前回レポートの続きです。まだご覧になられていない方は、よろしければそちらも併せてどうぞ。
- 2017/02/20
- 原根 健太のプロツアー『霊気紛争』レポート ~準備編~
- 原根 健太
本戦前日
短くも長い練習期間を終え、いよいよ出発の日を迎えました。【プロツアー『霊気紛争』】はアイルランド・ダブリンの地で開催され、日本からは飛行機の乗り継ぎを含め約15時間ほどの移動を要します。
12時間を越えるフライトは初めての経験でしたが、遠征の経験が増す毎に耐性が付き始め、今ではこれぐらいの距離ではなんとも思わなくなりました。初プロツアーでカナダ・バンクーバーに向かった際は長時間フライトが苦痛で仕方なかったので、多少は遠征慣れし始めています。
昼前にはホテルに到着。ダブリンの街はすごいヨーロッパ感(語彙力)。できたら観光にでも行きたいなぁなんて思いながらも、今の僕にはそんな余裕はありません!ドラフト……ドラフトしなきゃ……と着いてすぐ、持参したノートパソコンでMOのドラフトリーグに潜って練習を開始。
そして1没。
……を3回。ドラフトでこんなに負けた経験はこれまでに無く、もうどうしたらいいのかサッパリ分からなくなってしまいました。失意のまま会場に向かい、ここでもプロツアー参加者達とドラフトをしますが、1-2。くっ!
これだけハッキリダメだと分かっているともはや吹っ切れるしかなくなり、夕飯を取りながら頭を整理します。今回のプロツアーでの目標は11勝5敗以上の成績を収め「次回プロツアーの権利を得る」こと。これが達成できれば今シーズンの目標である「シルバーレベル」が確定します。
最低限10勝6敗の成績で終えることができれば「プロポイント6点」が得られるので、確定とは言えないながらも「シルバーレベル」は現実的になる数値です。ドラフトの期待値は2勝4敗なので、構築ラウンドで8勝2敗~9勝1敗が必須。ちなみに前回のプロツアーの構築ラウンドは1勝4敗でした。あれから1年半の時が過ぎ、再び世界の強豪達を相手に自分がどれだけ成長できたのかを測るときです。
そんなことを考えながら食事を済ませたのち、事前準備の総仕上げである構築決定の最終会議に向かいました。前編でお伝えした構築合宿後の各人の調整結果を共有し、微調整を施します。結果、最終的なリストは以下に決定。
3 《平地》 1 《沼》 4 《霊気拠点》 4 《秘密の中庭》 4 《感動的な眺望所》 4 《尖塔断の運河》 4 《産業の塔》 -土地 (24)- 2 《歩行バリスタ》 4 《スレイベンの検査官》 4 《模範的な造り手》 4 《屑鉄場のたかり屋》 3 《ピア・ナラー》 3 《異端聖戦士、サリア》 -クリーチャー (20)- |
4 《致命的な一押し》 4 《無許可の分解》 4 《キランの真意号》 4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 -呪文 (16)- |
4 《金属の叱責》 4 《熱病の幻視》 2 《空鯨捕りの一撃》 2 《反逆の先導者、チャンドラ》 1 《断片化》 1 《ショック》 1 《蓄霊稲妻》 -サイドボード (15)- |
《歩行バリスタ》はデッキの運用上必要なカードであるとは言え、2枚以上引くと手札の質が極端に悪くなるため、枚数を抑えて2枚に削減。代わりに感触の良かった《異端聖戦士、サリア》を1枚増やしました。
サイドボードは2枚目の《断片化》を《蓄霊稲妻》に変更。「黒緑アグロ」に対するサイドボード枚数を確保する目的があります。
上記変更点を踏まえた上でサイドボードプランの最終確認を行い、会議は終了。メンバーの健闘を祈り解散となりました。
本戦1日目
いよいよプロツアーが幕を開けます。ご存知の通り、プロツアーはドラフトとスタンダードの複合フォーマットにて行われ、緒戦は問題のドラフトから。始まる前、この環境のドラフトで好調を維持していたTeam Cygames・覚前輝也さんにアドバイスを貰いました。
覚前 輝也
※画像は【Team Cygames】より引用しました。
「この環境、地べた這うビートダウンだけはホンマにアカンで」
それは、こんな感じのものでしょうか。
1stドラフトは禁忌の地上押し白緑ビートダウン。練習段階から1-2を連発していることからもわかるように、「勝てるデッキの作り方」を理解できていません。本番までに20回近くドラフトをこなしたにも関わらず、全くコツが掴めませんでした。
ラウンド | 対戦デッキ | 勝敗 |
Round 1 | 青緑 | 〇×〇 |
Round 2 | 青黒「即席」 | 〇×× |
Round 3 | 白赤「機体」 | ×× |
そして自明の1-2。
R1の相手のデッキは「同じ匂い」のする出来栄えで、「ここを落としたらもう誰にも勝てない」と息巻き、ギリギリの試合を辛勝。R2も相手のデッキが低速だったことで善戦しますが、1枚1枚が強く《艱苦の伝令》まで出てきて蹂躙され敗北。R3は完成度の高い白赤のアグロデッキで、一切いいところなく瞬殺。
0-3でも全くおかしくないデッキであったため、1勝さえ僥倖。何とかスタンダードラウンドに望みを託せる結果です。スタンダードに関しては良いものを選択できているはず。後は本番のメタゲームがどうなっているのかの答え合わせです。
ラウンド | 対戦デッキ | 勝敗 |
Round 4 | 白緑トークン (Paul Dean) | ×× |
Round 5 | 黒緑アグロ | 〇〇 |
Round 6 | 黒緑アグロ | 〇×× |
Round 7 | 黒緑アグロ | 〇×〇 |
Round 8 | マルドゥ機体 (Matt Severa) | 〇×〇 |
想定していた「ジェスカイサヒーリ」とは全くマッチングせず。
Paul Dean
※画像は【マジック:ザ・ギャザリング日本公式ウェブサイト】より引用しました。
R4のPaul Deanさんは先のプロツアー『戦乱のゼンディカー』にてトップ4入賞の経験もある強豪。このゲームは完全に自分の下手さが敗北に結びついてしまいました。
《キランの真意号》を見え見えの《停滞の罠》に飛び込ませてしまったために《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の着地を許してしまい、その処理に《無許可の分解》を消費した結果《大天使アヴァシン》に捲られると言った具合で、ミスによる瓦解の典型。楽な勝利を見過ぎてしまいました。猛省。
R6をノーランドトリプルマリガンで落としてしまったときは2度目の初日落ちを覚悟しましたが、残り2試合は後がなくなったことでかえって落ち着いてプレイすることができ、何とか勝利。
そして僕は一度しかマッチングしなかったのですが、様子を見に行った上位卓は「マルドゥ機体」の海でした。どの卓を見てみても機体、機体、機体。今回はチームシリーズが開催された都合チーム単位でデッキをシェアしていることが多く、「1つ機体を見掛ければあと5人はいる」感覚でした。
僕らのチームは「機体デッキはそれほどフィールドに存在しない」認識で今回のトーナメントに臨んでいたため、端的に言ってマズイ。試合を見に行くと、早速僕らが採用を見送った《領事の旗艦、スカイソブリン》や《グレムリン解放》が蹂躙しており、僕もR8の2ゲーム目はスカイソブリンでハチャメチャにされてしまいました。これは翌日が思いやられる……
ともあれ、スタンダードラウンドは3-2。ドラフトラウンドと合わせて4-4、ギリギリのところで2日目に繋ぐことができました。良しとされる結果ではありませんが、前回のプロツアーが初日落ちだったことを踏まえればまずは一歩前進と言ったところでしょうか。
目標達成のための望みを繋いだのはもちろんのこと、プロツアーのようなフィールドで1試合でも多くのゲームをこなすことは僕にとって大きな意味があります。
実は僕、海外のプレイヤーと対戦することに苦手意識を持っていて、英語が不得意なのでコミュニケーションの方で気を取られている内に普段ありえないような誘発忘れをしてしまったり、変に焦ってしまって質の低いプレイをしてしまったりと、自滅に近い負け方をしてしまうことがしばしばありました。
カードゲームのプレイ自体は10年近く続けているのでそれなりの場慣れはありますが、海外のプレイヤーとの対戦を経験したのはマジックをプレイしてからのことになります。他のプレイヤーに相談すると「変に意識する必要はないよ」とアドバイスされるのですが、意識してしまうものは仕方がないのです。
ですがこれはどうにもならないようなことではなく、要は慣れてしまえばいいだけなので、数を重ねることで改善できるはず。この程度の不慣れなら100回200回とこなすうちになんとも思わなくなることでしょう。ゆえに今はより多く海外の強豪達とマッチングし、コミュニケーションを交わし、慣れることが必要なのです。
本戦2日目
この日も始まりはドラフトラウンドから。組み上げたデッキは以下の内容。
なんと構築級レアの《歩行バリスタ》が2枚入っています。1-1と2-1が《歩行バリスタ》でこれには思わず笑みがこぼれました。
しかしいざピックを進めていくとこのカード、使った・使われた経験が共にほとんどなく、どんなデッキでプレイすれば上手く使えるのかイメージが付かず、フラフラした結果イマイチパッとしないデッキに。途中で流れてきた2枚の《異端の飛行機械職人》をキャッチできればかなり強力な青赤デッキに仕上がっていたと思うので、そこは悔いが残りますね。
1日目のドラフトに比べれば飛行クロックありレアありで、ちょっとは勝てそうかなと思っていたところ…
ラウンド | 対戦デッキ | 勝敗 |
Round 1 | 赤緑アグロ (Reid Duke) | 〇×× |
Round 2 | 青赤「即席」 | ×× |
Round 3 | 白緑アグロ | 〇〇 |
1-2! 驚異の再現性!
Reid Duke
※画像は【マジック:ザ・ギャザリング日本公式ウェブサイト】より引用しました。
R9はReid Dukeとマッチング。紳士で名高く尊敬するプレイヤーの一人で、是非一度戦ってみたいと思っていたのでマッチングできて光栄でした。実際の対戦も相手の良いプレイには賛辞を送るなど噂に違わぬナイスガイ。試合には負けてしまいまいたが、楽しいゲームでした。
R10は僕が流した2枚の《異端の飛行機械職人》をしっかりピックした「即席」デッキが相手で、2ゲーム共接戦になるもギリギリのところで持ちこたえられて押し切れず。
《難破船ウツボ》と《気宇壮大》のコンボ(コモン2枚で13点トランプル)を決めて相手フィールドを壊滅させたまでは良かったのですが、その後無限の土地ドローにより撃沈。
R11の相手は1stドラフトの僕のようなデッキでした。決め手の無い、地を這う白緑。相手にしていてこれほど楽な相手もいない感想。
ちなみにどのゲームもそれなりに長期戦になったのですが、《歩行バリスタ》は1回もドローできませんでした。R10の相手には劇的に効果がありそうだったので喉から手が出るほど欲しかった……サイドボードから入れた2枚の《撃墜》も引けず。ぬわ~!
ドラフトラウンドは1-2、1-2の2-4でフィニッシュ。全くもって期待値通りの結果。練習は嘘をつきませんね。妥当過ぎて言葉が出ず……。
この時点で6敗となってしまったため、あえなく次回プロツアーの権利は失われてしまいました。しかしながらプロツアーは1点でも多くのプロポイントを稼ぐ好機の場。グランプリはキャップの関係で獲得ポイントに上限があるため、この場で稼ぎ出すポイントには大きな意味があります。
この大会での目標は果たせませんでしたが、シーズン通しての目標であるシルバーレベルを目指した戦いは続いていますからね。仮にこの後のラウンドを全勝すれば獲得プロポイントは6点。プロツアーは参加するだけで3点のプロポイントが与えられるため、追加で3点。
3点はグランプリで言うところの12勝3敗に相当するので、非常に大きな価値を持ちます。最後のひと踏ん張り。結果は…
ラウンド | 対戦デッキ | 勝敗 |
Round 10 | 黒緑アグロ | 〇×〇 |
Round 11 | 青赤スペル | 〇×〇 |
Round 12 | 黒緑アグロ 渡辺雄也 | ×〇〇 |
Round 13 | マルドゥ機体 | ×× |
Round 14 | 青黒コントロール Jim Davis | 〇〇 |
4-1。惜しくも全勝ならず。
構築ラウンドでは最終的に半数の5マッチを「黒緑アグロ」と戦い、4勝1敗でした。《致命的な一押し》様々といったところで、先手もあまり取れなかったのですが、このカードでテンポを捲り返す場面が多く非常に助けられました。
問題に感じたのはやはり「マルドゥ機体」とのマッチアップ。前日の予感通り、この日の対戦ではムチャクチャにされてしました。
僕達のリストはメインボードに《経験豊富な操縦者》を採用していなかったのですが、相手のプレイしてくるこのカードはミラーマッチにおいて非常に強力。メインボードの戦いはブン回したもん勝ちになりがちなのですが、サイドボード後は除去カードの応酬となってゲームが長期戦化しやすい傾向があり、占術2が2ドローに等しい効力をもたらすこともあります。
《グレムリン解放》や《領事の旗艦、スカイソブリン》のようなミラーマッチにおける決め手にアクセスしやすくなるのも利点ですね。僕が10枚以上土地を並べている間、対戦相手は2枚このカードをプレイしてリソース面で大きく差を付けられてしまいました。
僕らがこのスロットに採用しているカードは《歩行バリスタ》で、このゲームに関して言えば大フラッドした盤面にこのカードをプレイするでたちまち制圧できたことでしょうが、多くの枚数を選択しづらいのがこのカードのネックであり、ドローの期待値は薄いです。その性質がモロに出たゲームだったと言えるでしょう。
瞬殺されてしまい暇を持て余していたので他のメンバーの試合を見に行ったのですが、やはり《経験豊富な操縦者》の占術が効果的に働いているシチュエーションが多く見られ、「機体の海ではこちらが正着か…」と羨まし気に眺めていました。
構築ラウンドは 3-2 と 4-1 で計 7-3 フィニッシュ。
まとめ
ドラフトラウンドは当日までに苦手を払拭できず、練習の成果を正確に反映させてしまって2勝4敗。構築練習が本格化できないプレリリースから新セット発売までの期間のうちにもっと重点的に取り組んでおくべきだったなと反省。
とは言え、15回近くもやって全くコツを掴めないというのも情けない話です。「ポジション取りは悪くない(上家や下家とは協調できている)がデッキが弱い」自体が頻発していたため、「どうやって勝つのか」を意識したピックが下手だったように思います。
『霊気紛争』はプレイアブルなコモンが少なく、マナカーブを揃えただけのデッキを組んでしまうと弱いカードが多く混入してしまい、それらが足を引っ張って負けることが多く感じました。全体の方向性で勝負して、「デッキ単位で強く動く」ことが重要ですね。これまで雑な勝ち方に甘えてきたツケが回ってきました。
大反省ということで、帰国後は強化週間と称してドラフトに没頭し、ようやくまともな振る舞いを成せるようになってきました。出発前の15回と合わせて全部で30回ぐらいはやったと思うのでこのぐらいこなせば流石にまともにはなりますが、後は現実的なスケジュール感でいかにその状態に持って行けるかが今後の課題になりそうです。
一方、構築ラウンドは7勝3敗と比較的好調と言える成績で、初参加の時と比べて大きな進歩を見せました。細かな構築はさておき、正解と呼べるデッキタイプを選択できた事が非常に大きく、チーム調整の偉大さを知りました。仮に個人で調整していた場合、この短期間で数ある選択肢の中から機体デッキに行きつける可能性は限りなく低かったでしょうからね。
反省点は大きく分けて2つ。まずデッキについて、「機体デッキが良い」と言う結論に至った後で「ではどんな機体デッキが良いのか」まで手が回らなかったこと。
上記に記した通り、《経験豊富な操縦者》は機体デッキのマスターピースでした。白黒タッチ青赤の構造を取る上ではマナベース的に採用が難しいと見送りましたが、マナベースの方に手を加えるパターンは検証すべきでしたね。
ただし、あくまで「黒緑アグロ」と「ジェスカイサヒーリ」の2デッキを考えるだけであれば、今回のリストも決して悪いものだとは思いません。
そこで2つ目の反省点である、「トーナメントに対する考え方」が挙がってきます。
「前週のStarCityGames Openにいなかったので、機体デッキを選択するプレイヤーもそう多くないだろう」と予想したことに関して、機体デッキは前環境から存在している選択肢であり、「ジェスカイサヒーリ」と「黒緑アグロ」の2つに勝てるデッキを追求していけば行き当たることがあっても全くおかしくないデッキでした。
行き過ぎたメタゲームの予想は逆効果ですが、全く新しいデッキなのか、そうでないのかは判断材料として持つべきでしょう。非常に学びの多いトーナメントでした。今後の挑戦において今回学んだことは大きな意味合いを持ってくることでしょう。
声を掛けていただいた市川ユウキさんを始め、調整チームのメンバーには大いに感謝しています。
目標には届きませんでしたが、成長を感じられた2度目のプロツアー。本当に楽しいイベントでした。僕が目指したいマジックはここにあるということを再確認できました。
今月はグランプリ・バルセロナ2017とグランプリ・静岡2017(春)に参加予定で、フォーマットはいずれもスタンダード。これだけ集中して1つのフォーマットを練習できる機会はなかなか無いので、どこかしらで上げていきたいところです。
それではまた。
原根
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