『タルキール覇王譚』リミテッドは後手を取るべき

加藤 一貴



 初めまして。この度『happymtg』で記事を書かせていただくことになった加藤 一貴と申します。

 簡単な自己紹介をさせていただくと、かれこれ十数年ほどマジックをしているプレイヤーで、これまでにリミテッドの「グランプリ」を2勝や、多数のプロツアー参加経験があります。

 僕はリミテッドが好きで、普段から構築戦はあまりプレイせず、ドラフトに興じてばかりいます。もちろん、今回の『タルキール覇王譚』環境もかなりの数をこなしました。そこで自分なりにひとつの結論を出すことができたので、この記事を通じてみなさんにそれをお伝えできればと思います。

 初めての記事ということで、拙いところも多いかと思いますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。それでは、本編をご覧ください。



■ 本編: 『タルキール覇王譚』リミテッドは後手を取るべき


 「先手いただきます。」

 ダイスロールを終え、幸運にもそれに勝利したほとんどのプレイヤーはこう宣言する。

 それがプレイするデッキの内容を考慮してのことなのか、はたまた、盲目的に先手を選んでいるのか。他のプレイヤーがどのように考えているのかは定かではないが、少なくとも僕は盲目的に先手を選んでいた。

 今からおよそ2ヶ月前、『グランプリ・上海2014』プロツアー『タルキール覇王譚』に向けて練習を積み重ねたが、手なりにピックし、いつも通りに先手を選んでプレイをすることをいくら繰り返しても、ドラフトでの勝率は一向に良くはならなかった。「変異」環境ということで、『オンスロート』ブロックの印象が強かったせいもあるだろう。


スカークの猛士憑依された死者


 予想以上に勝率が上がらなったため、敗因を分析してみた結果、5~6ターン目の攻防(変異解除など)に遅れをとると負けに直結しやすいこと、コモンやアンコモンの土地がいかに強くとも所詮は3色環境であり、マナベースに負担がかかっていることが分かった。この2つには比較的早い段階で辿り着いていたのだが、そこから先には進めず、その結果『グランプリ・上海2014』プロツアー『タルキール覇王譚』は惨敗した。

 あまりにもこの結果が悔しかったため、さらに試行錯誤を重ねた。そして、ついに辿り着いた。


 この環境は後手じゃないか、と。


 今でこそあまり知られていないかもしれないが、昔は「シールドは後手」という理論が一般的だった。近代のカードパワーの増加に伴い徐々に薄れてきた感はあるが、今回の『タルキール覇王譚』環境では「後手理論」が通用すると思う。それどころか、僕はドラフトでさえ後手を推奨する。ここからは、どうしてそう考えるようになったかを掘り下げていきたいと思う。







■ 理由1: 『タルキール覇王譚』環境は遅い

 3ターン目にはほぼクリーチャーが出てくるような環境にもかかわらず、低マナ域のカードが弱めに設定されているため、この環境は押し切ることが難しい。また、低マナ域のクリーチャーにコンバットトリックを使用しても元々が弱いため、インパクトに欠ける。


谷を駆ける者抵抗の妙技


 繰り返しになるが、鍵となるのは5~6ターン目の攻防であり、それまでに盤面が一方的なものになることはほとんどない。


イフリートの武器熟練者アブザンの先達雪角の乗り手


 つまるところ、『タルキール覇王譚』リミテッド環境において、意識すべきは序盤の攻防ではなく、いかにして5~6ターン目の攻防で優位に立つかなのである。シールドの構築やドラフトのピックなど、工夫できる点は山ほどあるが、そこで重要となるのが、続くふたつめの項目だ。






■ 理由2: 色マナや土地が詰まるなどの、マナトラブルは負けに直結する

 一般的に、リミテッドでの土地の枚数は17枚+-1程度だと言われている。しかし、5ターン目以降の攻防が要である以上は、5ターン目には確実に5枚の土地をコントロールしていたい。

 ここで簡単に「5ターン目の土地枚数の期待値」を計算してみると、以下の通りになる。




◆ デッキ40枚・土地17枚で7枚キープの場合

・先手5ターン目 4.675枚
・後手5ターン目 5.1枚

◆ デッキ40枚・土地18枚で7枚キープの場合

・先手5ターン目 4.95枚
・後手5ターン目 5.4枚




 どちらの場合も、先手だと5ターン目に土地5枚の期待値に届いていないことがわかる。意外なことに、18枚の土地を採用していようとも、先手だとこの環境の肝と言える「5マナへの到達」という命題を確率上は満たせていないのである。その反面で、後手を取った場合は事情が異なる。土地が17枚でも5ターン目に「5マナへの到達」をクリアできているし、色マナの都合も考えると、後手の安定感は実に魅力的に映る。

 また、自分が後手を取ることで、対戦相手が5マナへ到達する可能性を下げられる点にも留意してほしい。一般的に土地を17枚にするプレイヤーが多いが、この環境に限ってはそれは危険な行為なのである。






■ 理由3: 先手志向のプレイヤーが多い

 冒頭でも述べた通り、大多数のプレイヤーは自分に先手・後手を選ぶ権利のある状態なら先手を選ぶ。これは言い換えるならば、あなたはほとんどの場合において、ダイスロールに勝とうが負けようが後手を取れるということの裏返しでもある。となれば、シールドの構築や、ドラフトのピックの段階でこれを生かさない手はない。

 例えば、ドラフトで「先手デッキ」を組むためには、それ相応の2マナ域のクリーチャーや、戦線を突破するコンバットトリックが必要となる。だが世の中に先手志向のプレイヤーが多い場合だと、ドラフト中に必然的にそれらのカードを取り合うこととなり、結果として卓にたくさんの弱い「先手デッキ」ができあがってしまう。

 しかし、これは後手を志向するプレイヤーにとっては歓迎すべき事態だと言える。先手プレイヤーが欲しがらない《沸血の導師》《朽ちゆくマストドン》《軍用ビヒモス》など、後手デッキにとって重要なカードは、先手デッキに必要なカードと比べて比較的遅めの順手で拾えることが多い。


沸血の導師朽ちゆくマストドン軍用ビヒモス


 『タルキール覇王譚』ドラフトでは特殊地形も確保しなければならないため、全42手のうち25枚ほどはデッキに入るカードをピックしなければならない。そのため、遅い順手でデッキに必要なカードが確保しやすいことのメリットは思いのほか大きい。なぜならば、先手志向のプレイヤーが必死に2マナ域をかき集めている間に、後手志向のプレイヤーは土地のピックに専念できるからだ。


急流の崖華やかな宮殿







■ 後手を取るために

 後手を取る際の注意点として、ゲームが長引くことは理解しておかなければいけない。

 そのため、後手を取るためには、いつも以上に個々のカードの役割を意識して、守るカードと攻めるカードを確保すべきだ。


◆ 守るカードの確保

 ここでいう「守るカード」とは、具体的に1.「変異」カード、2.「1~2マナ域のクリーチャー」、3.「除去呪文」の3つを指す。ひとつずつ順を追ってみていこう。


1.「変異」カード

 意外かもしれないが、この環境の守りに向いているカードの代表格は「変異」カードだ。『rizer’s answer -Khans of Tarkir Sealed- Part2』にもあるように、「変異」は見た目以上に頼りになる。初動が3ターン目の「変異」になりやすい以上、それを確実に打ち取れる、または攻撃を躊躇させることができる「変異」カードは、守るにあたって非常に重要なのである。

 こちらの目的はあくまで対戦相手の「変異」を止めることなので、「変異」の表は弱いもので構わない。極端な話をしてしまえば、デッキと色があっていない「変異」でもいいくらいだ。また、守りに重きをおいた場合、《僧院の群れ》《サグの射手》といった、タフネスが高く、なおかつ耐空性能があるクリーチャーの評価が上がることは覚えておいてほしい。


僧院の群れサグの射手



2.「1~2マナ域のクリーチャー」

 上記で述べたように、初動が3ターン目の「変異」になりやすいということは、それらに先んじて動ける1~2マナ域が重要であることは明白だ。ロングゲームを見越している以上、後半戦に弱い軽量クリーチャーを取り過ぎる必要はないが、《高地の獲物》《射手の胸壁》といった守りに長けたカードは積極的に抑えていきたい。1マナ域のクリーチャーならば、《マルドゥの悪刃》《縁切られた先祖》が最良の選択になるだろう。目安としては1~2マナ域が2~3枚くらいデッキにあるといい。もしも余裕があるならば、対戦相手がビートダウンデッキだった場合に備えて、サイドボードに追加で2枚程度軽いクリーチャーがいると安心できる。


縁切られた先祖高地の獲物射手の胸壁



3.「除去呪文」

 この環境のコンバットトリックは比較的弱めに設定されている。《抵抗の妙技》《龍鱗の加護》は「除去呪文」を回避するには最適だが、それらを駆使しようとも《射手の胸壁》《朽ちゆくマストドン》《軍用ビヒモス》を超えるのは難しい。極稀に《龍鱗の加護》や「変異解除」から一気に押し切られてしまうゲームも見受けられるが、逆に言ってしまえば、その極稀なケースさえ対処してしまえば、ゲームの長期化は比較的容易い。

 そこで重要となるのが「除去呪文」である。《打ち倒し》《大物潰し》などはもちろんこと、《引き剥がし》のようなバウンス呪文も重宝する。


引き剥がし打ち倒し大物潰し


 ただし、「除去呪文」の取り過ぎには注意してほしい。先ほどの項目でも述べたように、この環境で最も守りに向いているカードは「変異」だ。クリーチャーを止めるために「除去呪文」を使い続けることは非現実的だし、3マナや4マナの「除去呪文」だらけのデッキは強くない。基本的にはブロッカーを用意して戦況をコントロールし、要所を「除去呪文」で捌くことが理想だ。


◆ 攻めるカードの確保

 ゲームの長期化を目指す以上、盤面を膠着させた後にどうやって攻撃に転じるかが重要となる。アンコモンやレアの強力カードが取れれば理想的だが、コモンであれば回避能力持ちのクリーチャーや《大牙コロッソドン》がお勧めだ。攻めるカードはどんなデッキでも必要となるが、こと「後手戦略」に関しては、盤面を止めた後にどう攻めるかを意識しておくといいだろう。


雪花石の麒麟隠道の神秘家大牙コロッソドン







■ まとめ: 戦略の重要性

 いかがだっただろうか?現状ではドラフトでも8対2くらいの比率で後手を選んでいる。試合で勝つために学ぶべきことは山ほどあるが、そんな中でも僕は「戦略」を重要視している。

 世界の強豪たちをS級妖怪だとすれば、僕はおそらくC級妖怪程度のプレイング技術しか持ち合わせていない。それでもこれまでに結果を残せてきたのは、他のプレイヤーよりも「戦略」に重きを置いているからではないかと思う。

 『タルキール覇王譚』環境で言えば、『後手を取る』ことがそれに当てはまる。後手を意識した構築、ピックをすることで、僕の勝率は格段に向上した。『先手か後手か』というひとつのトピックだけでも、これだけのことが考えられるわけで、他にもまだまだ検討に値する「戦略」があることに疑いの余地はない。

 今後も誰も思い付かないような「戦略」を追求していきたいし、その際にはまた記事を書かせていただく機会があるかもしれない。






 最後までご覧いただき、ありがとうございました。今後もマイペースに記事を書いていこうと思っているので、何卒よろしくお願いいたします!



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