こんにちは。らっしゅです。
早速ですが、今週末は待ちに待った【プロツアー『イニストラードを覆う影』】が開催されます!
スタンダードと『イニストラードを覆う影』ブースタードラフト。2つのフォーマットで競われるトーナメントですが、世界中からより多くの注目を集めているのはスタンダードでしょう。新セットが発売されてからまだ2週間しか経っていないホヤホヤの新環境をプロたちはどのように切り拓くのか。これからのスタンダード環境の行方を決定づけるトーナメントは見逃せません!
今大会も【浅原 晃さん、鍛冶 友浩さんといった豪華解説陣による公式生放送】が放送される予定です。開催地がスペインのマドリードなので、日本時間では4月22日(金)~24日(日)の16:00~26:00と、日本の皆さんにとって観戦しやすいスケジュールなのは嬉しいですね。日本からも多くの選手が参加する予定なので、ぜひとも一緒に彼らを応援しましょう!
さて、簡単な紹介はこれくらいに、プロツアー『イニストラードを覆う影』を直前に迎えた今週末のスタンダード環境の様子を見ていきましょう。ちょっとばかり前提をすっ飛ばした内容について話すので、先週末に活躍したデッキなど基本的な登場人物と関係性については、【こちらの記事】で確認していただければ助かります。
それでは、ひとつ目の話題からどうぞ!
【話題1】「バントカンパニー」は最強のデッキなのか?
新環境の第2週目を終えた今、最も有力なデッキだと語られているのが「バントカンパニー」です。第1週目を制した【Jim Davisの雛形】がとてもよかったこともあり、続く第2週目には世界中を席巻しました。アメリカでは【SCG Standard Open Baltimore】のTop16の半分を占め、晴れる屋トーナメントセンターで開催された【プロツアー『異界月』予備予選】では【決勝戦を同型対決で飾る】という活躍ぶりです。
5 《森》 3 《島》 2 《平地》 3 《梢の眺望》 3 《大草原の川》 3 《伐採地の滝》 3 《ヤヴィマヤの沿岸》 4 《進化する未開地》 -土地 (26)- 4 《薄暮見の徴募兵》 4 《ヴリンの神童、ジェイス》 4 《森の代言者》 4 《跳ねる混成体》 4 《反射魔道士》 4 《不屈の追跡者》 1 《巨森の予見者、ニッサ》 -クリーチャー (25)- |
4 《ドロモカの命令》 4 《集合した中隊》 1 《オジュタイの命令》 -呪文 (9)- |
3 《ランタンの斥候》 3 《石の宣告》 3 《否認》 2 《払拭》 2 《侵襲手術》 2 《翼切り》 -サイドボード (15)- |
「白系人間」などクリーチャー主体のデッキが人気を集めた第1週目を受け、戦場のテンポに強く干渉する《反射魔道士》が強力な環境だと明らかになったことは「バントカンパニー」にとって朗報でした。なぜなら「バントカンパニー」は《集合した中隊》の恩恵から、どのデッキよりも多い枚数の《反射魔道士》にアクセスできるデッキだからです。強いカードを沢山プレイする。単純ながらも強い戦略なのは疑いようがありません。
デッキが低いマナ域に寄っていることによる”安定性“。
3色のデッキ構成による1枚1枚の”質の高さ“。
《集合した中隊》を筆頭とする多くの”アドバンテージ源“。
このように「バントカンパニー」最強説を支持する要素は、《反射魔道士》以外にもいくつかあります。”質の高い“カードたちが”安定“して”沢山“押し寄せてくる。プロツアー『イニストラードを覆う影』を直前に迎えた現在、最有力のデッキであることにも納得のポテンシャルを持っているのです。
では、「バントカンパニー」はプロツアーの舞台でも最強のデッキなのでしょうか?
この質問には多くの賛成派がいるとは思いますが、僕は反対派です。その最大の理由は、「バントカンパニー」の強さの源である《反射魔道士》が最も警戒されるトーナメントになるからです。
ここ2週間のメタゲームの背景として、クリーチャー主体のデッキによって戦場のテンポ合戦が繰り広げられていました。とりあえず《反射魔道士》を上手く使ったデッキが強い。そんな前提が「バントカンパニー」を支えていたのですが、プロツアーではそう素直に進むことはないでしょう。少なくとも《反射魔道士》に弱いデッキが活躍することはなく、勝利するデッキは《反射魔道士》が介入する勝負を苦にしないデッキです。
また、前環境から引き継いでの「バントカンパニー」の弱点が明らかにされていることも最強説に疑問を残します。飛行クリーチャーに弱いこと、スケールがなく決定力に欠けること。この2つが主なる弱点です。
《集合した中隊》デッキは、地上の戦線は固いものの、空はガラ空き。前環境で飛行クリーチャーが流行した理由がこれです。現環境でもこれは変わらず、流行のリストではノーガードのものさえ見かけます。《空中生成エルドラージ》《雷破の執政》《大天使アヴァシン》を筆頭に、飛行クリーチャーを軸にした戦略に対しては不安です。
2~3マナ域が多く安定していることを強みだと紹介しましたが、これは膠着したゲームにおいては弱点に変わります。《薄暮見の徴募兵》《往時の主教》《不屈の追跡者》など余ったマナを新しいカードに変換できる仕組みは用意されていますが、引いてくるのが低マナ域のカードばかりでは、1枚のカードの効果量が物をいう終盤戦では決定力に欠けてしまいます。これはトーナメントにおいては致命的な弱点となりかねません。それは引き分けのリスクがあるからです。同型戦は特に膠着する可能性が高いため、この問題をクリアできなかった「バントカンパニー」は自然と脱落していくでしょう。
このような見えている弱点をどれだけ改善できるかが「バントカンパニー」の課題となり、「バントカンパニー」の持つ強みをどれだけ消すことができるかが他のデッキの課題となります。最強たりえるポテンシャルを持つ「バントカンパニー」ではありますが、ある程度研究の進んでいる今大会では、やや分の悪い追いかけっこを強いられそうです。
【話題2】ボードコントロールは登場しないのか?
追うものと追われるもの。追われるものが「バントカンパニー」だとわかったところで、追うものへと目線を移してみましょう。
この2週間で明らかになったことは、戦場のテンポを争うゲームにおいて「バントカンパニー」は王者だということでした。つまり、クリーチャーを主体としたデッキで戦場の主導権を争うことは、「バントカンパニー」が流行している現在では得策ではありません。特に《反射魔道士》が影響する3ターン目以降の戦いはどのデッキも避けるべきでしょう。
これは「白系人間」の進化からも窺えます。1週目では「白単色」「白青」「白緑」と様々なバリエーションが見られた「白系人間」でしたが、2週目を生き残ったのは「白単色」のものでした。
18 《平地》 -土地 (18)- 4 《ドラゴンを狩る者》 4 《探検隊の特使》 4 《スレイベンの検査官》 4 《町のゴシップ屋》 3 《勇者の選定師》 3 《アクロスの英雄、キテオン》 4 《白蘭の騎士》 4 《サリアの副官》 2 《領事補佐官》 -クリーチャー (32)- |
4 《石の宣告》 2 《グリフの加護》 4 《永遠の見守り》 -呪文 (10)- |
4 《ハンウィアーの民兵隊長》 3 《絹包み》 2 《ウェストヴェイルの修道院》 2 《ランタンの斥候》 2 《グリフの加護》 2 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 -サイドボード (15)- |
土地が18枚まで切り詰められ、1マナ域は《勇者の選定師》も加えて22枚も用意されています。これは徹底的に《反射魔道士》の領域で戦わないという意思表示です。《反射魔道士》は当然ながらコストの重いカードを戻したいのですが、その対象が1マナばかりでは期待した活躍はこなせません。《永遠の見守り》が設置されるまでの展開量も自然と増えるため、《反射魔道士》が猛威をふるう環境においては理に適ったアプローチです。
しかし、これもひとつの前提があるからこそ通用する戦略であることは忘れてはいけません。
それは、全体除去を利用した有力なデッキがまだ流行していないことです。1マナ域のカードを増やすということは、純粋な戦場のテンポを獲得する上では有意義ですが、クオリティの低いカードが増えるため、全体除去のように戦場に広く影響する呪文に弱くなります。ただ幸いなことに《光輝の炎》《コジレックの帰還》《衰滅》《次元の激高》とカードが揃っている割には、これらのカードを使ったデッキは流行していないのです。
なぜこれらを採用したボードコントロールが登場しないのでしょうか?「白系人間」にはもちろん、「バントカンパニー」にも有効な戦略にも見えますが、それは”とある理由“がネックとなっているからです。
その理由とは、深刻なフィニッシャー不足です。
前環境のボードコントロールには《カマキリの乗り手》や《包囲サイ》など、攻守兼用かつ、優位を掴んだらすぐにでもゲームを終わらせることのできる都合のいい存在がいました。それ以上のスケールでは《精霊龍、ウギン》も記憶に新しい1枚です。
現環境においても《炎呼び、チャンドラ》や《龍王オジュタイ》は健在ですが、それらは環境の速度に対して重い割には、サイズやスケールの問題で不十分だと考えられています。《炎呼び、チャンドラ》は全体除去効果と決定力ともにコストに対して半端で、《龍王オジュタイ》は戦場を制圧するには物足りません。
しかし、大きなサイズをと安易に巨大なクリーチャーを選択すると、そこには《反射魔道士》が待ち構えています。全体除去によって一時的に奪い去った優位を勝利に変える決定力。それが現環境のボードコントロールに求められている人材です。
この募集要項に該当するカードがまるで存在しないかというと、そんなこともありません。
古典的には《ゴブリンの闇住まい》や《荒野の確保》や《保護者、リンヴァーラ》。新しいカードならば《大天使アヴァシン》が適任でしょう。現状では「白黒エルドラージ」や「白単ミッドレンジ」などに顔を見せてはいますが、まだ全体除去との組み合わせはあまり試されていません。彼女自身の「変身」効果も全体除去なので、よりボードコントロールに傾倒したデッキでの活躍が期待されます。
12 《森》 2 《山》 1 《荒地》 2 《燃えがらの林間地》 4 《ウギンの聖域》 4 《見捨てられた神々の神殿》 -土地(25)- 4 《ジャディの横枝》 4 《世界を壊すもの》 4 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》 -クリーチャー(12)- |
4 《コジレックの帰還》 4 《爆発的植生》 4 《ニッサの巡礼》 4 《ニッサの復興》 4 《ニッサの誓い》 3 《炎呼び、チャンドラ》 -呪文(23)- |
4 《難題の予見者》 3 《不屈の追跡者》 3 《次元の歪曲》 2 《歪める嘆き》 1 《引き裂く流弾》 1 《翼切り》 1 《炎呼び、チャンドラ》 -サイドボード(15)- |
全体除去効果を持つフィニッシャーは環境が求めている要素のひとつなのかもしれません。《炎呼び、チャンドラ》は全体除去効果(4点オール)と決定力(3/1のエレメンタル2体)のどちらもがやや物足りなく感じますが、それが《世界を壊すもの》ならば、到達持ちの5/7に加えて《コジレックの帰還》の誘発効果も持ち合わせて強烈です。これと《龍王アタルカ》や《絶え間ない飢餓、ウラモグ》を擁する「緑赤エルドラージ」は先週末も好成績を残していましたし、プロツアーでも見かけるデッキタイプのひとつとなるでしょう。
6 《島》 6 《山》 4 《シヴの浅瀬》 4 《さまよう噴気孔》 3 《高地の湖》 3 《溺墓の寺院》 -土地 (26)- 4 《ヴリンの神童、ジェイス》 -クリーチャー (4)- |
4 《焦熱の衝動》 3 《マグマの洞察力》 2 《稲妻の斧》 4 《苦しめる声》 2 《眠りへの誘い》 3 《癇しゃく》 1 《コジレックの帰還》 4 《ジェイスの誓い》 4 《スフィンクスの後見》 3 《炎呼び、チャンドラ》 -呪文 (30)- |
4 《氷の中の存在》 3 《否認》 3 《熱病の幻視》 2 《払拭》 1 《ただの風》 1 《眠りへの誘い》 1 《コジレックの帰還》 -サイドボード (15)- |
フィニッシャーという観点に立ち返ると、先週も《反射魔道士》対策として触れた”クリーチャーを採用しない“という戦略も有力です。《紅蓮術師のゴーグル》や《スフィンクスの後見》を利用した「赤系」あるいは「青赤」のコンボコントロールは、クリーチャー対策が流行するであろう今大会では台風の目になる可能性が十分にあります。デッキとしてのコントロール能力が低いこと、キーカードに依存している割にはドロー能力が乏しいことなど問題も抱えていますが、このように対策されない軸で戦うことで決定力を手にする方法もあるのです。
そもそものタイトルにある”ボードコントロールは登場しないのか?“という問いには、登場すると断言します。決定力のあるフィニッシャーの候補に目星がついている今大会ではきっと活躍するでしょう。「緑赤エルドラージ」「赤系コンボコントロール」などは歪さ故の弱点も多いので、個人的には未だ見ぬ《大天使アヴァシン》を使った「白系コントロール」に期待しています。
【話題3】環境で最高のXターン目のカードって何?
僕のプロツアー直前記事では毎回のように取り扱っている話題ではありますが、EUを代表する強豪に成長したOndrej Straskyの例のアドバイスをまた紹介します。
「スタンダードでは環境で最高の行動をもったデッキを使え」
カードプールが小さいスタンダードにおいては、それぞれのカードへの対抗戦略が用意されていないことが度々あります。そのため、そのカードを最速で展開するという単純な戦略こそが勝率を最大化することも珍しくありません。かつては3ターン目の《カマキリの乗り手》や4ターン目の《龍王アタルカ》だった”環境で最高の行動“とは、現環境においては何なのでしょうか?
真っ先に候補に挙がるのは「4ターン目の《集合した中隊》」かもしれません。環境的にカウンター呪文が少なく、3マナ以下ではもちろん4マナでも《集合した中隊》に対応するカードがない現在は支配的な1枚です。
そして他の候補はというと、《サリアの副官》《永遠の見守り》《先駆ける者、ナヒリ》《薄暮見の徴募兵》《反射魔道士》《大天使アヴァシン》などが考えられますが、どれも《集合した中隊》と比較すると一歩以上譲らなければなりません。
ちなみに僕の意見も《集合した中隊》です。ひねりが無くて申し訳なくも思うのですが、前環境からこのインスタントが戦場に与える影響は大きすぎます。
ただ、前環境でも「バントカンパニー」や「4色《先祖の結集》」とタイプの異なるデッキで使用されたように、現環境においても”《集合した中隊》から何を出すのか“については議論の余地が残されていると思うのです。
現状では「バントカンパニー」というアグロコントロールが《集合した中隊》の主な居場所となっていますが、時折見かける「アブザンカンパニー」も興味深く思えます。
4 《森》 4 《沼》 3 《平地》 4 《梢の眺望》 3 《コイロスの洞窟》 3 《ラノワールの荒原》 4 《進化する未開地》 -土地 (25)- 4 《薄暮見の徴募兵》 4 《エルフの幻想家》 4 《ズーラポートの殺し屋》 1 《永代巡礼者、アイリ》 4 《地下墓地の選別者》 4 《ナントゥーコの鞘虫》 4 《不屈の追跡者》 1 《変位エルドラージ》 1 《異端の癒し手、リリアナ》 4 《大天使アヴァシン》 -クリーチャー (31)- |
4 《集合した中隊》 -呪文 (4)- |
正確なリストはわからないのですが、大体このような構成です。《往時の主教》が出てくることもあるので、細部はもっと枚数が散っているのかもしれません。何にしても《ズーラポートの殺し屋》《ナントゥーコの鞘虫》《大天使アヴァシン》など、「バントカンパニー」と比較すると膠着を打破できる決定力の高いパーツが採用されています。
一見すると単体でも強力なカードが揃えてある「バントカンパニー」に軍配が上がりそうですが、カード同士のシナジーを発揮できる中速のゲームにおいては「アブザンカンパニー」のほうが優れています。強さには差はありますが、「アブザンカンパニー」は前環境の「4色《先祖の結集》」に似た《集合した中隊》の使い方をしたデッキタイプなのです。
ひとつ「4ターン目の《集合した中隊》が最高だ」とわかったとしても、《反射魔道士》と《跳ねる混成体》で攻撃するのか、《ナントゥーコの鞘虫》と《ズーラポートの殺し屋》で瞬殺するのか、はたまた《空中生成エルドラージ》と《大天使アヴァシン》のパッケージを採用するのか。《集合した中隊》で何をするのかによって、その価値は大きく変わります。
現在のスタンダードにおいて最も強力な行動は、4ターン目の《集合した中隊》です。ただ、プロツアー本戦で《集合した中隊》から飛び出してくるものは何か。プロたちが選択した細部の構成からは目が離せません。
【まとめ】「バントカンパニー」 vs. 世界
これまでもプロツアー直前に有力なデッキと呼ばれていたものは数多くありましたが、今回の「バントカンパニー」ほど集中して話題に上がったものはあまり覚えがありません。前評判の一番手というものは、なんだかんだでプロツアーでも活躍するのが通例ですが、今回のプロツアー『イニストラードを覆う影』における「バントカンパニー」の警戒され具合には若干の不安を感じます。
果たして下馬評通りに「バントカンパニー」は沈んでしまうのか。
それとも先駆者としてプロツアーをも制覇するのか。
これからのスタンダード環境の行く末の決まる戦いがいよいよ始まります。
それでは日本人選手たちの幸運を祈って!今週末は大会に観戦に、思う存分マジックライフを満喫しましょう!
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