スタンダード、そしてモダンと、これまで幾多の神が交代していった。
だがそんな中で唯一、最初の神が決定した第1期より、『神』の座を守り続ける男がいた。
『レガシー神』。
川北 史朗(東京)。
だがしかし、【第2期神決定戦】、【第3期神決定戦】に続いて3度目の防衛戦に臨む彼の前に現れたのは、『神』防衛にあたって最も手ごわい挑戦者といっても過言ではない【第1期神決定戦】の【決勝戦】以来の因縁の相手、斉藤 伸夫だった。
ここでは正念場を迎えたレガシー神・川北に、レガシーの練習法や神決定戦への意気込みなどについてインタビューしてみた。
練習をするときは、友人とプレイについて議論をすることが多いですね
--「川北さんのマジック遍歴については【最初の神インタビュー】で、また勝利の秘訣については【前回のインタビュー】でお聞きしたので、今回は具体的な練習方法をお伺いしたいのですが、川北さんはレガシーの練習をするとき、どういう方法をとられているんでしょうか?」
川北 「私の場合、練習をするときは、友人とプレイについて議論をすることが多いですね。具体的には、まずお互い手札を全部オープンでゲームを始めて、その上で、お互いにプレイの問題を出し合ったり、ミスを指摘し合うんです。『ここでどれセットする?』『何でそれプレイしたの?』『《渦まく知識》で戻すカード違わね?』……プレイの細かいところまでチェックされるのでかなりのプレッシャーになりますが、だからこそ密度も濃いですし、確実に強くなれますよ」
--「でもそんなのいちいち指摘されたらお互い険悪になってすぐ喧嘩になっちゃいそうですけど、大丈夫なんでしょうか?」
川北 「もちろん真剣に議論をするわけですからときには喧嘩腰になるときもあります。なのでこの練習をするときはやる相手は選んだ方が良いですね。多少強く言っても問題ない程度の仲であることは当然として、できれば自分と近いレベルの相手の方が望ましいです」
--「なるほど。ですがしっかりやるとなかなか時間がかかりそうですね……」
川北 「そうですね。最近はなかなか時間がとれず、そういった練習を十分できていないのが実情です……全部のアーキタイプについてこの練習をやれたら間違いなく最強になれると思うんですけど、まだレガシーでも一部のデッキでしかこのレベルの練習はできていませんね」
--「時間がないときは、川北さんはどうするんでしょうか?」
川北 「具体的な練習方法としてはまだ何も確立できていませんが、方針としては、時間がないときにはデッキ構築の時点でミスが少なくなるようにしています。使い慣れたカードを多く積んで、あまり繊細なプレイングが要求されない構成にしたりしていますね。時間の不足はなるべく経験で補うといった感じです」
私たちが70歳とか80歳になったとき、将棋とか囲碁の代わりにマジックやってそうじゃないですか?
--「最近はなかなかお忙しい日々を過ごされているようですが、今のマジック的な目標は何かあるんでしょうか?」
川北 「結婚したい!(笑)」
--「どこが『マジック的』目標なんですか(笑)」
川北 「できればマジックを認めてくれる、いやそれ以上に一緒にやってくれる奥さんがそろそろ欲しいなーと。ていうかいっそのことレガシーもプレイしてて《渦まく知識》を撃ってくれる奥さんが欲しい!(笑)」
--「無茶苦茶言いますね(笑)」
川北 「いや、でも真面目にそういう部分は晴れる屋さんに期待しているんですよ。今よりももっともっとマジックのプレイヤー人口が増えて、レガシーをやるプレイヤーも男女問わず増えてくれたらいいなと思ってます。私ときどき考えるんですけど、私たちが70歳とか80歳になったとき、将棋とか囲碁の代わりにマジックやってそうじゃないですか?」
--「縁側で『でるばぁ』『うぃるじゃ』みたいな?シャッフルする手が覚束なさそう(笑) でもそうなったら面白いですね」
川北 「そういう未来につなげるためにも、マジックにはもっとオープンな趣味になっていって欲しいなと思うわけです。プレイヤーがどんどん増えれば、偏見を持つ人も少なくなるでしょうから」
勝つために割り切って強気なプレイをしなければならない局面においては私の方が少し勝ってるのかなと
--「さて今回の神決定戦の話になりますが、挑戦者となる斉藤 伸夫さんについて、初めて会ったときの印象って覚えてますか?」
川北 「初めてではないかもしれませんが、私が認識したときの印象としては、『【ボルト算】の土屋 洋紀といつも一緒にいる強いプレイヤーだな』という感じだったと思います。AMC (Ancient Memory Convention: 関東の草の根レガシー大会) の決勝戦で土屋さんと当たったことがあるんですが、こっちが《実物提示教育》、向こうがRUGを使っていて、当時の2強デッキの対決だったんですよ。で、《実物提示教育》で勝った!と思ったら《金粉のドレイク》で負けて。それが土屋-斉藤ラインで調整したテクニックのようだったので、よく覚えています」
--「現在までで、プレイヤーとしての斉藤さんの印象はどういった感じでしょうか?」
川北 「斉藤さんはとにかく1つ1つのアクションが丁寧で、非常に正確なプレイングをするプレイヤーという印象です。私の方は、実はよくプレイングを間違えるんですよ(笑) たまに頭がぼーっとしてて、色々やらかしたりしてしまう。でも斉藤さんはとてもミスが少ないですし、プレイも早くて、やはりすごく強いプレイヤーだと思います。プレイングに関して言えば、私よりも上手いと思いますね」
--「では、川北さんの方が勝っていると考えている部分もある、ということでしょうか?」
川北 「そうですね。『勝ちへの嗅覚』と言うんでしょうか……勝つために割り切って強気なプレイをしなければならない局面においては私の方が少し勝ってるのかなと思います。総合力とかバランス的な意味でなら斉藤さんの方が強くて、ただ私の方が尖っているのでハマったときにでかい、というイメージですかね」
--「最後に、神決定戦に向けての意気込みを聞かせてください」
川北 「プレイングの勝負になると『4.5 : 5.5』くらいで不利だと思いますので、デッキ構築で勝りたいですね。斉藤さんは私にとって間違いなくこれまでで一番厄介な挑戦者ですが、何といっても私の方には『神』としてこの特殊なフォーマットを2回も経験しているというアドバンテージがありますので、その点を生かして競り勝ちたいと思います」
--「ありがとうございました」
斉藤の正確無比なプレイングに対し、川北はデッキ構築で差をつけにいくつもりのようだ。
確かに川北は彼の言う『勝ちへの嗅覚』……勝負勘のようなものが、並外れて鋭い。そしてそれはゲーム中のみならず、ゲームが始まる前、デッキ構築の段階でも生かされているように思われる。
これまで幾度も川北を勝利へと導いてきた《精神を刻む者、ジェイス》が象徴するように、川北は勝負を決定づける「勝つ」カード、「勝てる」カードを極めて重要視している。「勝つ」ためのカードの扱い、「勝つ」ためのルート選びに関しては、川北はきっと誰にも負けない自信がある。
そんな川北が、斉藤を相手にどのように「勝ちにいく」のか。
日本でもトップレベルのレガシープレイヤーであろう2人の、究極の戦い。その結末やいかに。