「モダンで【のぶおの部屋】やれないかな?」
企画会議を行うたびに誰かが必ず言い出すセリフだ。それに対する返答はこう決まっていた。
「モダンはレガシーみたいに、特定のアーキタイプに結びついたマスタークラスの人がいないから無理だよ」
そう、それは以前からの懸案事項だった。
モダンには「『双子』といえばこの人」「『親和』といえばこの人」のような、デッキタイプを聞くだけで想起されるようなそのデッキの使い手がおらず、インタビュー対象に困るのだ。
そのため、モダン版【のぶおの部屋】は企画として十分な魅力があるにも関わらず、これまで実行に移されることはなかった。
だが、PPTQ制度のモダンシーズン到来によって状況が変わった。
各地で開催されたモダンPPTQ、その優勝者ならば。アーキタイプの達人と呼ぶにふさわしいだろう。
こうしてモダン版【のぶおの部屋】ことこの企画、「モダンの達人」シリーズは無事スタートする運びとなった。
というわけで、この記事はモダンのPPTQを優勝した各アーキタイプの達人たちにインタビューし、そのデッキについて教えてもらう、というものだ。
早速始めていこう。第1回目となる今回は、【アブザンカンパニー】を紹介する。
ゲストはこの方だ。
PPTQ2016#1@水戸(カードショップリンクス)は参加者43名で行われ、アブザンカンパニーのArita KentoさんがRPTQ2016#1の権利を獲得しました。おめでとうございます! http://t.co/iiNFD76Srq pic.twitter.com/x2Pq4Ivsey
— 茶鴨 (@chagamo) 2015, 6月 7
伊藤 「というわけで、有田 賢人(千葉)さんにお話を伺いたいと思います」
有田 「よろしくお願いします」
伊藤 「有田さんはPTQを突破して【プロツアー『マジック2015』】に出場した経験もあるほか、【ワールドマジックカップ2013東京予選】でトップ8、【ワールドマジックカップ2014東京予選】でもトップ4まで勝ち残った実力者です」
有田 「いえ、でも本当にそれくらいですよw プロツアーも初日落ちでしたし」
伊藤 「PPTQを優勝されたということで、今の目標は『プロツアー出場』ということになるんでしょうか?」
有田 「そうですね。再びプロツアーに出て、今度は2日目に残りたいですね」
伊藤 「是非ともRPTQ頑張ってください。それでは、有田さんがPPTQで使用したアブザンカンパニーというデッキについてお話を伺いたいと思います」
■ アブザンカンパニーとは?
有田 「以下がアブザンカンパニーの一般的なレシピになります」
2 《森》 1 《平地》 1 《沼》 2 《草むした墓》 2 《寺院の庭》 1 《神無き祭殿》 4 《吹きさらしの荒野》 4 《新緑の地下墓地》 1 《湿地の干潟》 3 《剃刀境の茂み》 2 《ガヴォニーの居住区》 -土地(23)- 4 《極楽鳥》 2 《貴族の教主》 2 《臓物の予見者》 2 《族樹の精霊、アナフェンザ》 2 《復活の声》 1 《根の壁》 1 《呪文滑り》 1 《シルヴォクののけ者、メリーラ》 1 《クァーサルの群れ魔道士》 1 《漁る軟泥》 4 《台所の嫌がらせ屋》 2 《永遠の証人》 2 《ちらつき鬼火》 1 《オルゾフの司教》 1 《残忍なレッドキャップ》 -クリーチャー(27)- |
3 《突然の衰微》 3 《召喚の調べ》 4 《集合した中隊》 -呪文(10)- |
4 《思考囲い》 2 《戦争の報い、禍汰奇》 1 《ブレンタンの炉の世話人》 1 《漁る軟泥》 1 《エイヴンの思考検閲者》 1 《弁論の幻霊》 1 《罪の収集者》 1 《先頭に立つもの、アナフェンザ》 1 《流刑への道》 1 《突然の衰微》 1 《四肢切断》 -サイドボード(15)- |
伊藤 「アブザンカンパニーといえば《臓物の予見者》+《先頭に立つもの、アナフェンザ》(or 《シルヴォクののけ者、メリーラ》)+《台所の嫌がらせ屋》(or 《残忍なレッドキャップ》)の3枚コンボを搭載したアブザンカラーのデッキですが、このデッキ、何だか見た目が弱そうですよね。細かいクリーチャーがいっぱい入ってて、しかも枚数が散らばってるという」
有田 「確かに見た目はそうですねw でも、見た目以上に強いデッキですよ」
伊藤 「こういうデッキリストのデッキって、ちょっと前の禁止改定までは【出産の殻】デッキがあったわけじゃないですか。あれとはどう違うんでしょうか?」
有田 「《出産の殻》デッキの場合、動きの起点が必ず3マナの《出産の殻》をプレイする』というものだったので、立ち上がりが遅めのデッキだったんですよね。それに対してアブザンカンパニーは、1マナ→2マナ→3マナとクリーチャーを次々展開していった後で《集合した中隊》で盤面を一気に広げるという構造になっているので、全体的なマナ域が前に寄っていて、スピードも早くなっていると思います」
伊藤 「そう聞くといいことづくめに思えますが」
有田 「ただ、《出産の殻》デッキに比べると小粒なクリーチャーが多い分、カードパワーによる汎用性が失われている感じはありますね。あとは《神々の憤怒》のような対策カードが刺さりやすくなっているというのもあります」
伊藤 「確かに《包囲サイ》や《修復の天使》などの太いクリーチャーが抜けているのは、相手が除去を連打してきたときなどに痛手になりそうですね」
有田 「ただそういう相手には《集合した中隊》が結局強いので、プレイングで気を付ければそこまで大きな問題にはならないですね」
◎ アブザンカンパニーを選んだ理由
伊藤 「有田さんはどうしてこのデッキを選択したのでしょうか?」
有田 「僕はもともと『親和』を使っていたんですが、《コラガンの命令》で少し環境的に厳しくなってデッキを変えようと思ったんです。それでモダンには大きく分けてフェアデッキとコンボデッキがあるわけですが、コンボの種類が多くてフェア側だと全部は受けきれない印象があるので、長丁場のラウンドには向いていないなと思って、『まずコンボを使おう』と思いました」
伊藤 「なるほど」
有田 「同時に、モダンの代名詞でもある『親和』や『バーン』には負けたくなかったので、プレイの選択肢が豊富で、ライフゲイン要素があるデッキを使いたかった。その条件を満たすのがアブザンカンパニーで、『対応力があるコンボデッキ』という、他のコンボデッキにはない丸さがあるデッキなんですよね」
◎ アブザンカンパニーはコンボデッキなのか
伊藤 「いつも思うんですけど、このデッキってコンボデッキなんでしょうか。それともビートダウンなんでしょうか?」
有田 「コンボが入ったビートダウンということになると思います。《出産の殻》デッキの場合はかなりコンボ要素が強めでしたが、このデッキの場合《族樹の精霊、アナフェンザ》が「鼓舞」でクリーチャーを強化してくれたり、マナカーブ通りにクリーチャーを展開してからの《ガヴォニーの居住区》起動だったりで、プレッシャーをかけやすくなっているのが大きいですね」
伊藤 「アブザンカラーのZooにコンボも入ってるよ、みたいなイメージでしょうか」
有田 「そうですね。他のコンボデッキと違って、初めからコンボを目指すデッキではないですね。基本はビートダウンで、ただ4~5ターン目になると《召喚の調べ》を引いたらいきなりコンボを決められるようになるので、隙があればコンボを決めにいく、みたいなデッキです」
■ 一般的なレシピとの違い
有田 「こちらが、PPTQを抜けた後に少し調整した、僕が現在使用しているリストになります」
2 《森》 1 《平地》 1 《沼》 2 《草むした墓》 1 《寺院の庭》 1 《神無き祭殿》 4 《吹きさらしの荒野》 4 《新緑の地下墓地》 3 《剃刀境の茂み》 1 《陽花弁の木立ち》 2 《ガヴォニーの居住区》 -土地(22)- 4 《極楽鳥》 2 《貴族の教主》 2 《臓物の予見者》 2 《族樹の精霊、アナフェンザ》 2 《復活の声》 1 《根の壁》 1 《呪文滑り》 1 《シルヴォクののけ者、メリーラ》 1 《クァーサルの群れ魔道士》 1 《漁る軟泥》 4 《台所の嫌がらせ屋》 3 《永遠の証人》 1 《ちらつき鬼火》 1 《先頭に立つもの、アナフェンザ》 1 《残忍なレッドキャップ》 1 《静寂の守り手、リンヴァーラ》 -クリーチャー(28)- |
2 《流刑への道》 1 《突然の衰微》 3 《召喚の調べ》 4 《集合した中隊》 -呪文(10)- |
4 《潮の虚ろの漕ぎ手》 4 《大爆発の魔道士》 2 《ブレンタンの炉の世話人》 2 《突然の衰微》 1 《戦争の報い、禍汰奇》 1 《エイヴンの思考検閲者》 1 《オルゾフの司教》 -サイドボード(15)- |
伊藤 「違いがわかりにくいですが、有田さんはどういった点を意識してこの形にしているんでしょうか?」
有田 「僕の場合、ミラーマッチに強くすることはかなり意識していますね。《先頭に立つもの、アナフェンザ》と《静寂の守り手、リンヴァーラ》はそういう意図でメイン採用しています」
伊藤 「《先頭に立つもの、アナフェンザ》と《静寂の守り手、リンヴァーラ》はビートプランでも普通に強そうですね」
有田 「そうですね。あとは10枚のインスタントスペルの部分を数枚《突然の衰微》ではなく《流刑への道》にしているのが特徴的かもしれません。ジャンドの《オリヴィア・ヴォルダーレン》や同型の《静寂の守り手、リンヴァーラ》など、《突然の衰微》では除去れないカードも対処できるし、軽くて複数回行動しやすいので、メインは《流刑への道》の方がいいかなと思っています」
伊藤 「そういえばみんな入れてるんですけど、《ちらつき鬼火》っていうカードは何のために入っているのかよくわからないんですが……」
有田 「《ちらつき鬼火》は《召喚の調べ》で軽くサーチできる《修復の天使》みたいなカードですね。「頑強」した《台所の嫌がらせ屋》のカウンターを取り除いたり、《永遠の証人》を使いまわしたりします。あと地味に飛行のクロックとしても活躍しますね」
伊藤 「サイドボードは何というかモダンらしからぬ思いきりのよさですね」
有田 「このデッキはトロンやアミュレットブルームなどの土地系のコンボが厳しいので、その辺はかなり意識しています。また《思考囲い》のところは、《集合した中隊》や《召喚の調べ》との相性のよさからやはり3マナ以下のクリーチャーの方がいいだろうということで、《潮の虚ろの漕ぎ手》にしています」
伊藤 「【PPTQを突破したレシピ】ではサイドボードに《ドロモカの命令》と《ヴィズコーパの血男爵》が採用されていたようですが、抜けてしまったんですね」
有田 「《ドロモカの命令》は《神々の憤怒》ケアだったんですが、2マナ構えるのが厳しくて《ブレンタンの炉の世話人》を増やせばいいということで抜けてしまいました。《ヴィズコーパの血男爵》もBG系に強いかなと思って入れたのですが、《タルモゴイフ》が超えられなくて……(笑) なので、まだ試していませんが《鷺群れのシガルダ》なんかはいいのかも、と思っています」
■ 各主要デッキに対するサイドボーディング
伊藤 「主要なマッチアップでのサイドインアウトは、どういった感じになるんでしょうか?」
◎ 対 同型
有田 「同型はメイン《先頭に立つもの、アナフェンザ》と《静寂の守り手、リンヴァーラ》でもともと強い構成にしてあるので、あまりサイド後も変わりません」
有田 「《突然の衰微》も入れたくなるところですが、このマッチは《集合した中隊》と《召喚の調べ》が鍵で、これらを何枚引けるかが大事なので、スペルのカウント上入れない方がいいと思います。《集合した中隊》はデッキに入っているクリーチャーの枚数、《召喚の調べ》は引いたクリーチャーの枚数に使い勝手が依存するので、サイド後はできる限りスペルはスペル同士で入れ替えた方がいいですね」
◎ 対 バーン
有田 「選択理由で述べたように、このデッキはもともとバーンに有利なデッキです。《台所の嫌がらせ屋》がありますし、今のバーンは生物のクロックに依存している部分が大きいので、自然と相手の生物が止められるというのがその理由です。それもあって入れるカードは少ないですが、ただ《集合した中隊》は重いので枚数を減らしますね」
◎ 対 ジャンド
有田 「マナクリーチャーは《神々の憤怒》に巻き込まれるのでごそっと減らします。あとは除去を連打された上での相手の《怒り狂う山峡》がきついので、《大爆発の魔道士》を数枚サイドインします。《集合した中隊》さえ撃てれば有利にゲームを運べるマッチで、無闇にクリーチャーを並べて《神々の憤怒》を食らうとか、《流刑への道》を使ってしまって《オリヴィア・ヴォルダーレン》に制圧されるといった事態だけケアすれば大丈夫かと」
◎ 対 双子
有田 「双子は盤面が弱く、普通にクリーチャーを並べているだけでも場で押せるので、《集合した中隊》はそこまで必要ではありません。《払拭》や《差し戻し》の的になりやすいので抜いてしまって問題ないと思います。あとは《神々の憤怒》ケアのマナクリ減らしは同上ですね」
◎ 対 親和
有田 「このマッチは『《戦争の報い、禍汰奇》をいつ出すのか』が焦点になります。自分が『親和』を使っていたのでわかるんですが、マナを立ててるところに出してしまうとエンド前に《感電破》を食らうだけなので、フルタップの隙を狙って出すようにしたいですね」
◎ 対 グリクシスコントロール
有田 「《オリヴィア・ヴォルダーレン》のケアが大事なので《静寂の守り手、リンヴァーラ》は残します。相手は土地を伸ばすのが重要になるので、《大爆発の魔道士》で積極的に土地を攻めたいですね。相手はスペルのシンボルの濃い3色で、マナベース的に無理してる部分もあるデッキなので」
◎ 対 トロン
有田 「かなり厳しいマッチアップです。どちらかというとコンボを目指すことになりますが、《紅蓮地獄》でシャクられたくないのでマナクリは減らします。手札破壊と土地破壊でお互いゆっくりになるので、加速はそこまで重要ではないんですね。あとは《大爆発の魔道士》を《永遠の証人》で回収できることを祈りましょう」
伊藤 「こうして見ると、《召喚の調べ》を抜くマッチアップはないんですね」
有田 「デッキがシルバーバレット構造になっているので、《召喚の調べ》を抜くマッチはないですね。特にサイド後は、常に最適な回答を探してこれるので」
■ まとめ、アブザンカンパニーに興味がある人へ
伊藤 「最後に、このデッキに興味がある方にアドバイスなどあれば」
有田 「選択肢が非常に多い割に、『双子』みたいなイージーウィンがそう多くはないので、クリーチャーの展開順や呪文のプレイタイミングなど、全てのルートをきちんと検討できる人じゃないと使いづらいかもしれません。ただ、それができれば非常にタフで強いデッキだと思います」
有田 「あとはサイド後は全体除去や《オリヴィア・ヴォルダーレン》を織り込んでプレイすることですね。何も考えずに展開したり、《流刑への道》を撃ってしまうと、手痛いしっぺ返しを食らってしまうので」
伊藤 「ありがとうございました」
「モダンの達人」シリーズ目次
vol.1 -アブザンカンパニー- (今回)
vol.2 -バーン-
vol.3 -ジャンド-
vol.4 -双子-
vol.5 -親和-
vol.6 -グリクシスコントロール-
vol.7 -トロン-
vol.1 -アブザンカンパニー- (今回)
vol.2 -バーン-
vol.3 -ジャンド-
vol.4 -双子-
vol.5 -親和-
vol.6 -グリクシスコントロール-
vol.7 -トロン-
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