Rush Met a WMCQ vol.7.5

高橋 純也

高橋 純也


 今回のお話はこれまでの連載の内容とはやや違う風味となっています。

 これまで数回のおおまかな記事の内容は「現在の環境がどのように動いているのか」を様々な要素から解説していくというものでした。そのために焦点は環境の姿にあり、特定のアーキタイプについての詳しい解説や調整録のような内容とは離れたものだったのですが、今回は少しだけ特定のアーキタイプについて踏み込んで話していくことにします。

 それはBant Hexproofについてです。

 これは先日のWMCQ東京予選にて僕がお供にし、幸運が重なったことで優勝まで漕ぎ着いた思い出深いアーキタイプです。そこで今回は折角の機会ということで、僕がBant Heproofを使うと決めた理由や、それに至るまでの調整録を中心に紹介していきたいと思います。

 大会当日のトーナメントレポートを期待している読者の方には申し訳ないのですが、今回の記事ではそこに触れるつもりはありません。あくまでも僕が会場にたどり着くまで、前日に渡辺雄也にカードを用意してもらうまでの内容となります。

 それではまずBant Hexproofというアーキタイプについての解説を語り始めとします。



■Bant Hexproofというアーキタイプ

 スタンダード環境にBant Hexproofが現れたのはRTR(ラヴニカへの回帰)発売直後でしたが、実際にトーナメントシーズンで十分な戦績を残したのは、メタゲームがある程度落ち付いた冬のGPアトランティックシティーでした。突如として現れた(ように見えた)Bant Hexproofはその大規模なグランプリを優勝と準優勝で終え、一躍時のアーキタイプとして騒がれました。
 
 

Jon Stern 「Bant Hexproof」 Grand Prix Atlantic City 2013 (1位)

4 《森/Forest
1 《島/Island》
4 《神聖なる泉》
4 《寺院の庭》
1 《氷河の城砦》
2 《陽花弁の木立ち》
4 《内陸の湾港》
3 《魂の洞窟》

-土地(23)-

4 《アヴァシンの巡礼者》
4 《不可視の忍び寄り》
3 《銀刃の聖騎士》
4 《聖トラフトの霊》

-クリーチャー(15)-
4 《豊かな成長》
4 《怨恨》
4 《天上の鎧》
4 《幽体の飛行》
4 《セレズニアの魔除け》
2 《高まる残虐性》

-呪文(22)-
3 《近野の巡礼者》
2 《ロクソドンの強打者》
1 《天使の監視者》
3 《安らかなる眠り》
2 《金輪際》
2 《戦慄の感覚》
1 《否認/Negate(M12)》
1 《根生まれの防衛》

-サイドボード(15)-
hareruya


聖トラフトの霊

 この骨子となる部分は以下の4種類のカードです。

《聖トラフトの霊》

《不可視の忍び寄り》

《怨恨》

《天上の鎧》

 これはBant Hexproofというアーキタイプの由来となる2種類の呪禁クリーチャーに、優秀な強化型エンチャントをぺたぺたと貼り付けていくことを主な戦略としています。

 アトランティックシティーの時点では、《不可視の忍び寄り》《銀刃の聖騎士》のペアが過大に評価されていたり、キープする基準となるカードが少なかったり、マナベースに不安があったり(《繁殖池》がまだ使用できなかった)と、不安な点がそこそこありました。

 それでも、火力呪文が飛び交っていた当時の環境では、単体除去に強い呪禁を鍵とした戦略というだけで優位があったのでした。《ヴェールのリリアナ》などの呪禁の天敵が見られず、赤系アグロか、それを対策した中速デッキにあふれた当時のフィールドは、Bant Hexproofにとって理想的な環境だったのです。

 その後は《ヴェールのリリアナ》がメジャーになったことや、GTC(ギルド門侵犯)が導入されたことで環境が一新されたため、環境からフェードアウトしましたが、赤系アグロと中速に強いというキャラクターはとても魅力的で、一度はメタゲームからは退場したものの、再び活躍する機会が回ってくることが期待されるアーキタイプであったことは確かです。

 それを示すように、僕がvol.6においてBant Hexproofのサンプルを紹介した前後で、アメリカの著名なデッキビルダーであるGerry ThompsonもBant Hexproofを公開していました。ただ、その形は僕のものとは大きく違い、鋭く綺麗な構成となっています。



Gerry Thompson 「Bant Hexproof – Gerry型」

4 《神聖なる泉》
4 《寺院の庭》
3 《繁殖池》
2 《草むした墓》
2 《氷河の城砦》
4 《陽花弁の木立ち》
3 《内陸の湾港》

-土地(22)-

4 《アヴァシンの巡礼者》
4 《剣術の名手》
4 《不可視の忍び寄り》
2 《銀刃の聖騎士》
4 《聖トラフトの霊》

-クリーチャー(18)-
4 《豊かな成長》
4 《怨恨》
4 《天上の鎧》
3 《幽体の飛行》
2 《オルゾヴァの贈り物》
3 《シミックの魔除け》

-呪文(20)-
4 《絡み根の霊》
2 《鷺群れのシガルダ》
4 《地の封印/Ground Seal(ODY)》
2 《オルゾヴァの贈り物》
3 《根生まれの防衛》

-サイドボード(15)-
hareruya



オルゾヴァの贈り物繁殖池シミックの魔除け



 GTCから得た《オルゾヴァの贈り物》《繁殖池》《シミックの魔除け》がアトランティックシティーからの変更点で、サイドボードまで含めて「このアーキタイプが何をしたいのか」がはっきりと伝わってくる整った構成となっています。

 このレシピはGerryが公開したということもあってMagic Online上でちょっとした流行を見せました。赤系アグロがジャンクリアニメートを攻撃している環境の中で、そのどちらにも強いことが魅力だったのです。まるでGPアトランティックシティーの頃を再現したようなメタゲームの中で、約束されたような活躍の舞台を予定通りに淡々とこなす日々が始まりました。



■Bant Hexproofのバリエーション

 この後の1週間ほどでOnlineにおけるBant Hexproofの研究はかなり進みました。その焦点は「1ターン目の挙動の強さ」「後手番のイニシアチブを奪う手段」「初手のキープ基準の枚数」の3つに絞られ、それぞれのポイントにおいての改善が目指されました。

 その前提となるレシピは前節で紹介したGerry型で、そこからの純粋な派生ではないものの、Gerry型では満足できない点を改善するために様々な形がテストされたといった流れです。それらのアプローチを解説する前に、まずは3つの論点についての簡単な説明をします。


・「1ターン目の挙動の強さ」
 Gerry型でもJon Sternのレシピでもいいのですが、このBant Hexproofにおける1ターン目のアクションは現環境において最弱の部類に当たります。その選択肢は二つで、《豊かな成長》《アヴァシンの巡礼者》なのですが、《アヴァシンの巡礼者》はともかく、《豊かな成長》は1ターン目にショックランドをアンタップインするリスクに見合った効果が期待できません。

 しかも《豊かな成長》は1ターン目を過ぎるとプレイするタイミングが限られ、《天上の鎧》の修正値を上げるためとはいえ、1ターン目にプレイしても嬉しくもなんともない呪文の価値はどこにあるのだろうという純粋な疑問があったのでした。

 こうなると1ターン目の最高の挙動がデッキに4枚の《アヴァシンの巡礼者》で、次なる選択肢はショックランドをタップインすることになるわけです。高速化する環境の中で、この脆弱な行動は問題じゃないかと論点に挙げられました。


・「後手番のイニシアチブを奪う手段」
 これはBant Hexproofというアーキタイプそのものの構造的な欠陥だといえる部分です。クリーチャーを場に出して、そこに大量のエンチャントを張り付けていくこのアーキタイプには、基本的にはクリーチャーと強化エンチャントと土地しか構成パーツがありません。そのため、妨害行動や防御的なアクションは限りなく削られており、すなわち先手番でも後手番でも同様に愚直に殴り合いを挑むしか選択肢がないのです。

 GTCからは《オルゾヴァの贈り物》が採用され、絆魂によるライフレースが簡単になったことは朗報でした。しかし、GTC後では周囲のアグロの攻撃力も上がっており、アトランティックシティーの時点では存在しなかった環境最強の矛であるNaya Blitzには安心できるほどの効果はありません。

 そのため、殴り合いではないゲームプランか、先手と後手を入れ替える手段がデッキには求められました。攻防一体が望ましく、もしくは圧倒的な攻撃手段があればいいのではないかと様々な手段が検討されました。


・「初手のキープ基準の枚数」
 アーキタイプにはそれぞれの戦略面を鑑みた初手をキープする基準が存在します。このBant Hexproofであれば強化するエンチャントをつける先であるクリーチャーがその基準となることでしょう。しかし、Jon Sternのレシピには《不可視の忍び寄り》《聖トラフトの霊》の2種類が主だったもので、Gerry型にいたってもその2種類に《剣術の名手》を加えた3種類12枚がその基準点となります。

 これらのうちの1枚が含まれていればプレイできると思えば悪くない数字が期待できるのですが、3色の不安定なマナベース、強化エンチャントの枚数、といった条件がその数字をグングンと脅かすこととなります。

 また、クリーチャーが多ければ多いほどキープできるわけではないということも問題を複雑にしています。

 それは手札にクリーチャーが山ほどあっても強化エンチャントがなければ、ただの性能の悪いアグロに成り下がってしまうからです。1~2枚のクリーチャーに大量の強化エンチャントを貼り付けていくのが目的なので、最低限のクリーチャーと最低限の土地が初手にあることが理想となります。ただ、その方向性はキープする基準の枚数を自分から制限していくことにほかならないため、マリガンする機会を自ら増やすことにつながるのです。

 多すぎてもダメ、少なすぎてもダメ。コンボチックなアグロ(感染デッキとか)に多い悩みですが、Bant Hexproofも同様の悩みを抱えているのでした。


 これらがBant Hexproofが調整される間に意識された論点となります。そしてこの論点に対してそれぞれが答えを出して形を見せたものがGerry型を除いた以下の3つのバリエーションです。

(一)Savage型
(二)Human型
(三)Anti Aggro型


 続いてはこの3つのバリエーションに関しての簡単な説明を、上に挙げた論点を中心に展開します。



(一)Savage型
 このパターン名の由来となっている《高まる残虐性》を鍵にしたものです。




「1ターン目の挙動の強さ」☆☆☆☆
《東屋のエルフ》を採用することで《アヴァシンの巡礼者》の枚数を擬似的に増やしている。

「後手番のイニシアチブを奪う手段」☆☆
《高まる残虐性》で攻撃力を高めている。

「初手のキープ基準の枚数」☆☆☆☆
《東屋のエルフ》によってコンセプトが少し変化し、マナクリーチャー自体がキープする基準に加わってマリガンは減っている。

 《東屋のエルフ》を採用してことで2つの論点が解消されたように見えますが、実際の勝率という話をするとGerry型よりも悪化しています。それはマナクリーチャーによる恩恵(早いターンに大量のマナを使用できる)を活かせるアーキタイプではないからです。最高マナ域が3マナで、それ以上のマナは全て過剰になってしまうBant Hexproofにおいてマナクリーチャーは実質的に2ターン目までしか価値がなく、1ターン目にはアクションできるし初手もキープできるけれど、構成自体はチグハグを極めた物となってしまったのでした。

 もちろん2ターン目に《聖トラフトの霊》を展開できることは増えたものの、それと同じ程度にフラッドして敗北する機会もあり(最高マナ域が3マナなのにマナソースは30枚以上!!)、《高まる残虐性》を使えること以外に目立ったメリットのないパターンとなってしまいました。



(二)Human型
 《教区の勇者》《剣術の名手》《ウルヴェンワルドの足跡追い》といった人間クリーチャーを採用したマイナーパターン。




「1ターン目の挙動の強さ」☆☆☆☆
《教区の勇者》というセカンドベストの発掘によって、ゲームプランとアクション共に1ターン目が大きく改善された。

「後手番のイニシアチブを奪う手段」☆☆☆
→クリーチャーの総数が増えたことで展開負けすることは減ったが、先手後手をひっくり返すには至らない。

「初手のキープ基準の枚数」☆☆☆☆
《教区の勇者》のおかげでマリガンが減っている。

 《アヴァシンの巡礼者》《剣術の名手》《不可視の忍び寄り》《銀刃の聖騎士》といったBant Hexproofのクリーチャータイプが人間であることに注目して試作されたものです。《教区の勇者》が育ちやすく、それで攻撃していく戦略も期待できるパターンとなっています。

 一見するとコンセプトとしては強化されているように見えるものの、そもそものBant Hexproofがもつ「少数枚のクリーチャーに大量の強化エンチャント」の図式とは大きく反するコンセプトとなっており、実は構成上で破綻しているパターンだったりもします。これもGerry型における問題点を解消しようと躍起になった結果、そもそもの強みを消す方向性に進んでしまったのでした。

 《教区の勇者》を育てたいのならばNaya Blitzを使えばよく、中途半端にハイブリッドできそうなシナジーを取り入れようとすると全てが破綻するといったいい例だと言えます。



(三)Anti Aggro型
 《絡み根の霊》《ロクソドンの強打者》といったアグロに強いクリーチャーを採用したパターン。




「1ターン目の挙動の強さ」☆☆
→特に改善点はなし。アーキタイプの構造上の問題点として放置。

「後手番のイニシアチブを奪う手段」☆☆☆☆
《絡み根の霊》《ロクソドンの強打者》はどちらもアグロに対して先手と後手を入れ替える期待を持てる。

「初手のキープ基準の枚数」☆☆☆
《ロクソドンの強打者》が重いものの多くのマッチアップを支える優秀なキープ基準となっている。

 3つの論点のそれぞれについて部分的に対応するとアーキタイプの構造的に破綻することは明らかで、その論点の目的に着目したものがこのAnti Aggro型です。「1ターン目の挙動の強さ」や「後手番のイニシアチブを奪う手段」の内容は、アグロを比較対象としており、そもそもアグロを意識した構成をすれば問題点自体がなくなると考えられました。

 また、Savage型やHuman型とは違い、工夫として取り入れたカードはグッドスタッフのたぐいのもので、ゲームのいついかなる段階で引いても期待できるものであり、他のカードとの組み合わせがなくとも単体として働くことが魅力です。

 ただ、《絡み根の霊》《ロクソドンの強打者》は良くも悪くも活躍の振れ幅が小さいカードであるため、Gerry型と比較するとマイルドな作りとなっていることは問題です。これは一概に悪いこととも言えないことなのですが、Gerry型がリスクを選好し、Anti Aggro型がリスクを避ける風味を持っていることが関係しています。Gerry型には「相手の動きは無視して自分ができることだけする」という開き直りがある分だけ攻撃に特化しており、Anti Aggro型はAggroに配慮している分だけ攻撃面でのロスが生まれるからです。

 これを良しとするかはプレイヤー次第ですが、僕にはAnti Aggro型のほうが魅力的に感じられました。それはアーキタイプの存在意義に関係したもので、Bant Hexproofは環境最速を目指したものではなく、『アグロとジャンクリアニメートに強い』ことを武器にしたものだったからです。そのため、構造上の有利があるジャンクリアニメートはともかく、GTC後に強化されているアグロへの勝率を高めない理由はないと考えたからです。


 調整する過程において、問題点を解消しようと動き続けることは大切ですが、そもそもの強みを見失ってしまうことは珍しくありません。何のためにそのアーキタイプを使用しようとしているのか、その目的意識こそが重要であり、目的を達成できそうに無ければよりその目的に近い別のアーキタイプを使用すればいいだけです。何にでも勝てる最高のアーキタイプ。そんなものをどうしても目指しがちですが、DelverやCascade Jund、Caw Bladeといったオールマイティは滅多になく、多くはある程度の限界を持っています。その限界を超えるとアーキタイプは破綻してしまい、そもそもの目的に反したものになってしまいがちです。

 そのぎりぎりの臨界点を目指すことこそがデッキの調整であり、彼らが最もパフォーマンスを発揮できる環境を認識することこそがプレイヤーに求められている技術でしょう。時には見切ることがデッキの調整における最高の選択でもあるのです。

 こうしたしばらくの調整の後にGerry型とAnti Aggro型以外には存在しなくなったBant Hexproofでしたが、僕がWMCQ東京予選においてお供に選んだものはAnti Aggro型の派生でした。



Takahashi Junya 「Bant Hexproof – Rush型」
World Magic Cup Qualifier – Tokyo (優勝)

4 《神聖なる泉》
4 《寺院の庭》
4 《繁殖池》
1 《草むした墓》
2 《氷河の城砦》
4 《陽花弁の木立ち》
3 《内陸の湾港》

-土地(22)-

4 《アヴァシンの巡礼者》
2 《剣術の名手》
4 《不可視の忍び寄り》
2 《銀刃の聖騎士》
4 《ロクソドンの強打者》
4 《聖トラフトの霊》

-クリーチャー(20)-
4 《怨恨》
4 《天上の鎧》
4 《幽体の飛行》
4 《オルゾヴァの贈り物》
2 《シミックの魔除け》

-呪文(18)-
3 《近野の巡礼者》
3 《地の封印》
2 《平和な心》
3 《金輪際》
2 《信仰の盾》
2 《戦慄の感覚》

-サイドボード(15)-
hareruya


 vol.6で紹介したサンプルレシピからは数枚しか変更していませんが、メインボードについてはかなり満足の行く内容となっています。

 Anti Aggro型の派生といっても《絡み根の霊》がデッキから抜けていますが、これは前日に行われたPTQテーロス東京予選の模様を友人の井川から聞いた結果変更した部分です。とにかくジャンクリアニメートが多い、とのことだったため、他の中速やアグロに特化した《絡み根の霊》はよりジャンクリアニメートに有効なカードへと変更しました。

 サイドボードにも姿が見えないのは、《絡み根の霊》がサイドボードから採用するカードとしてはやや力不足だということが理由です。よりアグロに強力なカードは他にありますし、実際にサイドボードに採用すると、ジャンクリアニメート以外のマッチではほぼすべてサイドインすることになるため、そもそもの構築ミスになりかねないことを怖がった結果でもあります。


濃霧


 その他の珍しい変更としては《濃霧》を採用していないことです。今ではBant Hexproofの定番サイドボードである《濃霧》はNaya Blitzへの強力なアンチカードです。しかし、その一方でBlitz以外のアグロには他のカードの方が効果的なので、WMCQでは様々なアグロとのマッチアップを想定して《濃霧》を諦めることにしました。ただこの変更はかなり後悔しており、せめて1枚でもいいから《濃霧》は残すべきでした。

 Onlineの練習で使用していたレシピではメインボードの《絡み根の霊》の他にはサイドボードが若干違い、それは以下の様な内容でした。





 大きくは変わらないのですが、Naya Blitzとのマッチアップをどの程度想定するのかで構成は少しばかりの変化があると思います。仮にコピーして調整しようという方がいればサイドボードはこの形を使ってみることをお勧めします。

 また、これは癖の強い構成となっているため、Bant Hexproof自体に慣れていないプレイヤーは、まずはGerry型を触り始めてください。僕が使用した形はマリガン判断とサイドボーディングがとてもシビアで、おそらく慣れるまでは「何この弱いデッキ?」って感想が出てくるかと思います。それに対してGerry型はとてもシンプルに作られているため、素直にプレイしても難しく考えても多くのシチュエーションで同じ選択肢がベストになるので気軽にプレイできてお勧めです。



■Bant Hexproofという選択

 ここまでの内容はBant Hexproofの調整過程でした。まずはアーキタイプのもつ問題点を整理し、それが持つ強みを消さない範囲で、問題点の解決に様々なパターンから取り組んでいきました。そして、幸いにもBant Hexproofのメタゲーム上の役割(『アグロとジャンクリアニメートに強い』)がはっきりとしていたため、迷走もせずに自分が思うよりよい構成までスムースに辿りついたのです。

 しかし、僕がWMCQというトーナメントに参加するにあたって、前々からBant Hexproofのみを調整していたかというと、そうではありませんでした。実際にBant Hexproofを使用することに決めたのは、前日に耳にしたPTQのメタゲーム(WMCQの前日にはPTQが開催されていた)についての詳細な情報をもとに判断した後だったのです。

 それまではGruul MidrangeかRakdos MidrangeかBant Hexproofの3種類のうちのいずれかで参加しようと考えていました。


Gruul Midrange:
→不利なマッチアップが少なく、偏りの少ないメタゲームでは最適の選択。

Rakdos Midrange:
→Aggroに弱いという欠点はあるものの、ジャンクリアニメートを筆頭としたすべてのMidrange以降のアーキタイプに強い。

Bant Hexproof:
→Aggroとジャンクリアニメートには強いものの、特定のカードを弱点としている(《忌むべき者のかがり火》《ヴェールのリリアナ》《肉貪り》)ことが玉に瑕。


 このように3つそれぞれのアーキタイプの持つ強みと弱みが違うことを利用して、「会場のデッキ分布」に応じて最適なものを選択するという方式です。ただ、この方法は柔軟な選択ができるものの、「会場のデッキ分布」という情報そのものの確度が怪しいことから正確にアジャストできるかというと疑わしいものです。

 ところが、今回は井川からの情報と、happymtgに掲載されていたPTQのブレイクダウンをもとに、ある程度正確な予想を立てることができました。そして、そこから3つの選択肢を絞る作業にとりかかりました。

参考資料:プロツアーテーロス予選大会 デッキブレイクダウン

 一見してジャンクリアニメートとトリコロール、ジャンドの数が多く見える中速過多のメタゲームです。エスパーやバントなどの遅いコントロールは当然のごとく少数派で、アグロは分類が細かいことから少なく見えますが、実際に数えてみると90以上ものプレイヤーが使用している大きな勢力だということが分かりました。

 Midrange>=Aggro>>Control

が基本的な構図で、そのMidrangeの中ではジャンクリアニメートが半分程を占めている状況のようです。

 実はこの段階でGruul Midrangeは候補から外れることになりました。コントロールの数がもう少し多ければ喜んで選択するのですが、会場はAggroとMidrangeに偏った状況なので、わざわざ何にでも安定した勝率のあるGruul Midrangeを使う理由は少ないと考えたからです。

 Rakdos MidrangeかBant Hexproofか。この2つに選択肢は絞られました。

 すべてのMidrangeに有利であるRakdos Midrangeはこのブレイクダウンを見る限りでは最良の選択のひとつであることは明らかです。苦手なAggroも多いものの、明確に不利なNaya Blitzの数は少なめで、代わりにやや遅めのAggroに数が割り振られている状況はそれほど悪いものではありません。

 しかし、このWMCQというトーナメントのプライズ形式がRakdos Midrangeを最終的な選択肢から振るい落とすことになりました。

 誰もがトーナメントに参加するときには優勝を目指して戦うものですが、現実的には「自分が勝利したと感じられるライン」を目指していることが多いのではないでしょうか。それがX-2という戦績だったり、初日抜け、賞金圏内、一定のプロポイントが得られるスコアなど、人それぞれに目標や達成感があるかと思われます。そして、MTGのトーナメントには優勝者に大きすぎるプライズが与えられる形式が存在するのです。

 PTQやGPTが最も身近な例で、準優勝者が誰よりも悔しがるようなトーナメントがそれに当たります。基本的にはWinner Takes Allの方式で、他のプレイヤーにも僅かなプライズが配られますが、優勝者のプライズと比較すると規模が違う、といったものです。

 そして、WMCQもその類の、一人の優勝者を決めるトーナメント形式でした。もちろん、参加する目的や目標は人それぞれなのですが、客観的というか形式的にはそのような方式だったということです。なんにせよ僕の目標は、多くのプレイヤーと同様に、優勝だけでした。

 ここでRakdos Midrangeを諦めた理由に戻るのですが、それは、Rakdos Midrangeが優勝できるアーキタイプではなかったことにあります。優勝するためには8人のプレーオフを3連勝する必要があり、自分が予選のスイスラウンドを突破する他に、予選ラウンドを突破してくる他のプレイヤーのアーキタイプにも有利であることが選択する条件にあるからです。これはどうしても予想の範囲にはなってしまうのですが、簡単な条件まではプレーオフの状況を想像することができます。

 僕が想定したプレーオフの状況は以下です。


1、ジャンクリアニメートが多数派ということはない。
2、半分以上がAggroで占められる。
3、Controlが残ることはない。



 簡単にまとめると、フィールドの最大手がそのまま勝ち抜く状況と、最大手が負けに回る状況があり、今回は明らかに後者となる分かりやすい分布だったからです。

 僕が想定したプレーオフはAggroの数が最も多く、Midrangeが少ないというものでした。この状況はRakdos Midrangeにとっては都合が悪く、3マッチ全てを勝利することは期待できません。予選のスイスラウンドのX-2以上には平等なプライズが配分されるようなトーナメントであれば、間違いなくRakdos Midrangeを選択しましたが、優勝だけを目指すためにはとても選ぶことができませんでした。

 こうして消去法的にもBant Hexproofが残ってしまったのですが、Bant Hexproofにとっての問題は特定のキラーカードの存在しかないため、今回のブレイクダウンからはジャンド以外に懸念すべき主要のアーキタイプはなく、喜んで使うことを決めることができました。また、Aggroとのマッチアップに不満がないパターンを使うと決めていたことから、プレーオフ後のAggroとのマッチアップにも不安がなかったことは幸運でした。

 予選ラウンドは分布通りにマッチアップされれば問題はなく、プレーオフも予想通りのメンバーであればかなり期待が持てる選択だったのです。もちろん、大規模のフィールドなので予想はぶれやすいのですが、長めのスイスラウンドに加えて、前日に手に入れたブレイクダウンの情報は予想を信頼できるレベルまで引き上げてくれました。



■最後に

 淡々としたものですが、以上が僕がWMCQに向けてBant Hexproofに関してテストし、考えた内容でした。選択の理由等は前提条件の設定次第ではいくらでも答えが変化するため、今回の優勝は僕の予想が偶然なことに都合よく一致したことでの成功だったと思います。

 もちろん、予想や思考した段階で勝利するビジョンがなければ、紛れの結果論的な勝利しか舞い込んでこないので、予想やそれに伴う選択も含めて悪く無いとは考えていますが、単純に考えて400人近い参加者からたった一人の優勝者を決定するのですから、幸運以外の何物でもないでしょう。

 ただ、一度勝っただけならばフロック、それが何度も重なれば立派な実力です。今はただのフロックでもいいのですが、WMCの本戦では日本代表として満足な成績を残して、今回の勝利が実力だったと思えるような積み重ねをしたいと思っています。

 大阪と名古屋の2つのオープン予選の優勝者に、中村修平と渡辺雄也の熾烈なプロポイント枠の勝者が、ともに戦うチームメイトとなる予定です。彼らの力になれるようなスコアを残して、誰よりも楽しむことができればいいな、と今から夏が待ち遠しく感じます。

 それでは気弱な抱負でしたが、今回の記事はここで筆を置かせてもらいます。次はドラゴンの迷路導入後の環境でお会いしましょう。