プロツアー『霊気紛争』に向けた調整
こんにちは、皆さん!僕はいまダブリンでのプロツアーが迫ってきて、これまでにないくらいハードに調整に打ち込んでいます。
友人のマーティン・ジュザが開催してくれたドラフト合宿にもはじめて参加しました。場所は彼の家族が所有する小屋で、チェコ南部の森の奥深くにある丘の頂上にあります。気温は凍えそうに寒かったですが、素晴らしい体験だったことはもちろん、『霊気紛争』リミテッドについてもいくつか良い知見を得ることができました。
合宿メンバーにはマーティン以外プロプレイヤーはいませんでしたが、プロツアー参加者は数名いたこともあって、参加できて非常に良かったです。というのも、彼らとのドラフト卓はプロツアーでの実際のドラフトとかなり近いものだったからです。
今までにあった問題として、トップレベルのプロプレイヤーが8人集まったようなドラフト卓は“本番”のドラフトとあまりに違いすぎる、というものがありました。回ってくるカードも違いますし、そしてより重要なことに、ゲームの展開も全然異なってくるのです。なぜなら、そのレベルのプロプレイヤーは普通より全然早いターンに勝ちにきますし、そもそも単純に平均よりずっと良いデッキを組んでくるからです。そうなると、カード評価にも重大な影響が出てくるかもしれません。
例を挙げてみましょう--仮に、「機能し始めるターンは遅いけれど動き出すとやたらめったら強力な効果を持つカード」があったとします。ですがそれはトッププロと練習をしている間は大して強く見えないことでしょう……彼らとの対戦においては、ほとんどの場合そんなカードをプレイする余裕はないからです。なのでそのカードの評価についても、「まあまあ」というところに落ち着いてしまうと思います。
けれども実際には、平均的なプレイヤー相手のゲームの多くはそんなふうには運ばず、むしろそういったプレイヤー相手の戦いであればあるほど、速さ遅さに関わりなく強力な効果を持つカードの価値が高くなってくるものなのです。「それくらいのプレイヤーが相手なら、別にそういうカードがなくても勝てるだろう」と言いたくなるかもしれませんが、そううまくいかないのがマジックで、というのも時に彼らも爆弾レアを持っていたり、あるいは自分がダブルマリガンしたりすることもありえるからです。
さて話は変わって、合宿でそこそこ良い総合成績を残した僕はプラハに帰り、今回のプロツアーでの調整メンバーがそれ用に一棟丸々借りているペンションに合流しました。
And this is our testing team! CFB:Ice, F2F, and two members of Hareruya.
— Paulo Vitor (@PVDDR) 2017年1月20日
Here's a video @RubinZoo about us:https://t.co/Xv5qG8yiHc pic.twitter.com/d2JyF5lI8Z
こんなものすごく強いプレイヤーたちと一緒に調整できるなんて、光栄すぎて言葉にならないほどです。この調整チームに参加している多くのプロは、僕がまだプレイヤーとして全然大したことなかった時期に尊敬してやまなかった人たちですし、2~3年前の僕には、まさかPV (Paulo Vitor damo da Rosa) やSigrist (Mike Sigrist) らのようなプレイヤーとこうしてマジックの話ができるなんて想像だにできなかったでしょう。
僕たちは自分たちの調整チームのことを“コングロマリット (複合企業)”と呼んでいます。メンバーは僕、PV、Ondrej Strasky、Eric Froehlich、Mike Sigrist、Ben Stark、Alexander Hayne、Oliver Tiu、Jacob Wilson、Sam Pardee、中村 修平、Joel Larsson、Steve Rubin、そしてIvan Flochの14人です。殿堂プレイヤーのBen Starkと中村 修平を除いて全員がプラチナ・レベル・プロということで、「現時点で世界にこれ以上の調整チームは存在しない」と断言してもいいくらいです。一番格下なのは概ね僕ということになるでしょうが、そんなにすごい差があるわけではないと思いますし、何より僕は彼らと一緒に調整していると、一秒ごとに成長してるって実感するんです。
メンバーの多くはここでの調整の前には十分なドラフトをしていなかったので、僕たちはたくさんドラフトをしました。そしてそれによって、僕は自分がよくわかっていなかったところを確認したり、知らなかったシナジーやアーキタイプを学ぶことができたので、来たるグランプリ・プラハ2016に向けての準備は万全といった心持ちでした。
グランプリ・プラハ2016一時はグランプリの開催そのものが危ぶまれるほどの出来事がありました。グランプリ会場で本戦前日の金曜日に火事があった (周辺に並ぶ出店の一つが火元となった) のです。ですが幸運なことに主催者側が機転を利かせてくれて、別のホールに会場を移して無事開催されることになりました。
初日は《陰謀の悪魔》《焼却の機械巨人》といったレアに加えて高いカードパワーのカードが揃った非常に強力なシールドプールをもらうことができました。しかし赤黒の2色だけではプレイアブルなカードが足りず、おまけに黒のカードのほとんどはダブルシンボルやトリプルシンボルという問題も抱えていました。そこで僕は危険を冒して《沼》7枚、《森》6枚、《山》3枚という3色のマナベースを《霊気との調和》と《枷はずれな成長》で補強しようという考えに至りました。
《焼却の機械巨人》を3枚の《山》でタッチすることにはなりますが、このとき僕はこのカードを、「単純に強すぎるカードなので、早いターンにプレイできないかもしれないというデメリットも正当化するに足る」と思っていたんです。ですが実際やってみたらそんなに大したカードじゃないとすぐに明らかになりました。僕のデッキはあまり殴るデッキではなかったので、基本はただの6マナのデカブツに過ぎませんでしたし、そもそも引き込んだゲームの半分以上では唱えることすらできませんでした。
また、目敏い人はこんなに重たいカードたちをデッキに入れているのに気づいて僕が土地16枚で組んでいることを不思議に思ったかもしれませんが、それはつまるところ、それくらいマナフラッドを避けたかったということです。僕のデッキにはたくさんの 1 : 1交換できる除去があった反面、ゲームが長引いて対戦相手より3枚以上少ない枚数のスペルを引いてしまうと敗北が確定してしまうのです。色拘束の問題がなければ、土地の枚数は15枚にすらしていたでしょう。
それでも出だしは好調で、bye明けの4回戦目と5回戦目は楽に勝つことができました。しかし、6回戦目で強敵が立ちはだかりました。同じHareruya Prosで、PoY経験を持つJeremy Dezaniとの対戦です。この対戦で僕はひどいミスをやらかしてしまいました。
1ゲーム目、僕は後手で土地2枚の手札を雑にキープしましたが、具体的な手札の内容は《森》がなく、そのせいでかなり長いターン何もプレイすることができないというものだったんです。そのときの僕の理屈としては、マナベースが弱いデッキなのでマリガンで6枚にしたらなおさら事故りやすいし、それに《森》を引きさえすればかなり良い手札になる、というものでした。結果、土地を引けずに数ターンの間土地を置き逃すことになり、僕はすっかりティルトの (合理的な判断ができない) 状態になってしまいました。そこが墜落の始まりだったんです。
そんな状態なものだから、僕はついいい加減にプレイし始めてしまいました。こんなにひどいマナスクリューでは何をしようが関係がないと、すっかり思い込んでしまっていたのです。ディスカードのカード選択もいい加減にやってしまっていました。そしてゲームの最後に一番大きな失敗をやらかしてしまったのです。
それはカードの効果の勘違いで、もちろん今ではきちんと把握していますが、僕は確認を怠ってゲームを台無しにしてしまった自分自身に腹を立てました。それでも、持てる情報で最善のプレイを尽くしはしましたが。
ティルトの状態に陥ってしまうと、僕は大抵勝利期待値が最も高いであろう道を踏み外してしまいがちであるという事実は、僕自身をとてつもなく悩ませています。こうしたメンタル面は現時点でこのゲームにおける僕の最大の弱点だと感じている以上、改善を試みるべきでしょう。
2ゲーム目はJeremyがスペル1枚しかプレイできず、3ゲーム目は同様のことが僕に起こって、マッチはJeremyがとりました。このマッチでの出来事が初日の残りのラウンドに影響し、ベストなプレイができなくなっていたのは正直否めませんが、負けた試合については、それほどできることはなかったと思います。ですが、6枚以上の土地が並んでいるのに手札にあるプレイしたら勝ちの《焼却の機械巨人》や《陰謀の悪魔》がプレイできない、という現象が既に3回も (!) 起きていたので、続く7回戦目の赤緑アグロ相手には、赤いカード全部をサイドアウトする発想はあってもよかったかもしれません。
そういう強力なタッチカードを切って2色に絞るようなサイドをする理由としては、自分のデッキの中の良いカードのうち数枚を普通もしくは悪いカードに入れ替えたとしてもまだカードの質だけなら相手より勝っていて、けれどより早いターンに呪文をプレイしたいとか、よりマナカーブ良く展開したい場合、というものがあります。ですがそれをすることによって、フラッドや悪くなったカードの質の部分で負けるゲームが確実に出てきてしまうことにもなりかねません。タッチカードを残すか切るか、どちらの選択肢を選んだ方が勝率が高いのかは一概には言えません……ですがこのときの僕に関して言えば、サイド後に赤を抜かなかったのは明らかに失敗だったように感じます。
ともあれ、初日を6勝3敗で終えた僕は、残念な気持ちでいっぱいでした。このグランプリが何よりもプロツアーの練習になると思っていたのにこんな体たらくで、気分は最悪といってもいいほどです。ですが幸運なことに、僕の彼女が素晴らしくて、僕を励ましてくれた上に明日も精一杯やろうという気にさせてくれました。さらに彼女が言うには、僕が何かトーナメントで失敗をやらかすときは決まって適切な食事が摂れていない日なのだそうです。そして正直に言って、一理あると認めざるをえませんでした。僕は朝食を抜くと大抵開幕に何かのやらかしをしてしまい、決まって後悔する羽目になるのです。
陰鬱な気分を振り払い、いざ2日目に臨みます。ドラフトに関してはプロツアーに出場しないプレイヤーよりは練習をしていたので、明確に優位性があると感じました。なかなかに調子良く青赤のデッキをドラフトできましたが、僕たちのところは6人卓だったので、そうするとドラフトの古典的な例に漏れず、「別の色が空いている」とわかったとしても、既にその色で十分強力すぎるレアとアンコモンの2枚を持っている場合には色変えができなくなります。なぜなら、既に確定した強力なカード2枚を上回るカードパワーを空いている方の色のカードが供給してくれることは、稀になってしまうからです。
結局デッキは及第点止まりで、僕は2-1という全然嬉しくない成績を覚悟しました。というのも、僕は2日目6-0を目指していたからです。多くのグランプリを周り、6つのプロポイント・キャップをすべて3点以上で埋めたい僕としては、既に6つ目まで1点でキャップが埋まっている現状、たとえ今回が4敗で1点のスロットを1つ2点に塗り替えられるとしても、別にどうということはないというのが実情なのです。
10回戦、11回戦はどちらもチェコのプレイヤーと当たり、比較的楽に勝つことができました。しかし12回戦目の対戦相手、Christian Seiboldは恐ろしく強いデッキをドラフトしており、勝つのはかなり難しいこともわかってしまっていたのです。僕が流したから知っているありとあらゆる緑としかも黒のカードを持っている上に、前のラウンドで彼に負けたプレイヤーから聞いた話では、《領事の旗艦、スカイソブリン》、《ヤヘンニの巧技》、《ピーマの改革派、リシュカー》を持っているだけでなく、無数の除去まで打たれたというのです。僕のデッキはたくさんの小粒な飛行クリーチャーと2体の《砦の発明者》で構成されていたので除去はあまり効きませんが、いずれにせよサイドのカウンターで食らいつくしかありません。
1ゲーム目は先手でぶん回ってこちらが勝利しましたが、2ゲーム目はあっさりと落とし、3ゲーム目も情勢は芳しくありませんでした。僕はフラッドしてしまっているのに対しChristianは土地を置くのを止めていて、ということは手札はスペル、おそらく除去祭りに決まっています。
ロングゲームになったら勝ち目はないと思った僕は、思い切ってダメージレースを挑むことにしました。すごく運の良いことに、2ターン連続でトップデッキをした上に、3度目のトップデッキで《本質の摘出》をカウンターすることができ、ぴったり勝つことができました。とてもツイてた結果なのは間違いないですが、それでもきちんと自分の最高のドローの受けを見越してプレイできたことが嬉しかったです。
また、マッチ後の検討の結果、もしChristianが《断片化》を適切な対象に打っていたら僕が負けていただろう、ということで意見が一致しました。なにぶんそのときの手札がわかりませんので、そのときのプレイが悪いものだったのかどうかもわかりませんが、少なくとも僕には大きなミスプレイのように思えました。《本質の摘出》のようなカードは「機体」を処理するのには向きません。なぜならマナコストが重すぎて、もし対戦相手が警戒して「機体」を起動しなかった場合にそのターン構えた3マナが単純に無駄になりますし、毎ターン3マナを残し続けるとなるとさらにいっぱいいっぱいになるからです。
ファーストドラフトを3-0できたことで、6-0はにわかに現実味を帯びてきました。けれど、セカンドドラフトのデッキは普通くらいの赤黒になってしまいました。ピックの最初の方は素晴らしかったのですが、3パック目で収穫らしい収穫が何もなかったのです (赤黒が1パック目に空いていたのは確かなので、この理由はさっぱりわかりません) 。結局僕のこの大会最後の相棒は、悪くはないものの、3-0デッキには程遠いものとなりました。
ファーストドラフトと同様に13回戦、14回戦は楽勝でした。プロツアーに参加しないプレイヤーが組み上げた、てんでなってないデッキと当たったからです。しかし最終第15回戦目で、僕はValentin Mackl相手に無残にも敗れる結果となりました。1ゲーム目は彼の青緑エネルギーデッキに対して信じられない回りをして勝つことができましたが、2ゲーム目と3ゲーム目はあっさり落としてしまいました。立ち回りに関しては、とても良くプレイできたと思っています……彼が最後まで抱えていた《金属の叱責》と《守られた霊気泥棒》をきちんとケアしながら戦うことができました。ですがそもそもデッキのレベルが僕とは全然違って、向こうの方が圧倒的に洗練されていました。
丸一日をかけて目標達成まであと1マッチというところまで来て、最終ラウンドの1ゲーム目をとっておきながら負けるなんて下手すぎますが、マジックではよくあることですし、自分自身の2日目のプレイには満足しているので、【プロツアー『霊気紛争』】が楽しみです。この実に素晴らしいドラフト環境をさらに開拓できればいいなと思います。
それでは、ここまで読んでくれてありがとう! Petr Sochurekでした。
この記事内で掲載されたカード
Twitterでつぶやく
Facebookでシェアする
Petr Sochurek
緻密な環境分析と正確無比なプレイングに裏付けられた実力は、”ヨーロッパで3本の指に入る”と称される新鋭。
【グランプリ・パリ2016】では、「グリクシスコントロール」を操り見事に優勝を勝ち取る。
世界が注目する、トッププレイヤーの1人。
関連記事
- 2017/02/03
- 『霊気紛争』ドラフトの極み
- 高橋 優太