挑戦者インタビュー: 細川 侑也 ~神になるための、ふさわしい戦い~

晴れる屋

By Kazuki Watanabe

 細川 侑也

 マジックプレイヤーの多くは、彼の名前を知っていることだろう。特に、この神決定戦に関するインタビューを読んでいるような「テキストを愛する人たち」は、ご存知のはずだ。エターナルフェスティバルや、The Last Sun 2015を始めとして、カバレージで名前を見ることも多い。

 とはいえ、今回のインタビューでは、彼はインタビューをされる側。第8期モダン神挑戦者決定戦で見事に優勝を勝ち取り、モダン神への挑戦者となったからだ。

 「普段は自らの言葉でマジックの魅力を綴る彼の思考を引き出すこと」。

 それが、彼の業績を眺めながら過ごしてきた筆者に課せられた、大きな使命である。

 モダン神挑戦者として戦いに挑む細川の思考、ご堪能あれ。

■ マジックとの出会い

――「まず始めに、マジックとの出会いについて教えていただけますか?」

細川「出会いはもう10年以上前ですね。『ミラディン』が出た頃に中野のブロードウェイを歩いていたら、カードが英語でかっこいいな、思って店員さんに話を聞いたんです。そこから始めて、最初は『親和』のようなデッキを組んだ覚えがありますね」

――「そうなんですね。そこからはまずはカジュアルに、という感じですか?」

細川「FNMなどを中心に遊んでましたね。ただ、デッキ選択だけは少し違って、マジックを始めたばかりのときって、とりあえず適当に組んで遊んで見る、って言う人も多いと思うんですけど、私の場合は人に聞いて、いわゆる“強いデッキ”を組んでました。晴れる屋で超簡単にマナベース計算できちゃう早見表を作ってみたを書かれた富田 峻太郎に教わってましたね」

――「なるほど。そこからはマジックから離れずに続けている状態ですか」

細川「そうですね。トーナメントにも出続けていますし、忙しくなっても、完全に離れるということはないですね」

■ マジックの魅力

――「離れることなく魅了されている細川さんが考える、”マジックの魅力”は何でしょうか?」

細川「勝ち負けがしっかりとつくことって、人生の中であまりないですよね。それをはっきりと味わえて、成功体験を与えて貰える場所がマジックだと思います。自分で創造したものが、明確な結果に繋がるという喜びが味わえることがマジックの魅力だと思います。その場所であるトーナメントも、しっかりとありますからね」

――「なるほど。勝敗が明確について、その結果がグランプリやプロツアーに繋がって、そこで成功体験も味わえますからね」

細川「そうですね。特にプロツアーを目標として捉えるようになったのは、私にとって大きかったです。実は、その目標を与えてくれたのが、Hareruya Prosの井川 良彦さんなんですよ」

■ 井川さんとの出会い -プロツアーという目標-

――「そうだったんですね。井川さんとの付き合いは長いんですか?」

井川 良彦

細川「かなり長いですね。マジックによって出会えた人は多いのですが、その中でも長い方だと思います。『ミラディン』のときは退屈というか、少し漠然と遊んでいたところがありました。そのあと、『神河物語』の頃に、井川さんと出会って、大きな感銘をうけたんですよ。井川さんは当時からプロツアーを目指して連戦していて、『普通の大学生に見えるのに、こんなに真剣にマジックをやっているんだ!』と。その熱意を間近で味わったこともあって、私にとってもプロツアーが目標になりましたね

――「なるほど。井川さんによって見せられた”プロツアーという大きな目標”を目指して、マジックにのめり込むわけですね」

細川「のめり込みましたね。もしも辞めるならば、プロツアーで勝ってから、と思いました。そこからPTQの連戦を始めたので、当時の自分にとってPTQは重きを占めていましたね。大会のフォーマットに合わせて練習をするようになり、そしてこの頃から自分でデッキを作ることの重要さに気づいたんです」

――「そうなんですね。何かきっかけはあったんですか?」

細川「それまでは、結果を残している強いデッキ使っていたのですが、思うように勝てなくなったんです。『井川さんと同じようにプロツアーを目指したい。より一層強くなりたい』と考えたときに、そういったマジックとの付き合い方、“強いデッキを使う”というやり方では不十分だと思ったんですよね。自分でしっかりと環境を読み解き、サイドボードに至るまで自分で考えて構築する必要があるな、と」

――「なるほど。現在も様々なフォーマットをプレイしながらデッキを構築されていますが、一番好きなフォーマットはなんですか?」

細川エクステンデッドが大好きだったんです。なので、モダンは『エクステンデッドみたいだな』と思ってハマっていきましたね」

――「では続いて、その”モダンの魅力”についてお伺いしていきましょうか」

■ モダンの楽しみ方

細川「モダンの魅力は、好きなカードを使えることだと思いますね。好きなカードで、好きなことができる楽しさを味わうことができます。様々なデッキが活躍しているので、工夫次第で思い出のカードを使うこともできますからね」

――「細川さん自身はモダンも昔からプレイしているんですよね?」

欠片の双子

細川「そうですね。常にプレイするものというよりは、大会に向けて練習をする、という形でプレイしていますね。なので、強いデッキは何だろう? と様々なデッキを触ってみて、結果的に『双子』になったことが多いですよ。それから、やり込むことが重要なフォーマットだと思うので、自分のデッキを使い込む楽しさも味わえると思います。スタンダード専門という人もやってみて欲しいな、と思いますね」

――「モダンプレイヤーの人たちが持つ愛は、熱いものがありますからね」

細川「ありますね。専用機が多いのも特徴かもしれません。Team Cygames所属の山本 賢太郎さんの『グリセルシュート』は、その良い例かな、と。好きなデッキで勝つ、ってやはり楽しいことですから」

■ 細川が語るコンボ -足し算か、引き算か-

――「細川さんがマジックで好きなもの、ってありますか? 例えば、アグロが好き、コントロールが好きといったような」

細川「好きなのはカウンター呪文とコンボで、ビートダウンはほとんど使わないんです」

――「ビートダウンを愛する井川さんを目指していたのに、個人的な趣味では、その対極にいますね」

細川「そうなんですよ。コンボが簡単、というわけではありませんが、ビートダウンはやはり難しいんですよね。自分でゲームを突き動かしていくというか、レールを敷いていくことって想像以上に難しいと思うんですよ。いずれにせよ、コンボとは違うアプローチになりますよね」

――「たしかに勝利への道筋を組み立てる方法が根本的に違いますね」

細川「そうですね。ビートダウンが地道な足し算を繰り返して10を目指すのに対して、コンボは、引き算の結果10にする、というイメージですかね。コンボを決めに行くときの感覚は、積み重ねよりも引き算に近いな、と。モダン神挑戦者決定戦で使用した『ドレッジ』はコンボとは少し違うかもしれませんが、コンボの感覚が活かせるデッキだと思います」

■ モダン神挑戦者決定戦を振り返る

――「改めてモダン神挑戦者決定戦を振り返ってみたいのですが、『ドレッジ』を使用されて、決勝ラウンドも含めて見事な勝利で挑戦権を獲得されましたね」

細川「ありがとうございます。決勝ラウンドは、正直相性が悪かったので、勝てて嬉しかったですね。苦手な『トロン』がまさか2連戦になるとは思ってなかったので……」

――「その苦手な『トロン』に『ドレッジ』で勝利する秘訣ってありますか?」

猿人の指導霊

細川《猿人の指導霊》を上手く使う、という秘訣があるのですが、それを説明するためには私が考えるモダンの“ターン設定”について説明する必要があるかもしれません」

――「ぜひ、お願いします!」

■ モダンで勝利するための、”ターン設定”

細川「モダンは、デッキによってターン設定、というものがあると考えているんです。簡単に言えば、“何ターンでの勝利を目指すか、何ターンで勝てるのか”という数字ですね」

――「いわゆる、3キル、とか4キルというやつですか?」

ぎらつかせのエルフ睡蓮の花

細川「そうですね。たとえば、3キルの代表格である『感染』は、”ターン3″という設定です。『アドグレイス』は4ターン目に《睡蓮の花》、という動きがあるので”ターン4″と。その考え方で行くと、『ドレッジ』は、“3.5ターン”だと私は思っているんです」

――「0.5の数字に鍵がありそうですが……」

細川「そのとおりですね。要するに、3ターン目ではゲームには勝てないけど、ターン4には強いんですよ。3ターン目には場を制圧しているけれど、その場では勝てないデッキ、それが『ドレッジ』です。その上で、《猿人の指導霊》を利用すれば、キルターンを1早めることができます。『トロン』などのデッキと対戦するときはそれを意識すると勝てるようになりますね」

――「なるほど。『ドレッジ』を使う上で、その他に気をつけることってありますか?」

細川「時々、『ドレッジ』を”漠然と『発掘』してそのうち勝つデッキ”と考えている人も居ますよね。それで勝てることもありますが、安定しません。『ドレッジ』は、戦況によって“落としたいカード”が決まっていて、少しダメージを与えておけば《燃焼》で勝てる、というデッキです。このゲームプランをしっかりと確立できていれば、そこまで難しくはないんですよ」

ナルコメーバ恐血鬼秘蔵の縫合体

――「的確に《ナルコメーバ》《恐血鬼》《秘蔵の縫合体》といったカードを落として、それらを有効活用していくわけですね。戦況によって判断するって、かなり難しそうですが……」

細川「そこで役立つのが、先ほど述べた『コンボの感覚』なんです。難しいとは思いますが、迷わないようにするために『どれが何枚墓地に落ちていて、あと何回攻撃すれば良いのか』ということを、一人回しを繰り返して学んでおくと良いですね。少し複雑なキルターンの計算が必要になりますが、それが上手くできるかの鍵だと思います」

――「な、なるほど……その口調から分かりますが、やはり思い入れのあるデッキなのですね」

細川「そうですね。モダンには多数のデッキがあって、様々なものに触れてきました。《けちな贈り物》をサイドに積んだ『スケープギフト』もやりましたし、《致命的な一押し》が出たあとはエスパーにも触れています。それでも、『ドレッジ』は自分に合っていると思いますし、思い入れはかなり強いですね。」

――「少し神決定戦とは離れてしまいますが、『ドレッジ』についてもう少しお聞かせください。《ゴルガリの墓トロール》が禁止されたことで環境から姿を消すかと思っていましたが、まだまだ『ドレッジ』は姿を見せていますよね。その理由はどこにあるのでしょうか?」

ゴルガリの墓トロール

細川「たしかに《ゴルガリの墓トロール》を失ったことは大きかったのですが、他のカードに力があるんですよ。《安堵の再会》の方が強力、という意見もあるくらいですからね。『ドレッジ』に対する意識が弱まっていることも事実だと思いますし、まだまだ強い立ち位置だと思いますね」

――「つまり、サイドボードの墓地対策、ですね?」

墓掘りの檻安らかなる眠り大祖始の遺産

細川「そうですね。サイドボードの戦い方は工夫が必要なので、以前のように墓地対策が厚めになったら危険だと思います。《ゴルガリの墓トロール》があったころは墓地対策を張られても、一度くらいなら気になりませんでしたが、今はそうは行かないでしょう。ただ、現在ならば墓地対策は2、3枚しか積まれていないでしょう。一度墓地対策を乗り越えたあとの展開は《ゴルガリの墓トロール》がいないと厳しいのは事実ですけどね。今後も活躍できるかは、メタゲーム次第、墓地対策が以前のように厚くなるか次第だと思います」

――「モダンのサイドボードは独特ですからね。メタゲーム次第で大きく変わってきますし、そういった意味で今回は……」

細川「神決定戦は、1つのデッキとしか対戦しませんからね

■ 神決定戦でのサイドボード、そして神という存在

――「特殊な対戦方式となるわけですが、サイドボードも変わってくるわけですよね?」

古えの遺恨自然の要求

細川「相手のデッキを読むことも含めて、かなり変わってくるでしょうね。通常のモダンであれば、様々なデッキに効くサイドボードを用意しますよね。『親和』に劇的に効くことを考えるなら《古えの遺恨》ですが、『親和』を見つつ、それ以外にも効く《自然の要求》を選ぶ人も多いですよね。そういった選択を、今回ばかりは多少尖らせることも考えられます

――「なるほど。デッキ選択について、何かプランのようなものはありますか?」

細川「今回は、様々なデッキを試しながら相手に合わせようかな、と思っています。予想されるデッキに対するデッキ、を使用したいと思いますね。慣れているからこれを使おう、といった選択はしないと現段階では考えています。少なくとも『ドレッジ』は見ていると思いますし、結果も残していますからね。相手の思考を読んでデッキを決めたいとは思いますが、ただ……」

 そこから細川が続けた言葉を聞き、筆者は「そうですよね……」とつぶやきながら深く頷いた。そして、読者のみなさんも大きく頷いてくれることだろう。

細川思考を読みづらいんですよね、松田さんは……

■ モダン神、松田 幸雄について

松田 幸雄


――「モダン神のお名前が出たところで、神である松田さんに対する印象を教えていただけますか?」

細川「初めて対戦したのは、何年か前のPPTQだったと思います。松田さんの印象、という話になると”デッキ選択の凄さ”が話題になりますよね?」

――「そうですね。ここ最近も、『黒単』で勝ち上がったことが公式でも話題になっていました

細川「その面ばかりが取り上げられがちですし、私も『思考を読みづらい』と言ったばかりですが、松田さんに対する印象は“上手いプレイヤーだな”というシンプルなものです。これから対戦するという補正もあるかもしれませんが、プレイの上手さは本物だと思います」

――「なるほど。基礎的な部分がしっかりできている、ということなのかもしれませんね」

細川「そうだと思います。だからこそ、モダン神として座り続けているのだろうな、と。その松田さんの座っている場所を目指すわけですから、しっかりと準備したいですね」

■ 細川「神にふさわしいゲームを」

――「では、お時間も来ましたので、最後に神決定戦に向けた決意をお聞かせください」

 筆者がそう問いかけると、細川は少し沈黙し、そして笑いながら答えた。

細川『このレベルで神になるの?』と言われてしまうようなミスはしたくないですね

 「このレベルで神になるの?」という戯言は、誰にでも言える。しかし、この皮肉交じりの言葉を受け取れる人間は世界にただ一人、「神を打ち倒したもののみ」だ。

細川神になることは、当然の目標です。その上で恥ずかしくないゲームをして、神にふさわしいゲームを見せたいですね。

 「勝利することは当然。その上で、ふさわしいゲームを」と述べた細川が、モダン神・松田が座す場所を目指し、歩み出す。その勇姿は、当日の生放送でも見ることができるため、楽しみにしていて欲しい。

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