津村健志のプロツアー『マジック・オリジン』レポート ~調整編~

津村 健志


こんにちは!

先週末に【昨シーズン最後のプロツアー】が終了したので、今回はそのレポートをお届けいたします。

今回はいつもとは少し趣向を変えて、「調整編」「実戦編」とで分けてみました。

この「調整編」は、概ね出発前(7月29日)に書き上げたものなので、反省の意味も込めて、ほとんどそのまま掲載しようと思った次第です。

いつもは調整記が長くて本戦後の反省が少なめなので、今回は反省点もしっかり記載したいと思います。

お時間のある方は、【実戦編】もぜひご覧ください。



■ ドラフト


ドラフトは例によって【菊名合宿】でみっちりと。

今回は2勝1敗×3と好調なスタートを切りました。(いつもはだいたい1勝2敗×たくさんのスタートです)

しかしながら、回を重ねるごとに勝率は悪化していき、最終的には【15勝18敗】でフィニッシュ。今回こそは勝ち越したかったなーと思いつつも、【悪魔の契約】【大オーロラ】といったレアを試せたり、どういった形のデッキが勝ちやすいか分かったのは大きな収穫でした。

ちなみに上記レア2枚の評価ですが、個人的には両方強いと思います。


悪魔の契約大オーロラ


前者の《悪魔の契約》は、《悟った苦行者》のある白か、《苛性イモムシ》のある緑と組み合わせたい1枚。自分で対処方法を用意する必要こそありますが、それに見合うだけの強力なカードだと思います。

後者の《大オーロラ》は、少し特殊なカードですが、かの悪名高き《激動》を彷彿とさせるリセット呪文。9マナと重いものの、《大オーロラ》を序盤に確保できたなら、《ニッサの巡礼》をかき集めれば問題なく運用することができます。可能であれば《ニッサの巡礼》は3枚ほしいですね。

あとは軽いところが重要だとか、除去は強いだとか、多色のアンコモンクリーチャーは流さないだとか、当たり前のことを確認して終了。

参加者のみなさん、そしていつも合宿を開催してくれる中村夫妻に感謝です。

【菊名合宿】の経験をもとに、この環境では絶対にコントロールは組まないと決心して、その後は主にMagic Online(以下MO)で調整を重ねました。

今回から始めた試みとして、起床後すぐにドラフトする調整法を取り入れてみました。

大したことではありませんが、プロツアーは初日・2日目ともにドラフトから始まります。プロツアーのときはだいたい起床後2時間後くらいにドラフトが始まるので、寝起き直後でも万全のドラフトができるようにという意図でやってみたんですが、そこそこ役に立ったと思います。

どの道1日に1回以上のドラフト練習はしますし、これは次回以降も続けようと思ってます。



■ スタンダード


『マジック・オリジン』でスタンダードに最も大きなインパクトを与えたカードは、《衰滅》です。


衰滅


これまでのスタンダード環境になかった4マナの全体除去は、多くのデッキに多大な被害をもたらしました。例えば「赤緑ドラゴン」だったり、「マルドゥ(赤黒白)・ドラゴン」などのデッキは、《衰滅》が環境にあるだけで選ぶ理由がなくなってしまったと思うくらいです。


雷破の執政嵐の息吹のドラゴン


ただし、こういった劇的なカードの登場は、メタゲームの予想をより一層困難なものにしてしまいます。調整を終えた段階でも、プロツアーのメタゲームが下記のうちどれになるか、全く予想が付きませんでした。


1:《衰滅》が強い環境
(※「赤緑ドラゴン」や「マルドゥ・ドラゴン」など、《衰滅》に弱いデッキがたくさんいる)

2:《衰滅》に弱いデッキが淘汰された環境
(※《衰滅》に弱いデッキが環境にいないため、《衰滅》が抜ける)

3:《衰滅》が抜けたことにより、《衰滅》に弱かったデッキが復権した環境


これはあまり深く考えても仕方がないので、3まで進むことはないだろうと思って調整を始めることにしました。自分が《衰滅》に弱いデッキで出る勇気もなかったこともあり、調整の結果で仮に《衰滅》が抜けるようなことがあろうとも、《衰滅》に弱いデッキを選ぶプレイヤーは極僅かだろうと予想しました。

調整を始める前の雑感はこんな感じだったので、テーマとしては《衰滅》を無視できるデッキ、または《衰滅》を使った最強のデッキを作ることでした。


最初に作ったデッキは、「青黒コントロール」、「ナヤ(緑白赤)・ビッグマナ」、《悪魔の契約》入りの「アブザン・アグロ」の3つです。

「青黒コントロール」は《衰滅》を最も上手く活用できるデッキのひとつで、「ナヤ・ビッグマナ」はマナクリーチャーではなく、《ニッサの巡礼》《爆発的植生》でマナ加速をするため、《衰滅》を無視できるデッキです。

「アブザン・アグロ」を作った理由は、《ドロモカの命令》が4枚入っているので《悪魔の契約》を上手く使えること、そして《衰滅》がどれくらいひどいカードなのか身をもって証明するためです。


ドロモカの命令悪魔の契約


こう書くと冗談のように聞こえるかもしれませんが、本当に《衰滅》が環境を定義するほどのカードなのか、それをはっきりさせることは非常に重要なので、こういったデッキを作ることは必要不可欠だと思います。

これらのデッキは叩き台としてはまずまずだったものの、仕事が一段落するのが7月22日だったので、ひとまずはプロツアーの前哨戦と評される【StarCityGames Open Chicago】(7月18日~19日開催)の結果を待つことに。

ここで勝ち組となったデッキが、前環境の王者である「緑信心タッチ赤」でした。《衰滅》に弱いデッキだと思っていたので驚きましたが、調整を進めるにつれ、「緑信心タッチ赤」は《衰滅》を乗り越えられる強さを持ち合わせていることが分かりました。


世界を喰らう者、ポルクラノス囁きの森の精霊歓楽者ゼナゴス


安定して4~5ターン目に《龍王アタルカ》を出せることもあり、このデッキは間違いなくプロツアー本戦でも多いデッキだと再確認。


龍王アタルカ


ここまでは【スタンダード・アナライズ】に記載した通りですが、個人的に注目していたのは5位に入賞していた【「アブザン・コントロール」】でした。

「アブザン・コントロール」は新環境でも間違いなくメタゲームの中心のデッキですし、なんと言っても【僕は「アブザン・コントロール」が大好き】だからです。



Bruce Edelman「アブザン・コントロール」
StarCityGames Open Chicago (5位)

4 《森》
1 《平地》
4 《吹きさらしの荒野》
4 《砂草原の城塞》
4 《疾病の神殿》
4 《静寂の神殿》
2 《ラノワールの荒原》
2 《コイロスの洞窟》
1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》

-土地(26)-

2 《棲み家の防御者》
4 《クルフィックスの狩猟者》
3 《巨森の予見者、ニッサ》
4 《包囲サイ》
2 《黄金牙、タシグル》

-クリーチャー(15)-
4 《思考囲い》
1 《究極の価格》
4 《アブザンの魔除け》
4 《英雄の破滅》
3 《衰滅》
3 《太陽の勇者、エルズペス》

-呪文(19)-
3 《羊毛鬣のライオン》
2 《アラシンの僧侶》
2 《究極の価格》
2 《ドロモカの命令》
1 《強迫》
1 《完全なる終わり》
1 《真面目な訪問者、ソリン》
1 《命運の核心》
1 《世界を目覚めさせる者、ニッサ》
1 《精霊龍、ウギン》

-サイドボード(15)-
hareruya



このリストはきれいな構成で、新環境の「アブザン・コントロール」のお手本になるリストだと思いましたが、実際に使ってみて、あまり好きになれない点がありました。それは《棲み家の防御者》《巨森の予見者、ニッサ》です。


棲み家の防御者巨森の予見者、ニッサ


誤解のないように明記しますが、この2種類は非常に強力です。どちらもゲームを決定付けるほどのカードパワーがあり、遅いマッチアップではこれほど以上ないほど頼りになります。

ですが、これらのカードが輝くのは「アブザン・コントロール」ではない、というのが個人的な見解です。

その理由は、「アブザン・コントロール」の軽量カードの少なさに起因しています。「アブザン・コントロール」の2マナ以下のアクションは、《思考囲い》と少量の除去カード(《究極の価格》《胆汁病》など)のみです。もしも1~2ターン目にそれらのアクションが取れない場合、3ターン目のアクションは、ゲームの行方を左右するほど重要になります。


思考囲い


3ターン目には、対戦相手に対処を迫る《クルフィックスの狩猟者》か確定除去くらいのアクションはしないと、そのまま負けてしまうゲームは多いですし、3マナ2/2では、強力なカードがひしめくスタンダードの「初動」として許容できないというのがこのリストを使ってみた感想でした。

もちろん、その初動の遅さをカバーするのが《衰滅》の役割であり、前述の通りとてもきれいなリストではあるんですが、個人的には軽いカードを増やす方が好みでした。


究極の価格胆汁病


そこから軽いカードを増やしてみたり色々と試行錯誤を重ねましたが、「菊名合宿・構築編」で0勝5敗を喫するなど、散々な結果に。「アブザン・大変異」も試しましたが、こちらも上手くまとまらなかったので、今回は「アブザン・コントロール」と「アブザン・大変異」は使えないかなと思ったところで練習も終盤に差し掛かりました。

この時点では、【行弘(賢)君が考案した「緑白ビートダウン」】の完成度が高く、みんなでそれを使わせてもらおうかなと話していましたが、そんな中で開催された【StarCityGames Open Richmond】で、驚きの結果が待ち受けていました。

以前から話題になっていた【先祖の結集コンボ】デッキの新型が登場したのです。


先祖の結集




Ray Tautic「アブザン・ラリー」
StarCityGames Open Richmond (優勝)

2 《平地》
1 《森》
4 《吹きさらしの荒野》
4 《砂草原の城塞》
1 《疾病の神殿》
4 《ラノワールの荒原》
3 《マナの合流点》
1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》

-土地(20)-

4 《エルフの神秘家》
4 《サテュロスの道探し》
3 《棲み家の防御者》
4 《異端の癒し手、リリアナ》
4 《死霧の猛禽》
3 《モーギスの匪賊》
3 《不気味な腸卜師》
3 《無慈悲な処刑人》
2 《肉袋の匪賊》
2 《ナントゥーコの鞘虫》

-クリーチャー(32)-
4 《先祖の結集》
4 《集合した中隊》

-呪文(8)-
3 《アラシンの僧侶》
3 《先頭に立つもの、アナフェンザ》
2 《ドロモカの命令》
2 《悲哀まみれ》
2 《英雄の破滅》
1 《再利用の賢者》
1 《肉袋の匪賊》
1 《残忍な切断》

-サイドボード(15)-
hareruya



このデッキを見たときの衝撃は相当なものでした。

《無慈悲な処刑人》《肉袋の匪賊》によるボードコントロール。


無慈悲な処刑人肉袋の匪賊


《棲み家の防御者》《不気味な腸卜師》《死霧の猛禽》による粘り強さ。


棲み家の防御者不気味な腸卜師死霧の猛禽


《集合した中隊》による爆発力。


集合した中隊


このリストはコンボデッキの良さを残したまま、実に多くのギミックが盛り込まれています。特に《集合した中隊》の威力は生半可なものではなく、《異端の癒し手、リリアナ》《無慈悲な処刑人》or《肉袋の匪賊》を導くことができれば、圧倒的な優位を築くことができます。


異端の癒し手、リリアナ


このデッキを見るまでは、《異端の癒し手、リリアナ》はスタンダードで真価を発揮できるか未知数でしたが、このリストを見て《異端の癒し手、リリアナ》はスタンダードでも活躍できると確信しました。

というわけで、【StarCityGames Open Richmond】の結果を確認した直後にMOで《異端の癒し手、リリアナ》を購入し、急いで調整を開始。

実際に使用してみると、このデッキは「アブザン」系のデッキの中で最高のデッキだと思うほどに強かったです。《異端の癒し手、リリアナ》《無慈悲な処刑人》or《肉袋の匪賊》の組み合わせは予想以上に極悪で、対戦相手のクリーチャーを全滅させることもしばしば。

各マッチアップの感想としては、「アブザン・コントロール」と「アブザン・大変異」には超が付くほど有利で、《神聖なる月光》のような特殊な対策手段がなければ負けることはまずないと思いました。大量の《無慈悲な処刑人》たちのおかげで、《先頭に立つもの、アナフェンザ》を楽に対処できるのもこのリストの良いところですね。


先頭に立つもの、アナフェンザ


他のデッキに対してはこれと言って有利と言えるほどではないですが、本戦でも多いであろう「アブザン」系のデッキに強いこと、そしてタイミング的に多くの人がこのデッキと練習しないであろうことは、このデッキの大きな強みだと感じました。

このデッキは盤面が強く、クリーチャーの種類もばらけているため、事前の予想よりも《神聖なる月光》《無限の抹消》を苦にしない点も嬉しい誤算でした。


神聖なる月光無限の抹消


逆に不利なデッキとして挙げられるのは、赤系のデッキと、コンボに特化した【先祖の結集コンボ】デッキです。

「赤単」は《ドラゴンの餌》《軍族童の突発》など、《無慈悲な処刑人》《肉袋の匪賊》を無効化するカードが多いだけでなく、軽いカードの多さゆえにメインボードは相当に相性が悪いと思いました。


ドラゴンの餌軍族童の突発乱撃斬


トークン対策に《苦痛の公使》も考えましたが、「赤単」系はそもそもそんなに数がいないだろうということで却下に。


苦痛の公使


ミラーマッチはお互いが黒いクリーチャーを戦場か墓地にある状態で《先祖の結集》を構えていると、《ナントゥーコの鞘虫》《モーギスの匪賊》で勝てなくなるので、仮に対戦相手のみ《ナントゥーコの鞘虫》以外の勝ち手段(《鍛冶の神、パーフォロス》など)を用意しているとほぼ自動的に負けてしまいます。


鍛冶の神、パーフォロス


また、《ナントゥーコの鞘虫》が止まってしまい、《無慈悲な処刑人》たちが無効化されてしまう《搭載歩行機械》もこのデッキの天敵でした。


搭載歩行機械


ただし、ミラーマッチも《搭載歩行機械》もサイドボードの《先頭に立つもの、アナフェンザ》で対抗できたので、あまり深刻に捉えず本戦に挑むことにしました。

カードとしては、《悪夢の織り手、アショク》なんかも苦手としていましたが、環境初期は青いデッキを上手く組み上げるのが難しいため、ほとんどいないだろうということでこれも無視することにしました。


悪夢の織り手、アショク


最後に、このデッキの懸念材料として2マナ以下のカードが少ないことが挙げられます。「アブザン・コントロール」の項目でもお伝えした通り、2マナ以下のアクションは非常に重要です。

《集合した中隊》での巻き返しが期待できるデッキとは言え、後手だと3ターン目スタートの手札は許容できないことがほとんどなので、2マナのカードの枚数はマリガンの回数にも影響を及ぼしてしまいます。

そのため、《森の女人像》を入れることは比較的早い段階で検討していました。


森の女人像


このカードは一見《集合した中隊》で出すクリーチャーとして「外れ」と思われがちですが、このデッキに関して言えばそんなことはありません。3マナのカードが多いこのデッキにとって、4マナから6マナへのジャンプアップには、アクションの増加という大きな意味合いがあるからです。

《棲み家の防御者》を全て《森の女人像》にしてしまうと、目に見えて長期戦に弱くなってしまうので悩みましたが、最終的には1枚だけ《森の女人像》に変更しました。

他には《反抗する屍術師、リリアナ》の「-X」能力と抜群に相性の良い《シディシの信者》の採用も検討しましたが、プロツアーは長期戦なので安定性を重視して採用は見送りに。


シディシの信者

《精神を刻む者、ジェイス》もびっくり……?


そんなこんなで、最後は駆け足での調整となりましたが、若干のマイナーチェンジを加えたのが下記リストです。



津村 健志「アブザン・ラリー」
プロツアー『マジック・オリジン』

2 《平地》
1 《森》
4 《吹きさらしの荒野》
4 《砂草原の城塞》
2 《疾病の神殿》
4 《ラノワールの荒原》
3 《マナの合流点》
1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》

-土地(21)-

4 《エルフの神秘家》
4 《サテュロスの道探し》
2 《棲み家の防御者》
1 《森の女人像》
4 《異端の癒し手、リリアナ》
4 《死霧の猛禽》
3 《不気味な腸卜師》
3 《無慈悲な処刑人》
2 《肉袋の匪賊》
2 《モーギスの匪賊》
2 《ナントゥーコの鞘虫》

-クリーチャー(31)-
4 《先祖の結集》
4 《集合した中隊》

-呪文(8)-
3 《アラシンの僧侶》
3 《先頭に立つもの、アナフェンザ》
2 《ドロモカの命令》
2 《悲哀まみれ》
2 《英雄の破滅》
1 《再利用の賢者》
1 《肉袋の匪賊》
1 《残忍な切断》

-サイドボード(15)-
hareruya



だいぶ長くなってしいましたが、出発前に書いていた「調整編」はこんな感じです。

もう一方の【実戦編】では、本戦のレポートと、反省点をお届けしています。

お時間のある方は、そちらもよろしくお願いいたします!


コガモ


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