みなさん、こんにちは。
私はチェコ出身のプラチナプロ、ルーカス ブロホン/Lukas Blohonと申します。これが晴れる屋に寄稿する初めての記事となります。
私は先週の【プロツアー『異界月』】で優勝することができました。そこで、プロツアーに向けた私の予想や準備、トーナメントレポートとサイドボーディングガイド、さらには今後に向けたデッキの改良点をお伝えしたいと思います。
私はこの大会の前に、すでにプラチナレベルが確定する51点のプロポイントを獲得していたので、目標は「世界選手権2016」の権利を確保することでした。そのためには、プロツアーで6点が獲得できる10勝6敗の成績を収める必要がありましたが、それを達成して57点にさえ到達すれば招待されるに十分だと考えていました。
ただし、実際には「世界選手権2016」への「最多プロポイント枠」での招待は58点だったため、私の目標は1勝、または1分少なかったことになります。
■ 調整初期 ~バントスピリット~
プロツアー『異界月』の調整は、普段通り「Cabin Crew」の面々と行いました。メンバーのほとんどは、7月19日にはチェコのプラハティツェ付近に位置する人里離れたキャビンに集合しました。
まずは、いつも通りドラフト中心の練習を行います。1日に3~4回のドラフトを行いながら、少しだけ構築をするといった具合です。
【Magic Online Championship 2015】王者であるNiels Noorlanderの厚意にあやかり、私たちが最初に作ったデッキは「バントスピリット」でした。
「バントスピリット」は在りし日の「フェアリー」デッキを想起させます。スタンダードで最も強力である《呪文捕らえ》や《集合した中隊》を使用でき、デッキに含まれるほとんどのカードが瞬速を持っているため、対戦相手が適切なプレイをすることが困難なデッキだからです。
このデッキは非常に堅実で、迅速かつ強力だったため、我々の多くがプロツアーで使用するかどうか検討を続けました。
「バントスピリット」が抱える問題は、《最後の望み、リリアナ》と《空への斉射》に弱いことでしたが、それよりも深刻な問題はこのデッキを正しくプレイするのがとても難しいことでした。このデッキを使うにあたり、あなたは全ての可能性を考慮して行動する必要がありますが、一度でも失敗してしまうとそこから立ち直るのは容易なことではありません。
これが (少なくとも私が) このデッキを選択しなかった最大の理由です。そしてより快適に、私のプレイスタイルに合ったデッキを探す作業が始まりました。
■ 調整中期・後期 ~白黒コントロール~
次に試したのは「黒緑昂揚コントロール」でしたが、最適なリストを組み上げることが叶わなかったので少しの調整の後に却下しました。続いて構築したデッキは、Seth Manfieldが【グランプリ・ニューヨーク2016】を制したノンクリーチャーの「白黒プレインズウォーカーコントロール」です。
新戦力は《最後の望み、リリアナ》と《彼女の誓い》しかありませんでしたが、両者はとても優秀でした。
どちらもプレインズウォーカーを守るために大きく貢献しますし、対戦相手に過剰な展開を強いることで《衰滅》の威力も増大します。
このデッキの問題点はサイドボード後のゲームで、《否認》の入った「バント」デッキは非常に厄介な存在でした。《薄暮見の徴募兵》、《不屈の追跡者》、《巨森の予見者、ニッサ》といったカードでアドバンテージで先行され、こちらの重量級の脅威はわずか2マナの《否認》でカウンターされてしまうのです。
この問題を打破するために、私は《折れた刃、ギセラ》2枚、《大天使アヴァシン》、《保護者、リンヴァーラ》、《消えゆく光、ブルーナ》、ついでに《ゲトの裏切り者、カリタス》2枚、といった「天使パッケージ」を採用してみることにしました。
上記クリーチャーは非常に好感触だったものの、いくばくかの調整を経て《折れた刃、ギセラ》は《ゲトの裏切り者、カリタス》の下位互換だと気付きました。また、《サリアの槍騎兵》はあまりにも無力で、《折れた刃、ギセラ》と《消えゆく光、ブルーナ》の「合体」システムも、「白緑トークン」のようないくつかのマッチアップを除いては特に必要ないと判断しました。
その反面で、予想以上に強力だったのが《大天使アヴァシン》です。「白黒コントロール」から《大天使アヴァシン》が飛んでくるなんてほとんど予想されませんし、瞬速持ちのフィニッシャーは「バント」のようにインスタントタイミングの攻防が重要なデッキに対してとても有効でした。
《保護者、リンヴァーラ》は「バントカンパニー」と「バントスピリット」の両デッキに効果的で、他にもクリーチャーを主軸とした全てのデッキに良い働きをしてくれました。
また、クリーチャーを加えたことで、以前よりも《最後の望み、リリアナ》を上手く運用できるようにもなりました。
この変更によって《否認》は以前ほどの脅威ではなくなりましたが、その代わりに《オジュタイの命令》が刺さりやすくなっています。ただし、《オジュタイの命令》は1~2枚程度の採用がほとんどなので、《否認》ほど気にかける必要はありません。
この時点で、私は微調整と、最後の詳細を煮詰めることにしました。いくつかの例を挙げるならば、2枚目の《死の宿敵、ソリン》を《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》に変更しました。
この2枚には大きな差があり、《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》が最上級のプレインズウォーカーであるのに対し、《死の宿敵、ソリン》はプレイするに値しません。3枚の《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》にはリスクが伴うものの、願わくばプロツアーで《死の宿敵、ソリン》をプレイせず、3枚の《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》を採用していれば、と考えてしまうほどです。
その他の構成は非常に分かりやすいものですが、メインボードに採用した《神聖なる月光》は《集合した中隊》のみならず、《秘蔵の縫合体》デッキや《搭載歩行機械》、《墓後家蜘蛛、イシュカナ》、《炎呼び、チャンドラ》などにも機能します。
デッキリストを提出する最後の数分で、サイドボードに3枚目の《苦渋の破棄》を加えました。これは主に《熱病の幻視》などの厄介なエンチャントや、遅いコントロールデッキのプレインズウォーカー、そして《老いたる深海鬼》対策といった意味合いが強いです。
また、Martin Juzaの提案で「ランプデッキ」や《約束された終末、エムラクール》、《老いたる深海鬼》への対抗手段として2枚の《無限の抹消》を採用しました。
サイドボードはこのデッキにとって非常に大きな強みであり、私が思うに「バント」以外の全てのマッチアップにおいて、あなたは対戦相手よりも効果的なサイドボーディングができるはずです。
私たちのチームは、3名が「白黒コントロール」を、1名が「白緑トークン」を選択肢、残りのメンバーは「バントスピリット」と「発掘/現出」デッキを使用しました。
■ プロツアー『異界月』予選ラウンド
プロツアー本戦では、私は2回とも「白緑人間」をドラフトしました。これは我々が最良だと考えるアーキタイプのひとつであり、Ben Weitzの組み上げたきれいな「青緑現出」デッキ以外には勝つことができて、ドラフトラウンドは5勝1敗でした。
スタンダードラウンドは《精神壊しの悪魔》の入った「黒緑昂揚」デッキと、「バントカンパニー」を使用する高橋 優太に敗れてしまいました。私が勝利したマッチアップは、「バントカンパニー」×2、「Channel Fireball Pantheon」の「ティムール現出ランプ」×2、「青黒ゾンビ」、「赤緑ランプ」、そして《サリアの槍騎兵》と《龍王アタルカ》の入った「白緑トークン」です。
■ プロツアー『異界月』決勝ラウンド
トップ8では、メインボード戦の相性が非常に悪い日本製の「ランプ」デッキと直面することになりました。
こちらはメインボードでプレッシャーをかけられるカードが少なく、そのうえ対戦相手は《集団的抵抗》という最高の回答を持ち合わせています。《集団的抵抗》は《ゲトの裏切り者、カリタス》、《大天使アヴァシン》に対処できるだけでなく、《最後の望み、リリアナ》の「-7」能力を大幅に減速させつつ、「昂揚」達成と手札の質向上にも役立つ優れたカードです。
実際に、行弘 (賢) 選手は1度か2度《約束された終末、エムラクール》を唱えゲームに勝利しました。
前夜の調整において、私はこのマッチで「白黒コントロール」が勝つ見込みはほとんどないと感じていました。しかしながら、準々決勝の1本目において、行弘選手が2連続で《約束された終末、エムラクール》を引かなければ勝ち、という状況まで追い込むことができたのです。不幸にもそれは実際に起こってしまったことですが、もしも私がもっと上手くプレイしていればこのゲームに勝利できていたと思います。絶望的なこのマッチアップの初戦を落としてしまったのは、他でもなく完全なる自己責任です。
サイドボード後には全てが一変します。こちらのデッキは無駄カードがなくなり著しく改善しますし、「ランプ」デッキ側はほぼ全てのインスタントカードをサイドアウトするため「昂揚」の達成が難しくなるのです。これにより《ウルヴェンワルド横断》は《地勢》に、《墓後家蜘蛛、イシュカナ》は少し重い《大蜘蛛》に成り下がってしまいます。
サイドボード後は手札破壊呪文が増えるので、《集団的抵抗》の手札入れ替えモードもメインボード戦ほど有効ではありません。極めつけは《無限の抹消》で、これで《約束された終末、エムラクール》さえ取り去ってしまえば、《不屈の追跡者》を殺せないような展開以外で負けることはありません。
幸運にもサイドボード後は3連勝することができ、準決勝でSam Pardeeの「黒緑昂揚コントロール」とのマッチアップが決まりました。
理論上では厳しいマッチアップですが、MartinとRobinが私のために調整を重ねてくれたおかげで、「黒緑昂揚」デッキの問題点を発見することができました。
【1】プレインズウォーカーへの回答が少ないこと。対戦相手が無駄な除去を抱えている間に、容易にプレインズウォーカーで逃げ切ることができます。
【2】「昂揚」を達成するのが簡単ではないこと。特に私がクリーチャーを展開しなければ、《闇の掌握》/《究極の価格》/《殺害》といったインスタント呪文を使用することができず、この問題が表面化しやすくなります。
【3】アドバンテージ獲得手段が異なること。私が《骨読み》アドバンテージを獲得できるのに対し、対戦相手のアドバンテージ源はこちらが簡単に対処できるクリーチャーです。「黒緑昂揚」側が《最後の望み、リリアナ》を引かない限りこの差が覆ることはなく、対戦相手の手札で除去呪文が腐る展開が多発します。
【2】「昂揚」を達成するのが簡単ではないこと。特に私がクリーチャーを展開しなければ、《闇の掌握》/《究極の価格》/《殺害》といったインスタント呪文を使用することができず、この問題が表面化しやすくなります。
【3】アドバンテージ獲得手段が異なること。私が《骨読み》アドバンテージを獲得できるのに対し、対戦相手のアドバンテージ源はこちらが簡単に対処できるクリーチャーです。「黒緑昂揚」側が《最後の望み、リリアナ》を引かない限りこの差が覆ることはなく、対戦相手の手札で除去呪文が腐る展開が多発します。
サイドボード後は例によって相性がさらに良くなり、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の活躍と上記問題点が重なったこともあり、3-0で勝利することができました。
決勝戦は、またしてもメインボードの相性がとても悪いマッチアップでした。しかしOwen選手はドローが芳しくなく、準決勝に続いて3-0で勝つことができたのです。0-2スタートから一転して9-0できたことで、私はプロツアー『異界月』のチャンピオンになりました。
■ サイドボーディングガイド
これからいくつかのサイドボーディングをお届けしますが、最も重要なことは、どのカードがどのマッチアップで最善かを理解することです。そのため、これらはあくまで参考程度にとどめておいてください。
もうひとつ重要なポイントは、75枚同じリストと対戦するときであれ、あなたはサイドボーディングを変える必要があるということです。なぜならば、《衰滅》を警戒して動くプレイヤーもいれば、それを無視して全てのクリーチャーを展開するプレイヤーもいるからです。
● 「バントカンパニー」
このマッチアップは、メインボード戦の相性がとても良いです。メインボードに《否認》はありませんし、「バントカンパニー」側は時には《衰滅》がないことを願って手札を使い切るしかありません。しかし、これらはサイドボード後には決して起こりえないことです。
「バントカンパニー」は《薄暮見の徴募兵》などで消耗戦を容易に乗り越えてくるため、あなたは「バントカンパニー」に対して、長期消耗戦を挑むべきではありません。最も簡単に勝利を手繰り寄せる方法は、《ゲトの裏切り者、カリタス》、《大天使アヴァシン》、または《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》を解決させてしまい、それらでアドバンテージを得ることです。
対戦相手の《呪文捕らえ》や《集合した中隊》など、その全てを考慮して最適に動くのは不可能なので、時にはリスクを承知で踏み込む必要があります。どの道「バントカンパニー」側が全ての回答を持ち合わせていれば負けてしまいますし、サイドボード後には特にそれが顕著です。
《最後の望み、リリアナ》は、このマッチアップではあまり有効ではありません。「+1」能力で殺せるのは《無私の霊魂》のみで、「バントカンパニー」の他のクリーチャーを抑え込むには不十分です。仮にメインボードで《無私の霊魂》を見かけたとしても、「バントカンパニー」側は《無私の霊魂》をサイドアウトしてしまうでしょうし、「-7」能力まではあまりに時間がかかり過ぎるので、《最後の望み、リリアナ》はサイドアウトします。
・In
・Out (先手)
・Out (後手)
● 「白緑トークン」
《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》にさえしっかりと対処できれば、決して悪くないマッチアップです。《進化の飛躍》も重要なカードではありますが、「白黒コントロール」のクリーチャー、とりわけ《ゲトの裏切り者、カリタス》があれば《進化の飛躍》を乗り越えることができます。
《最後の望み、リリアナ》は先手ならば《搭載歩行機械》対策として上々の活躍が期待できますが、後手だと間に合わないことが多いため、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》への回答と入れ替えます。
・In
・Out (先手)
・Out (後手)
● 「黒緑昂揚」 (Face to Face)
「黒緑昂揚」側が、決して簡単に「昂揚」できるわけではないことを念頭に置いておいてください。時にはインスタント呪文を使わせないためにクリーチャーを展開せず、プレインズウォーカーや《骨読み》で先行することが正解になることもあります。
・In
・Out
● 「ティムール現出ランプ」 (Channl Fireball Pantheon)
《最後の望み、リリアナ》はメインボードでは良いプレッシャーとして重宝しますが、サイドボード後には《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が入るので不要になります。
・In
・Out
■ 今後に向けた変更点
プロツアー『異界月』とメタゲームが同じならば、という前置きが必要ですが、今後に向けていくつか変更を加えたい点があります。
「白単人間」はほとんどいませんし、「バントカンパニー」も数を減らすであろうことを踏まえ、メインボードに4枚の《衰滅》は必要ありません。また、いくつかの理由から《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》はほとんどのマッチアップで、特に先手の際に非常に有効です。
このデッキを使用していて、6マナ域のカードにはがっかりしたので、それらを解雇して追加の《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》にしようと考えています。
これらを加味し、プロツアーのリストに下記のような変更を施したいと思います。
《衰滅》はサイドボードには追加を用意するつもりですし、《老いたる深海鬼》/《約束された終末、エムラクール》デッキが流行るなら3枚目の《無限の抹消》も考慮に値します。
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もし何か質問があれば、【ツイッター】などで気軽にお尋ねください。可能な限り、そして誠心誠意お応えさせていただきます。
Lukas Blohon
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