決勝: 岡田 尚也(長野) vs. 高橋 優太(東京)

晴れる屋


By Atsushi Ito



 『マジック・オリジン』はプレインズウォーカーの起源 (オリジン) へ遡る物語だ。

 だからというわけではないが、岡田と高橋の起源をそれぞれ辿ろうとしたとき、彼らのどちらもが優勝するにふさわしい、本当に才能溢れるプレインズウォーカーなのだということがわかる。


 【The Finals11】【決勝戦】でカバレージを書いたとき、私は正直岡田がここまで強くなるとは思っていなかった。

 だが【当時のトップ8プロフィール】にもあるとおり、岡田は常にマジックで「自分の妄想を形として示」し続けた。デッキビルダーとしての岡田は間違いなく一流で、【準々決勝】でも書いたが、MOPTQを突破するほどにまで至っている。

 《ルーン唱えの長槍》を見出したときのように。今度は《ヘリオッドの指図》に希望を見出した岡田は、他に誰も使っていなくても、自分だけは《ヘリオッドの指図》を使い続けた。そして証明したのだ。自分の正しさを。

 もはや岡田の妄想を妄想と笑う者はいない。それだけの確かな戦績を岡田は積み上げてきた。


 もう二度と、あの強かった高橋は見られないものと思っていた。

 プロツアーが構築とリミテッドの混合フォーマット制に変更になって以降、高橋はプロツアーでそれまでのようには安定した成績を残せなくなっていた。だから、【世界選手権2010】での13位入賞を超えることはないだろうと勝手に考えていた。

 だが、違った。【Hareruya Prosに加入】してからの高橋は、プロプレイヤーとして『晴れる屋』の看板を背負ったことで、あの伝説の【グランプリ静岡08】【グランプリ神戸08】の連覇を彷彿とさせる、圧倒的なパフォーマンスを発揮し始めた。

 レガシーの【グランプリ・京都2015】で優勝、モダンの【グランプリ・シンガポール2015】でトップ8と、フォーマットを問わない活躍。そして今日はスタンダードで、この決勝まで登りつめた。

 高橋は今もなお成長し続けている。そしてそれは遠くない未来に、プロツアーで結果を出すことで証明されるだろう。


 岡田と高橋。2人のプレインズウォーカーはそれぞれの物語を歩む主人公で、それがたまたまこの神シリーズの舞台で交錯したというだけに過ぎない。

 しかし、この決勝の舞台までたどり着いたとき。きっと彼らのどちらもが、彼ら自身の起源 (オリジン) を思い出したことだろう。

 【The Finals2011の決勝戦】を。【グランプリ静岡08の決勝戦】を。

 起源から始まった物語は、現在へと繋がっている。

 第4期スタンダード神挑戦者決定戦。

 その果てに、物語の続きを紡ぐ権利を得られるのはどちらか一人のみ。





 『神』への挑戦権をかけた、最後の戦い。

 その緞帳が、ゆっくりと今あがった。



Game 1


 「来ると思ったんだよねー」

 言いながらノーランドでマリガンした高橋。ここまで1回もノーランドの手札は来なかったため、予感していたと嘯く。

 だが先手でベストな《ゴブリンの栄光追い》スタートを切ると、さらに《鋳造所通りの住人》《激情のゴブリン》と追加、順調にクロックを増やしていく。

 それでも岡田が《魂火の大導師》を送り出すと、「絆魂」を放置できない高橋は《かき立てる炎》を打ち込むしかないが、この時点で高橋の手札は1枚、それも《山》

 そして岡田が落ち着いてタップインを処理しながら《ゴブリンの熟練扇動者》を送り出すと、ドローが5枚目の《山》でダメージレースに勝てないと見た高橋はひとまず《ゴブリンの栄光追い》だけは《ゴブリンの熟練扇動者》への牽制に立たせつつ、《激情のゴブリン》でブロック不能にして絶望的なダメージレースを開始するしかない。



高橋 優太



 だが返すターン、《ゴブリンの栄光追い》《稲妻の一撃》して6点殴り返した岡田は、さらにタップインを置いてターンを返すのみ。そんな岡田のあまり芳しくない動きを見て絶望的な状況ながらも俄然勢いづいた高橋は、トップした《軍族童の突発》を即座にプレイして《鋳造所通りの住人》を強化すると、フルアタックで岡田のライフを残り5点まで追い詰める。

 さらにマナを立ててターンを返した岡田に対し、高橋は引き込んだ《鋳造所通りの住人》をプレイしてからアタック宣言。攻撃クリーチャー指定前に《激情のゴブリン》《稲妻の一撃》が飛ぶが、高橋は構わずフルアタック。岡田のライフを火力トップデッキ待ちというところまで詰める。
 しかし。岡田の方から見れば、この盤面は既に詰んでいた・・・・・・・

 この時点で高橋のライフは10。ブロッカーは1体。対し、岡田のアタッカーは《ゴブリンの熟練扇動者》本体も含めて5体。すなわち。


ヘリオッドの指図


 突如襲来した《ヘリオッドの指図》がゴブリントークンを強化し、高橋に一挙12点を与えたのだった。


岡田 1-0 高橋




Game 2


 《ゴブリンの栄光追い》から《僧院の速槍》《鋳造所通りの住人》へとつなげる高橋に対し、岡田も《乱撃斬》で捌きにかかるが、2ターン目が《進化する未開地》で身動きが取れない隙に、高橋はさらに《軍族童の突発》で6点!最大打点を叩き込む。

 しかしこの時点で高橋の手札は2枚。3枚目の土地が置けなかった岡田に《魂火の大導師》をプレイされると、除去を持っていない高橋はさらなる《軍族童の突発》をプレイしてフルアタックを敢行するしかない。ここはトークンがブロックされ、差し引き6点が貫通して残り7点。

 返すターン、岡田のドローは……《山》

高橋 「 (《神々の憤怒》だけは) やめてくれ!」

岡田 「(ヾノ・∀・`)ナイナイ」

 《魂火の大導師》がある状況で《神々の憤怒》が撃たれてしまえばほぼ詰みだ。九死に一生を得た格好となった高橋。

 だが、さらに《ドラゴンの餌》をプレイして《魂火の大導師》の上から岡田を倒そうとするものの、「絆魂」付きの《かき立てる炎》に阻まれてダメージは通らない。加えて、岡田の火力が尽きて仕方なく《ゴブリンの熟練扇動者》をプレイしたところで、ちょうど高橋も手札が《山》のみとなってしまう。

 もはやアタックに意味はなく、力なくターンを返すことしかできない高橋。一方岡田は4枚目の土地を引き込み、《ピア・ナラーとキラン・ナラー》を送り出す。

ピア・ナラーとキラン・ナラー


 ここだ。ここしかない。

 高橋はライブラリーの上の1枚を裏向きのまま手元に引き寄せると、今一番引きたいカードの姿を思いながら、机の上でクルクルと回した。

 そうすることで、何かが変わると信じているかのように。

 (引け!)

 意を決して、そのカードを見た。





ウルドのオベリスク


 高橋の思いに、デッキが応えた。

 岡田に応手はなく。

 決着は、3ゲーム目に持ち越された。


岡田 1-1 高橋




Game 3


 先手1ターン目、「占術」で《魂火の大導師》が見えた岡田は悩む。


乱撃斬ゴブリンの熟練扇動者払拭の光
軍族童の突発ピア・ナラーとキラン・ナラー山


 何より必要なのは3枚目の土地だ。だが《魂火の大導師》からの《乱撃斬》は、「占術」トップで失った1ターン以上のターンを稼ぎ出す可能性がある。トップか。ボトムか。

 迷った末に、岡田はこれをトップに乗せることを選択する。

 一方高橋は《ゴブリンの栄光追い》から、岡田がトップに載せてまで確保した《魂火の大導師》《マグマのしぶき》でテンポ良く処理しつつ、さらに2体目の《ゴブリンの栄光追い》を追加する理想的な展開。

 そして岡田は、3枚目の土地が置けない。



岡田 尚也



 それでも高橋の《ゴブリンの熟練扇動者》は戦闘開始前に《乱撃斬》で捌き、《ゴブリンの栄光追い》2体の攻撃を甘んじて受ける。土地を引けばこの程度の劣勢、いくらでも跳ね返せる。

 しかしなおも土地が引けない岡田は、代わりに引き込んだ2枚目の《魂火の大導師》を送り出すのだが、返すターン、ついに高橋は《ウルドのオベリスク》を設置する。

 まだ、ここで引ければ間に合う。3枚目の土地が引ければ、《払拭の光》で捌ける。3枚目の土地さえ……



 だが、岡田は土地を引けなかったのだ!

 残った《魂火の大導師》《マグマのしぶき》され、8点のアタックを受けて残りライフは2点。

 返すターンにようやく3枚目の土地を引き込んだ岡田だったが、高橋の盤面には「高名」を達成した《ゴブリンの栄光追い》が2体と、《ウルドのオベリスク》


ゴブリンの栄光追いゴブリンの栄光追いウルドのオベリスク


 たった1ターン土地を引き込むのが遅れたばかりに、既に盤面は手が付けられない状態になってしまっていた。

岡田 「最初の『占術』で《魂火の大導師》をトップに置いたのがミスでした。あれで下に送っていれば《払拭の光》からの《神々の憤怒》が間に合ってましたね」

 たった1回の「占術」。

 その選択が、2人の命運を分けた。


岡田 1-2 高橋






 第4期スタンダード神挑戦者決定戦、優勝は高橋 優太(東京)!おめでとう!!

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