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マジックをしていて一番ワクワクする瞬間の一つは間違いなく、新セットの全カードリストを初めて、通しで見るときだろう。
新しいキーワード能力、新たなプレインズウォーカー、環境の主力となるであろう除去や火力、クリーチャー。そしてさらにはデッキの核となるカード。
無限の未来を内包したそれらのカード群を眺めながら、「どんなデッキができるだろう?」とひとしきり妄想を膨らませていると、気が付いたら1時間も2時間も経ってしまっていた……などということは誰しも経験したことがある事象のはずだ。
そしてそういうことをしていると。
往々にして1枚くらい、「あ、このカード使いたい!」と思うような、心の琴線に触れるカードと出会ったりする。
その100種類~200種類程度のカードのうち、どんなカードを気に入るかはもちろんその人次第だ。
ちなみに私の場合、どのようなカードを「使いたい」と思うのかというと……それは個人的な嗜好に基づくものだから一口には説明できないが、「すごく強そうな神話レア」とか「あとで値段が爆上がりしそうなカード」とかでは決してなく、単に「勢いがあるカード」とかであることが多い。
【Super Crazy Zoo】を例に出すまでもなく、もともと「1マナ→1マナ+1マナ」の動きで対戦相手に先んじる動きが大好きな私である。とにかく相手の抵抗を無視して勝ちたいのだ。
だから、ともすれば「勝ちすぎ=オーバーキル」なカードの方ができれば望ましい。
あえて具体的に言語化しようと試みるならば、「型にハマれば気が狂ったように圧倒的な盤面を形成できるカード」とでも言うべきか。
そういうわけで今回、【『ゲートウォッチの誓い』のカードリスト】を眺めていた私の目に留まったのは、このカードだった。
《隊長の鉤爪》。
見た瞬間、「これしかない」と感じた。
かつてローウィン時代のキスキンデッキで《民兵団の誇り》を使っていた人なら伝わるであろう、このグルーヴ感。
「攻撃時にトークンが出る」という能力はどことなく《マルドゥの隆盛》も彷彿とさせる (参考:【マルドゥ剣心】)。
「《隊長の鉤爪》でデッキを作るしかない」
それが【『ゲートウォッチの誓い』のカードリスト】を見た際の、私の第一印象だった。
■ 1. 第一形態
「《隊長の鉤爪》はどんなデッキに入るだろうか?」
そう考えたとき、やはり最初に思い至ったのは装備品シナジーだった。
『ゲートウォッチの誓い』には、実は装備品をフィーチャーしたカードが多い。
さらにおあつらえ向きに《骨の鋸》まで再録している。
そして《隊長の鉤爪》でトークンを出す赤白のアグロで《骨の鋸》が入るとなれば、《無謀な奇襲隊》もすんなりとデッキに入ることだろう。「怒濤」モードを《同盟者の宿営地》で使いまわせば相手は虫の息だ。
こうした安直な発想から3秒くらいで完成した「赤白装備」は、【KenjiWayfinder『ゲートウォッチの誓い』】で紹介してもらえることとなった。
開発部の掌の上に乗っている感は否めないが、発売前のデッキとしては妥当なところだろう。そう思って、そのときはこれで満足していた。
4 《平地》 2 《山》 1 《梢の眺望》 1 《燃えがらの林間地》 4 《吹きさらしの荒野》 4 《樹木茂る山麓》 2 《戦場の鍛冶場》 4 《同盟者の宿営地》 -土地(22)- 4 《探検隊の特使》 4 《石鍛冶の見習い》 2 《絶壁の見張り》 4 《武器の教練者》 4 《岩屋の装備役》 4 《無謀な奇襲隊》 4 《炎套の魔道士》 -クリーチャー(26)- |
4 《骨の鋸》 4 《隊長の鉤爪》 4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 -呪文(12)- |
■ 2. 第二形態
しかし。
「これだけ装備品をフィーチャーしたカードがセットに含まれているのだから、これらを全部詰め込んで赤白で組むのがウィザーズの意思だろう」と当初はそう思い込んではいたものの、『ゲートウォッチの誓い』発売後にいざ本格的に回してみると、「赤白装備」に関しては「何か違う」という思いが拭いきれなかった。
そもそも装備品とはテンポが悪いカードだ。
オーラと比較すればわかるだろう、1体のクリーチャーを強化するのに「装備コスト」という余計なマナがかかる。それでも装備品を使うメリットがあるとすれば、それは「クリーチャーを除去されても装備品は残る」という保険のため、ということになる。つまりアドバンテージ指向がなければわざわざ装備品を使う理由がないのである。
そして赤白ウィニーの場合、一般的にはアドバンテージ指向を持たない、テンポ重視のデッキを組んだ方が良い結果に結びつきやすい。
このように考えたとき、《岩屋の装備役》や《武器の教練者》が同じセットに収録されているにもかかわらず。
「《隊長の鉤爪》は赤白のカードではないのではないか」……そのような考えが私の頭を支配するようになっていた。
しかし、だとしたらどんなデッキで使えばいいというのか?
そのヒントは、《隊長の鉤爪》のカードテキストにあった。
「……白の1/1のコー・同盟者クリーチャー・トークンを1体……」
そう、《隊長の鉤爪》トークンで出てくるトークンは「同盟者」なのだ。
ならば「同盟者」シナジーを追求すればいい。
唐突だが、『ゼンディカー』時代の同盟者と『戦乱のゼンディカー』の同盟者との間の主な違いが何か、お分かりになるだろうか?
そう、それは方向性の違いだ。
『ゼンディカー』時代の同盟者は他の同盟者が場に出ると「+1/+1カウンターが乗る」など、あくまでも「一風変わったビートダウンのクリーチャー」という一線を超えてはいなかった。
だが『戦乱のゼンディカー』の同盟者たちの多くは、明らかにビートダウン向きのクリーチャーではない。
それどころかむしろ、リミテッドで言うところの「システムクリーチャー」ばかりなのだ。
そして《隊長の鉤爪》はそんな『戦乱のゼンディカー』に引き続いての『ゲートウォッチの誓い』に収録されたカード。
ならばつまり《隊長の鉤爪》とは実は、毎ターン同盟者を生み出すことでシステムクリーチャーのサポートをするためのカードだったに違いないのだ。
装備したクリーチャーのパワーを上げ、さらに攻撃することでトークンを生み出すという効果に隠された盲点。同盟者トークンを安定供給する……これこそが《隊長の鉤爪》の真実の役割だ。
つまりは「システム同盟者」こそが、本来《隊長の鉤爪》が収まるべきデッキなのだ!
1 《森》 1 《山》 1 《平地》 1 《梢の眺望》 1 《燃えがらの林間地》 1 《燻る湿地》 4 《吹きさらしの荒野》 3 《樹木茂る山麓》 4 《コイロスの洞窟》 2 《戦場の鍛冶場》 4 《同盟者の宿営地》 1 《海門の残骸》 -土地(24)- 4 《探検隊の特使》 4 《石鍛冶の見習い》 4 《獣呼びの学者》 4 《ザダの猛士》 4 《カラストリアの癒し手》 4 《ドラーナの使者》 4 《エルドラージの寸借者》 2 《変位エルドラージ》 -クリーチャー(30)- |
4 《集合した中隊》 2 《隊長の鉤爪》 -呪文(6)- |
そうしてこのゴミができた。
各色のありとあらゆる優秀な同盟者をかき集めた結果、土地の枚数は増えるわ《獣呼びの学者》は必要になるわでどんどんカードパワーが低くなっていき、最終的には「同盟者で落ちたカードパワーをエルドラージで補う」という背景ストーリー完全無視の結論に至ってしまった。
犯人は「《同盟者の宿営地》の無色マナをエルドラージに活用したら格好良いと思った」などと意味不明な供述をしており、精神鑑定の必要もあるかもしれない。
「《エルドラージの寸借者》は《集合した中隊》から出せる5マナ域ゆえに最強」とのコメントも残しており、早急な脳の治療が望まれる。
■ 3. 最終形
さすがにこの「Ally-drazi」は数回ほど回して夢から醒めたので、改めてデッキに合う同盟者を探すこととなった。
そして、「《隊長の鉤爪》でトークンが毎ターン出るのであれば、《カラストリアの癒し手》だけでなく《ズーラポートの殺し屋》とも相性が良いのでは」ということに思い至ったのである。
《カラストリアの癒し手》と《ズーラポートの殺し屋》がいる状況で《隊長の鉤爪》を装備したクリーチャーでアタックすれば、「トークンが出て1点ドレイン」「トークンがブロックされて死んで1点ドレイン」と毎ターン2点ドレインが誘発し、いやらしいことこの上ない。
ある程度相手のライフが詰まれば、最後に「同盟者ファイナルバンザイアタック」で無理矢理大量ドレインも可能となる。
こうしてデッキに噛み合う最後のピースを発見したことで、「頭のおかしいゴミ」だった「Ally-drazi」は「ある程度頭のおかしくないゴミ」に生まれ変わったのだ!
1 《森》 1 《山》 1 《平地》 1 《沼》 1 《梢の眺望》 1 《燃えがらの林間地》 1 《燻る湿地》 3 《吹きさらしの荒野》 3 《樹木茂る山麓》 2 《血染めのぬかるみ》 4 《コイロスの洞窟》 1 《ラノワールの荒原》 4 《同盟者の宿営地》 -土地(24)- 4 《探検隊の特使》 4 《石鍛冶の見習い》 4 《獣呼びの学者》 4 《ザダの猛士》 4 《カラストリアの癒し手》 4 《ズーラポートの殺し屋》 4 《ドラーナの使者》 -クリーチャー(28)- |
4 《集合した中隊》 4 《隊長の鉤爪》 -呪文(8)- |
4 《乱撃斬》 4 《神聖なる月光》 3 《正義のうねり》 2 《強迫》 2 《墓所からの行進》 -サイドボード(15)- |
プレイは至極簡単である。片っ端から同盟者を出しつつ《石鍛冶の見習い》で《隊長の鉤爪》を探し、装備してアタック。
あとは《隊長の鉤爪》の力で毎ターン沸き出る同盟者たちが《カラストリアの癒し手》や《ズーラポートの殺し屋》といったシステムクリーチャーと噛み合い、勝手にダメージを積み重ねてくれる、という寸法である。
完璧だ……これ以上に《隊長の鉤爪》を生かせるデッキはない。
そう結論づけた私はひとまずマジックオンラインで「Ally Claw」を製作し、成果を確認することにした。
そうして意気揚々と3回ほどスタンダードリーグに特攻した結果……
当然のごとく。
全部2勝3敗以下
だったのである。
ちなみにマジックオンラインのリーグは5戦して3勝2敗以上で参加費が返ってくるわけだが、余程ダメなデッキを使っていない限り、3回も挑戦すれば1回くらいは3勝できる。しかしこのデッキはそれすら達成できなかったのだ。デッキパワーは推して知るべしである。
そもそもゲーム中に2回以上除去呪文を打ってくる相手には全く勝てない上に、《コジレックの帰還》とか打たれた日には変な奇声が漏れでる。そういうときには対戦相手を「この人でなし!」と (心の中で) 罵ると心の平穏が保たれるのだが、しかし敗北という事実は変えられないので結局砂を噛むような気持ちになるほかない。
《隊長の鉤爪》も装備して1回殴れればまだマシで、現実にはアタックしようとすると無情にも対戦相手から除去が飛んでくるか、《集合した中隊》から出てきた《反射魔道士》に膨大なテンポをとられて頭がおかしくなって死ぬ。
そんなデッキが、盤石なマナベースから至高のクリーチャーと究極のスペルをプレイし合うスタンダード環境において通用するはずもなかったのだ。
■ 終点
そんなわけでこのシリーズ【だらだら虚無デッキ】は、【だらだらクソデッキ】を書くほどまでにはテンションが上がらない、クソデッキ未満の「虚無デッキ」を組んでしまった場合に更新される予定である。
そう……結局、私の力では《隊長の鉤爪》を輝かせることができなかった。
第一印象で惚れ込んだカードであっても、うまくいかないこともある。
デッキ構築とはかくも思い通りにいかないものなのだ。
だが、だからこそ面白い。いつか必ず、【ゼウス】と呼ばれるに値するオリジナルデッキを作ってみせる。
そう決意を新たにしながら、私は現実逃避に別のデッキの一人回しを始めるのだった……。
3 《平地》 2 《山》 2 《沼》 1 《燻る湿地》 4 《血染めのぬかるみ》 4 《戦場の鍛冶場》 4 《コイロスの洞窟》 -土地(20)- 4 《果てしなきもの》 4 《結束した構築物》 4 《帆凧の斥候》 4 《エイヴンの散兵》 4 《マルドゥの影槍》 4 《僧院の速槍》 4 《グルマグの速翼》 4 《無謀な奇襲隊》 -クリーチャー(32)- |
4 《マルドゥの隆盛》 4 《戦の角笛》 -呪文(8)- |
やっぱり《マルドゥの隆盛》は最高だぜ!!!!!
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