが、その他はあまり似かよっていない構成をしているのです。
ここではButakovのものをジャンクリアニメイト、Maltekoのものをジャンクリアニメイト”特化型”(以降は”特化型”)と呼ぶことにしましょう。この細かいながらも大きな違いは、彼らが作られた背景が関係しています。
その背景とは、すなわち前回の記事のテーマとも重なるもので、「ジャンドとNaya Blitz」に対抗しようと他のアーキタイプが努力している環境です。まず、そこで構築されたものがジャンクリアニメイトでした。
・VS ジャンド
→《堀葬の儀式》や《静穏の天使》などによりゲームあたりの《スラーグ牙》の総枚数で有利に立つ。
・VS Naya Blitz
→《ケンタウルスの癒し手》《スラーグ牙》《修復の天使》などで盤面をささえ、《静穏の天使》がプレイされるまで耐えぬく。
ジャンクリアニメイトの戦略は、簡単にまとめるとこのようなアプローチです。
ジャンドにはアーキタイプの構造的に有利で、Naya Blitzなどのアグロには《ケンタウルスの癒し手》や《修復の天使》、《突然の衰微》で戦えるように作ってあります。
このように要素を挙げると理想的なアーキタイプなのですが、とある不満を二つ抱えていることが彼らの悩みの種でした。その二つの不満とは以下のものです。
(1)ミラーマッチにおける打開策が《孔蹄のビヒモス》程度しかなかったこと
(2)《ケンタウルスの癒し手》や《修復の天使》がアーキタイプ的には不必要なカードであったこと
特に(1)のミラーマッチの打開策が見つからないことは、ジャンクリアニメイトが増えつつある環境において致命的なものでした。
《スラーグ牙》を墓地から幾度も再活用するジャンクリアニメイトは、消耗戦に強く、ライフと盤面を支えきれる強固な防御が魅力です。ただ、それが相対するとそれはもう酷いゲームになります。お互いに毎ターン《スラーグ牙》を唱えあい、しばらくすると《静穏の天使》を交互に叩きつけていく、というリソースが切れることない消耗戦が始まりまるのです。
もちろんプレイヤーの技量で改善できる面は大いにあるのですが、その方法は戦略とするにはやや回りくどく、対戦相手もそれを理解しているとより都合よくカードを引いたほうが勝利するため、不毛なゲームであることには変わりませんでした。
しかし、ジャンクリアニメイトが抱えていた二つ目の不満こそが新たなアプローチを見つけ出すことになりました。
まず、ジャンクリアニメイトの内容を見渡して、最もデッキの戦略と関係のないカードを選ぶならば、それは《ケンタウルスの癒し手》でしょう。これはアグロとのマッチアップを想定すると必要なカードですが、《ケンタウルスの癒し手》自体はサイドボードカードのような存在で、ジャンクリアニメイト本来のゲームプランには必要ありません。
ジャンクリアニメイトの目指す戦略とは、あくまでも《スラーグ牙》や《静穏の天使》をより早くより多くプレイすることです。そこで《ケンタウルスの癒し手》などの主戦略とは関係のない「不純物」を抜き、ジャンクリアニメイトをより純粋な形として作り直し、ミラーマッチを「無駄な要素がない方が有利」として作られたものがジャンクリアニメイト”特化型”だったのです。
《ケンタウルスの癒し手》が抜けると、《スラーグ牙》としかシナジーがない《修復の天使》は枚数を減らし、代わりに《未練ある魂》や《ロッテスのトロール》、《ソンバーワルドの賢者》が”特化型”には採用されました。
いずれにせよ《孔蹄のビヒモス》が最高の解決策であることには変わりないのですが、それまでの過程を通常のジャンクリアニメイトより早く、よりシンプルにこなすために作りなおされているのです。
ミラーマッチを改善する方向に作られた”特化型”は、ジャンクリアニメイトに強いアーキタイプとして登場しました。ただ、この”特化型”の登場によってメタゲームの様子が段々と動き始めたのです。この先は、二つのジャンクリアニメイトを中心に、他のアーキタイプがどのように変化していったのかを見ていきましょう。
■レイヤー(1) ジャンド
前回の記事の中では、対応力の高さからフィールドからの退場は考え辛いと書いたジャンドでしたが、現在ではややその危機に瀕しています。
それは、単純にジャンクリアニメイトが増えたことと、骨子が強くなんとなく勝ててしまうという立場をなくしたことが、原因にあります。
ジャンクリアニメイトとのゲームは《スラーグ牙》の消耗戦において不利があり、そもそも彼らがジャンドを意識して数を増やしてきたアーキタイプだ、ということはこれまで話してきたとおりです。”特化型”の登場によって異なる目的に分かれつつあるジャンクリアニメイトですが、ジャンドの目線からはどちらとも変わらず厳しいマッチアップで、より戦略を絞っている”特化型”とのゲームはより厳しいものになっています。
また、ジャンドが強みとしていた「何かに特化したわけでもない漠然とした強さ」が生かしにくくなってきたこともジャンドを追い詰めています。これまでは、あらゆるアーキタイプが試行錯誤しており、それらの構成も目的も整理されきっていませんでした。
しかし最近では、時間がたったことで周囲の構成がまとまりを見せています。
これまでのジャンドの優位は前環境(GTC導入前)から存在していた分だけ構成が強いことを原動力にしていました。そのため、特に何かに特化した形のジャンドを作らずとも、ジャンドの枠を崩さない程度に流行に合わせて少し調整した形でも戦えていたのです。ただ、周囲の骨子も強まってきた現状では、構成の強みはジャンドだけのものではなくなりました。
このように未だかつてない危機にあるジャンドですが、それでもその柔軟性には可能性があり、先日のMagic Online Championshipでは前大会チャンピオンであるReid Dukeがそのひとつを手にしていました。
2 《森》 4 《血の墓所》 4 《踏み鳴らされる地》 4 《草むした墓》 3 《竜髑髏の山頂》 2 《根縛りの岩山》 4 《森林の墓地》 2 《ケッシグの狼の地》 -土地(25)- 2 《東屋のエルフ》 4 《高原の狩りの達人》 3 《オリヴィア・ヴォルダーレン》 4 《スラーグ牙》 -クリーチャー(13)- |
4 《遥か見》 2 《悲劇的な過ち》 2 《突然の衰微》 1 《殺害》 1 《戦慄掘り》 1 《ミジウムの迫撃砲》 2 《忌むべき者のかがり火》 2 《ラクドスの復活》 2 《地の封印》 3 《ヴェールのリリアナ》 2 《原初の狩人、ガラク》 -呪文(22)- |
2 《酸のスライム》 2 《悲劇的な過ち》 1 《火柱》 1 《ミジウムの迫撃砲》 2 《忌むべき者のかがり火》 3 《強迫》 2 《殺戮遊戯》 1 《ラクドスの復活》 1 《墓掘りの檻》 -サイドボード(15)- |
これまでのジャンドとあまり大きな変化はないものの、メインボードから《地の封印》を2枚採用していることが興味深いレシピです。これは《瞬唱の魔道士》とジャンクリアニメイトへのアンチカードで、キャントリップが付いているためメインボードでも邪魔にならないことが魅力です。《瞬唱の魔道士》を見かける機会は減りつつあるものの、ジャンクリアニメイトの数は増える一方なので、苦手を克服するといった意味で効果的かもしれません。
■レイヤー(2) アグロ
ジャンドと合わせて環境への参入障壁でもあったNaya Blitzでしたが、最近ではその他のアグロに席を奪われつつあります。かつてはその速度を武器にその他のアグロを環境から排除したNaya Blitzでしたが、その立場が逆転し始めているのです。
これはNaya Blitzが対応され始めたことで不利になったわけではなく、その他のアグロにとって好転する要素が環境の鍵だとして知られてきたことが発端でした。
そのひとつの要素がジャンクリアニメイトの流行です。
アグロとジャンクリアニメイトとのゲームは極端な展開になりやすく、それは以下のようなものです。
・アグロが何も行動できないジャンクリアニメイトをそのまま押し切って勝利する。
・ジャンクリアニメイトがスムースに《スラーグ牙》や《静穏の天使》を展開してアグロが負ける。
ジャンクリアニメイトに《ケンタウルスの癒し手》まで入っていると、アグロが負けるケースが少し増えるのですが、ここではそれはあまり重要ではないので省きます。要するに、お互いに干渉しないことを前提とするならば、ジャンクリアニメイト側の行動に勝敗が依存している、という一点こそが重要なのです。
ジャンクリアニメイトからアグロへの干渉は少なく、若干数の単体除去や《ケンタウルスの癒し手》程度です。時にそれらはゲームの流れを大きく変えますが、それ1枚が常に勝敗を左右するほどのインパクトはありません。
それに対してアグロ側は、より影響力の大きな選択肢を持っています。それはマナクリーチャーへの除去呪文です。ジャンクリアニメイトのマナ基盤は弱く、加えて序盤から終盤まで多くのマナを要求するため、マナクリーチャーの有無はゲームの勝敗を左右します。そのため、ジャンクリアニメイトの足を止めるには、その源であるマナクリーチャーを狙い撃つことは立派な戦術として働くのです。
このようにジャンクリアニメイト側の動きを妨害することが勝敗に関わるとなれば、自身の速度を武器にしているNaya Blitzよりも、除去呪文をある程度採用している他のアグロの方が人気を集めるのも不思議ではありません。
20 《山》 -土地(20)- 4 《流城の貴族》 4 《ラクドスの哄笑者》 1 《軍勢の忠節者》 3 《稲妻のやっかいもの》 4 《モグの下働き》 4 《炎樹族の使者》 4 《灰の盲信者》 4 《ボロスの反攻者》 -クリーチャー(28)- |
4 《火柱》 4 《灼熱の槍》 4 《火山の力》 -呪文(12)- |
4 《頭蓋割り》 3 《硫黄の流弾》 4 《炬火の炎》 4 《裏切りの血》 -サイドボード(15)- |
マナクリーチャーへの対抗といえば火力呪文。その図式で白羽の矢が立ったのが赤系アグロです。プロツアー「ギルド門侵犯」の直前はメタゲームの中心でもあった彼らは、強烈にミッドレンジからの対策を受けて退場しましたが、現在の環境では彼らを脅かしたものはジャンクリアニメイトが排除しているため、再び登場したようです。
特別に強力だというわけではないものの、色が少ないメリットを生かし切った安定性が売りのアーキタイプです。色が少ないということはショックランドの枚数が少ないということであり、アグロ同士のシビアなライフレースを優位に運ぶことができます。また、土地の枚数さえ引けばデッキが動くため、クオリティはそこそこなものの、不都合が少ないゲーム展開を期待できるのです。
9 《森》 5 《山》 4 《踏み鳴らされる地》 4 《根縛りの岩山》 -土地(22)- 4 《東屋のエルフ》 4 《円環の賢者》 4 《火打ち蹄の猪》 4 《炎樹族の使者》 3 《絡み根の霊》 3 《地獄乗り》 4 《ゴーア族の暴行者》 3 《高原の狩りの達人》 3 《ウルフィーの銀心》 -クリーチャー(32)- |
4 《灼熱の槍》 2 《ドムリ・ラーデ》 -呪文(6)- |
1 《地獄乗り》 1 《高原の狩りの達人》 2 《士気溢れる徴集兵》 3 《火柱》 3 《炬火の炎》 2 《グルールの魔除け》 3 《獰猛さの勝利》 -サイドボード(15)- |
10 《森》 4 《草むした墓》 4 《森林の墓地》 4 《ゴルガリのギルド門》 -土地(22)- 4 《東屋のエルフ》 3 《ウルヴェンワルドの足跡追い》 4 《絡み根の霊》 4 《ロッテスのトロール》 3 《ウルフィーの報復者》 4 《捕食者のウーズ》 4 《屑肉の刻み獣》 -クリーチャー(26)- |
4 《怨恨》 2 《悲劇的な過ち》 4 《突然の衰微》 2 《情け知らずのガラク》 -呪文(12)- |
1 《ウルヴェンワルドの足跡追い》 2 《死儀礼のシャーマン》 2 《悲劇的な過ち》 2 《血統の切断》 2 《獰猛さの勝利》 2 《レインジャーの悪知恵》 2 《脳食願望》 2 《トーモッドの墓所》 -サイドボード(15)- |
最近になって再注目されているのが緑系のアグロです。彼らの強みは《ドムリ・ラーデ》や《ウルヴェンワルドの足跡追い》、《情け知らずのガラク》にあります。これらはマナクリーチャーを巡る戦いにおいて強く、中盤以降も有効なカードかつパーマネントであるため、使い切りの除去呪文ほどチープな小回りがきかなくとも、《スラーグ牙》が登場した後のゲームでも活躍の機会が残されていることが魅力です。
■レイヤー(3) 新興勢力
ここまで紹介した二つの関係性が環境の肝とも言える部分ですが、ここ数週間の間に環境の中心だけでなく、取り巻く周囲のアーキタイプにも変化がありました。ジャンクリアニメイトやジャンド、アグロのような、これまでの主要の登場人物にはなかった魅力こそが彼らの武器です。
興味深いことに彼らはジャンクリアニメイトとのゲームは想定しているものの、そのゲームを有利に進めようとはあまり考えていません。むしろ、ジャンクリアニメイトの流行をきっかけに変化したその他のアーキタイプを目標としているのです。これまでの二つのレイヤーはジャンクリアニメイトと直接的に関係性があったものの、最後に紹介するこの三つ目はこれまでとはやや毛色が違うものになっています。
2 《森》 4 《踏み鳴らされる地》 4 《寺院の庭》 2 《聖なる鋳造所》 4 《根縛りの岩山》 1 《陽花弁の木立ち》 2 《断崖の避難所》 2 《魂の洞窟》 2 《ガヴォニーの居住区》 -土地(23)- 4 《アヴァシンの巡礼者》 3 《軽蔑された村人》 4 《ロクソドンの強打者》 4 《修復の天使》 4 《雷口のヘルカイト》 4 《スラーグ牙》 2 《戦導者オレリア》 -クリーチャー(25)- |
4 《遥か見》 3 《ミジウムの迫撃砲》 2 《セレズニアの魔除け》 1 《ドムリ・ラーデ》 2 《情け知らずのガラク》 -呪文(12)- |
2 《ケンタウルスの癒し手》 2 《セレズニアの声、トロスターニ》 1 《酸のスライム》 1 《静穏の天使》 2 《ボロスの魔除け》 2 《忌むべき者のかがり火》 3 《安らかなる眠り》 1 《獰猛さの勝利》 1 《ドムリ・ラーデ》 -サイドボード(15)- |
プロツアー「ギルド門侵犯」の前にはよく目にしたアーキタイプのひとつだったNaya Midrangeも、最近ではやや物珍しいデッキとなっていました。それは彼らが得意とする赤系アグロの数が減ってしまっていたことが理由のひとつです。
しかし、ここにきて赤系アグロの人気が再燃してきたため、彼らを仮想敵にしたNaya Midrangeも新たな工夫とともに再登場となったのです。その工夫とは、大量に採用された《雷口のヘルカイト》です。
ジャンクリアニメイトや緑系Midrangeを代表する《スラーグ牙》は地上戦をひどく不毛な状況に変えることが魅力であるとともに厄介に思うカードです。それはジャンクリアニメイトのミラーマッチを例にするように、お互いに《スラーグ牙》の枚数を競うようなゲームへと進んでいくため、その他の地上クリーチャーというものの価値を著しく下げてしまうからです。
それら地上戦力の価値が低減することも目的にするジャンクリアニメイトはともかく、ゲームが長引いてもあまり優位がないNaya Midrangeは、《スラーグ牙》によって混雑する地上戦を否定するアイデアを必要としていました。
そして、そのアイデアこそが《雷口のヘルカイト》です。”特化型”に多く採用されている《未練ある魂》への強力なアンチであるとともに、純粋に優秀なクリーチャーである《雷口のヘルカイト》は、《スラーグ牙》を飛び越え、《静穏の天使》のブロックも許しません。
さらに、注目の《雷口のヘルカイト》を筆頭に、ジャンクリアニメイトの主要クリーチャーも含めた「パワー5以上のクリーチャー」は現環境のキーワードでもあります。そしてそれらに対するアンチカードである《セレズニアの魔除け》を無理なく採用できることもNaya Midrangeのもつ魅力です。
4 《神聖なる泉》 4 《蒸気孔》 3 《聖なる鋳造所》 4 《氷河の城砦》 4 《硫黄の滝》 4 《断崖の避難所》 1 《ムーアランドの憑依地》 1 《処刑者の要塞》 -土地(25)- 3 《瞬唱の魔道士》 4 《イゼットの静電術師》 4 《ボロスの反攻者》 4 《修復の天使》 -クリーチャー(15)- |
2 《思考掃き》 2 《熟慮》 3 《スフィンクスの啓示》 3 《灼熱の槍》 2 《ミジウムの迫撃砲》 1 《収穫の火》 4 《アゾリウスの魔除け》 1 《イゼットの魔除け》 1 《本質の散乱》 1 《対抗変転》 -呪文(20)- |
1 《クローン》 1 《拘留の宝球》 2 《至高の評決》 2 《払拭》 2 《対抗変転》 2 《記憶の熟達者、ジェイス》 3 《トーモッドの墓所》 2 《魔女封じの宝珠》 -サイドボード(15)- |
Naya Midrangeにひき続いてまた珍しく思えるものが、Trico Midrangeです。これもNaya Midrangeと同じく、赤系アグロへの強さが魅力のアーキタイプでした。赤系アグロが減ると共に苦手なジャンドが増えていったため、環境で段々と立場をなくしていったのですが、Naya Midrangeの復活とともに最近では再び注目を集めています。
上のレシピは僕が特に気に入ったもので、実際に流行しつつあるものはGerry Thompsonが制作した《戦導者オレリア》が2枚採用された構成だったりします。今回、そちらではなくこのSyrup16gのものを採り上げたのは、彼が《イゼットの静電術師》を選択していたからです。この0/3のピンガーは、赤系アグロへの強さを高めつつ、環境にはびこるマナクリーチャーへの素晴らしい回答となります。ジャンクリアニメイトには中盤における消耗戦では不利であるものの、彼らの《未練ある魂》や《アヴァシンの巡礼者》をシャットアウトする《イゼットの静電術師》は頼もしい限りです。
《雷口のヘルカイト》やサイドボードの《聖トラフトの霊》の有無、《スフィンクスの啓示》の枚数などには検討の余地がありますが、それを含めても素晴らしいデッキです。ジャンドが減りつつある今こそがチャンスで、これからの数週間で最も伸びるアーキタイプかもしれません。
1 《血の墓所》 4 《踏み鳴らされる地》 4 《寺院の庭》 2 《草むした墓》 2 《聖なる鋳造所》 4 《根縛りの岩山》 2 《陽花弁の木立ち》 3 《断崖の避難所》 2 《ケッシグの狼の地》 -土地(24)- 4 《アヴァシンの巡礼者》 4 《ボロスの反攻者》 4 《修復の天使》 2 《オリヴィア・ヴォルダーレン》 4 《高原の狩りの達人》 2 《雷口のヘルカイト》 4 《スラーグ牙》 2 《戦導者オレリア》 -クリーチャー(26)- |
4 《遥か見》 4 《ミジウムの迫撃砲》 2 《原初の狩人、ガラク》 -呪文(10)- |
2 《ケンタウルスの癒し手》 1 《オリヴィア・ヴォルダーレン》 2 《血統の切断》 3 《忌むべき者のかがり火》 2 《殺戮遊戯》 3 《安らかなる眠り》 2 《軍勢の集結》 -サイドボード(15)- |
これはこれまで紹介したNaya Midrangeともジャンドとも似ている構成をしたデッキですが、環境が要求するあらゆる条件にうまくカードの枚数を調整して応えた素晴らしいバランスをしています。
思いつくようでなかなか形にならない部分を器用にまとめているのです。デッキの骨子である4枚採用されているカードは当然なのですが、その横を支えている《オリヴィア・ヴォルダーレン》、《雷口のヘルカイト》は的確な選択で、それらがサイドボード後に異なるマッチアップで活躍するカードと綺麗にスイッチするように作られています。《原初の狩人、ガラク》がやや中途半端なことや、アグロとのゲームがダイスロールに勝敗が左右されそうなこと、不安定なマナベースには不満が残るものの、サイドボードも含めたデッキ全体のバランスだけで一度は使ってみる価値があるでしょう。
■レイヤーを重ねた環境のまとめ
ここまではジャンクリアニメイトを中心にメタゲームの登場人物を紹介してきました。三つのレイヤーで彼らとジャンクリアニメイトの関係を見てきましたが、ここでは最後のまとめとしてそれらを重ね、あらためて今の環境の形を確認してみましょう。
[一]ジャンクリアニメイトの登場でジャンドが数を減らす。
[二]ジャンクリアニメイト同型戦を見据えた”特化型”の登場。
[三]マナクリーチャー系に強いアグロの登場。
[四]アグロに強い新興勢力であるミッドレンジの再登場。
これが現在のメタゲームの移り変わりです。ここから先の展開はジャンクリアニメイトの反応にもよりますが、現状はジャンクリアニメイトを中心に、”特化型”、アグロ、ミッドレンジによる綺麗な三つ巴ができているため、しばらくは現状が維持されそうです。
■注目のアプローチ
最後に今の環境ならではの注目のカードをピックアップしていきます。これからの環境の攻略の手助けにどうぞ。
・《ドムリ・ラーデ》&《情け知らずのガラク》
この2種類の緑のプレインズウォーカーは、マナクリーチャーを使用したデッキ同士の戦いで強力です。どちらの格闘能力も小さなクリーチャーを除去する場合には枚数のアドバンテージを得られることが多く、その対象がマナクリーチャーであった場合には、加えて時間のアドバンテージも得ることができるからです。
自分の手番によって効果にはややムラがあるものの、どちらも先手番でプレイできたときの優位は大きなものです。また、《情け知らずのガラク》なら後手でもぎりぎり間に合い、《ドムリ・ラーデ》は中盤以降の消耗戦のために温存する選択肢もあるため、先手時の強さには霞みますが、安定した活躍が期待できるでしょう。
・《死の支配の呪い》&《イゼットの静電術師》
タフネス1をとことん咎める2枚です。どちらも既に活躍した時代があったカードですが、あらためて彼らの活躍の舞台が整いつつあります。《イゼットの静電術師》に関してはTrico Midrangeのくだりで若干の説明をしましたが、《死の支配の呪い》はすこし珍しく思えるかもしれません。
これは5マナと重いアクションながら、ジャンクリアニメイトに対してとても有効なカードです。《未練ある魂》やマナクリーチャーを一掃できるため、《孔蹄のビヒモス》での突然死を牽制するとともに、《スラーグ牙》による消耗戦を有利に運ぶことができます。5マナの受動的なカードを許せるアーキタイプにしか投入されないものの、《未練ある魂》によるじわじわと広がるプレッシャーが厳しい、エスパーコントロールやジャンドなどでは重宝されるでしょう。
・《雷口のヘルカイト》
本文中でも詳しく紹介しましたが、《スラーグ牙》だらけの地上戦を嫌ってゲームを進めるためには大型の飛行クリーチャーが必要になります。そして、その候補のなかでもっとも強力な1枚がこの《雷口のヘルカイト》です。速攻持ちのパワー5はすみやかにゲームを終わらせることができますし、これまで《ファルケンラスの貴種》を悩ませていた《未練ある魂》のブロックさえも許しません。
ミッドレンジが流行した去年の冬のように、《ファルケンラスの貴種》からの《雷口のヘルカイト》といった懐かしいホットラインもまた見かける日は近いのかもしれません。
それでは今回の記事はここで筆を置きたいと思います。WMCQやPTQといったイベントが目白押しのスタンダード環境を乗り切っていきましょう。