企画の経緯については【vol.1】を参照願いたい。というわけで、この記事はモダンのPPTQを優勝した各アーキタイプの達人たちにインタビューし、そのデッキについて教えてもらう、というものだ。
早速始めていこう。第7回目、最終回となる今回は、【トロン】を紹介する。
ゲストはこの方だ。
伊藤 「というわけで、中村 篤史(静岡)さんにお話を伺いたいと思います」
中村 「よろしくお願いします」
伊藤 「中村さんはPTQとGP合わせてこれまで二桁回数もプロツアーの権利を獲得されたことがあるという、プロツアー予選突破の超常連です。現在の目標は、やはりプロツアートップ8ですかね?」
中村 「現在はプロツアーの参加権利がないので、現実的な目標として、まずはグランプリトップ8かRPTQ突破でプロツアーの参加権利を獲得することですね」
伊藤 「RPTQでの活躍、期待してます。それでは、中村さんがPPTQで使用したトロンというデッキについてお話を伺いたいと思います」
■ トロンとは?
中村 「以下がトロンの一般的なレシピになります」
1 《森》 4 《燃え柳の木立ち》 4 《ウルザの塔》 4 《ウルザの魔力炉》 4 《ウルザの鉱山》 2 《幽霊街》 1 《ウギンの目》 -土地(20)- 2 《呪文滑り》 4 《ワームとぐろエンジン》 1 《引き裂かれし永劫、エムラクール》 -クリーチャー(7)- |
4 《古きものの活性》 4 《森の占術》 4 《紅蓮地獄》 4 《彩色の宝球》 4 《彩色の星》 4 《探検の地図》 3 《忘却石》 4 《解放された者、カーン》 2 《精霊龍、ウギン》 -呪文(33)- |
4 《自然の要求》 3 《焼却》 2 《スラーグ牙》 2 《沸騰》 2 《大祖始の遺産》 2 《世界のるつぼ》 -サイドボード(15)- |
伊藤 「このトロンというデッキは、モダンにおいても非常に特殊な、他のデッキとは一線を画すような『角度』を持ったデッキだと思うのですが、具体的にはどのような点がトロンの強みなんでしょうか?」
中村 「やはりトロンランドによる爆発的なマナ加速で、他のデッキと比べてカードパワーの高いカードを連打できるのが強みですかね。あとは最終的には《引き裂かれし永劫、エムラクール》で勝てるので、ミッドレンジ系のデッキに対しては無類の強さがありますね」
伊藤 「たしかにモダンのデッキで7マナとか8マナのカードをプレイするデッキは他になさそうですからね。『3ターン目に7マナのカードをプレイする』というカードパワーの暴力は間違いなく強みと言えるでしょう」
中村 「3ターン目《解放された者、カーン》だけで概ね勝てるマッチが多いですからね」
伊藤 「そういえばトロンといえばよくマリガンで死にやすいというイメージがありますが、実際のところどうなんでしょうか?個人的には、そもそもマリガンを戦略に組み込んでいるデッキという認識なのですが」
中村 「マリガンについては、そんなに厳しくないデッキだと自分は考えています。8枚採用されている《彩色の星》《彩色の宝球》のキャントリップで結構引けますし、サーチカードも多数あるので、7枚見てサーチ込みでトロンランドが見た目揃っていることも多いです。ただトロンABほか5枚みたいなハンドで緑マナが出なかったりすると何もできずに負けてしまうこともあるので、初手に緑マナが出るカードがあることが結構重要ですね」
伊藤 「そもそもマリガン自体、思ったよりはしないと。たしかに、トロンが揃っていない手札でも《紅蓮地獄》と《忘却石》で結構耐えられますしね。とすると、これらの全体除去が全く刺さらないデッキはモダンといえども少ないというのが、トロンが一定の地位を占められている要因の1つと言えるかもしれませんね」
中村 「それはあります。モダン環境の《紅蓮地獄》は驚くほどに強いですね。親和、カンパニー、赤単と、タフネス2以下が多数の環境なのも後押ししていると思います。《野生のナカティル》とかのタフネス3以上の生物を連打してくる、いわゆるZOOが下火なことの影響が大きいと感じています。また《忘却石》はインスタントタイミングでのリセットということで、双子デッキに睨みを効かせることができる上に、放っておけば運命カウンターを量産して一方的なリセットが可能となかなか小回りもきくので、必須パーツになってますね」
伊藤 「あとはやはりメインでの干渉手段がものすごく限られますよね。土地を割る以外では、《探検の地図》や《森の占術》などのサーチスペルを手札破壊やカウンターで捌くといった対抗手段が考えられますが、なにぶん軽すぎる上にたくさん入っているのでどちらもそれほど効きませんし」
中村 「土地がコンボの主軸であることによる妨害のしづらさはたしかにあると思います。ただ意識されだすと《幽霊街》などをメインから積まれて厳しくなるのは他のコンボデッキと同様ですね」
■ 一般的なレシピとの違い
中村 「こちらが、PPTQを抜けた後に少し調整した、僕が現在使用しているリストになります」
1 《森》 4 《燃え柳の木立ち》 4 《ウルザの塔》 4 《ウルザの魔力炉》 4 《ウルザの鉱山》 2 《幽霊街》 1 《魂の洞窟》 1 《ウギンの目》 -土地(21)- 3 《呪文滑り》 3 《ワームとぐろエンジン》 1 《隔離するタイタン》 1 《引き裂かれし永劫、エムラクール》 -クリーチャー(8)- |
4 《古きものの活性》 4 《森の占術》 3 《紅蓮地獄》 4 《彩色の宝球》 4 《彩色の星》 4 《探検の地図》 4 《忘却石》 4 《解放された者、カーン》 -呪文(31)- |
4 《スラーグ牙》 3 《引き裂く流弾》 3 《原基の印章》 3 《大祖始の遺産》 1 《汚損破》 1 《紅蓮地獄》 -サイドボード(15)- |
伊藤 「【親和】同様、コンセプトが完成されているデッキだけあって大部分は一緒ですが、細部に違いが見られますね。メインは《精霊龍、ウギン》を採用していない点と、《呪文滑り》が多い点、あとは《隔離するタイタン》+《魂の洞窟》パッケージをとっている点あたりがポイントでしょうか。それぞれどういった理由からか、お聞かせください」
中村 「《精霊龍、ウギン》に関しては、メタゲームの上位のデッキである【バーン】、【親和】、【双子】に対してほぼ無力である&間に合っていないため、メインには不要と判断したためです」
伊藤 「たしかに大ぶりな割に少し当たり外れが大きいカードですよね。その点【ジャンド】や【アブザンカンパニー】に対しては本当に神なんですけどね。リセットしたあと《精霊龍、ウギン》が残るという圧倒的な頼もしさがあります」
中村 「《呪文滑り》については、一番の理由はメインから【双子】デッキに勝てるようにしたかったからですね。《古えの遺恨》が入ってくるのはサイド後なので、メインはわりかしポンと出ると相手がもじもじしてそのまま勝てるケースもあります。最近はグリクシスカラーの双子が出てきて、そっちだと《コラガンの命令》で割られてしまうので信頼性は落ちていますが、それでも相手のキルターンは概ね先延ばし可能です。あとは感染デッキに対しても有用なほか、【バーン】にも最低限壁としての役目は果たしますし、【親和】の「電結」能力にも睨みを効かせることができます。あとは《ワームとぐろエンジン》への《流刑への道》を身代わりしてくれたりと、やれることがかなり多彩ですね」
伊藤 「たしかに【双子】相手は《忘却石》だけ出して構えていてもエンド前にタップされて起動するかどうかの不自由な二択を迫られますからね。あとは【バーン】への強さは、かなり不利なマッチアップだけあってたしかに重要なポイントですね。最近の【バーン】はクリーチャーでボコスカ殴ってくるので、《呪文滑り》のサイズが頼もしいところです」
中村 「《隔離するタイタン》は同じく【双子】デッキを意識したもので、《呪文滑り》で時間を稼いで《魂の洞窟》からの《隔離するタイタン》で蓋をするためですね。ゲームが長引くとエンドに《呪文滑り》を《謎めいた命令》でバウンス→メインでコンボ決められて負け、とかに繋がるので、積極的に蓋をするカードはやはり必要です」
伊藤 「とすると、メインは全体的に【双子】対策をかなり意識しているんですね。《紅蓮地獄》も3枚になっていますし」
中村 「そうですね。【バーン】や【親和】の数によっては、《紅蓮地獄》を4枚にして《忘却石》を3枚にするなどの選択もありえると思います」
伊藤 「次にサイドですが、《原基の印章》はかなり珍しいですよね。普通は【バーン】対策も兼ねて《自然の要求》が多いと思います。緑マナを立たせつつ《呪文滑り》を出して、《破壊的な享楽》や《粉々》に対応して自分で《自然の要求》する、というのはよくやるテクニックかと思われますが、そういった【バーン】相手のトリックよりも《原基の印章》のメリットを重要視している、と」
中村 「PPTQを突破した際には《自然の要求》だったんですけど、MOで回していると、【双子】相手に緑マナを構えることができないケースが多々発生したのが原因ですね。色マナがそんなに多く出るデッキではないので、エンドに《詐欺師の総督》もしくは《やっかい児》で緑マナタップ→メインで《欠片の双子》と動かれると負けてしまいます。その点《原基の印章》は起動にマナがかからない上にエンチャントなので《古えの遺恨》や《コラガンの命令》で割られることもなく、場に置いておくとかなり安心できます。その代わり【バーン】への耐性が低くなってしまいますが、もともと相性がよくないので、多少は割り切っています。《自然の要求》と散らすのはありかもしれませんね」
伊藤 「なるほど。あと、これはまあ中村さんに限った話ではないですが、《大爆発の魔道士》で土地を割られることに対してのケアは特にないんですね。このご時世、【ジャンド】や【グリクシス】など、《コラガンの命令》を採用したデッキは必ずと言っていいほどサイド後に3枚以上の《大爆発の魔道士》を入れてきますが、やはり根本的な対策は不可能ということでしょうか?」
中村 「《真髄の針》や《世界のるつぼ》などで対策を考えた時期もありましたが、《突然の衰微》や《コラガンの命令》で割られたり《漁る軟泥》に土地を食べられたりして機能不全を起こすため、クビになりましたね。大穴は《経路変更》ですがさすがに構えるのは厳しいですし。結局それよりも《大爆発の魔道士》の枚数よりこちらの土地+サーチカードの総数の方が多いので、耐えていれば何とかなるという結論になりました。ただ《コラガンの命令》で回収されて連打されると詰むので、《大祖始の遺産》をきっちり積んで、《大爆発の魔道士》を《コラガンの命令》で回収させないことが重要ですね」
■ 各主要デッキに対するサイドボーディング
伊藤 「主要なマッチアップでのサイドインアウトは、どういった感じになるんでしょうか?特にクソゲーと名高いトロン同型戦へのコメントが気になります。もしかしたら優れたトロン使いにしかわからない必勝法があるのかもと期待しています」
◎ 対 アブザンカンパニー
中村 「メインサイドともに有利がつくので、《紅蓮地獄》できっちりキープできればほぼ勝てます。サイド後は《大爆発の魔道士》連打や突然死をケアして、《大祖始の遺産》はすぐドローせずに大事に使っていきます」
◎ 対 バーン
中村 「メインサイドとも相性は悪いので、3ターン目《ワームとぐろエンジン》 or 《スラーグ牙》の展開となるように初手をキープしたいところです。意外と《隔離するタイタン》を出すと相手のマナベースが崩壊してそのまま勝てたりするケースもあるので、《ウギンの目》からクリーチャーをサーチする際には盲目的に《ワームとぐろエンジン》ではなく、《隔離するタイタン》の方がいいこともあったりします。レアケースではありますが、そういうところで勝ちを拾えたりするので、覚えておくといいかもしれません」
◎ 対 ジャンド
中村 「一般的なレシピに対しては《紅蓮地獄》を入れますが、相手が《闇の腹心》なしのバージョンだったりすると、《紅蓮地獄》を全抜きしてそこに《スラーグ牙》を入れます。メインは有利、サイド後は微有利といった感触ですね。3ターン目《解放された者、カーン》でほぼ勝ちというのと、《ワームとぐろエンジン》が相手のカード3枚くらいのアドバンテージをもたらしてくれるので。あと《ヴェールのリリアナ》でお互いリソースが尽きたところに《忘却石》を決められれば大体勝ちですね」
◎ 対 双子
中村 「普通のタッチ緑のツイン相手はメインは微不利、サイド後微有利といった感触です。この形のツイン相手は、サイド後は《古えの遺恨》が入ってくるので《呪文滑り》は抜いて、その他のカードで対処します。《忘却石》や《原基の印章》《引き裂く流弾》などを構えながら土地を伸ばしていって、《魂の洞窟》+《隔離するタイタン》か《引き裂かれし永劫、エムラクール》で勝つのが勝ち筋です。ただタルモツインの場合にはクロックを掛けられてしまうので、《ワームとぐろエンジン》を残したりと、相手の構成の違いによってフレキシブルに対応する必要があります」
◎ 対 親和
中村 「先手後手の差はありますが、メイン不利、サイド後微不利といった感触です。メインは後手だと《忘却石》がそもそも間に合わないケースもあったり、相手の2ターン目《鋼の監視者》に触れないと負けだったりと、要は《紅蓮地獄》を引けるかどうかにかかっています。あとは相手の展開がヌルいことを祈るのみです。サイド後はピン除去を増やしてうまく《忘却石》がはまる盤面に持っていくのがポイントですね。蛾土地に干渉できる2枚の《幽霊街》がかなり頼もしいマッチアップです」
◎ 対 グリクシスコントロール
中村 「メインやや有利サイド後やや有利な感触です。《魂の洞窟》+《隔離するタイタン》を採用していることもあり、《謎めいた命令》を構えているところに《隔離するタイタン》を通せれば勝ちです。あと《魂の洞窟》から《ワームとぐろエンジン》でも相手のカードを数枚消費させられるので、《魂の洞窟》がかなり活躍するマッチアップです。逆に《魂の洞窟》がないと厳しいマッチになると思います。《大爆発の魔道士》からの《コラガンの命令》を封じるために、レリックはやはり大事に使うことがポイントです」
◎ 対 トロン
中村 「子供の夢をぶち壊すようですが、メインサイドともただの先手ゲーです。ダイスに負けて相手が同型だったら潔く畳みましょうwww というのは半分冗談ですが、半分真実です。先手3ターン目に《解放された者、カーン》を出されたらあなたのトロンはこのゲーム中一生揃いませんwww」
伊藤 「ですよねーwww」
中村 「しかしメインから《呪文滑り》を採用していることもあり、後手でも2ターン目《呪文滑り》で相手の3ターン目《解放された者、カーン》を返せる可能性があるので、スズメの涙ほどは後手でも勝てる可能性はあります。あと意識したいのは、自分のトロンランドを揃えにいくよりも《幽霊街》をサーチして相手のトロンランドかサーチカードが尽きることを期待するプレイングもある、というくらいですかね。サイドは相手の《探検の地図》を割れる可能性のあるカードを入れます。ディスアドバンテージになるとしても相手の《彩色の星》を割ることもあります。それによって緑マナが事故るケースもあるので、積極的に割っていくのも手です」
■ まとめ、トロンに興味がある人へ
伊藤 「最後に、このデッキに興味がある方にアドバイスなどあれば」
中村 「トロンはモダン環境でもなかなかない高いマナコストの派手なカードが使えるデッキですので、一度使ってみるとその爽快感できっと虜になると思います。あとメインのカード数枚の選択で、デッキ相性差を覆せるケースもあるので、メタゲームを読んで細かいパーツを選定していただければきっといい結果に繋がると思います」
伊藤 「ありがとうございました」
さて、「モダンの達人」はここでひとまず終了となる。
もちろんモダンにはこれまで紹介した7つ以外にもまだまだたくさんのアーキタイプがあり、それらにも「達人」と呼ぶべき使い手たちが全国各地に存在していることだろうと思う。
機会があれば、そういった方々のご協力を得て、他のアーキタイプを紹介していくこともあるかもしれない。
だがいずれにせよ、それまでしばらくのお別れだ。
それでは、楽しいモダンライフを!
「モダンの達人」シリーズ目次
vol.1 -アブザンカンパニー-
vol.2 -バーン-
vol.3 -ジャンド-
vol.4 -双子-
vol.5 -親和-
vol.6 -グリクシスコントロール-
vol.7 -トロン- (今回)
vol.1 -アブザンカンパニー-
vol.2 -バーン-
vol.3 -ジャンド-
vol.4 -双子-
vol.5 -親和-
vol.6 -グリクシスコントロール-
vol.7 -トロン- (今回)
この記事内で掲載されたカード
Twitterでつぶやく
Facebookでシェアする