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前回までで環境の主たるアーキタイプの構造はつかんでもらえたと思う。
今回はその他の傍流、ニッチ戦略について言及しようと思うが、ニッチ戦略とは主に緊急回避的な側面が強く最初から目指すものではないため、いつもの解説フォーマットである「○○というアーキタイプを目指すために最適化されたピック優先順位」を惰性で載せてしまうと「負けるためにはこう取れ!」というよくわからない記事になってしまう。
なので今回はピック優先順位を割愛して、ニッチ戦略が肯定されるレアな前提条件とは何かという観点で各アーキタイプを俯瞰して解説したいと思う。
まずは白青赤から。
■白青赤
白青赤が他のアーキタイプと比べて一段落ちる最大の原因は、「果敢」というシステムが抱える構造的な二律背反にある。
具体的には、分類としてビートダウンであるが故に序盤からテンポよく生物を並べてアタックを繰り返す必要があるという点と、「果敢」というシステム上、継続的にノンクリーチャースペルをプレイすることを求められるという点の齟齬がそれにあたる。
では長所はどこかというと、やはり不人気色であるが故のカード供給面でのメリットである。
これだけ聞くと前回解説した赤緑と同じだと思われるかもしれないが、実はそうではない。
赤緑がアーキタイプの構造上の強度で勝負しているのとは違い、白青赤は不人気色が故に流れてくる高レアリティのカードパワーに頼る部分が多く、出れば回ってくるが出るかどうかが安定しないという点において両者は大きく事情が異なっている。
言い換えれば赤緑のカード供給面でのメリットは「安定」であるのに対して、白青赤のそれは「ボムが中盤に流れてくる」という類のメリットであるということだ。
さらに言えば、2色で構成される赤緑は42ピックで23枚の有効牌をピックすればいいのに対して、白青赤は事によってはド均等3色ビートという無理を押し通す関係上、二色土地を4~5枚確保することを目指すために、42ピックの間に28枚前後の有効牌をピックすることが求められるという点でもハンディを抱えることになる。
ここまで欠点ばかりを並べてきたが、勝てる白青赤が存在しないかというとそういうわけではない。
白青赤は確かに構造的欠陥を抱えているが、それを「白青赤は弱い」という一面的な理解でとどめてしまうといつまでたっても進歩はない。
具体的な欠点をしっかりと把握して、それを補うカードが確保できた場合に環境の特異点的なグッドデッキを組めるようにする。
そのようなレアな分岐を目ざとく回収するスキルこそが中級者と上級者を分ける分岐点となるのだ。
今回のケースでいえば、「白青赤が弱い」というのは言い換えると”継続的なスペル供給が困難であるため「果敢」システムは機能不全を起こしている”ということになる。では《ジェスカイの隆盛》というカード供給エンジンがある場合はその前提に亀裂が入るだろう。または《武器を手に》や《軍族童の突発》のような、戦線を構築しつつ「果敢」をトリガーするカードが複数確保できた場合にも”クリーチャーが少ないとビートダウンとして動きが安定しないが生物ばかりだと「果敢」がトリガーしない”という二律背反を揺るがすことができる。
大切なことなのでもう一度繰り返す。「×××は弱い」「×××は強い」という認識でたどり着けるレベルには限界がある。単純化は暴力だ。我々は複雑なことを複雑なまま扱う作法を身につけるべきだ。
▲白青赤への分岐点について
基本的には強いアーキタイプに寄せることが大事なので、最終的に白青赤になるような場合でもまずは白黒赤に寄せる方針でドラフトを進め、ごく一部のカードを切っ掛けにして黒を切って青にシフトチェンジするというケースがほとんどだと思われる。ここではそのきっかけ、青に渡ることを肯定する要素となるカードを並列にリストアップするとともに、白青赤と白黒赤で扱いの変わる白及び赤のカードにも言及したい。
・コモン
《急流の崖》《平穏な入り江》
黒がらみの土地が取れない状態で青がらみの土地が2枚以上確保できていた場合、混んでいる黒を切って空いている青に渡る可能性をある程度考慮するべきだ。後付でボムを待つ不安定さはあるもののトータルでは得な選択になることの方が多い。
少し希望的観測が入るが、環境の多色デッキ筆頭は青黒緑であることを思い出してほしい。白青赤以外のマルチカラーのボムは青黒緑+Xの範囲内で回収されてしまうが白青赤のマルチカードは青黒緑多色の手を逃れ、純粋なカットさえなければその色をやっているプレイヤーに回ってくることになる。もちろん過信は禁物だが、弱いアーキタイプをやる以上ある程度ふてぶてしく行くのも必要になってくる。
余談だが白青赤の3色土地(《神秘の僧院》)は赤白黒でも最低限の働きはするので、青への渡りを肯定するパーツという観点では2色土地の方が存在として意味が大きい。
《ジェスカイの学徒》
2マナが不足していてこのカードの採用を検討するような状況ならば、いっそ黒を切って青に行くことまで考慮するべきだ。
念を押しておくがこのカードを優先的に取れというわけではないので誤解なきよう。
《ラッパの一吹き》
白黒赤では《戦場での猛進》との働きの差が大きすぎる上に《戦場での猛進》がそこまで高くないので、入れれば働く割に入れる機会がないカードという印象だが、白青赤ではそこまで大きな使用感の差はないので、タッチ青の気配があるなら「ラッパでいいや」という割り切りのもとに《戦場での猛進》の優先度を少し下げて、一緒に流れてくる2マナ生物や土地を取るといった微調整が地味に重要だったりする。
このカードが白青赤でより有効利用される理由としては《ジェスカイの学徒》を並べて4/4にする動きが良い点と、1マナ軽いことが重要になるタイミングが白黒赤に比べて多いことが挙げられる。具体的には《果敢な一撃》に代表される軽量スペルと同時に使うことで、「果敢」がケアされた場合でも相手の想定を超えて有利にコンバットを進めることができるのである。
《隠道の神秘家》《ジェスカイの風物見》《氷河の末裔》《引き剥がし》《宝船の巡航》
青のコモンが取れるからと言って白から青に走ることはおすすめしない。これらのカードはプレイアブルではあるがアンコモン以上のカードで青への渡りが肯定されてから初めて意識してあげるくらいの気構えでいい。
・アンコモン
《ジェスカイの魔除け》
分かりやすく白黒赤から白青赤へシフトする分岐点となるカード。
白黒での《戦場での猛進》のような動きが白青赤でも出来るようになる。
言い換えればどれだけ白黒の《戦場での猛進》が強いかということでもあるのだが。
《軍族童の突発》
白黒赤ではダブルシンボルがネックになって採用が難しいが、白青赤であればエース級だ。
《武器を手に》の方が強いがこちらは白黒赤でも問題なく運用されるので、青への渡りを肯定する要素は《軍族童の突発》の方が強い。
3ターン目に打つためには赤マナが9枚欲しいが、最低限8枚あれば採用していい。
《道極め》
色のせいもあるが強さの割に軽視されがちなカード。3色目の色を要求するが、基本的に採用する方向で検討していい一枚だ。重ねて強さが増すタイプのカードなので2枚目以降も採用する。このカードが取れた場合は《宝船の巡航》を少し上方修正して、合わせ技で鋭角にゲームを決めよう。
このカードの火力アップのために展開を我慢してハンドを貯めるような行為が悠長だということでこのカードを敬遠する人も多いが、実際使ってみると白いデッキが不自然にハンドを貯めながらゲームを進めると相手はまずラスを警戒して全力展開を躊躇するので、初戦では想像以上に刺さることが多い。
・レア
《ジェスカイの隆盛》
ボム。単純な強さだけでなく、他のカードでは代用できない働きをする「果敢」ビートの最重要カード。
使いやすいカードなので生物のマナカーブをある程度下寄りにする以外に運用の注意点はそうないが、あえて言うならこのカードが取れた場合は《宝船の巡航》を1枚は入れるように意識しよう。
《カマキリの乗り手》
3ターン目に出れば単騎でゲームを決めるスペックだが、6ターン目ならグッドカード止まりだ。
早いうちにこのカードが取れたらいつも以上に土地の優先度を挙げて8-8-6のマナバランスを目指そう。
このカードと《ジェスカイの隆盛》は1-1で取ってもよいスペックだ。
ただし2手目以降で黒絡みの流れが良い場合はきっぱり諦めて空いてる色に行った方がいい。ニッチ戦略で一番大事なのは損切りだ。
《飛鶴の技》
白青赤にこのカードが入るのは喜ばしいことだが、フラットな状況でこのカードから白青赤に入るのはよろしくない。
十分に機能する《戦場での猛進》はこのカードと同質のゲームプランをより手軽に実現してくれる。
あくまで黒が混んでいるときに青への緊急避難を肯定してくれるカードという認識でいい。
▲サンプルデッキ
5 《平地》 5 《山》 2 《島》 2 《急流の崖》 2 《平穏な入り江》 1 《風に削られた岩山》 -土地(17)- 2 《ジェスカイの学徒》 1 《道の探求者》 1 《ジェスカイの長老》 1 《跳躍の達人》 1 《マルドゥの軍族長》 1 《ジェスカイの風物見》 2 《雪花石の麒麟》 1 《高峰のカマキリ》 1 《隠道の神秘家》 1 《内向きの目の賢者》 -クリーチャー(12)- |
2 《果敢な一撃》 1 《引き剥がし》 2 《ラッパの一吹き》 1 《軍族童の突発》 1 《ジェスカイの魔除け》 1 《武器を手に》 1 《道極め》 1 《宝船の巡航》 1 《ジェスカイの隆盛》 -呪文(11)- |
※ポイント
《ラッパの一吹き》などを採用せずに除去や壁役を増量して、下を守って飛行で勝とうというプランは軸にしない方がいい。
一定以上の完成度の他アーキタイプを相手にしたときには間に合わない事の方が圧倒的に多い。
■青緑+赤
まずは赤緑+青との差を説明しよう。
一番の差は2マナのパワー2クリーチャーが1種類減ることだ。
次に《山頂をうろつくもの》が使えないため4マナが空きがちになり、逆に「変異」が多くなるためダメージカーブがもっさりする。スピードで押せないということはカードパワーが必要になり、必然的に3色マルチカードの投入が肯定され、結果土地の需要が高まる。
つまり雑に言ってしまうと赤緑+青の方が早くて安定しているのだ。
では、その上で青緑+赤になるのが肯定される展開というのは何かというと、《増え続ける成長》《凍氷破》《サグのやっかいもの》などから入り赤緑メインを目指すが赤が混んでいた場合の逃げ道としてというケースになるだろう。
この場合、赤が混んでいるという事は巨大化系が中盤以降に取れるか怪しいので、赤緑のように絶え間なく殴るプランを想定するだけでなく少し貯めて《石弾の弾幕》で決めるプランも考慮したドラフトをしよう。
《熊の仲間》など3マナから5マナに飛ぶ意味があるカードがある程度取れたら《ティムールの戦旗》の投入が肯定されるということも覚えておこう。
▲青緑+赤への分岐点について
青緑+赤は成立はするが目指すものではないのでカード単体評価をする意味がない。
ニッチ戦略という意味では白青赤も同様だが、白青赤が環境の一番人気である白赤黒を目指した上での緊急回避であるのに対して、青緑+赤は空いてるからこそやる価値のある赤緑をやろうとしてそれに失敗してた結果の緊急回避なので両者の差は果てしなく大きい。
初手で《サグのやっかいもの》を取ったとして、2手目3手目と連続で白の優良パーツが流れてきたら初手を切って上家と共存しよう。
初手を切る際の目安だが仮に1-1が《サグのやっかいもの》だった場合、1-2は様子を見て初手に合わせてカードパワーをある程度犠牲にしていい。例を挙げるならこの場合《煙の語り部》を《アイノクの盟族》や《マルドゥの軍族長》よりも優先することが肯定される。しかし3手目でさらに《アイノクの盟族》や《マルドゥの軍族長》が流れてきた場合は初手2手目を切って白に切り込む勇気が必要だ。
色変えはとてもデリケートな問題なのでパターン化することが困難なのだが、参考のためいくつか追加でケーススタディを挙げてみよう。
・2手目に《軍備部隊》が回ってきた場合は初手がなんだろうとそれを切って上と協調する。
・初手が《凍氷破》もしくは《氷羽のエイヴン》を取った上で、2手目で《アイノクの盟族》や《マルドゥの軍族長》が流れてきた場合、《長毛ロクソドン》《凶暴な殴打》などの赤緑絡みで他のアーキタイプでも需要の高いパーツが同時にあればそれらを、そうでない場合は初手を切って白に走る。
個人的な見解ではあるが、無理なく初手からの路線変更が可能なタイミングは楽観的に見ても4手目までだ。3手目が妥当なタイミングで、2手目はある種の博打になるのでその後に再度初手の方針に戻る可能性までケアする必要がある。とても微妙で分かりやすい正解が出にくい問題だが、ニッチ戦略を扱ううえでは必須の要素になるので、色替えについては各自がトライアンドエラーを繰り返してケーススタディを増やしてほしい。
▲サンプルデッキ
7 《森》 4 《島》 3 《山》 2 《岩だらけの高地》 1 《急流の崖》 -土地(17)- 1 《ジェスカイの長老》 1 《龍の眼の学者》 1 《高地の獲物》 1 《煙の語り部》 1 《荒野の後継者》 1 《氷羽のエイヴン》 2 《高山の灰色熊》 1 《ジェスカイの風物見》 1 《氷河の末裔》 2 《熊の仲間》 1 《なだれの大牙獣》 1 《サグのやっかいもの》 1 《長毛ロクソドン》 -クリーチャー(15)- |
2 《引き剥がし》 1 《凶暴な殴打》 1 《石弾の弾幕》 1 《龍鱗の加護》 1 《増え続ける成長》 1 《書かれざるものの視認》 1 《ティムールの戦旗》 -呪文(8)- |
※ポイント
青緑のボムが取れてもまずは赤緑+青を目指そう。
■その他のカラーコンビネーションについて
「楔」の3色コンビネーションについては全て言及したことになるので、補足としてその他の2色コンビネーションについて一応触れておきたい。
・白青or青赤
白青赤にしない理由がない。低いカードパワーで運用が安定しても意味がない。
・白緑
緑絡みの2色ビートは全て赤緑の下位互換だ。白は赤よりも高いのでカード供給が安定せず、命綱である2マナのアタッカーの種類も減る。《山頂をうろつくもの》の不在で《凶暴な殴打》の運用も安定しない。
つまり2色で勝ち切る地力がないのだから黒のタッチを躊躇する理由はないということだ。
例外的に白の「長久」生物と《増え続ける成長》の組み合わせはゲームを決める力があるので、先制攻撃(《アイノクの盟族》)、飛行(《アブザンの鷹匠》)、絆魂(《アブザンの戦僧侶》)の「長久」生物が合計4枚以上取れたうえで《増え続ける成長》が2枚もしくは1枚+《龍鱗の加護》が2枚取れている状況ならば、中途半端なタッチはせずに白緑の2色で良いだろう。
・青黒
諦めよう。
・黒緑
基本的に白緑が成立しないのと同様の問題を抱えている。
さらに黒緑は環境の有力アーキタイプ2種と隣接するため3色にするメリットがデメリットを遥かに凌ぐ。
・白黒、赤緑
白黒については【Part1】、赤緑については【Part2】をそれぞれご参照いただきたい。
以上で『タルキール覇王譚』環境の分析記事を終えたい。最後まで読んでくれてありがとう。
年明けのグランプリ静岡2015は『タルキール覇王譚』3パックで行われる、環境末期の一番煮詰まった状態でのグランプリだ。
今回扱ったニッチ戦略の知識はそのような状況でこそ意味が出てくる点も多いので参考にしてもらえるとうれしい。
この記事を読んだ君と静岡で対戦できたら光栄だ。それでは、よいリミテッドライフを。