企画の経緯については【vol.1】を参照願いたい。というわけで、この記事はモダンのPPTQを優勝した各アーキタイプの達人たちにインタビューし、そのデッキについて教えてもらう、というものだ。
早速始めていこう。第5回目となる今回は、【親和】を紹介する。
ゲストはこの方だ。
(かねこ)週末に開催されたグランプリ・シンガポール2015は、見事日本から遠征した人見将亮選手の優勝しました!おめでとうございます!現地からのカバレージが掲載されている特設ページはこちら! http://t.co/emuSIO1v00 pic.twitter.com/9UWa6LrfDp
— マジック:ザ・ギャザリング (@mtgjp) 2015, 6月 29
伊藤 「というわけで、人見 将亮(東京)さんにお話を伺いたいと思います。人見さんはPPTQで優勝したわけではありませんが、1000人規模のグランプリを優勝されたということで、デッキを紹介するのにこれ以上相応しい人はいないだろうと思い、特別にお呼びいたしました」
人見 「よろしくお願いします」
伊藤 「人見さんは双頭巨人戦リミテッドの【プロツアー・サンディエゴ08】に出場された経験もあるそうですが、現在の人見さんの目標としては、やはりプロツアーでの好成績ということになるんでしょうか?」
人見 「そうですね。個人戦のプロツアーに参加するのは初めてなので、2日目に進出して1ゲームでも多く試合するのが目標です」
伊藤 「プロツアーでの活躍、期待してます。それでは、人見さんがグランプリで使用した親和というデッキについてお話を伺いたいと思います」
■ 親和とは?
人見 「以下が親和の一般的なレシピになります」
1 《島》 3 《空僻地》 4 《ダークスティールの城塞》 4 《ちらつき蛾の生息地》 4 《墨蛾の生息地》 -土地(16)- 4 《羽ばたき飛行機械》 3 《メムナイト》 4 《信号の邪魔者》 4 《大霊堂のスカージ》 4 《電結の荒廃者》 3 《鋼の監視者》 2 《刻まれた勇者》 2 《エーテリウムの達人》 -クリーチャー(26)- |
2 《感電破》 3 《物読み》 4 《オパールのモックス》 1 《溶接の壺》 4 《バネ葉の太鼓》 4 《頭蓋囲い》 -呪文(18)- |
3 《思考囲い》 3 《古えの遺恨》 2 《刻まれた勇者》 2 《血染めの月》 2 《大祖始の遺産》 1 《呪文滑り》 1 《鞭打ち炎》 1 《摩耗+損耗》 -サイドボード(15)- |
伊藤 「『親和』というのは旧ミラディン期のキーワード能力で、当時スタンダードで猛威を振るった《金属ガエル》《マイアの処罰者》などを高速展開するアーティファクト単のことをそう呼んでいた名残で、《電結の荒廃者》を主軸としたアーティファクト単ビートのことを『親和』と俗に呼んでいるという経緯があるわけですが、この親和というデッキはどのようなデッキで、どういった強みがあるんでしょうか?」
人見 「色々ありますが、まずは《オパールのモックス》《バネ葉の太鼓》があるおかげで、先手後手の逆転が容易なデッキというのが第一に挙げられると思います」
伊藤 「なるほど。たしかに《極楽鳥》や《貴族の教主》のように2ターン目に3マナを出すことはもちろん、《オパールのモックス》さえあれば1ターン目から2マナを出すことも難しくないというのは大きな強みですね」
人見 「ただ、どれだけマナ加速しても、あくまでマナの使い道としては2~3マナ払って2~3マナのカードをプレイしているだけなので、2~3ターン目に6マナや7マナのカードをプレイできる【アミュレットブルーム】や【トロン】だったり、マナ加速によるテンポ差がほとんど意味を成さない【双子】などのデッキは苦手です」
伊藤 「親和の他の強みとしてはどのようなものがあるんでしょうか?」
人見 「《電結の荒廃者》や《頭蓋囲い》で単体のサイズを上げての一点突破と、クリーチャーを横に並べて《信号の邪魔者》と《鋼の監視者》で全体強化して押しつぶすという、『点』と『面』の両面で攻められるのが強みです。いかにモダンといえど、『点』と『面』どちらで攻められても大丈夫というデッキは少ないですからね」
伊藤 「たしかに横に並べられると《流刑への道》などの単体除去がうまく刺さりませんし、《紅蓮地獄》や《電解》などで横並べをケアしようとすると、《電結の荒廃者》が大きなサイズで生き残ってしまったりして、捌く側も一筋縄ではいかないですね」
人見 「あとは《電結の荒廃者》や《頭蓋囲い》で序盤の高速展開に使用したリソースを打点として全て回収できるのも強力です」
伊藤 「2枚以上引いた《オパールのモックス》や《バネ葉の太鼓》、《ダークスティールの城塞》すらも残さず食べる《電結の荒廃者》。エコの精神ですね」
人見 「他にも無色ベースでフェッチランドを使わないのでライフが20点スタートでクリーチャーデッキとのダメージレースに強いことや、5色出るカードがたくさん入っているのでサイドボードが何でも使えるといった特徴があります」
伊藤 「モダンの広いカードプールの中から最適なサイドカードを選択できるというのは非常に大きいですね」
■ 一般的なレシピとの違い
人見 「こちらがグランプリで優勝したリストになります」
1 《山》 3 《空僻地》 4 《ダークスティールの城塞》 4 《ちらつき蛾の生息地》 4 《墨蛾の生息地》 -土地(16)- 4 《羽ばたき飛行機械》 2 《メムナイト》 4 《信号の邪魔者》 4 《大霊堂のスカージ》 4 《電結の荒廃者》 3 《鋼の監視者》 2 《呪文滑り》 4 《刻まれた勇者》 -クリーチャー(27)- |
4 《感電破》 4 《オパールのモックス》 1 《溶接の壺》 4 《バネ葉の太鼓》 4 《頭蓋囲い》 -呪文(17)- |
3 《古えの遺恨》 2 《思考囲い》 2 《呪文貫き》 2 《鞭打ち炎》 2 《血染めの月》 1 《四肢切断》 1 《大祖始の遺産》 1 《墓掘りの檻》 1 《倦怠の宝珠》 -サイドボード(15)- |
伊藤 「このレシピの最大の特徴といえば何といってもメインに採用された《呪文滑り》だと思いますが、《鋼の監視者》の4枚目を差し置いてどうしてこのカードがメインに入っているんでしょうか?」
人見 「もともと【グランプリ・シャーロット2015でトップ8に入賞したリスト】に入っていたのを見たのがきっかけで、少しでも双子との相性を改善したかったので採用しました。《コラガンの命令》の『2点』と『アーティファクト破壊』を両方滑らせて1対1交換にできるのもポイントです。あとはモダンはとにかく除去が多い環境なので無駄にならないし、トロンの《解放された者、カーン》、アミュレットの《処刑者の要塞》、感染、親和ミラーなど、全く効果のない相手というのがほぼいなかった、というのもあります」
伊藤 「たしかに言われてみればそうですね。それに特に親和から《呪文滑り》が出てくるとなると、これで相手が少しでも減速ないし除去を撃つターンが遅れれば、それだけで致命傷になりえますからね」
伊藤 「他の部分については、正直親和は固定パーツが多くて逆に細かい枚数の差になると宗教論争みたいになりそうなイメージがあるんですが、たとえば《エーテリウムの達人》を採用せず《刻まれた勇者》4枚にしていることにはどんな理由があるんでしょうか?」
人見 「《エーテリウムの達人》はあらゆる除去ですぐ死ぬので、クロックとしてのブレが激しいんですよね。除去が一切入ってないコンボデッキ相手には最速のクロックとして無双しますが、《流刑への道》《突然の衰微》《終止》などで除去されてしまったときのテンポロスも半端ないので、色マナ要求によるキャストしにくさも加えると、ジャンドやグリクシスにも多く当たりうる現状のモダンでは《刻まれた勇者》の方が信頼できると思いました」
伊藤 「スペルの部分が《感電破》に統一されているのも興味深いところです。最初にあげたレシピのように《物読み》と散らす人も多いかと思いますが、これはどういった理由からでしょうか?」
人見 「やはり双子に勝ちたかったというのが一番の理由ですね」
伊藤 「では逆にどういったメタゲームのときに《物読み》を採用するべきなんでしょうか?」
人見 「双子が少なくなってジャンド/アブザン/グリクシスコントロールなどが隆盛したら、消耗戦を見越して《物読み》を入れた方がいいと思います」
伊藤 「《メムナイト》と《溶接の壺》の枚数、これは本当に宗教だと思うんですが、これについては『0マナアーティファクトは《オパールのモックス》との兼ね合いから一定数必要で、でも2枚引くとやばすぎるから3枚目を《溶接の壺》にしている』ということでいいんですかね?」
人見 「基本的にはそうですね。《メムナイト》が必要な相手は環境にほぼいませんが、メインでのブン回りに貢献するのと《バネ葉の太鼓》を安定して運用するために最低限入れている感じです」
伊藤 「あとは最近《信号の邪魔者》を全抜きした形 (【サンプル1】、【サンプル2】) も出てきているようなのですが、これについては実際どうなんでしょうか?」
人見 「どこに重きをおくか次第かと思います。これらのレシピの場合、《鋼の監視者》や《エーテリウムの達人》などのビッグカードを《溶接の壺》で場に残したいという意思が感じられますね。ただ《信号の邪魔者》がいなくなると『点と面』という親和の長所がかなり『点』寄りになるので、結局そうなると《鋼の監視者》や《エーテリウムの達人》の長所もうまく発揮されず、またキルターンも遅くなりそうなので、個人的には微妙かな、と思います」
■ 各主要デッキに対するサイドボーディング
伊藤 「主要なマッチアップでのサイドインアウトは、どういった感じになるんでしょうか?」
◎ 対 アブザンカンパニー
人見 「相性は五分五分ですね。相手はこちらが思っているより飛行生物と《信号の邪魔者》によるビートダウンが辛く、無限コンボを決めなければほぼ勝てません。こちらが注意すべきは《戦争の報い、禍汰奇》と《オルゾフの司教》だけなので、相手の最序盤の生物を除去して《召喚の調べ》のターンを遅らせたり、《感電破》を《戦争の報い、禍汰奇》に合わせるなど、最低限の妨害だけをしつつ殴りきるプランになります」
◎ 対 バーン
人見 「相性はこちらが6割以上で有利なマッチになります。脇の生物が潰されると機能しなくなる《信号の邪魔者》を抜き、有効牌に置き換えます。バーン側は《跳ね返す掌》をサイドインしてくることが多いので、《刻まれた勇者》に《頭蓋囲い》を装備して攻撃すると、たまに10点以上跳ね返されて負けることがあるので十分に注意してください」
◎ 対 ジャンド
人見 「相性は先手だとほんの少し有利になりますが、基本的には五分です。《感電破》はほとんどの生物を除去できず、《メムナイト》はすべてのカードで止まるのでサイドアウトします。ただし《魂の裏切りの夜》を貼られた場合のみ、蛾土地で勝ちきれなくなるので《感電破》を残すのもありです」
◎ 対 双子
人見 「《呪文滑り》を採っていますが、それでも相性は五分を少し切ります。除去が山ほど飛んでくる相手なので、《信号の邪魔者》はポテンシャルを発揮できません。また《詐欺師の総督》に一方的な交換をされてしまう《メムナイト》もお役御免です」
◎ 対 親和
人見 「本来であれば《信号の邪魔者》と《刻まれた勇者》はどちらも不要なカードですが、サイドの枠の都合上入れるものが少ないのでこうなります。《信号の邪魔者》は相手のあらゆるカードで止まりますが、並んだときの圧力と、展開力勝負でもあるので《刻まれた勇者》よりは仕事をしてくれます。勝負そのものは《古えの遺恨》と《感電破》ゲーで、《鋼の監視者》が生き残った方の勝ちというシンプルなゲームです」
◎ 対 グリクシスコントロール
人見 「基本的には《稲妻》《瞬唱の魔道士》《電解》《コラガンの命令》デッキで勝ち手段がコンボじゃないというだけなので、双子相手のサイドと変わりません。突然死がないので《刻まれた勇者》が安定したクロックとして活躍します。ただ、あまり時間をかけすぎると《汚損破》に辿りつかれてしまうので、その前に殴りきりましょう」
◎ 対 トロン
人見 「相性は先手後手で大きく変わりますが、総合的には五分を切ると思っています。メインボードは《墨蛾の生息地》にオールインして毒10個で勝つこともありますが、サイド後は《自然の要求》を増量されるので、そのプランは採りづらいです。『《紅蓮地獄》ケア』と『相手のトロンが揃う前に勝つ』という2つの要素をくぐり抜ける必要があるので、非常にタイトかつ難しいゲームになります。《血染めの月》は一見すると有効ですが、自身の蛾土地が起動できなくなりますし、相手は《血染めの月》を貼られても《彩色の星》《彩色の宝球》で色マナをある程度自由に出せるので僕は入れないことにしていました」
伊藤 「そういえば親和のサイドって大体1枚か2枚ばっかりなんですが、これってどうなんでしょう?ドローソースのないビートダウンだし3枚か4枚入れたいなーとか思わないんでしょうか?」
人見 「親和はメインで相手に干渉する手段が《感電破》しかないので、あらゆるマッチでサイドが必要になりますが、そうなったときにモダンの多様なデッキに対して様々な需要を満たすサイドを作るためには、少しずつカバー範囲をずらした汎用性の高いカードをちょっとずつ入れるしかないと考えています。大抵どっちかは入れる《思考囲い》と《呪文貫き》を『つなぎ』にして、あとは残りのカードのうちどれかは刺さるでしょ、みたいなイメージですね」
伊藤 「なるほど、そうすることで結局『どんなデッキに対してもサイド4枚は入れられる状態』を擬似的に実現しているわけですね」
■ まとめ、親和に興味がある人へ
伊藤 「最後に、このデッキに興味がある方にアドバイスなどあれば」
人見 「今は使わない方がいい。2匹目のどじょうは泳いでません」
伊藤 「またこのパターンかw じゃあいつ使えばいいんでしょうか?」
人見 「大きな大会で親和が勝ってないときですね。白いデッキはMOには少ないけどリアルには様々な理由で白いデッキがいるし、親和は一度目立つとしばらくの間は意味もなく過剰に対策してくる人もいるから、『そういえば親和しばらく勝ってないなー』と思うくらいのときが使いどきかと」
伊藤 「ありがとうございました」
※人見さんが親和を選択した理由やグランプリ本戦のレポートについては、他サイト様の方で素晴らしい記事があがっておりますので、よろしければそちらもご参照ください。
人見 将亮のグランプリシンガポール優勝レポート (Dig.cards)
「モダンの達人」シリーズ目次
vol.1 -アブザンカンパニー-
vol.2 -バーン-
vol.3 -ジャンド-
vol.4 -双子-
vol.5 -親和- (今回)
vol.6 -グリクシスコントロール-
vol.7 -トロン-
vol.1 -アブザンカンパニー-
vol.2 -バーン-
vol.3 -ジャンド-
vol.4 -双子-
vol.5 -親和- (今回)
vol.6 -グリクシスコントロール-
vol.7 -トロン-
この記事内で掲載されたカード
Twitterでつぶやく
Facebookでシェアする