インタビュー:市川ユウキ流、大会直前の過ごし方

晴れる屋

By Kazuki Watanabe


 グランプリ・千葉2016、開幕直前!

 ということもあって、今回の第8期レガシー神挑戦者決定戦には300名のプレイヤーが集った。



 通常のカバレージであれば、”Deck Tech”を中心にデッキの話を伺うところだ。しかし、グランプリの一週間前ということもあり、その質問をしづらいというのが正直なところである。

 それならば。トッププロは、いったいどのようにグランプリに向けて練習をしているのだろうか?

 筆者が「個人的に練習方法を聞いてみたい」と思っていたプロプレイヤーが、今大会に参加していた。彼ならば、我々の想像を上回る、練習に関する思考を語ってくれるはずだ。早速お話を伺ってみよう!






市川マジックのやり過ぎは良くないですよ

 想像どおりだ!



 市川ユウキ

 Team Cygamesに所属する、押しも押されぬトッププロだ。ここ最近も、【グランプリ・台北2016】【グランプリ・京都2016】で優勝を飾り、圧倒的な実力で勝ちを重ねている。

 「やり過ぎは良くない」という言葉の裏には、当然ではあるが、深い思考が横たわっている。本インタビューでは、その思考を余すことなく語っていただいた。



■ プロが語る「デッキの弱点」と「思考の柔軟性」

――「『やり過ぎは良くない』ということは、市川さんは”練習による弊害”があるとお考えなのですね?」

市川「そうですね。練習しすぎると、弱点が見えすぎてしまうんですよ。たとえば、”『ジャンド』に弱い”と気づいて、そこから練習を重ねたとしても絶対的な相性を覆すことは難しいですよね。そうなると、実際に対戦をしたときに、『ああ、相性が悪いのに……』と引きずられてしまう可能性があるんですよ」

――「なるほど。見えすぎた弱点に、より一層陥ってしまうんですね」

市川「そういうことです。それから、サイドボードプランが固まりすぎるのもよくない、と考えています。練習をする内に『このデッキが相手なら、この4枚を抜いて、入れるものはこれ』と決定する人もいますよね。しかし、たとえば『ジャンド』で《思考囲い》をすべて抜いてしまう人もいれば、残している人もいるように、人それぞれサイドボードは違います。すると、それに対するこちらのプランも変わって当然ですよね」

――「たしかにそうですね。固まりすぎていると、『本当は効果的じゃないのに』というプランを選んでしまいそうです」

市川柔軟性を失う、というのは想像以上に大きいですよ。サイドボードは、『対戦したデッキに対して対応するカード』なので、柔軟に対応できないと効果が半減してしまいますから」



■ 戦いの中で成長する


――「そうなると、市川さんにとって理想的な準備期間は、どれくらいなのですか?」

市川「あくまでも目安ですが、1つのデッキを回す場合、私のベストは30回程度だと考えています」

――「30回!? 想像以上に少ないですね……」

市川「たとえば、2週間前に”環境で一番強いデッキ”を見つけ出すことができて、そこから練習を重ねれば良いのかもしれませんが、現実的に”一番強いデッキ”を見つけることは難しいですよね。私の場合、2週間前にデッキが決まったら不安で仕方がないと思います。『本当にこのデッキが一番なのか?』と」

――「不安な状態で練習を重ねても、効果的ではなさそうですね」

市川「そのとおりですね。準備不足だと思われるかもしれませんが、最終調整は当日のメタゲームの中で行います。本戦のラウンドが進むごとに、デッキに慣れていくんですよ。『ああ、こういう感じで使えば負けないな』と」

――「まさに、戦いの中で成長している!

市川「そうなりますかね(笑)」



■ 市川「背中を押して貰えることが嬉しい」


――「『デッキの回し方』よりも、『デッキの選択』に重きを置いている、という部分もあるのですか?」

市川「それもありますね。色々なデッキを試す中で、『これがベストだろう』と思ったものを使っていますから」



松本 友樹


――「市川さんと言えば、BIG MAGIC所属の松本 友樹さんと意見交換をされてるそうですね。以前松本さんが【インタビュー】で、『市川さんはプレイが上手いだけでなく、デッキを見る目がある』とおっしゃっていました」

市川「ありがとうございます。私も松本さんのことを信頼しているので、非常に価値のある意見交換ができていると思います。考え方が似ている部分が大きくて、『まったく違う意見を得られる』というよりは『これってセオリーには反しているんだけど、こうじゃないの?』と思ったときに、『背中を押してもらえる』ことが何より嬉しいですね。他には同じTeam Cygamesの山本 賢太郎さんとも意見が合いますね」



■ プロプレイヤーにとっての「自信」


――「プロ同士だからこそ分かり合える部分、そしてメリットがありそうですね」

市川自信を持てる、ということがとにかく大きいです。ラウンドを重ねるごとに自分自身もデッキに慣れていきますし、対戦相手の方が緊張していることが多いんですよ。『あと3勝すればプロツアーだ』とか」

――「なるほど。それがTOP8進出を賭けたバブルマッチだったら、なおさらですね」

市川「そうだと思います。それで言うと、私はグランプリとプロツアーのバブルマッチでは、ほとんど負けたことがないんですよ

――「そうなんですか!? 緊張で震えてしまいそうですが……」

市川「これも、自信が持てていることが大きいですね。自分のペースで戦えるし、相手は緊張で実力が出せないし、となれば有利になれます。今は『バブルマッチでは負けない』という自負もありますからね」

――「さらに、ラウンドを重ねて成長を遂げてるわけですよね」

市川「そうなりますね(笑)」



■ 自分に合った練習方法を


――「ちなみに、昔から『1デッキ30回程度』という目安で調整をされているのですか?」

市川「いや、昔は『きっちりと準備するタイプ』でしたね。デッキを決めて、練習を重ねて、サイドボードプランも固めて……。でも、思ったよりも勝てないことに気づいたんですよ。『この方法は、自分には合ってないのかもしれないな』と思って、考え方を変えました」

――「そうだったんですね。変更したのはいつ頃ですか?」

市川「去年の【グランプリ・上海2015】の前から、です」


※画像は【マジック:ザ・ギャザリング】より引用させていただきました。

――「なんと! では、変更した結果、見事に優勝されたわけですね」

市川「そうですね。少なくとも、『今の自分』に合っているのは、この方法だと思います」



■ 市川「何を使っても驚くな!」


――「では、今日使っているデッキもグランプリ当日で使うかは……」

市川まったくわからないですね。他のデッキを使う可能性は、十分にあります。『Magic Onlineだけじゃなく、実際にレガシーのデッキを回してみよう』と思っただけなので」

――「では、ここから当日まで、どのように過ごす予定ですか?」

市川デッキを回したり、回さなかったり……あと、ニコニコ生放送でも時々言ってますが、僕は羽生 善治さんの本を読むのが好きなので、読んだり、読まなかったりする予定です」

――「な、なるほど……では最後に、世界の市川ユウキファンに向けて、一言メッセージをお願いします」

市川「そうですね……当日、俺が何を使っても驚くな!




 世界で戦い続け、勝利し続ける市川ユウキ。

 信頼する仲間との意見交換、そして研鑽による自信。ただ闇雲に練習を重ねるのではなく、量よりも質を重視し、“思考の柔軟性”を失わない姿勢こそが、その勝利の秘訣なのだろう。

 グランプリ・千葉2016当日まで、市川はさらなる進化を遂げ続けるに違いない。



Twitterでつぶやく

Facebookでシェアする