レガシーのなんと青きことか。
トップ8のデッキを見ると、まず飛び出してくる感想が上記のようなことではないだろうか。なんと八人中、七人が自身のデッキに青を加えることを選択しているのだ。
コンボデッキを始めとしたあらゆるデッキに最大枚数が入る《渦まく知識》、CTGやクロックパーミッションにはほぼ必須となる《Force of Will》。こう聞いてしまうと、ひとつを除いて他すべてが青いという事実にも、平気でうなずけてしまえそうだから不思議なものである。
さて、スタンダードではすっかり駆逐されてしまったと言ってもいい青が、まるで鬱憤を晴らすかのようにその力を見せ付けた今大会。八十八人の中から勝ちあがってきたデッキのうち、唯一青に頼らずにこのプレイオフに残った猛者がいた。
成田修平である。
赤白緑のいわゆるナヤカラーで構成された成田のデッキは、《密林の猿人》や《野生のナカティル》を始めとした軽く強力なクリーチャーと、火力や除去によって形成されたビートダウンデッキ、ZOOである。生物で殴り火力でそれをバックアップをするという、MTG然とした動きをするデッキでありながら、メタ次第では色を増やすことも可能。そのために多彩なデッキ構築が可能で、トーナメントシーンでは常に主役の椅子を譲らない。
そしてそんな、残された青潰しの希望である成田と対峙するのは、フューチャーマッチでもう既に何度か紹介されている、津田友語だ。
津田のZOOは基本構成は成田と変わらないが、メインボードに《貴族の教主》、サイドボードを見れば《翻弄する魔道士》と、ちゃっかりと青を投入している。こういった特定のデッキに強いカードを、難なくサイドボードにおいておけるのが、ZOOの強みなのだ。
色は一色違えど、ZOO同士の対決。青いトップ8のテーブルを、赤い火力が飛び交い、緑の生物が踏み荒らす。
Game 1
ダイスロールをすること四回、ようやく先手を得たのは成田。悩みながらもキープを宣言する成田とは対照的に、津田は余裕の表情でプレイの仕草。
一ターン目はお互いに《Taiga》を置きながら《野性のナカティル》という最高のスタートだったが、二ターン目で成田の悩んだ理由がわかった。
土地が一枚で止まってしまったのだ。仕方なく《野生のナカティル》で攻撃し、二枚目の《野生のナカティル》を出すのみ。しかもこの唯一の《Taiga》を、津田の《不毛の大地》によって破壊されてしまった。
こうなってしまっては開店休業状態の成田動物園なのだが、まだ店じまいは早いと、ここでのドローが《Taiga》。2/2の《野生のナカティル》二体で攻撃すると、片方は《稲妻》によって焼かれてしまう。が、津田の場の《野生のナカティル》にも《Chain Lightning》を浴びせる。
ここで津田は《密林の猿人》をプレイしながらの、《吹きさらしの荒野》をセット。《平地》を引いていない成田の《野生のナカティル》にとって、いつもは馬鹿にしているはずの猿があまりにも大きい。
が、成田はしっかりと《乾燥台地》をここで引き込んでいた。《Plateau》を戦場へ出し、ようやく場が賑わってくる。更に《クァーサルの群れ魔道士》をプレイしたことによって4/4へと一気に《野生のナカティル》が膨れ上がるも、《流刑への道》によって動物は園の肥料へと生まれ変わった。
更に津田は手札の《稲妻のらせん》により《クァーサルの群れ魔道士》も戦場から退け、ようやく《密林の猿人》をレッドゾーンに送り込む。成田の渾身の5/5《聖遺の騎士》も、二枚目の《流刑への道》で《山》へと変え、孤軍奮闘する《密林の猿人》の視界を狭めない。
しかしこの《密林の猿人》が成田の《稲妻のらせん》によって破壊されてしまうと、津田も攻め手を失ってしまう。これまで成田のたくさんの生物を戦場から退けてはいたが、肝心の生物をほとんど引いていなかったのだ。
このまっさらな場に成田が《渋面の溶岩使い》をプレイすると、除去のない津田は放置するしかなく、ドロー。するとそれが《タルモゴイフ》で、成田の手札の枚数が気になるも仕方なくプレイ。無論《タルモゴイフ》は成田の除去によって土地へと変わる。
次に津田が引いた《貴族の教主》は、溶岩使いの力によって成田のメインフェイズに戦場から消えるも、ここで《火炎破》を引いており、《渋面の溶岩使い》を丸焼けに。戦場は再び焼け野原。
この時お互い手札はなく、どちらが先に生物を引くか、という勝負だったが、力強かったのは津田だった。《聖遺の騎士》を引いてきたのである。
ちょくちょくライフを削りながらデッキを圧縮していった成果もあり、この《聖遺の騎士》は6/6。まだ何も引けない成田がターンを返すと、津田は引いた《樹木茂る山麓》を即起動し攻撃。これにより《聖遺の騎士》は7/7へ。
だが成田もただ黙っているわけには行かない。ここで《聖遺の騎士》とは行かないまでも《タルモゴイフ》をトップデッキした。4/5の《タルモゴイフ》の前に、火力が怖くて《聖遺の騎士》で殴りに行けない。それでも今引いた《タルモゴイフ》を並べる。
これにより更なるブロッカーを用意しなければならない成田のドローは《野生のナカティル》と、心もとないものではあったが、津田を牽制するのには十分なカードだった。津田はターン終了時に《聖遺の騎士》から《不毛の大地》を探し出し、そのまま《Plateau》の破壊に使用。
自分のターンが来ると、クリーチャーに手をかけながらも少考の末、結果何もせずにターンを終了し、ブロッカーとして《密林の猿人》が現れるのみで終わった成田のターンの終わりにも、先ほどと同じように《不毛の大地》をサーチして《Plateau》を破壊。
そして《貴族の教主》をプレイし、ようやく津田が動いた。《聖遺の騎士》一体で攻撃をしたのだ。結局12/12という巨大な騎士の犠牲は猿が受けることになる。
が、攻撃の機会を得たのは成田も同じだった。巨大な壁だった《聖遺の騎士》がいなくなったことにより、《タルモゴイフ》が攻撃へと参加できるようになったのだ。火力によって理不尽な交換を取られることを良しとしない津田は、この攻撃を甘んじて受ける。これでライフは、成田が6で津田が9。
ここで津田は《タルモゴイフ》と《聖遺の騎士》で攻撃。手札がよっぽど強力でない限り有利な戦闘になると打算しての津田の攻撃だったが、成田の手札は完璧だった。《聖遺の騎士》には《流刑への道》、《タルモゴイフ》は《野生のナカティル》でチャンプブロックしながらの《稲妻》で除去。
まるでコインの表裏のように戦場がひっくり返る。
成田は自分のターンになるとノータイムでタルモゴイフで攻撃。津田のライフはわずかに5。ドローにも気迫がこもる。
そんな力が引き寄せたのか、津田は《タルモゴイフ》を二枚の《Chain Lightning》で除去することに成功したのだ。二枚目の《Chain Lightning》こそコピーされ、《貴族の教主》を焼かれてしまうも、再び五分近くまで戻す。
そして戦場に静寂が訪れた。この長い戦いにようやく訪れた、誰の目から見ても短いとわかる無音は――
一ターン後、成田によってかき消された。
二枚の《Chain Lightning》を持った成田は、勝利に向かってまず一枚目をプレイする。もう一枚が成田の勝ちを確定させる――はずだったが、二枚目の《Chain Lightning》はプレイできなかった。
津田の残された一枚の手札、それは《稲妻》。
津田 1-0 成田
・サイドボーディング
お互いにミラーマッチに有用なカードは採用しておらず、成田は《梅澤の十手》一枚を入れるか迷うも結局投入せず。津田はその《梅澤の十手》を始めとした、サイドボードカードを警戒してか、《クローサの掌握》をサイドイン。ここで《火炎破》を抜いたことがどう影響するか。
Game 2
土地が一枚で止まってしまったものの、先ほどのゲームにおける成田のドローはすばらしかった。一ターン土地が止まってしまったもの、そこからは必要な枚数を引き、結果的に敗北してしまったものの、津田のドローが火力で無ければ勝利していたのだ。これには勢いを感じざるを得ない。
そして津田は、今度は自分の勢いが試される手札をキープすることとなった。オープンハンドをマリガンした後の六枚は、二枚の《野生のナカティル》に《Savannah》という、まるで成田の第一ゲームのような手札。しぶしぶこれをプレイする。
今度の成田の《野生のナカティル》は、無事二ターン目には3/3となり、津田の《野生のナカティル》の横を駆け抜ける。後続として続くのは《密林の猿人》、そして《渋面の溶岩使い》とすばらしい展開。
一方津田は土地を引けない。手札で出番を待つ火力に手をかけることができず、仕方なく二枚目となる《野生のナカティル》を戦場へ。だがその二体は《密林の猿人》も《野生のナカティル》も、《渋面の溶岩使い》によって相打ちを取ることすら許されない。
続くターンでも土地を引けない津田を尻目に成田はダメ押しの《タルモゴイフ》。ようやく土地を二枚引き続けるも、《稲妻のらせん》で《野生のナカティル》がいなくなるぐらいでは、成田の勢いは止まらない。頼みの《聖遺の騎士》も《流刑への道》で土へ送り返されると、津田には勝負を三本目へと持ち越すことしかできなくなった。
津田 1-1 成田
Game 3
津田は痛恨のダブルマリガン。一方の成田は、火力三枚に《タルモゴイフ》という四枚の呪文の初手を、考えて結局キープすることに。
五枚ながら、《クァーサルの群れ魔道士》に《タルモゴイフ》とまずまずの初手をキープした津田は、二ターン目に出した《クァーサルの群れ魔道士》を稲妻で焼かれ、成田の出してきた《タルモゴイフ》に対抗する形でこちらもプレイしようかと言うところで、《聖遺の騎士》をトップデッキ。4/4と、ソーサリーのない《タルモゴイフ》よりも一回り大きい。
だが成田はこの時、《聖遺の騎士》を葬る《流刑への道》、サイズで上回る《Chain Lightning》の両方を持っていた。まずは本体に《Chain Lightning》を打ち込み、4/5となったら《タルモゴイフ》で攻撃を仕掛ける。更に後続として《野生のナカティル》をプレイし、残った白マナで《流刑への道》……には手を伸ばさない。
一気にライフを失い、場でも不利になった津田は《タルモゴイフ》をプレイするのみ。そしてここで《聖遺の騎士》へと飛んでくる《流刑への道》。当然除外されてしまう前に《聖遺の騎士》は置き土産として《不毛の大地》を残し、唯一の赤マナである《Taiga》を破壊した。
そしてこの《不毛の大地》が成田を苦しめる。《森》と《Savannah》しかなく、成田は手札の火力をプレイできないばかりか、《野生のナカティル》で満足に攻撃することすらできなくなってしまったのだ。なんとか《クァーサルの群れ魔道士》の賛美で《タルモゴイフ》を攻撃に向かわせようとするも、《稲妻》が賛美を許可しない。
今度は逆に津田が《クァーサルの群れ魔道士》を引いてみせ、なんとか場は膠着した――かのように見えたが、それはあくまでそう見えただけだった。
そう、成田はすぐに赤マナを引き始めたのだ。更に序盤に攻められた分があり、既に津田のライフは10しかない。
《タルモゴイフ》、《野性のナカティル》と増え続ける成田の軍勢に、津田は対応するので精一杯。勢いよく手札から飛び出す稲妻たちが、津田の生物と本体をまんべんなく焼き尽くした。
津田 1-2 成田
成田Win!