プロツアー『カラデシュ』の注目カード5選! ~既存カード編~

高橋 純也



 みなさん、先週末に開催された【プロツアー『カラデシュ』】は観戦しましたか?なんと我らのHareruya Pros・八十岡 翔太が初日全勝の勢いのまま優勝しました!これは最高にめでたい!


※画像は【プロツアー『カラデシュ』イベントカバレージ】より引用しました。


 彼を象徴するような禍々しい青いコントロールデッキ。世界の強豪さえも圧倒する速くも的確な一挙一動。優勝インタビューのシニカルな発言。

 徹頭徹尾にわたって“ヤソかっこいい”を満喫できるプロツアーでした。本人のレポートも早速届いているので、ぜひお読みください。




 この記事では、そんな”八十岡の凄さ”には迫らないのですが、彼が戦い抜いたプロツアー『カラデシュ』の構築ラウンドで活躍したカードを紹介したいと思います。昨日の渡辺さんの記事の続きですね。




 僕が担当するのは、『カラデシュ』以外のカードセットから活躍したカードです!

 《霊気池の驚異》《奔流の機械巨人》《密輸人の回転翼機》など『カラデシュ』出身の強力なカードたちに押され気味ではありますが、他のカードセットの面々だってまだまだ現役です。「新入りには負けねぇ!」そんな反骨精神に溢れる5枚をピックアップしました。



◆ 1.《呪文捕らえ》


呪文捕らえ


 数ヶ月前までのスタンダード環境を席巻した「バントカンパニー」。それを最強のデッキたらしめた3マナのスピリットが舞い戻りました。【構築ラウンドの好成績デッキ(英語)】9勝1敗にずらりと4人も顔を並べた「青白ミッドレンジ」の中心を担う1枚として暴れまわっていたようです。



Luis Salvatto「青白ミッドレンジ」
プロツアー『カラデシュ』(15位)

10 《平地》
6 《島》
4 《大草原の川》
4 《港町》

-土地 (24)-

4 《スレイベンの検査官》
4 《無私の霊魂》
4 《反射魔道士》
4 《呪文捕らえ》
2 《異端聖戦士、サリア》
3 《折れた刃、ギセラ》
3 《大天使アヴァシン》

-クリーチャー (24)-
2 《石の宣告》
2 《鑽火の輝き》
3 《停滞の罠》
4 《密輸人の回転翼機》
1 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》

-呪文 (12)-
3 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》
2 《儀礼的拒否》
2 《払拭》
2 《神聖な協力》
2 《否認》
2 《虚空の粉砕》
1 《即時却下》

-サイドボード (15)-
hareruya



 「バントカンパニー」に通ずる《反射魔道士》《呪文捕らえ》という強力な3マナ域を抱える「青白ミッドレンジ」は、それらが生み出す束の間の戦場の優位を活かして、《密輸人の回転翼機》《大天使アヴァシン》で殴りきります。

 《密輸人の回転翼機》の流行から《呪文捕らえ》の弱点でもある軽量除去がはびこる環境ではありましたが、《闇の掌握》を使える黒ではなく、ダメージ呪文の《蓄霊稲妻》を擁する赤が主流だったことは不幸中の幸いだったのかもしれません。


無私の霊魂大天使アヴァシン


 《無私の霊魂》《大天使アヴァシン》は、どちらも黒系の除去には弱いものの、ダメージ関係の応酬においては右に出るものはいないからです。《呪文捕らえ》を守りきることはもちろんのこと、「青白ミッドレンジ」にとって貴重な時間差を思惑通りに作り上げたに違いありません。

 また、《呪文捕らえ》は単純に強力なことに加えて、【今大会は「《霊気池の驚異》」が最大勢力だったこと】も追い風でした。デッキの構造上、どうしてもカウンター呪文への脆弱性が目立ち、クリーチャー除去能力にも難を抱える「《霊気池の驚異》」に対して、《呪文捕らえ》最良のカウンターカードだったからです。

 《儀礼的拒否》を想定した《払拭》までは、どの「《霊気池の驚異》デッキ」も採用していましたが、《呪文捕らえ》はそのさらに上回る対抗策でした。とてもわかりやすい一例は【準々決勝ステージ2:Matthew Nass(アメリカ) vs. Carlos Romao(ブラジル)】のGame3で見られます。《霊気池の驚異》《払拭》《払拭》と準備万端のNassを粉々に打ち砕く《呪文捕らえ》の活躍は必見です。



渡辺 雄也「バント《霊気池の驚異》
プロツアー『カラデシュ』(17位)

6 《森》
2 《平地》
1 《島》
4 《進化する未開地》
4 《霊気拠点》
2 《大草原の川》
4 《植物の聖域》

-土地 (23)-

4 《導路の召使い》
4 《呪文捕らえ》
2 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》
3 《約束された終末、エムラクール》

-クリーチャー (13)-
4 《霊気との調和》
2 《予期》
3 《罪人への急襲》
4 《ガラス吹き工の組細工》
4 《織木師の組細工》
4 《霊気池の驚異》
3 《実地研究者、タミヨウ》

-呪文 (24)-
4 《牙長獣の仔》
3 《不屈の追跡者》
3 《儀礼的拒否》
2 《霊気溶融》
1 《払拭》
1 《否認》
1 《領事府の看視》

-サイドボード (15)-
hareruya



 こうした「《霊気池の驚異》」への強さを信頼して、《呪文捕らえ》の力をもって、運に左右されやすい同型のゲームを勝ち取りにいったのが石村 信太郎渡辺 雄也行弘 賢の「バント《霊気池の驚異》」です。

 ピーキーなコンボデッキに特化した一般的な「ティムール」と比較すると、「バント」はコンボコントロールのような大人しい作りになっているのが特徴です。手札に《絶え間ない飢餓、ウラモグ》《約束された終末、エムラクール》がどっさり。そんな笑えない状況を「バント」は嫌い、いわゆる”当たり”の一部が《罪人への急襲》など、手札に引いても使えるカードに換わっています。


牙長獣の仔不屈の追跡者


 コンボデッキとしての決定力が薄れていることは気がかりですが、サイドボード後の《牙長獣の仔》《不屈の追跡者》《呪文捕らえ》による攻撃的なシフトなど、従来の形にはない柔軟性を兼ね備えていることは魅力的です。カウンターをもつ青いコントロールが増えるとコンボに特化する意義は薄れるので、「バント」のような柔軟性が評価されるかもしれません。



◆ 2.《氷の中の存在》


氷の中の存在


 トップ8に進出したうちの2名。Pierre Dagen八十岡 翔太という奇しくもHareruya Prosの2人が採用していた《氷の中の存在》は、ここ数ヶ月のスタンダード環境で見かける機会の少ないカードでした。

 時折「青赤バーン」のサイドボードに控えていることはありましたが、軽いドロー呪文によるサイクルと相性のいい0/4の壁は、それらが少ないスタンダードとは縁遠い存在だったのです。

 しかし、ここにきて《氷の中の存在》が登場したのは、これが青系のコントロールが抱える1つの大きな問題を解消したことにあります。

 これはおかしな話なのですが、歴史上では終盤最強の代名詞でもある青系のコントロールは、この2016年においてはそうではありません。この理由は明白で、“ドロー呪文が弱い”からです。


思案渦まく知識定業


 たとえば《不屈の追跡者》はいかなるドロー呪文よりも枚数を提供しますし、単純に使えるレベルのドロー呪文で引ける枚数は精々2枚が限度です。

 そして、この”ドロー呪文が弱い”という状況は、すなわち青系コントロールが物量以外で勝利しなければならないということを示しています。

 これまではドロー呪文を連打して適当に1枚1枚を交換することが必勝パターンでしたが、今は1枚1枚を交換することはできても、その後に詰め切るだけのリソースが残りません。戦場を膠着させて《奔流の機械巨人》が睨みを利かせることはあっても、すぐにゲームを終わらせるほどの体力はなく、ましてや終盤に力を割いて《奔流の機械巨人》の枚数を増やそうものなら、終盤に辿り着く前に事故死する展開が増えてしまう。そんなジレンマがあったのです。

 終盤は強くない。でもデッキは重くできない。

 そんな悩みを解消してくれたのが《氷の中の存在》だったのです。かつてのように相手の呪文を物量に任せてすべてカウンターすることはできないので、青系コントロールに与えられた確実に有利な状況は数ターンに限られます。その数ターンの有利で勝ち切ることができる数少ないカードです。

 2マナ0/4というスタッツは申し分なく、裏返ったときの誘発型能力も相まって、攻勢にまわるまでが困難なアグロとのゲーム展開を簡単にしてくれます。また、コンボやコントロール相手には裏返るまでは無駄なカードですが、一度裏返れば7/8と大きく、素早くゲームを終わらせてくれるのです。


霜のニブリス


 Pierre Dagenの「青赤スペル」のサイドボードに用意されていた《霜のニブリス》も、大枠としては《氷の中の存在》に似た強みを持っています。コントロールしきるのではなく、物量で押すのではなく、差し切る。《氷の中の存在》と比較すると重く、除去に弱いことは難点ですが、Pierre Dagenが3体の《金属製の巨像》を捌き切ったように《霜のニブリス》にしかできないエンディングがあります。

 《氷の中の存在》《霜のニブリス》

 この2枚はどちらも出せば勝てるような強力なカードではありません。《奔流の機械巨人》のように1枚で複数枚をもぎとるような力強さはないのです。ただ、彼らは《奔流の機械巨人》にはできないゲーム展開を演出してくれます。純粋な枚数のアドバンテージではなく、このデッキがどのように勝つのか、といった根本的な戦略の骨子を組み上げるのです。



◆ 3.《無謀な奇襲隊》


無謀な奇襲隊


 青いレアが2枚並んだところで、次は攻撃的な赤いカードに注目してみましょう。

 《無謀な奇襲隊》は「怒涛」による全体強化能力をもつゴブリンです。これまでは「白赤人間」のサイドボードにコントロール対策として採用された経歴があります。戦場がリセットされた返しのターンに後続とともに押し寄せたり、相手がリセットを温存すれば想定外の大ダメージを叩き出したりと、横に並べる軽いアグロデッキの優秀なお供です。



Makis Matsoukas「白赤トークン」
プロツアー『カラデシュ』(3位)

7 《平地》
6 《山》
2 《霊気拠点》
4 《感動的な眺望所》
3 《鋭い突端》

-土地 (22)-

4 《発明者の見習い》
4 《スレイベンの検査官》
4 《模範的な造り手》
4 《無謀な奇襲隊》
3 《ピア・ナラー》

-クリーチャー (19)-
4 《多勢》
4 《石の宣告》
4 《霊気装置の展示》
1 《蓄霊稲妻》
4 《密輸人の回転翼機》
2 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》

-呪文 (19)-
2 《ランタンの斥候》
2 《異端聖戦士、サリア》
2 《断片化》
2 《蓄霊稲妻》
2 《抗戦》
2 《停滞の罠》
2 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》
1 《鋭い突端》

-サイドボード (15)-
hareruya



 スイス予選ラウンドを1位で通過したMakis Matsoukasの「白赤トークン」は、《無謀な奇襲隊》をフィーチャーしたデッキとして脚光を浴びました。一見すると「白赤機体」を数枚いじったデッキに見えるかもしれませんが、その実はまったく異なるデッキなのです。

 「白赤機体」は、より強く《密輸人の回転翼機》を使うことに特化したデッキタイプです。《模範操縦士、デパラ》《経験豊富な操縦者》といった機体強化によって、相手の《密輸人の回転翼機》よりも強く使うことがコンセプトにあります。

 それに対して「白赤トークン」は、《密輸人の回転翼機》を対策した単体除去をいなすことを重視したデッキタイプなのです。採用するクリーチャーはすべて2マナの単体除去で損をしないものに統一し、序盤から確実に戦場の有利を掴む構成になっています。


模範的な造り手経験豊富な操縦者


 基本的には、軽すぎるデッキは少し重いパーマネントをもつ同型に弱かったりしますが、「白赤」ではそれが成立しにくい、というのも面白い話かもしれません。その理由は《模範的な造り手》《経験豊富な操縦者》といったカードの守備面が弱すぎることにあります。

 攻撃できるなら1マナ3/2ですが、守りに回るとただの1/1なのです。この攻守の不安定さは「白赤機体」の雛形をつくったChris Van Meterが懸念していたことでもあり、デッキコンセプトとして”いかにして守備にまわらないか”が問われていました。守備に回らないためには戦場を有利に保てばいい。このことに特化した「白赤トークン」が好成績を残したことには納得です。


多勢霊気装置の展示


 かつては「アタルカレッド」で猛威を振るった《多勢》《模範的な造り手》《ピア・ナラー》を強化する《霊気装置の展示》。これらは「白赤トークン」ならではのパッケージで、特に展開力を重視するこのデッキにおいて《多勢》は、さながら《剣を鍬に》です。

 軽いクリーチャーと軽い呪文。この2つを兼ね備えたデッキが序盤の有利を掴むことは難しくありません。

 しかし、皆さんもご存知のように、軽いだけでは、序盤の有利を掴むだけではゲームに勝つことはできないのです。《氷の中の存在》の話でも触れたように、デッキが掴んだ数瞬の優位を勝利に結びつける何かが必要になります。

 そこで《無謀な奇襲隊》なのです。


栄光の頌歌永遠の見守り


 往々にしてトークンデッキには《栄光の頌歌》といった全体強化が定石ですが、今のスタンダード環境の《栄光の頌歌》である《永遠の見守り》はトークンを強化してくれません。そこで《無謀な奇襲隊》にスポットライトが当たります。

 これによって従来の「白赤機体」とはまったく違う速度感を持つデッキへと変貌したのです。12枚の1マナ域、《ピア・ナラー》《密輸人の回転翼機》。どれも見慣れた「白赤機体」の面々ですが、そこから捻出されるダメージは想定外のものです。「白赤機体」だと思って対峙したプロツアー参加者たちはきっと驚いたことでしょう。

 サイズで有利を作る「白赤機体」が白いデッキならば、展開力と爆発力で優位に立つ「白赤トークン」は赤いデッキです。似ているけれどぜんぜん違う。そんなコントラストをつけているのが《無謀な奇襲隊》でした。



◆ 4.《残忍な剥ぎ取り》


残忍な剥ぎ取り


 プロツアー『カラデシュ』の初日終了時点。全勝を果たした八十岡 翔太はまだ独走していませんでした。同じく8勝0敗にEric Forelichがいたのです。目を痛めたのか、眼帯をつけてフィーチャーテーブルに座った彼は、独創的な「緑黒ミッドレンジ」を使っていました。



「緑黒ミッドレンジ」
プロツアー『カラデシュ』(22位)

8 《森》
6 《沼》
1 《進化する未開地》
4 《花盛りの湿地》
4 《風切る泥沼》

-土地 (23)-

2 《節くれ木のドライアド》
4 《残忍な剥ぎ取り》
4 《導路の召使い》
4 《地下墓地の選別者》
4 《ゲトの裏切り者、カリタス》
4 《新緑の機械巨人》

-クリーチャー (22)-
4 《顕在的防御》
3 《ウルヴェンワルド横断》
3 《闇の掌握》
4 《密輸人の回転翼機》
1 《最後の望み、リリアナ》

-呪文 (15)-
3 《精神背信》
2 《首絞め》
2 《墓後家蜘蛛、イシュカナ》
2 《人工物への興味》
2 《死の重み》
2 《最後の望み、リリアナ》
1 《知恵の拝借》
1 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》

-サイドボード (15)-
hareruya



 どこか既視感があるのは、【SCG Open Indianapolis】の「緑白ミッドレンジ」に似ているからでしょう。《新緑の機械巨人》《顕在的防御》の2枚が印象的な選択です。




 しかし、「緑白ミッドレンジ」といえば、「白赤機体」の登場とともに姿を消したデッキなのです。《密輸人の回転翼機》を対策するか、相手よりも強く《密輸人の回転翼機》を使うか。世の論点がここに移行した段階で、どちらにも相当しないうえに「白赤機体」に弱い「緑白ミッドレンジ」は、駄目なデッキの烙印を押されてしまいました。

 その使用者レポートを読んで印象的だったのは、”《顕在的防御》はカードはとても強いが「緑白ミッドレンジ」には撃つべき対象がいなかった”という内容でした。鈍重なクリーチャー陣を《顕在的防御》が生み出す時間差でサポートする。そんな青写真を描いたデッキにも関わらず、実践してみると撃つべき対象がいないなんて残酷な話だ、と。僕は「クソアイデア」のラベルを貼って、頭の隅っこに放ったことを今でも覚えています。


顕在的防御


 しかし、そのエピソードを失敗話のまま終わらせなかったのがEric Forelichでした。

 彼は《顕在的防御》が強かったことを覚えていました。また、それは撃つべき対象がいればこそ輝くことも。そして、そのアイデアを昇華し、たどり着いたのが《残忍な剥ぎ取り》《ゲトの裏切り者、カリタス》だったのです。

 「緑白ミッドレンジ」において”撃つべき対象がいない”というコメントは、それを自発的に打つ対象がないから手札に余り、また、それを手札に抱えて構えるだけの労力を割くべき対象もいない、という意味合いで話されていました。

 この点でいうと、《残忍な剥ぎ取り》は積極的に戦闘したいクリーチャーの筆頭であり、能動的に+2/+2の修正を与える最適な対象です。まさに前者の問題を解決するにふさわしい人選ではないでしょうか。さらに《密輸人の回転翼機》《残忍な剥ぎ取り》という2枚は、《顕在的防御》の能動的な対象であるとともに、攻撃しただけドローの質を向上させる効果をもっています。

 つまり、殴れば殴るほど有利になるということで、彼らで攻撃することこそがデッキの勝ち筋ですらあるのです。一度殴りはじめたが最後、四方八方から《新緑の機械巨人》が休みなく降ってきます。


ゲトの裏切り者、カリタス


 また、《顕在的防御》を手札に抱えてまで守るべき対象がいない問題については、《ゲトの裏切り者、カリタス》が解決してくれました。

 従来の「緑白ミッドレンジ」では《折れた刃、ギセラ》が後々に採用されましたが、そのような”守れば勝てる”カードが《顕在的防御》には必要です。そして、《ゲトの裏切り者、カリタス》もその1枚に当たります。

 《ゲトの裏切り者、カリタス》は墓地利用やアグロに対してめっぽう強く、《新緑の機械巨人》の良い対象としても活躍してくれます。一方で相性の良い除去呪文が少ないことは問題で、墓地利用とアグロ以外には平凡な性能しかもっていません。プロツアー『カラデシュ』時点では良い選択だったかもしれませんが、4マナ3/4絆魂という性能がいつまで通用するのかは気になるところではあります。



◆ 5.《難題の予見者》


難題の予見者


 Eric Forelichのデッキと近いコンセプトをもって構築されていたのが、高尾 翔太の「スゥルタイミッドレンジ」でした。



高尾 翔太「スゥルタイミッドレンジ」
プロツアー『カラデシュ』(104位)

2 《森》
1 《島》
4 《霊気拠点》
4 《廃集落》
4 《植物の聖域》
3 《花盛りの湿地》
3 《伐採地の滝》
3 《崩壊する痕跡》

-土地 (24)-

4 《導路の召使い》
3 《森の代言者》
4 《地下墓地の選別者》
4 《空中生成エルドラージ》
4 《難題の予見者》
4 《新緑の機械巨人》

-クリーチャー (23)-
2 《儀礼的拒否》
4 《次元の歪曲》
4 《密輸人の回転翼機》
2 《領事の旗艦、スカイソブリン》
1 《生命の力、ニッサ》

-呪文 (13)-
3 《不屈の追跡者》
3 《人工物への興味》
2 《集団的蛮行》
2 《否認》
2 《霊気溶融》
2 《生命の力、ニッサ》
1 《儀礼的拒否》

-サイドボード (15)-
hareruya



 《導路の召使い》《空中生成エルドラージ》《地下墓地の選別者》の3枚の力で、4ターン目に《新緑の機械巨人》《領事の旗艦、スカイソブリン》を叩きつける構成になっています。この2種類の5マナ域を4ターン目に展開するデッキはこれまでにもありましたが、ここまでしっかりとマナ加速の枚数を用意したものは初めてかもしれません。

 こういったマナ加速デッキには、宿命のように、対戦相手に干渉するカードが少なくなってしまうという問題点があります。土地の枚数は必要。マナ加速の枚数も必要。重いカードの枚数も必要。となると、自分の動きに手一杯で、対戦相手に干渉する優先度も低ければ枚数も少ないという事態が頻発します。


領事の旗艦、スカイソブリン


 そこで理想的なのが《領事の旗艦、スカイソブリン》のようなカードです。重いけど制圧力があって相手の邪魔もできる。マナを注ぎ込む重いカードが対戦相手に干渉してくれれば一石二鳥という理屈です。

 しかし、そんな便利なカードは種類も限られており、件の《領事の旗艦、スカイソブリン》だって有効ではないマッチアップはいくつかあります。どんなマッチアップでも安定したパフォーマンス。妨害する類のカードに安定性を求めることが間違いかもしれませんが、デッキには確実にそういったカードが求められているのです。

 そこで高尾 翔太が見つけたものは限りなく理想に近い逸品でした。

 それが《難題の予見者》です。「エルドラージ」に溢れるモダン以降のフォーマットでは一般的な選択肢ですが、ことスタンダードにおいては珍しい人選だといえます。しばらく《集合した中隊》が支配していたことから4マナ4/4というサイズ感が有効ではなく、グッドスタッフ代表の「バントカンパニー」 vs. シナジー代表の「昂揚」「現出」という構図ができあがっていたことから「エルドラージ」の出る幕はありませんでした。《顕在的防御》と同様、”強いカードだけど居場所が見つからない”状況に置かれていたのです。

 そして《集合した中隊》の支配する環境から数ヶ月。今では《密輸人の回転翼機》の流行から《森の代言者》の支配力は大分抑えられてきました。4/5というサイズに遭遇することもなく、《難題の予見者》の4/4というサイズは立派な戦力として活躍できます。

 《ヤヴィマヤの沿岸》などダメージランドがローテーション落ちしたことで無色マナの供給に難があるのは問題ですが、その問題を補って余りある魅力を感じさせるカードです。



Benjamin Weitz「白系エルドラージ」
プロツアー『カラデシュ』(51位)

12 《平地》
1 《荒地》
3 《進化する未開地》
1 《霊気拠点》
3 《海門の残骸》
2 《荒廃した草原》
1 《鏡の池》
1 《繁殖苗床》

-土地 (24)-

4 《スレイベンの検査官》
4 《無私の霊魂》
3 《変位エルドラージ》
3 《博覧会場の警備員》
2 《作り変えるもの》
4 《難題の予見者》
3 《大天使アヴァシン》

-クリーチャー (23)-
2 《断片化》
2 《石の宣告》
2 《次元の歪曲》
1 《燻蒸》
2 《停滞の罠》
4 《密輸人の回転翼機》

-呪文 (13)-
4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》
2 《現実を砕くもの》
2 《神聖な協力》
1 《荒廃した草原》
1 《作り変えるもの》
1 《断片化》
1 《次元の歪曲》
1 《燻蒸》
1 《隔離の場》
1 《領事の旗艦、スカイソブリン》

-サイドボード (15)-
hareruya



 これも《難題の予見者》を使った「白系エルドラージ」です。《変位エルドラージ》+《難題の予見者》でコントロールやコンボをロックダウンし、《変位エルドラージ》+《大天使アヴァシン》で戦闘を圧倒できるなど、大振りなテクニックが詰め込まれています。

 実はこのデッキを触ったことがないので、内容についてこれ以上のコメントは控えますが、ぱっと見てとても弱そうなデッキだと思いました。しかし、それでもここで紹介したのは、この使用者であるBenjamin Weitzが「Team East West Bowl」のメンバーだからです。

 「Team East West Bowl」といえばプロツアーごとにトップ8入賞者を輩出してきた世界屈指の強豪チームとして知られています。そんな彼らはプロツアー『カラデシュ』では上位に顔を見せず、もしかしたら今回のデッキは失敗だったのかもしれません。

 ただ、僕には強豪である彼らが無作為な失敗を犯すとは思えないのです。

 何かしらの理由(メタゲームの想定、デッキの練度など)があって真っ当な失敗をしているはずで、つまりは、条件さえ整えば活躍する可能性があったデッキだったということになります。環境が変われば、デッキがきれいに整えば。何が問題だったかはわかりませんが、それが見えれば活躍の機会は巡ってくるでしょう。

 このような予測も含めて、このデッキの核となっている《難題の予見者》は、これからの動向が気になるカードの1枚です。





 『カラデシュ』以外のカードから5枚をお届けしました!ここで題目にあげた5枚だけでなく、まだまだ魅力的なカードは環境に眠っています。

 プロツアーは終わりましたが、スタンダード環境はむしろこれからが本番です。強そうなデッキに目処が付き、それらを倒し倒されの乱世が訪れます。《密輸人の回転翼機》を筆頭に環境の枠組みを作ったのは『カラデシュ』のカードかもしれませんが、その天下をひっくり返す鍵は、『カラデシュ』以外のカードセットに眠っていてもおかしくありません。

 まずは八十岡 翔太の「グリクシスコントロール」と「青白ミッドレンジ」が強いとわかったところで、さっそくこれらを倒しに行きましょう!




 ところで八十岡 翔太が「グリクシスコントロール」についての質問をTwitterで募集しているそうです。ミステリアスなデッキの制作過程も気になりますが、弱点が何かも気になるところ!

 「#教えてヤソ先生」のハッシュタグをつけて、どしどし質問しちゃいましょう!



 それではまたお会いしましょう!



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