いきなりだが問題を出そう。
『マジック・オリジン』ドラフトの初手でこのパック、あなたは何を取る?
《牢獄の管理人、ヒクサス》? いいだろう、あなたはマジョリティに属する堅実派だ。
《勇者の選定師》か《魂裂き》? よかろう、あなたは私とは違うけれども確固たる宗派をお持ちのようだ。
《ジェイムデー秘本》? 変態か?
……だが私の考えは、そのどれとも違う。
私のピックは、これだ。
《フェアリーの悪党》。
理解ができないのなら、あなたはこの記事の読者として最適だ。
というわけで、この記事は『マジック・オリジン』×3ドラフトにおけるソリューション的アーキタイプ、「青黒ジャッカル」について解説するものだ。
『マジック・オリジン』ドラフトの新しい一面を体験したいという方は、ぜひこの記事を読んでみて欲しい。
■ 1. 「青黒ジャッカル」とは?
「青黒ジャッカル(※)」とは、『マジック・オリジン』ドラフトにおける1マナクリーチャーを最重要視した青黒のアーキタイプを指す。
(※ ちなみに「ジャッカル」とは《ジャッカルの使い魔》のことで、M10ドラフトにおいてこれを集めるドラフト戦略があったことと、《結束した構築物》の能力がこれに似ていることに由来する)
なぜ青黒なのかというと、『マジック・オリジン』における青黒というカラーリングは、実用的な1マナ域のアタッカーを最も多く採用できる組み合わせだからだ。
「え、こいつら実用的なの?」と思われるかもしれないが、ひとまずその疑問は横に置いてもらう。
次に、「青黒ジャッカル」の基本形を理解してもらうため、実際にドラフトした「青黒ジャッカル」のサンプルレシピをいくつかご覧いただこう。
このように見ていけばわかるように、「青黒ジャッカル」の定型は以下のようなものだ。
◆ 「青黒ジャッカル」の定型
・土地は16枚
・クリーチャーのマナカーブは、まず1マナ域が6~10枚
・2マナ域は薄く、3マナ域は6枚程度、4マナ域は2枚程度、5マナ域は1枚程度
・クリーチャーは18~20枚、スペルは4~6枚 ・スペルは全体的に軽め
・土地は16枚
・クリーチャーのマナカーブは、まず1マナ域が6~10枚
・2マナ域は薄く、3マナ域は6枚程度、4マナ域は2枚程度、5マナ域は1枚程度
・クリーチャーは18~20枚、スペルは4~6枚 ・スペルは全体的に軽め
さて、ここまでで「『青黒ジャッカル』とは何か」については大体おわかりいただけたことだろうと思う。
だが、そのような「青黒ジャッカル」なるアーキタイプがあるとして。
それは「緑白高名」や「赤白アグロ」、「緑黒エルフ」などの一級アーキタイプたちを差し置いて狙う価値がはたしてあるのだろうか?
答えは「ある」だ。
次以降の段落では、その理由を説明していこう。
■ 2. なぜ「青黒ジャッカル」を狙うべきなのか?
まず「青黒ジャッカル」を狙うべき理由の1つとして、カードの圧倒的な安さ (流れてきやすさ) がある。
なぜカードが安いのか。
それは、『マジック・オリジン』ドラフトにおいて青黒というカラーリングは超絶に不人気だからだ。
『マジック・オリジン』ドラフトにおいて、一般的に初手でピックしてまあ許せるコモンといえば、順不同だが、以下のようなカードたちが挙げられるだろう。
このように、「点数が高いコモンの枚数」では白と赤に軍配が上がる。
また、リミテッドはクリーチャーが主体となるゲームであるところ、「クリーチャーの性能」に関しては、「高名」クリーチャーを持つ白と赤と緑が勝っていることは言うまでもない。
これらの事実からして、青と黒に関しては、「初手での参入のきっかけが相対的に少ない」「クリーチャー面で劣位にあるためメインカラーとして選択しづらく、1パック目で (その色をガメるなどの) 軸色になりづらい」ことから、自然の摂理として、「青と黒がオーバードラフト (※) されることは少ない」といった傾向があると言える。
(※ 「オーバードラフト」とは、五色それぞれについて「平均許容人数」……その色で平均的な強さのデッキを組むのに適当な参入人数……が存在することを前提に、「平均許容人数」を超えてドラフトされること)
さらに、このような色自体の不人気と相まって、青と黒のアグロパーツはなおさら安いということがある。
クリーチャーの性能が相対的に低い以上、一般的に青と黒といえばコントロールカラーと定義されがちだからだ。
コントロールをピックするときに点数が高いのは、《スフィンクスの後見》などのフィニッシャーや、《魂裂き》や《不浄な飢え》といった除去であり、クリーチャーは後回しになりやすい。
つまり青と黒のクリーチャーは他の色と比べて遅くまで流れるのである。
これらの背景から、『マジック・オリジン』ドラフトにおいては青黒アグロはカードが安く狙いやすいということが言える。
しかしここまでの説明ではあくまで「容易に組める」ことを示しただけであって、「アーキタイプが強い」ことの説明にはなっていない。
「簡単に組める」とはいってもアーキタイプそのものが弱いのでは意味がない。
だが、「青黒ジャッカル」は平均的な完成度であれば「強い」デッキとなるのだ。
その理由は、1つには『マジック・オリジン』のドラフト環境が3マナ域のクリーチャーを基点としていることによる。
この環境は平時、お互いが3マナのクリーチャーをプレイし、殴り合うことを前提としている。
メインカラーになりやすい白と赤は3マナ域のクリーチャーが厚く、しかも「高名」や「威迫」など、殴り合うことで真価を発揮するクリーチャーばかりだからだ。
しかし、もし3マナのクリーチャーをプレイしようとする段階で、既に対戦相手が3~4点のクロックを展開していたらどうなるか。
殴り合うことで真価を発揮する3マナのクリーチャーは、必然ブロックに回らざるをえない。しかしそれらはもともとブロッカーとしては十分な性能を持たないからこそ殴り合っていたのだ。
ブロッカーとしては、せいぜい《結束した構築物》とも相打ちしてしまうものばかり。加えて「青黒ジャッカル」にも、《ナントゥーコの鞘虫》《死橋のシャーマン》《眼腐りの暗殺者》など、強い3マナ域のクリーチャーがいるとなれば。
その戦線は容易く崩壊する。
それにもし十分な地上のブロッカーを出せたとしても、「青黒ジャッカル」には「飛行」という回避能力がある。
つまり結局のところ、3マナ域のクリーチャーを基点とする通常のドラフトに対し、常に1マナでクロックを展開し続ける「青黒ジャッカル」は、スピード面・戦略面において想定外すぎるのだ。
かくして「青黒ジャッカル」は環境の平均的なデッキに対し、容易にビートダウンしきることが可能となるのである。
ただし、「青黒ジャッカル」が強くあるための前提として、以下の点があることに留意していただきたい。
◆ 「青黒ジャッカル」ピックが成立するための前提
前提1: 白と赤は多くの場合平均許容人数を若干上回る程度に参入されている。
前提2: 「青黒ジャッカル」が卓内に存在すると知られてはならない。
前提1: 白と赤は多くの場合平均許容人数を若干上回る程度に参入されている。
前提2: 「青黒ジャッカル」が卓内に存在すると知られてはならない。
前者について、「青黒ジャッカル」は上で述べたとおり「3マナ殺し」なので、極端な話《トーパの自由刃》と《焦熱の衝動》を連打されると一瞬で負けうる。
ただこれらのコモンはとても点数が高く、また白と赤の人気を考えれば、『マジック・オリジン』ドラフトにある程度精通したプレイヤーが揃っていればそんなデッキはそうそう組めないだろう……という「ある程度合理的な期待」によってこの戦略は成り立っているのだ。
また後者について、この戦略をやるときは、「どうやら『青黒ジャッカル』をやっているプレイヤーが卓内にいるようだぞ」と知られてはならない。
基本的にこの戦略は、24パックから出た《フェアリーの悪党》《茨弓の射手》《結束した構築物》は全て回収できることを前提としているからだ。
「青黒ジャッカル」は「青と黒のクリーチャーは遅くまで流れる」という環境の傾向を逆手にとった戦略である。
したがって、これらの1マナ域やその他の青と黒のクリーチャーがカットされるような環境ならやらない方がよい。
しかしこれらの前提が維持される環境では、「青黒ジャッカル」は「容易に組める」上に「強い」戦略である。
ではそんな「青黒ジャッカル」はどのようなピックによって成り立っているのか。
次の段落では、実際にはどのようにピックをすればいいか、について説明していこう。
■ 3. 「青黒ジャッカル」のピック方法
「青黒ジャッカル」をピックする際には、原則として序盤は以下の「ルール」を適用しつつ、1段落目に載せた【定型】を最終目標とし、中盤~終盤では例外として適宜「ルール」を修正していく、といった方法をとるのがよい。
◆ 「青黒ジャッカル」ピックのルール (※)
ルール1: 全体的なピックの優先度は、《フェアリーの悪党》>《茨弓の射手》>《結束した構築物》>>>《分離主義者の虚空魔道士》>その他のクリーチャー>>>その他のスペル
ルール2: 3マナ域のクリーチャーの優先度は、《ナントゥーコの鞘虫》>《死橋のシャーマン》>《眼腐りの暗殺者》>《屑肌のドレイク》>《狩漁者》
ルール3: クリーチャーの方が優先度が高いのでスペルは「取れたものを入れる」のがメインになるが、基本的には軽くて能動的に使えるものを優先する。《魂裂き》がベストだがルール1の関係上ほぼ取れないので、《分散》《層雲歩み》《死の円舞曲》《錬金術師の薬瓶》など、安いスペルで誤魔化すことになる。
ルール4: ピックするものがなく暇なときには《空への斉射》《チャンドラの憤怒》などのサイドカードをカットする。
ルール1: 全体的なピックの優先度は、《フェアリーの悪党》>《茨弓の射手》>《結束した構築物》>>>《分離主義者の虚空魔道士》>その他のクリーチャー>>>その他のスペル
ルール2: 3マナ域のクリーチャーの優先度は、《ナントゥーコの鞘虫》>《死橋のシャーマン》>《眼腐りの暗殺者》>《屑肌のドレイク》>《狩漁者》
ルール3: クリーチャーの方が優先度が高いのでスペルは「取れたものを入れる」のがメインになるが、基本的には軽くて能動的に使えるものを優先する。《魂裂き》がベストだがルール1の関係上ほぼ取れないので、《分散》《層雲歩み》《死の円舞曲》《錬金術師の薬瓶》など、安いスペルで誤魔化すことになる。
ルール4: ピックするものがなく暇なときには《空への斉射》《チャンドラの憤怒》などのサイドカードをカットする。
(※ なおこれらのルールは基本的にピックの選択肢がコモンのカードのみであることを前提としているが、たとえアンコモンやレアまで含めても、例外的な判断をする状況は実はかなり少ない。《つむじ風のならず者》や《血の儀式の司祭》《光り葉の選別者》レベルならさすがに「ルール」を修正する価値があるが、《高位調停者、アルハマレット》や《魂の貯蔵者、コソフェッド》《輪の信奉者》レベルなら《フェアリーの悪党》をピックした方がマシだ)
ルール1に関しては、《フェアリーの悪党》は単純な打点は他の1マナ域より低いのだが、他と違って固めどることに対して明確なメリットがあるため、他のプレイヤーの参入機会を少しでも減らすために最優先でピックする。《茨弓の射手》と《結束した構築物》では、単体で殴れる前者を優先する。《分離主義者の虚空魔道士》は1マナ軍団以外では最優先で確保するパーツだ。
ルール2に関しては、《ナントゥーコの鞘虫》は単純に《層雲歩み》など付けて後半殴れなくなった1マナ域を有効活用できるほか、有力なアーキタイプである「赤黒ハスク」のキーパーツでもあるため、競合となる「黒アグロ」が卓に誕生するのを防ぎたいというのがこの優先度の主な理由だ。
《死橋のシャーマン》と《眼腐りの暗殺者》の優先度は微妙なところだが、相手によってムラが生じにくい方を優先している。《屑肌のドレイク》と《狩漁者》は前者はブロッカー性能が、後者はアタッカー性能が不足しており、また「青アグロ」は放っておいても卓内に競合が成立しにくいため、黒のクリーチャーより優先していない。
ルール3に関しては、基本的に「軽い」「盤面に影響する」「カードカウントで損をしない」の3つのうち2つ以上の要素を満たすスペルが優先される。点数が安いカードとして狙い目は《層雲歩み》《分散》《錬金術師の薬瓶》《死の円舞曲》《血による聖別》あたりで、《骨読み》《計算された放逐》《死の国の重み》《ツキノテブクロの浸潤》《眠りへの誘い》などはあまりデッキに入らないし、《閉所恐怖症》もダブルシンボルが「重い」ので大抵はデッキに入らない。
ルール4に関しては、もちろんカットできるにこしたことはないが、他のルールより優先するほどのものでもない。
ここで注意すべきは、これらの「ルール」の多くは1パック目の「椅子取りゲーム」で青黒アグロのポジションを確保するためのものということだ。
ドラフトというゲームにおいて、1パック目、2パック目、3パック目のピックはそれぞれ「同じ目的の下に行われている」と思われるかもしれないが、実は全く違う。
◆ ブースタードラフトにおけるそれぞれのパックの役割
1パック目: 椅子取りゲームのパック (Positioning Pack) ……主色を主張するためのカードをピックする。
2パック目: 2色目を決めて足場を固めるパック (Established Pack) ……主色を継続的にピックするほか、補色のカードをピックしてデッキの色を固定する。
3パック目: 完成形に足りないものを補うパック (Supplementary Pack) ……理想的なマナカーブの形成に足りないクリーチャーや、デッキの性質上必要なスペルなどをピックする。
1パック目: 椅子取りゲームのパック (Positioning Pack) ……主色を主張するためのカードをピックする。
2パック目: 2色目を決めて足場を固めるパック (Established Pack) ……主色を継続的にピックするほか、補色のカードをピックしてデッキの色を固定する。
3パック目: 完成形に足りないものを補うパック (Supplementary Pack) ……理想的なマナカーブの形成に足りないクリーチャーや、デッキの性質上必要なスペルなどをピックする。
これらは、あまり言語化されることはないがリミテッドを好むプレイヤーなら無意識で考えているであろうことを、私が言語化しようと試みたものである (英語は言いたいだけである) 。
このような性質の違いがあるため、1パック目では点数が高かったカードが、3パック目では見向きもされない、といったようなことが起こりうる。45手の広大な可能性がある時点と、残り10手しかない時点とでは当然、ピックすべきカードも異なってくるのだ。
したがって、特に2パック目~3パック目は「ルール」が修正されやすいということは覚えておくべきだ。具体的には、以下のような修正が考えられる。
例外1に関しては、《フェアリーの悪党》が一周する確信があるときは、二兎を追うためにあえて《結束した構築物》から取りにいくピックも考えられる。《結束した構築物》は何色のデッキでも入る可能性があるので拾われやすいのに対し、2~3パック目の《フェアリーの悪党》は青以外のプレイヤーにとっては純然たるカットになるため、一周の期待が比較的高いからだ。
例外2に関しては、主に「3マナ域が飽和している (あるいはしそう) な場合」と、「スペルが強すぎる場合」が考えられる。「定型」を見ればわかるように3マナ域は6枚程度で十分であり、それ以上はダブルアクションを阻害するおそれがあるので、6枚に達しそうなときはスペルの優先度を引き上げるとよい。またたとえば《戦の角笛》はこのデッキにとっては喉から手が出るほど欲しいスペルなので、クリーチャーより優先することも考えられる。
他に気をつけるべき点としては、《層雲歩み》《錬金術師の薬瓶》という2種の2マナキャントリップを重視するというのがある。
このデッキはなるべくフラッドを避けたいので「定型」で示したとおり土地を16枚で組むが、そうするとスムーズに3マナに到達できるか怪しいパターンが出てきてしまう。それを緩和するため、《層雲歩み》《錬金術師の薬瓶》をデッキに入れることで「3枚目の土地を引きにいくプレイングの選択肢を作る」のは重要だ。
この点《冥府の傷跡》はプレイ時点で即座にドローができないため、評価が若干落ちることは覚えておこう。
■ 4. 終わりに
ここまで読んだ方は、とある1つの重大な疑問を抱いているかもしれない。
それは、「青黒ジャッカル」は「決め打ち」 (※) ではないのか?というものだ。
(※ 「決め打ち」とは、ブースタードラフトにおいてパックを開封する前から完成形を決めておいて、開けたパックや流れてきたカードに関わらずに特定の色やアーキタイプのカードをピックし続けることを指す)
そしてその答えは”Yes”である。「青黒ジャッカル」は確かに「決め打ち」に近い戦略だ。しかし、「決め打ち」の何が悪いというのだろう?
確かにドラフト初心者が「決め打ち」をしていたら、彼を指導すべき立場にある者は注意をするかもしれない。「それでは強くなれないよ」、と。
しかしそれは「決め打ち」が通常カードの出現具合や上家の気分に左右される、リスクが大きすぎる戦略だからだ。
そう、「決め打ち」とはあくまでリスクテイクに過ぎないのである。
ならば十分なリターンがあるとき、「決め打ち」は肯定されてしかるべきではないか。
この点、「青黒ジャッカル」は『マジック・オリジン』ドラフトにおいて、「決め打ち」するに足る十分なリターンを有するものと私は考えている。
『マジック・オリジン』ドラフトの既存のアーキタイプに飽きたという方は、ぜひ一度試してみて欲しい。
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