原根 健太のプロツアー『霊気紛争』レポート ~準備編~

原根 健太

2月3日-5日に開催された【プロツアー『霊気紛争』】に参加してきました。

今大会は自身2度目となるプロツアー参加となります。初めて参加したプロツアーは【プロツアー『マジック・オリジン』】と、約1年半前。随分と時間が開いてしまいましたが、ようやくこの場に戻ってくることができました。

【プロツアー『マジック・オリジン』】の成績は3-5の初日落ち。マジックを始めたばかりの当時、リアルの繋がりが皆無に等しく、練習はMO(Magic Online)を中心に行っていたのですが、新セット発売直後に開催されるプロツアーにおいてはMOを軸にした調整は不向きです。そもそも新セットの実装が本番の直前ですからね。

ほとんど練習しないままの参加となってしまっていたので、妥当な結果です。

しかし、今回は違います。

Hareruya Prosに所属し、東京に居を移したことで、練習環境は飛躍的に改善されました。平日業務後の時間でも構築やドラフトの練習に励むことができます。

そしてありがたいことに、【Team Cygames】所属プロ・市川 ユウキさんお誘いの下、調整チーム「The Sun」のメンバーに加えていただけることになりました。「プロツアーに勝つ」ための準備、土台が整い、いよいよ本格的な挑戦が始まったのです。

今回のレポートでは、僕がこのプロツアーに向けて行ってきた準備の一通りをお届けしたいと思います。

■ 1月7日~(本番4週間前)

公式サイトにて全カードリストが公開され、この日よりプロツアーに向けた準備が開始されました。

上記調整チーム「The Sun」としての本格的な活動は新セット発売日以降(1月21日~)であったため、それまでは別グループの調整に混ぜていただくことに。八十岡 翔太さん・渡辺 雄也さん・行弘 賢さん・北原 寛章さんのグループです。

翌日、渡辺さん宅にお邪魔し、行弘さんとの3人で新セットのレビュー会を実施。その翌日からは上記3人に覚前 輝也さんを加えた4人で早速、プロキシを使った練習会をスタートしました。

霊気池の驚異約束された終末、エムラクール

開始直後は《約束された終末、エムラクール》入りの《霊気池の驚異》デッキがひたすらに強力で「新セットのカードでこれらを打ち倒すことは本当に可能なのか」と不安を感じていましたが、皆さんご存知の通り【衝撃のニュース】が飛び込み、スタンダードに久方ぶりの禁止カードが生まれました。

練習会では「新セットのカードを積極的に試す」ことを主目的としていたため練習に割いていた時間が無駄になることはほとんどなく、上記不安点が取り除かれた点はむしろプラス。

前環境後期に生み出された「ティムール霊気池」は非常に洗練されたリストで、《ならず者の精製屋》を得たことでより一層完成体に近づきつつあり、禁止改定によってこの存在を考慮せずに済むようになったのは大きな出来事です。生半可なコンボやミッドレンジデッキは大抵「霊気池の劣化」で片づけられてしまっていましたからね。


サンプルデッキ「ティムール霊気池」
(【禁止改定】前のリスト)

6 《森》
4 《山》
1 《島》
2 《燃えがらの林間地》
3 《進化する未開地》
4 《霊気拠点》
2 《植物の聖域》

-土地 (22)-

4 《導路の召使い》
4 《ならず者の精製屋》
3 《墓後家蜘蛛、イシュカナ》
4 《約束された終末、エムラクール》

-クリーチャー (15)-
4 《霊気との調和》
4 《蓄霊稲妻》
4 《発生の器》
4 《織木師の組細工》
4 《霊気池の驚異》
3 《反逆の先導者、チャンドラ》

-呪文 (23)-
hareruya

この時点ではとにかくいろんなカードに触ってみようと、様々なデッキに着手しました。「黒緑アグロ」や「機体」のような本命デッキはもちろんのこと、《策謀家テゼレット》《艱苦の伝令》といった注目株から、《不屈の独創力》《霊気貯蔵器》といったイロモノまで。

思いつく限り一通りのカードに触れて新セットを堪能したのち、本題へ。上記調整チーム「The Sun」では各メンバーに役割が振り分けられています。

「アグロデッキ開発」の担当だった僕は、同ポジションの覚前さんが機体デッキに注力していたのを受け、アグロ路線の「4Cサヒーリ」や「黒緑アグロ」に注力していきました。

個人的に最も気に入っていたのは、以下の「4Cサヒーリ」。


サンプルデッキ「4Cサヒーリ」

4 《森》
2 《島》
1 《山》
1 《平地》
4 《進化する未開地》
4 《霊気拠点》
4 《植物の聖域》
1 《感動的な眺望所》
1 《さまよう噴気孔》

-土地 (22)-

2 《歩行バリスタ》
4 《導路の召使い》
4 《ならず者の精製屋》
3 《邪悪の使者》
4 《守護フェリダー》
2 《新緑の機械巨人》
3 《老いたる深海鬼》

-クリーチャー (22)-
4 《ウルヴェンワルド横断》
4 《蓄霊稲妻》
4 《ニッサの誓い》
4 《サヒーリ・ライ》

-呪文 (16)-
hareruya

いじくっている内にアグロカード(《牙長獣の仔》《通電の喧嘩屋》)が抜けてしまい、役割から逸れてしまったなと感じ手放したのですが、僕は前環境終期に使っていた【黒緑昂揚】のようなサーチができてごちゃごちゃしたデッキが好きなので、上記デッキは使っていて非常に楽しいデッキでした。

■ 1月14日~(本番3週間前)

『霊気紛争』のプレリリースが開催。上記の通り構築の練習は既に開始していますが、プレリリースはリミテッドの観点で新セットに触れられる貴重な機会です。

翌週にはHareruya Prosメンバーで行われる毎度恒例の【晴れるーむ合宿】がありますし、その下地作りにもなりますからね。週末の両日晴れる屋に足を運び、プレリリースを堪能しました。

また、ここで得た賞品のパックを用い、構築練習に加えてドラフト練習も並行してスタート。僕はリミテッドの引き出しが少なく応用も効きづらいタイプなので、早め早めを意識して極力早く気づきや学びを得たい思いがあります。

構築の練習も引き続き実施。

巻きつき蛇キランの真意号サヒーリ・ライ

徐々にデッキが絞られていき、この時点で勝率が良かったのは「黒緑アグロ」「マルドゥ機体」「4Cサヒーリ」。

特に「黒緑アグロ」は構成が単調でもそれなりの力強さを持つことから、初週から大勝ちしそうな気配。開発するデッキもまずはここに勝てる構造を持つことを第一の課題とするなど、登竜門的位置づけとなっていました。

■ 1月21日~(本番2週間前)

いよいよ新セットが発売。前述のドラフト合宿が開催され土日の2日間フル参加しましたが、今セットは過去最大級に苦手な環境でした。

最も得意だった『異界月』ドラフトでの勝率は60%ありましたが、今回の勝率は45%。僕は基本的にカードの結び付きを意識するのが下手で、大抵の環境は「マナカーブを揃えたビート」か「多色ごちゃレアデッキ」で凌いできたのですが、今セットではそれらがなかなか成立せず、負けに負け続けました。

本番はもうすぐそこに近づいてきているため、何とか間に合わせの戦略を用意しようと勝ち組の傾向を探り、「赤」を中心としたドラフトの勝率の高さに気がつきますが、そのすぐ後に上がった【Oliver Polak-Rottmannの記事】でその認識が世界共通レベルのものであることを知り、当日赤をプレイすることは容易ではないだろうなとしょんぼり。

その後も継続してドラフトに挑戦しましたが、アベレージ1-2と改善は見られず。レアが強いときだけ勝つ大変好ましくない状態が続き、一向に正のイメージを掴めないでいました。

しかしながら、プロツアーは複合フォーマットであるためドラフトの練習ばかりをしている訳にも行きません。いよいよ前述の調整チーム「The Sun」による活動が本格始動しました。

同チームは以下のメンバーで構成されます(敬称略)。

・市川 ユウキ(チームリーダー・【Team Cygames】)
・山本 賢太郎(【Team Cygames】)
・覚前 輝也(【Team Cygames】)
・瀧村 和幸(【BIG MAGIC】所属プロ)
・松本 友樹(【BIG MAGIC】所属プロ)
・木原 惇希(【Hareruya Hopes】)
・原根 健太(【Hareruya Pros】)

都合のつくメンバーで仕事の後に集まり練習会を実施。スタンダード環境の開幕を定義するSCGO(StarCityGames Open)で結果を残したデッキを中心にテストを始めました。

「黒緑アグロ」は予想通り同イベントで大勝ちしましたが、ワンツーフィニッシュという分かりやすすぎる結果ゆえ、翌週時点では強烈にメタられることは間違いありません。

燻蒸

特に「黒緑アグロ」以上のシェアを占めた「サヒーリコンボ」には《燻蒸》という武器がありますからね。週末に控えた2回目のSCGOでは《燻蒸》多めのサヒーリが勝ち組となる予想を立て、デッキ制作を行う上でクリアすべき課題に“サヒーリコンボに相性が良いこと”が加わりました。

■ 1月28日~(本番1週間前)

PT本番前最後の週末。この週末はチームメンバー全員で集まって構築合宿を行い、最後の詰めを行うことになっています。

各自が持ち込んだデッキ候補を「黒緑アグロ」「ジェスカイサヒーリ」と片っ端から当てていき、感触を確かめていきます。ここでテストされたデッキは以下の通り。

・青黒《電招の塔》
・グリクシス《電招の塔》
・青赤現出
・青赤バーン
・スゥルタイ昂揚
・マルドゥ機体

(一応松本さんが《パラドックス装置》を練っていましたが、最終的に《パラドックス装置》が抜けてしまいよくわからなくなってしまったので割愛)

《電招の塔》はコントロールデッキを構築する上で最も注目していたカードで、繰り返す3点火力が「黒緑アグロ」に対して有効であるのはもちろん、サヒーリコンボへの耐性も併せ持ち、今回求めた要件を満たしてくれます。

電招の塔

「青赤現出」と「青赤バーン」は《熱病の幻視》をフィーチャーした選択肢で、上記《電招の塔》のようなコントロールデッキが浮上するようであれば良い選択になり得ます。

「スゥルタイ昂揚」は単純な黒緑系デッキの別方向のアプローチで、まだあまり試せていない選択肢だったので一応煮詰めておこうと作成。

どのデッキも課題クリアを前提とした構造を持っているため、それなりの勝率を出します。僕は「黒緑アグロ」を用いて上記デッキ群の相手をする係を担っていたのですが、無限のサンドバック状態で魂が抜けそうでした。

候補が出揃ったところで後は何がベストになり得るかを考えながら検証を進めて行きますが、上記デッキ群の中、抜きん出た存在として評価を受けたのが「マルドゥ機体」です。


サンプルデッキ「マルドゥ機体」

3 《平地》
1 《沼》
4 《霊気拠点》
4 《秘密の中庭》
4 《感動的な眺望所》
4 《尖塔断の運河》
4 《産業の塔》

-土地 (24)-

3 《歩行バリスタ》
4 《スレイベンの検査官》
4 《模範的な造り手》
4 《屑鉄場のたかり屋》
3 《ピア・ナラー》
2 《異端聖戦士、サリア》

-クリーチャー (20)-
4 《致命的な一押し》
4 《無許可の分解》
4 《キランの真意号》
4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》

-呪文 (16)-
hareruya

このリストは、調整の最初期から覚前さんが手塩に掛けて仕上げてきたもので、通常の「マルドゥ機体」は赤白タッチ黒の構造を取ることが多いのに対し、このリストは白黒タッチ赤の構造を取っています。

赤白ベースの機体デッキではマナベースの都合《ショック》を除去枠として採用することが多く、これは《巻きつき蛇》を倒せないので「黒緑アグロ」に押し込まれてしまう展開がままありましたが、《致命的な一押し》ならこれに悩まされることはありません。

歩行バリスタ

《歩行バリスタ》はこのデッキにとって決して良いものではありませんが、《模範的な造り手》《産業の塔》が一定数のアーティファクトカードを求めており、低マナ圏のアーティファクトカードを何度も何度も探した結果「やはりこれしかなさそうだ」との結論で採用されています。

この枠は《経験豊富な操縦者》《大天使アヴァシン》《霊気圏の収集艇》《反逆の先導者、チャンドラ》《乱脈な気孔》《鋭い突端》など様々なカードを試していったのですが、マナベースを筆頭としたデッキ都合の問題で最終的にはバリスタに帰って来ました。

確認のため「黒緑アグロ」「ジェスカイサヒーリ」とみっちり当て直しましたが、概ね有利の結果。

「黒緑アグロ」には1マナから始まる高速のビートダウンに加え、8枚の除去から繋ぐ《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》での押し込みが有効で、やはり《ショック》を使っていない分除去の全てが有用に機能するのが大きいです。

ゼンディカーの同盟者、ギデオン

「ジェスカイサヒーリ」には最序盤の《キランの真意号》がとにかく強く、先行を取って《否認》するか、《鑽火の輝き》のようなピンポイント除去をあてるか、《霊気拠点》から《蓄霊稲妻》に繋ぐか、といった具合で対処手段が非常に限定的。

ここに《屑鉄場のたかり屋》《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》といったコントロール殺しの代名詞たちも加わるため、そうそう負けない相手です。

時を同じくして開催されたSCGOでトップ32に誰も残らなかったのもポイントで、マークが薄くなることも期待でき、追い風を感じます。

注目度が低い割に地力が高く、想定されるデッキ群に有利。これ以上の理由は必要ないでしょう。僕達は「マルドゥ機体」を選択することにしました。

メンバー間で議論を行い、サイドボードは以下のように振り分け。

マルドゥ機体 サイドボード

4 《金属の叱責》
4 《熱病の幻視》
2 《断片化》
2 《空鯨捕りの一撃》
2 《反逆の先導者、チャンドラ》
1 《ショック》

熱病の幻視金属の叱責

前述したコントロールデッキの仮想敵《電招の塔》に勝率が思わしくなかったため、青をタッチして《熱病の幻視》を採用しました。タッチ赤青構築のため相当上振れなければ速やかに設置することは難しいですが、相性の悪いマッチアップならリスクを取ってでも採用する価値があると踏みました。

《金属の叱責》は主に「ジェスカイサヒーリ」を見た選択で、コンボの妨害と自身の押し込みの両面で運用が可能。腐りづらく、《スレイベンの検査官》《キランの真意号》らとのシナジーは単調ながらも大変勝手が良いです。《否認》と異なり《奔流の機械巨人》を打ち消せるのもポイントで、ゲームを決定づけるインパクトもあります。《熱病の幻視》はコンボのある相手には入れづらいので別角度のメタです。

上記リストを暫定版とし、残りは本番まで各自で練習を積み前日に確定する方向で構築合宿は終了。上手くいかず苦しんでばかりだったドラフトとは異なり、この合宿は確かな手応えがありました。

「これはドラフトさえ何とかすれば良い結果も望めるのでは!」と息巻き、本番までの時間再びドラフトに取り組みますが、またしても1-2を繰り返す無限地獄に突入。この地獄に終わりは来るのか……。

後編に続く

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