レガシー環境で、最強のデックは何か?という質問に対して、「そんな質問に答えるのもなかなかに不毛でしょ」などと思いながら、しぶしぶ答えるとしたら、今、その答えとしてあがる可能性がもっとも高いデックは、それはもちろん、ANTだろう。
ANTとは、《むかつき/Ad Nauseam》《苦悶の触手/Tendrils of Agony》の略、ある意味《ネクロポーテンス》以上と言っていいアドバンテージを稼ぎだす《むかつき》によって、大量に0マナのアーティファクトや軽量マナ加速を手札に入れ、そして、それらのキャストで稼ぎだしたストームを利用し、《苦悶の触手》で対戦相手のライフを削りきってしまうデックだ。
そんなANTを使用するのが、昨年末のThe Limitsで準優勝した、石村 信太朗、通称「ライザ」である。
卓越したマジックセンスをもつプレイヤー、と言われる石村。果たして、綿密な計算と、《むかつき》のフィーリングなセンスを求められるこのデッキを使いこなすことはできるのか。
さて、《むかつき》は、その名の通り、大会会場をむかつきの炎に包むカード。2ターンキルは当たり前、先手1ターンキルも日常茶飯事というこのカードの圧倒的な能力に、むかつく人が急増している。
今回、石村相手のむかつく担当は、発掘デックを使用する藤本 太一だ。
発掘と言えば、歴代のマジックのメカニズムの中でも、「大概にしろ」ランキングでは五指に入っておかしくないメカニズム。不動のツートップ、「ストーム」と「フリースペル」の片翼を担うこのANT相手に下克上を果たすことはできるのだろうか。
Game 1
ダイスロールで先手は石村。《霧深い雨林》のフェッチで《Underground Sea》をサーチして《思考囲い》スタート。
藤本の手札は《イチョリッド》《朽ちゆくインプ》×2《入念な研究》《戦慄の復活》《真鍮の都》《セファリッドの円形競技場》というもの。ここから石村は《入念な研究》をディスカードさせる。
藤本は、自分のターンに《朽ちゆくインプ》をキャストしてターンエンド。
《渦まく知識》をキャストし、《水蓮の花びら》から《暗黒の儀式》を2枚に《陰謀団の儀式》、そして《むかつき》という、よほどのことがなければ勝ち確コンボの動き。
藤本 「ざけんなよ!」
とはいいつつも、
藤本 「まぁ、ここは我慢してやる」
と、1ターンキルではなく2ターンキルなのだから怒りをおさえる。2ターンキルなどレガシーの世界では日常茶飯事噴飯物。この程度で怒っていては、藤本の胃が持たない。
当然、石村はそのまま《苦悶の触手》までアクセスし、十分なストームで藤本のライフを削りきった。
石村 1-0 藤本
Game 2
今度は先手の藤本が、勝ち確ではないものの、渡辺が言うところのフリーザ級の動きを見せる。
1ターン目に、《真鍮の都》をセット、《ライオンの瞳のダイアモンド》をキャストし、《打開》をX=0でキャスト、それに対応して《ライオンの瞳のダイアモンド》を起動して手札をすべて墓地に送り込む。
そして、その藤本の手札に《ゴルガリの墓トロール》があったわけで、こっから発掘劇場が開幕する。まずは、《ゴルガリの墓トロール》で発掘、そしてそのまま、墓地に送られた発掘持ちたちによって次々とドローを置換していく名優藤本。
ここで山札からめくられた《ナルコメーバ》はたったの2枚だったものの、十分な枚数の《黄泉からの橋》と《戦慄の復活》《炎の血族の盲信者》、そして《綿密な分析》が墓地に落ちていた。
さきほどの《ライオンの瞳のダイアモンド》からのマナで、《綿密な分析》をフラッシュバックすると、このドローもすべて発掘に置換。めでたく3体目の《ナルコメーバ》が戦場に舞い降り、石村は墓地を確認するのだった。
石村 「僕の2ターンキル程度の初手じゃ勝負になりませんでしたね、これがレガシーか…」
すでに、両者とも感覚が麻痺している。
石村 1-1 藤本
Game 3
先手の石村が、セット《Underground Sea》から《思考囲い》というGame 1と似たスタート。
今度の藤本は《戦慄の復活》《入念な研究》《陰謀団式療法》《ライオンの瞳のダイアモンド》、そして《真鍮の都》2枚に《セファリッドの円形競技場》という手札。《思考囲い》をうたれただけなのに、すでに不機嫌。
藤本 「これはないよ、さすがに」
と誰もが認める《戦慄の復活》を除外した3枚のカードで、石村は藤本の次のターンの動きを綿密に検討、最終的に《ライオンの瞳のダイアモンド》をディスカードさせ、《水蓮の花びら》をキャストしてターンを返す。
今度は藤本の手札破壊フェイズ。《真鍮の都》から黒マナをだすと、《陰謀団式療法》をキャスト、そして長考する。
石村 「これだけでゲームが決まる可能性も結構高い…」
藤本は結局、《神秘の教示者》を指定。
石村の手札は《渦まく知識》×2と、《ライオンの瞳のダイアモンド》、そして《むかつき》。《陰謀団式療法》が外れただけでなく、《渦まく知識》次第では次のターンの敗北が見える手札にため息をつく藤本。
次のターンの石村のドローは《暗黒の儀式》。
ここで、《渦まく知識》をキャストすると、引いた3枚は《苦悶の触手》《ライオンの瞳のダイアモンド》《思案》。熟考の末に、石村は、一番上に《むかつき》を積み込む。そして、《渦まく知識》を、ちょっと墓地からずらして置いて、「ひとつめ」と、宣言。
藤本 「ちょっと、これは台パン?台パン?」
そう、石村の発言は、ストームを数え始めた宣言、つまり、このターン中に動き出す、という宣言なのだ。石村は《ライオンの瞳のダイアモンド》2枚をキャストすると、《水蓮の花びら》からのマナで《渦まく知識》をキャストし、それにスタックして《ライオンの瞳のダイアモンド》を2枚起動して黒マナを6マナ調達する。
先ほど山札の上に積み込んでいた《むかつき》を《渦まく知識》で手札に入れると、さきほど生み出したマナでこれを起動。今度は《むかつき》の開幕だ。
石村のキャストした《むかつき》は、膨大なカードアドバンテージを生み出しながら、石村自身のライフを蝕んでいく。《思案》《強迫》《神秘の教示者》《冥府の教示者》《師範の占い独楽》《むかつき》、ここで石村のライフは7。
土地、《神秘の教示者》《ライオンの瞳のダイアモンド》《思考囲い》とめくれて、石村のライフはついに危険領域の5に。《むかつき》がめくれ次第ゲームは終了、石村は長考する。
意を決してさらに山札をめくり始める石村。
《Underground Sea》に続いて《師範の占い独楽》がめくれ、ライフが4、続く《強迫》で3、まだまだ攻める石村は、今度は《冥府の教示者》。
ついにライフは1となり、まったくマナソースにアクセスできていない石村は、カードを並べ、長考する。
石村 「マナ、足りてない……?でもやるしかないのかな?」
長考の末に、「決まらないか…」と石村は余った黒マナで《強迫》をキャストし、藤本の手札から《入念な研究》をディスカードさせる。そしてセットランドから《師範の占い独楽》をキャストし、さらに《ライオンの瞳のダイアモンド》をキャストすると、ターンを終了する。
手札に有効なカードがほぼ無い上に、事実上の1ターンクロックに見える動きを強いられることになった藤本。石村の1点のライフが果てしなく遠い。長考する藤本。
石村 「マジック下手だなぁ……《ライオンの瞳のダイアモンド》キャストしてなければ勝ってた…」
《ライオンの瞳のダイアモンド》のキャスト分のストームで、藤本のライフを次のターンに削り切れていたことに、藤本の長考中の検討で気がついてしまった石村であった。
それはそれとして藤本は、長考の末に、《セファリッドの円形競技場》をセットし、《ゴルガリの凶漢》をキャスト。コイツがアタックすることさえできれば、石村のライフは0になるのだ。
石村は、アップキープに長考する。
藤本 「ちょっと、トイレ行ってきていいですか?」
藤本がトイレに行ってる間に長考を重ねた石村は、藤本が「考えまとまった?」といいながらトイレから戻ってきたところで、ゲームを開始する。まずはドロー。そのカードは《Tropical Island》。
石村 「よっしゃ」
と石村は喜ぶ物の、まだまだ複雑なパズルは続く。一端は、動き出そうとした石村だったが…「あっ…すいません」と検討し直し。
《Tropical Island》をセットすると、そこから《思案》。ここで《暗黒の儀式》を引き当てた石村は、この《暗黒の儀式》をキャスト。《師範の占い独楽》でさらに《陰謀団式療法》を引き当てると、キャスト、そして山札トップの《師範の占い独楽》と戦場の《師範の占い独楽》を2回まわして、ストームは5。
ここで《冥府の教示者》をキャスト、にスタックして《ライオンの瞳のダイアモンド》を起動し、青マナを確保。そして、《冥府の教示者》で《不正利得》をキャストする。
ここで《暗黒の儀式》を2枚キャストして、《苦悶の触手》につなぐことで、ストーム8の18点ドレインが決まり、藤本の17点のライフが削りきられてしまったのだった。
石村 2-1 藤本
石村 「あそこ(Game 3の《むかつき》でライフが減ったタイミング)はどうすればよかったのかわからない…」
藤本 「あれは、途中で止めた方がよかったよ、続けてくれて助かった」
石村 「でも、なに引かれても大丈夫っぽかったから…」
藤本 「なに引かれても大丈夫なんだから、《むかつき》死のリスク減らさなきゃいけないんでしょ」
石村 「でも、《むかつき》死の可能性が無かったから……あ、《不正利得》めくれてたら死んでる…」
レガシー界最強最悪の厨デックと言われるANTだが、そのプレイングは、多くの最強コンボデックの例に漏れず、繊細かつ、大胆なプレイングが要求される。
その精度は、卓越したマジックセンスを持つと言われる石村でさえ惑わせるものなのだ。