企画の経緯については【vol.1】を参照願いたい。というわけで、この記事はモダンのPPTQを優勝した各アーキタイプの達人たちにインタビューし、そのデッキについて教えてもらう、というものだ。
早速始めていこう。第6回目となる今回は、【グリクシスコントロール】を紹介する。
ゲストはこの方だ。
伊藤 「というわけで、井上 徹(福岡)さんにお話を伺いたいと思います」
井上 「よろしくお願いします」
伊藤 「井上さんは【The Limits2010】で優勝した経験があるほか、プロツアー出場経験も多数あるという実力者です。しかも来季の1つ目のプロツアーとなるプロツアー『戦乱のゼンディカー』の出場権は【MOPTQ】を突破して獲得済みということで、今の目標としてはやはりプロツアートップ8というところでしょうか?」
井上 「プロツアーは二桁いかないくらいの回数は出ていますが、これまで最高成績はX-6とかなので、ひとまずシーズンの全部のプロツアーに出られるよう、プロポイントを集めてゴールドレベル・プロになりたいところですね」
伊藤 「プロツアーでの活躍、期待してます。それでは、井上さんがPPTQで使用したグリクシスコントロールというデッキについてお話を伺いたいと思います」
■ グリクシスコントロールとは?
井上 「以下がグリクシスコントロールの一般的なレシピになります」
3 《島》 1 《山》 1 《沼》 2 《蒸気孔》 2 《湿った墓》 4 《汚染された三角州》 4 《沸騰する小湖》 2 《硫黄の滝》 2 《忍び寄るタール坑》 -土地(21)- 4 《瞬唱の魔道士》 2 《黄金牙、タシグル》 3 《グルマグのアンコウ》 -クリーチャー(9)- |
4 《血清の幻視》 4 《思考掃き》 4 《稲妻》 2 《呪文嵌め》 1 《払拭》 4 《終止》 2 《マナ漏出》 1 《差し戻し》 1 《疑念の影》 2 《コラガンの命令》 1 《電解》 4 《謎めいた命令》 -呪文(30)- |
4 《大爆発の魔道士》 2 《払拭》 1 《呪文滑り》 1 《イゼットの静電術師》 1 《叫び大口》 1 《嵐の神、ケラノス》 1 《瞬間凍結》 1 《対抗突風》 1 《殺戮》 1 《滅び》 1 《殴打頭蓋》 -サイドボード(15)- |
伊藤 「このデッキが登場した経緯としましては、《宝船の巡航》が使えていた時期の青赤デルバーが、禁止改定と『運命再編』の参入により《宝船の巡航》の代わりに『探査』クリーチャーを採用したグリクシスデルバーとなっていたところ、Patrick Chapinが《秘密を掘り下げる者》を抜いたコントロール形を示して実際に活躍したことで一躍有名となった、というところだと思いますが、そもそも何故《秘密を掘り下げる者》を抜くというアプローチが有効なんでしょうか?」
井上 「やはりモダンにおいて幅を利かせている除去は主に《稲妻》と《突然の衰微》になりますから、それらに対して《秘密を掘り下げる者》が弱かった、というのがあると思います。そこでむしろそれらを抜いて当てどころをなくしてしまうことで、対戦相手の手札のカードを腐らせることが可能になります」
伊藤 「たしかにこのデッキに対して《稲妻》は《瞬唱の魔道士》くらいしか当てどころがありませんね」
井上 「その《瞬唱の魔道士》も《コラガンの命令》で回収しておいしいクリーチャーですから、実質まったく効かないようなものです」
伊藤 「他にこのデッキはモダンにおいてどのような強みがあるんでしょうか?」
井上 「とにかく隙を作らないので、相手からしたら相当やりにくいと思います。ソーサリータイミングのカードは《血清の幻視》と『探査』クリーチャーくらいで、どちらも1マナでプレイできるので、《マナ漏出》《呪文嵌め》《終止》など、序盤の少ないマナのうちから終盤まで、常にリアクションスペルを構えたまま行動できるのが強みです」
伊藤 「たしかにモダンは強力なオールインデッキが多いですから、コントロールが勝つためには常に除去やカウンターを構え続けている必要がありそうですね」
井上 「そのためにもスペル全体を軽くする必要が出てきますが、そうなるとカードパワーの不足が天秤にかけられがちです。ところが《黄金牙、タシグル》《瞬唱の魔道士》《コラガンの命令》など、軽くてもアドバンテージがしっかり取れるカードを採用しているので、軽いスペルばかりのデッキでありながら長期戦も戦えるというのが魅力です」
伊藤 「《瞬唱の魔道士》と《コラガンの命令》とのシナジーは詐欺臭いですよね。このデッキの活躍の裏には、モダンにどこまでもフィットしている《コラガンの命令》の登場が間違いなくあると思います」
井上 「そうですね。モダンではメタゲームに常に【親和】がいるので、それに対する対策をナチュラルに採用できるのは大きいです。それとも関連しますが、デッキが多様なモダンにおいてもなお非常に弱点が少ないデッキとして成立している、というのがこのデッキの一番の強みかもしれません」
伊藤 「クリーチャーには除去と《瞬唱の魔道士》、オールインコンボにはカウンターと《瞬唱の魔道士》、コントロールには『探査』クリーチャーによるプレッシャー、そしてその全ての動きに対して《コラガンの命令》《謎めいた命令》という2種の命令が一貫性を担保するという、まさしく理想的なコントロールですよね」
井上 「全く弱点がないというわけでもないんですけどね。ただ攻防一体の呪文が多いので、とにかくゲームスピードをコントロールしやすいんですよね。相手が動かないときに自分から攻めたりすることもできるので、すごく器用なデッキだと思います」
■ 一般的なレシピとの違い
井上 「こちらが、PPTQを抜けた後に少し調整した、僕が現在使用しているリストになります」
2 《島》 1 《山》 1 《沼》 4 《汚染された三角州》 4 《沸騰する小湖》 2 《血染めのぬかるみ》 1 《蒸気孔》 1 《血の墓所》 1 《湿った墓》 2 《水没した地下墓地》 2 《硫黄の滝》 -土地(21)- 4 《瞬唱の魔道士》 2 《黄金牙、タシグル》 3 《グルマグのアンコウ》 -クリーチャー(9)- |
4 《血清の幻視》 4 《思考掃き》 4 《稲妻》 4 《コジレックの審問》 2 《頑固な否認》 2 《呪文嵌め》 1 《払拭》 1 《信仰無き物あさり》 4 《終止》 4 《コラガンの命令》 -呪文(30)- |
4 《大爆発の魔道士》 2 《呪文滑り》 2 《払拭》 2 《対抗突風》 2 《紅蓮地獄》 2 《神々の憤怒》 1 《嵐の神、ケラノス》 -サイドボード(15)- |
伊藤 「ぱっと見で違う部分としては、2マナカウンターをとっていないのと、メインにハンデスをとっている点、それから《謎めいた命令》の不採用ですかね。これらの点について、ぜひ理由をお聞かせ願いたいです」
井上 「まず全体的な構築思想として、一度に2つ以上のアクションがとりやすいようにしたかったというのがあります。やはりモダンで勝つには自分のデッキのぶん回りが欲しいので、相手のアクションを妨害しつつ自分の手を進めるという複数行動の機会はなるべく多くしたいですね。その点2マナのカウンターは後手番で撃ちづらいので手札に腐りやすく、また『探査』クリーチャーのプレイターンに構えるのが多少難しいので、より軽いものに差し替えました」
伊藤 「ということはメタゲームがどうとかいうよりは、コンセプトを最適化させた結果こういう形になったと。たしかに《タルモゴイフ》などを先に出されてしまうと2マナカウンターは途端に頼りなくなりますからね」
井上 「その点ハンデスはカウンターと違って能動的な1マナ呪文として墓地を肥やせるのと、双子や同型戦で手札の情報を得つつ《瞬唱の魔道士》を抜いて差を付けられるので、かなり気に入ってます」
伊藤 「《謎めいた命令》に関してはいかがでしょう?」
井上 「やはり21枚とかなり土地が少ないデッキなので、単純に4マナが出づらいんですよね。2枚以上引いて手札に溜まって負けるパターンが多い。そこで『いっそ《コラガンの命令》を4積みにしたらどうか』と思って試してみたら、思った以上に好感触なのでこの形にしています。このデッキの《コラガンの命令》は、1枚目は割と適当に撃っちゃいますね。『クリーチャーに2点+ディスカード』とかでも十分強力です」
伊藤 「やはり能動的に動くことで墓地を肥やしていきたいということなのでしょうか」
井上 「そうですね。とにかく『探査』クリーチャーを出さないと始まらないので、《思考掃き》を引かなくても《グルマグのアンコウ》や《黄金牙、タシグル》が簡単にプレイできるよう、重いカードや受け身のカードはなるべく減らしたいというのもあります」
伊藤 「それにしても《信仰無き物あさり》は大丈夫なんでしょうか?墓地は肥えるとはいえ、手札は減ってしまいますが」
井上 「それを差し引いても、2ターン目に『探査』クリーチャー出せるというのは代えがたいメリットなので、『5枚目の《思考掃き》』みたいな感じで1枚だけ採用しています」
伊藤 「あとはマナベースも《忍び寄るタール坑》を採用していない上に、ギルランも少なめですよね。これは何故なんでしょうか」
井上 「とにかくタップインが嫌いなんですよね。せっかく複数回行動のためにスペルを軽くしているのに、土地で撃てなかったら元も子もないので。ギルランに関しては、やはりモダンの定番デッキでこのデッキが苦手とする【バーン】との相性を少しでも改善したいので限界まで削っています。たまに《思考掃き》で落ちちゃうこともありますが、背に腹は代えられないですね」
伊藤 「あとはサイドボードですが、パイロ系が多いですね。それと《対抗突風》はよく撃ちづらさが問題になりますが、やはり《否認》よりはこちらの方がいいんでしょうか?」
井上 「主にMOでまわしているデッキなので、MOで多いエルフ《集合した中隊》デッキを強めにメタった結果、全体除去を多めにとっています。《対抗突風》については、たしかに撃ちづらくはありますが、それ以上にこのデッキにとって『2点』詰められることの恩恵が大きいので、そこには目をつぶっています」
伊藤 「あとは通常《ドラゴンの爪》や《死の影》がとられているバーン対策スロットが、井上さんの場合ないですね」
井上 「通常のグリクシスコントロールよりは動きが軽くて腐るカードも少なめになっているので、もともとわりと戦えるというのもありますが、何よりいずれにせよ専用サイドになる上に、3枚程度サイドをとっても不利は覆らないので、開き直っています」
伊藤 「この形だと通常の形に比べてどのマッチでどのように有利不利が変わるんでしょうか?」
井上 「盤面をベースにした長期戦になりやすく、《謎めいた命令》のカードパワーが必要になる【ジャンド】(とアブザンジャンク)戦以外は、通常の形よりもこの形の方が戦いやすいと思います」
■ 各主要デッキに対するサイドボーディング
伊藤 「主要なマッチアップでのサイドインアウトは、どういった感じになるんでしょうか?ちなみに《信仰無き物あさり》が全マッチで抜けるものと勝手に予測しているんですが」
井上 「さすがに全部は抜けないですよ。半分くらいは抜けますがw」
◎ 対 アブザンカンパニー
井上 「あまり対戦した経験はないですが、通常よりも全体除去が多めに入っているので、サイド後は有利に立ち回れると思います。ただ『探査』クリーチャーで盤面を支えるので、《コラガンの命令》で回収もできなくなる《流刑への道》はかなり厳しいですね」
◎ 対 バーン
井上 「こちらは土地からのダメージが痛く、しかも一度減ったライフを取り戻す手段がほぼないに等しいので、かなり厳しいマッチになります。《グルマグのアンコウ》に火力を使ってくれると多少は楽になりますが、それでも不利は否めませんね。あまりに厳しすぎて最近は《吸血の絆》なんかがサイドにとられている形もあるようで、試す価値はあるかもしれません」
◎ 対 ジャンド
井上 「《大爆発の魔道士》をひたすら《コラガンの命令》で回収し続ける地味な嫌がらせが基本になります。《ヴェールのリリアナ》の忠誠値を増やされると厳しいので、《グルマグのアンコウ》や《黄金牙、タシグル》を出して『-2』能力を使ってもらい、《コラガンの命令》の『本体2点+墓地回収』でカードカウント面で損をせずに打ち落とすプレイングが有効です」
◎ 対 双子
井上 「《稲妻》を残すかどうかは相手の形にもよりますね。もし緑をタッチしているようなら、《高原の狩りの達人》もあるので数枚残すことも考えられます。ひたすら隙を見せたくないので《嵐の神、ケラノス》もサイドインしません。このマッチは長期戦になりがちでかなりの忍耐が求められるので、《僻地の灯台》を置かれると厳しいですね」
◎ 対 親和
井上 「ひたすら捌いて勝つパターンが主になるので、壁にしかならない《グルマグのアンコウ》よりは捌きにも使える《嵐の神、ケラノス》の方が役に立ちます。《刻まれた勇者》は厳しいですが、こちらも《コラガンの命令》を4枚とっていてメインからも全然拾えるマッチなので、比較的戦いやすい相手ですね」
◎ 対 グリクシスコントロール
井上 「ひたすら消耗戦になります。相手の《コラガンの命令》にだけ気をつけて、リソースを削っていきましょう。こちらの方が手札破壊がある分、《瞬唱の魔道士》さえ落としてしまえば動きやすくなるはずです。ですが長期戦となるので、相当な忍耐が必要となることには変わりがありません」
◎ 対 トロン
井上 「抜くものが多すぎて《嵐の神、ケラノス》も入れざるをえません。相性もよくはないですね。ただ通常のグリクシスよりは、簡単にケアされがちな《マナ漏出》の代わりに《コジレックの審問》が入っているので、まだまともに立ち回れます。また、このマッチは《頑固な否認》が頼もしいですね」
伊藤 「やっぱり《信仰無き物あさり》はほとんど抜けてるじゃないですか!w」
井上 「あれ、そうですねw まあアドバンテージを犠牲にしてメインのぶん回りを強化するカードなので、捌く側に回りがちなサイド後は致し方ないかと」
■ まとめ、グリクシスコントロールに興味がある人へ
伊藤 「最後に、このデッキに興味がある方にアドバイスなどあれば」
井上 「何度も書いてますが、我慢強い人向けだと思います。《稲妻》で捌かれないクロックパーミッション的な動きができるというと聞こえはいいですが、相応の下準備も必要ですし、基本的には相手にアクションを先行されるのが前提のデッキですので」
井上 「あと土地を置く順番と探す順番にはかなり気をつけた方がいいですね。手札と相談して、きちんと複数アクションがとれるように土地を持ってこないと、『探査』で複数アクションをとりやすくしている意味がなくなってしまうので」
伊藤 「ありがとうございました」
「モダンの達人」シリーズ目次
vol.1 -アブザンカンパニー-
vol.2 -バーン-
vol.3 -ジャンド-
vol.4 -双子-
vol.5 -親和-
vol.6 -グリクシスコントロール- (今回)
vol.7 -トロン-
vol.1 -アブザンカンパニー-
vol.2 -バーン-
vol.3 -ジャンド-
vol.4 -双子-
vol.5 -親和-
vol.6 -グリクシスコントロール- (今回)
vol.7 -トロン-
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