企画の経緯については【vol.1】を参照願いたい。というわけで、この記事はモダンのPPTQを優勝した各アーキタイプの達人たちにインタビューし、そのデッキについて教えてもらう、というものだ。
早速始めていこう。第3回目となる今回は、【ジャンド】を紹介する。
ゲストはこの方だ。
蒼猫亭主催プロツアー2016#1予備予選、決勝でコラガンも命令とオリヴィアの応酬に打ち勝ち見事RPTQ出場権利を獲得したのはフジムラカズアキさんでした!本日はおめでとうございます!
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— CARDSHOP蒼猫亭@神戸元町 (@aonekotei_kobe) 2015, 6月 13
伊藤 「というわけで、藤村 和晃(大阪)さんにお話を伺いたいと思います」
藤村 「よろしくお願いします」
伊藤 「藤村さんは【グランプリ・静岡2014】でトップ8に残られた経験があるほか、プロツアー出場経験も多数。さらに今後開催されるプロツアーについても、【プロツアー『マジック・オリジン』のRPTQ】を突破しプロツアーの参加権利を獲得、またプロツアー『戦乱のゼンディカー』についても【先日のモダンMOPTQ】で突破して参加権利を獲得済ということで、プロレベルはありませんが次なる日本のスター候補として要注目のプレイヤーです」
藤村 「次こそ【ネクストプロツアーチャンピオン】を実現したいですね。今のところ『ネクストプロツアーチャンピオン(笑)』なんで。でもこんだけチャレンジしてればそろそろ当たってもいいんじゃないかと思っています。あと、一言いいですか」
伊藤 「何でしょう?」
藤村「実は日本のプラチナレベル・プロの中で一人だけ許せない男がいて」
伊藤 「はぁ」
藤村 「僕のライバルは山本 賢太郎プロなんですよ。あの男だけは本当に許せない。なぜかというと、『クールで優しいお兄さん』キャラがかぶってるんですよね。顔は向こうがイケメンで負けてますが心のキレイさではこっちの方がイケメンやから負けてないと思ってます」
伊藤 「あ、はい。プロツアーでの活躍、期待してます。それでは、藤村さんがPPTQで使用したジャンドというデッキについてお話を伺いたいと思います」
藤村「なんか僕だけ扱いひどくないですか?」
■ ジャンドとは?
藤村 「以下がジャンドの一般的なレシピになります」
2 《沼》 1 《森》 1 《血の墓所》 1 《草むした墓》 1 《踏み鳴らされる地》 4 《新緑の地下墓地》 2 《血染めのぬかるみ》 2 《樹木茂る山麓》 4 《黒割れの崖》 2 《黄昏のぬかるみ》 3 《怒り狂う山峡》 1 《樹上の村》 -土地(24)- 4 《闇の腹心》 4 《タルモゴイフ》 3 《漁る軟泥》 1 《オリヴィア・ヴォルダーレン》 1 《黄金牙、タシグル》 -クリーチャー(13)- |
4 《稲妻》 3 《思考囲い》 3 《コジレックの審問》 3 《終止》 2 《突然の衰微》 2 《コラガンの命令》 1 《大渦の脈動》 1 《前哨地の包囲》 4 《ヴェールのリリアナ》 -呪文(23)- |
4 《大爆発の魔道士》 2 《台所の嫌がらせ屋》 2 《高原の狩りの達人》 1 《渋面の溶岩使い》 1 《オリヴィア・ヴォルダーレン》 1 《強迫》 1 《汚損破》 1 《幻触落とし》 1 《魂の裏切りの夜》 1 《虚無の呪文爆弾》 -サイドボード(15)- |
伊藤 「《思考囲い》、《タルモゴイフ》、《闇の腹心》、《ヴェールのリリアナ》……これぞジャンド!という感じですね。そこで改めてお聞きしたいんですが、ジャンドというのはどのようなデッキなんでしょうか?」
藤村 「ジャンドというのは、『理論上最強デッキ』なんですよ。都合よくドローしたら何にでも勝てるという」
伊藤 「と、言いますと?」
藤村 「たとえばコンボの対戦相手がぶん回りハンドでも《思考囲い》連打から《ヴェールのリリアナ》とかで潰せますし、親和とかにあたっても《稲妻》《突然の衰微》《コラガンの命令》とかで受けられる。相手がコントロールなら《闇の腹心》と《タルモゴイフ》で攻めに回れる、といった感じですね」
伊藤 「でもそんな都合よくカードを引けるわけでもないですよね。親和相手にハンデスと《ヴェールのリリアナ》ばっかり引いたりするわけじゃないですか」
藤村 「だから『理論上』なわけです。ただ勝つために必要なカードは全部揃っていて、都合のいいドローと最適なプレイングをしさえすれば勝てるというのが魅力なんですよ。全部に勝ちたい人が使うデッキですね」
伊藤 「そもそもモダンでフェアデッキを使うこと自体、『全部に勝ちたい』感ありますよね。グリクシスコントロールとかもそうですが。その点、グリクシスコントロールとはどういった違いがあるんでしょうか?」
藤村 「うーん、《瞬唱の魔道士》が好きか《タルモゴイフ》が好きか、ってくらいの違いじゃないですかね……ただグリクシスの方が相手の《安らかなる眠り》や《窒息》などの対策カードで自分の引きによってはそのまま負けてしまうため、相手のサイドボードによってゲームが影響されやすい印象です。あとは青い方がプレイングが難しくなりますよね。《瞬唱の魔道士》とかプレイミス誘発装置みたいなもんですし、勝ち筋が細いのでワンミスが敗北に直結しやすい。それから青いデッキは同型と当たったときに格上のプレイヤーに負けやすいですね」
伊藤 「なるほど。確かに青対決やるよりは《思考囲い》撃った方がゲームが簡単ですからね」
藤村 「ジャンドは除去やハンデスで相手の動きを不十分なものにしてからのゴリ押しでそのまま押し込んだり、消耗の末に残った《タルモゴイフ》や《闇の腹心》の1枚で勝つデッキで、手札破壊で相手の手札も見られるので、ゲーム自体はそこそこ簡単にプレイできます。その分デッキ構築が難しいですが……」
◎ アブザンジャンクとの違い
伊藤 「同じ黒緑系でいうと、タッチ白したアブザンジャンクという選択肢もあるわけですが、アブザンとジャンドはどのような違いがあるんでしょうか?」
藤村 「最大の違いはマナベースですね。ジャンドの方がマナベースが強いんですよ。《怒り狂う山峡》は《活発な野生林》よりも圧倒的にフィニッシャー性能が高いですし、それにアブザンだと黒いミラディン土地が使えないんですよね。1ターン目にタダで出せる黒いアンタップイン土地があるかというのは、手札破壊を前提とする黒緑系デッキには死活問題なので、この点はジャンドがアブザンに対して勝っていますね」
伊藤 「なるほど。逆にアブザンの方がいい点としては何があるんでしょうか?」
藤村 「同型をはじめフェアデッキと当たったときは《未練ある魂》が無双するのと、あとは白の方がサイドボードが強いことが挙げられます。ですが僕は総合的には、メインのマナベースが安定している分だけジャンドの方がいいデッキだと思ってます」
■ 一般的なレシピとの違い
藤村 「こちらが、PPTQを抜けた後に少し調整した、僕が現在使用しているリストになります」
2 《沼》 1 《森》 2 《草むした墓》 1 《血の墓所》 1 《踏み鳴らされる地》 4 《新緑の地下墓地》 3 《血染めのぬかるみ》 2 《樹木茂る山麓》 4 《黒割れの崖》 4 《怒り狂う山峡》 -土地(24)- 4 《闇の腹心》 4 《タルモゴイフ》 3 《漁る軟泥》 2 《オリヴィア・ヴォルダーレン》 -クリーチャー(13)- |
4 《稲妻》 4 《コジレックの審問》 3 《思考囲い》 3 《終止》 3 《突然の衰微》 2 《コラガンの命令》 4 《ヴェールのリリアナ》 -呪文(23)- |
4 《大爆発の魔道士》 3 《部族養い》 2 《強情なベイロス》 2 《古えの遺恨》 2 《魂の裏切りの夜》 2 《虚無の呪文爆弾》 -サイドボード(15)- |
伊藤 「なんだかすっきりしてますね。流行りの《黄金牙、タシグル》を採用せずに《オリヴィア・ヴォルダーレン》が2枚な点と、ミシュラランドが《樹上の村》がなくて《怒り狂う山峡》だけに絞っている点が特徴的でしょうか」
藤村 「《黄金牙、タシグル》はやはり《闇の腹心》との相性が悪いのが難点ですね。ライフが6点以下のとき、エンド前に《闇の腹心》を自分で除去するかどうかを常に考えなくてはいけなくなるというのは許容できないと思います」
伊藤 「では逆に《闇の腹心》を抜いて《黄金牙、タシグル》を入れるアプローチも考えられるということでしょうか?」
藤村 「それならまあありですが、個人的にはジャンドは《闇の腹心》が全てのデッキなので、《闇の腹心》が弱くなったり《闇の腹心》を抜くような構築は僕はしませんね。対マーフォークや対親和みたいなボコスカ殴られるマッチでも、除去をより多く引くために抜きたくないカードだと思っているので」
伊藤 「なるほど。《黄金牙、タシグル》の部分は代わりに《オリヴィア・ヴォルダーレン》が2枚入っていますが、これはどうなんでしょう?」
藤村 「このデッキは手札破壊と除去でデッキの半分くらいがトップデッキして弱いカードになってしまっているので、《黄金牙、タシグル》のように徐々に盤面を有利にしていくカードよりも、出しただけで盤面に蓋をしたり、一気に不利をまくれるカードを採用したかったので2枚にしました」
伊藤 「ジャンドで《樹上の村》が1枚もとられていないのは意外ですが、これはどういった意図なんでしょうか?」
藤村 「《怒り狂う山峡》と散らす人もいるとは思いますが、僕、基本的に同じ役割なのにカードを散らすのが嫌いなんですよね。被ったら弱いからって4枚のスロットを3枚と1枚にしたり、3枚のスロットを2枚と1枚にしたり、そういう意味不明なんがイヤなんです。マジックのデッキって60枚もあるわけで、60枚もあったら1枚のカードなんて引けるかどうかわかりませんよ。サーチカードがあるなら別にいいんですけどね。何よりデッキリストのビジュアルが悪いじゃないですか」
伊藤 「藤村さんのマジック哲学というわけですね。1枚差しの《大渦の脈動》みたいなカードも入ってないですし」
藤村 「《大渦の脈動》は単純にあまり強くないですし、《闇の腹心》を強く使うために重い除去より軽い除去を増やしたいですね」
伊藤 「サイドボードも結構すっきりしてますよね。やはり『似たような役割のカードを散らした1枚差し』がないからでしょうか」
藤村 「ジャンドは同型を含めたフェアデッキや双子相手にはあまりメインから抜くカードがないので、他の特殊なマッチでしか輝かないカードをサイドにとるようにしています。土地コンボ用の《大爆発の魔道士》とか、バーン用の《部族養い》とか。フェアデッキ相手はちょっとやそっとのカードではあまり差がつかない、どちらかといえばプレイング勝負になるし、そもそもフェアデッキ全般に『出したら勝ち』っていうカードがないので。フェアデッキにはプレイで勝って、特殊なデッキにはサイドで勝つイメージですね」
■ 各主要デッキに対するサイドボーディング
伊藤 「主要なマッチアップでのサイドインアウトは、どういった感じになるんでしょうか?」
藤村 「サイドボードはいつも気分で変えるというか、先手後手や相手のデッキで見たカードに合わせて直感で枚数を決めたりするので、必ずしもいつもこれってわけではないですが、大体こんな感じです」
◎ 対 アブザンカンパニー
藤村 「こちらには除去がたくさん入っていて、相手のデッキはコンボさえ対処できれば単体では弱いクリーチャーの塊なので、それほど苦しくはないです」
藤村 「ただ弱くても《台所の嫌がらせ屋》のような粘るカードは多いので、消耗戦になる可能性が高く、手札破壊は減らしてもいいかもしれません」
◎ 対 バーン
藤村 「《強情なベイロス》に《頭蓋割り》を合わせられないようにするために、痛いですが《思考囲い》は残します。ただそれでも基本的に厳しいマッチですね」
藤村 「PPTQでも唯一負けたのがバーンでした。メタゲーム的にもそこそこいますし、何よりバーンに負けると腹が立つのでいっぱいサイドをとっています」
◎ 対 ジャンド
藤村 「同型は基本的にトップ勝負になるので手札破壊は弱いです。入れるものがなくて抜ききることができない場合、《思考囲い》と《コジレックの審問》のどちらを残すかは相手の構成によりますね。《殴打頭蓋》などの重いサイドを見たら《思考囲い》を残すイメージです」
藤村 「このマッチではアドバンテージをとる手段が限られるので、《ヴェールのリリアナ》の『-2』能力をお互いケアしあうゲームになります。後手2ターン目にクリーチャーを出すのはなるべく避けたいですね。この点、《ヴェールのリリアナ》に対して強く、相手のミシュラ土地も壊せる《大爆発の魔道士》はサイドインしたいところです」
◎ 対 双子
藤村 「純正双子相手なら特にサイドボードはしなくてもいいくらいです。《呪文滑り》とか《殴打頭蓋》、《ヴィダルケンの枷》を見たら《古えの遺恨》を1枚だけ入れたりはしますけど、相手も《古えの遺恨》が怖くてアーティファクトを入れてこなかったりするので、やっぱり入れないことの方が多いですね」
藤村 「グリクシスツインだと《黄金牙、タシグル》もあるので《虚無の呪文爆弾》をサイドインします。基本的に有利なマッチですが、ソーサリータイミングで重い呪文をプレイすると返しでコンボ決められて負ける可能性もあるので、《オリヴィア・ヴォルダーレン》は抜いてもいいと思います」
◎ 対 親和
藤村 「《ヴェールのリリアナ》は3枚残します。『-2』能力が《羽ばたき飛行機械》や8枚の蛾土地に阻まれるので全抜きという人もいるかもしれませんが、理想的な展開は除去→除去から《刻まれた勇者》を《ヴェールのリリアナ》でエディクトすることなので、僕はそこまで減らしません」
藤村 「相手がノーケアで《刻まれた勇者》出してくることも考えられますし、展開次第では意外と場に残るので、何枚かは残したいですね」
◎ 対 グリクシスコントロール
藤村 「《大爆発の魔道士》は土地絡みのコンボデッキ以外にも、ミシュラランドの入ったミッドレンジにもサイドインします。グリクシスコントロールであれば《忍び寄るタール坑》ですね」
藤村 「《突然の衰微》は撃ちどころがないので抜いて、《虚無の呪文爆弾》で《瞬唱の魔道士》と『探査』を牽制しましょう」
◎ 対 トロン
藤村 「《オリヴィア・ヴォルダーレン》が1枚残っていますが、《ワームとぐろエンジン》を奪えることもあるので微妙なところです。《解放された者、カーン》や《忘却石》が暴れているならどうせ負けなので、割り切ったサイドをするのも手です」
伊藤 「なんかさっき1枚差しはビジュアルがどうのとか言ってた割に、よくサイド後は1枚差しのカードがあるような気がしますが」
藤村 「それはそうですよ。デッキレシピのビジュアルと実際のサイドアウトとは別ですから。たとえばトイレに行かないアイドルなんていないように、理想と現実は別物です。実戦でのサイドインアウトは繊細なバランスの上に成り立ってますから、1枚差しとかよくありますよ」
伊藤 「え?じゃあデッキレシピが1枚差しでも別にいいってことじゃないんですか?」
藤村 「いや、でもデッキレシピは後に残るものですから、綺麗な方がいいんですよ。ただ勝つのは一流のプレイヤー、勝った後に美しいものを残すのが超一流のプレイヤーなわけです。僕は超一流を目指しているんで、綺麗なレシピを使いたいんですね」
伊藤 「なるほどわからん」
藤村 「まあ僕がプロツアーで勝って僕の正しさを証明しますよ」
■ まとめ、ジャンドに興味がある人へ
伊藤 「最後に、このデッキに興味がある方にアドバイスなどあれば」
藤村 「正直に言って、今ジャンドはあまりオススメしませんw」
伊藤 「なに最後になってちゃぶ台引っくり返してるんですか!w そもそも藤村さんはジャンドで勝ってるじゃないですか」
藤村 「モダンのフェアなデッキって、ものすごい種類があるモダンのデッキについて、相手のデッキがどんなプランをとるのか、サイド後はどういったサイドインアウトをするのかとか、要するに相手のデッキをかなり正確に把握できないと勝てないんですよ。だから日頃からMOとか海外の大会とかの色々なデッキのメインやサイドを見て覚えてないといけません。つまりジャンドはドMデッキなんですね。それくらいならぶん回りがあるデッキでストレスなく戦った方がいいと思うわけです」
伊藤 「ドMでもいいんで、使いたい人に向けてのアドバイスをいただければ……」
藤村 「それでも使いたい、という人は……ライフにビビらず、《闇の腹心》を生かして戦った方がいい、というところでしょうかね」
伊藤 「ありがとうございました」
「モダンの達人」シリーズ目次
vol.1 -アブザンカンパニー-
vol.2 -バーン-
vol.3 -ジャンド- (今回)
vol.4 -双子-
vol.5 -親和-
vol.6 -グリクシスコントロール-
vol.7 -トロン-
vol.1 -アブザンカンパニー-
vol.2 -バーン-
vol.3 -ジャンド- (今回)
vol.4 -双子-
vol.5 -親和-
vol.6 -グリクシスコントロール-
vol.7 -トロン-
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