プロツアー『アモンケット』での栄光と挫折

Pierre Dagen

Translated by Atsushi Ito

イントロダクション

2週間前、俺はナッシュビルに3度目のプロツアートップ8を勝ちとりに行っていた。そんで聞いてくれ、そいつは途中までうまくいきそうに見えたんだ。初日の終わりには8勝0敗、スタンディングトップにまで登りつめてかなり安泰ってとこだったわけだからな。ところがどっこい、気が付けば10勝6敗に終わってしまった。なんてこった、2日目の成績は見るも無残な2勝6敗だったってわけだ!

最終成績は全然大したことない結果だったとはいえ、途中まではうまくいっていた。そこで良い機会だから、どうして一晩でこんなに事態が悪化したのか、そしてどうやったらそれを避けることが (おそらく) できるのかってことを説明しようと思う。

準備期間: プロツアー調整について

今回俺は幸運なことに、「エウレカ」そして「ルネッサンス」という2つの、俺の知る限り最高のチームの合同で調整する機会を得た。「エウレカ」の古株たち、マグナス・ラント、オリヴァー・ポラック・ロットマン、イマニュエル・ガーシェンソンが、俺とフランスコミュニティ、レミ・フォーティエとティエリー・ランボアと一緒にやってくれることになったんだな。それだけじゃなく、俺たちに精一杯協力してくれると思われる数人の強豪たちも合流させ、そこには今回トップ8に残ることになるマーク・トビアーシュも含まれていた。

以前よりもマジック・オンラインでの『アモンケット』のリリースがかなり早まったことは (今後はさらに早くなるって話だけどな)、プロツアーの調整に関していえば、調整が面白くなる方向への変化だと言える。リアルでカードを手にする前から調整を始めやすくなったというだけでなく、ドラフトの回数を前よりも数多くこなせるようになるわけだからな。

他方で、マジック・オンラインでプロツアー以前により多くのゲームがプレイされるようになったことで、スタンダードのメタゲームはかなり固まりやすくなったし、プロツアーで画期的なデッキが出現するような余地も大分少なくなったと言える。

それがゆえに、PV (Paulo Vitor Damo da Rosa) の言葉を借りるなら”メタられることを承知の上で”、トップメタのデッキをさらに何とかしてチューンアップすることが、おそらく (そして悲しいことに) 大抵の場合は最良の行動となるだろう。

たとえば今回のプロツアーでは、調整中に全く考えもしていなかったデッキで実際にプレイされていたのを目にしたのは、「青白フラッシュ」と「《新たな視点》コンボ」だけで、それらの2日目進出率はそれぞれ40%と43%にとどまった。

全体の2日目進出率が (379人中239人が2日目に進出したので) 63%であるということを念頭に置くなら、マジック・オンラインが示す莫大な量のデータを何とかして出し抜こうとした連中は手ひどく失敗したと言って差し支えないだろう。

霊気池の驚異無情な死者奔流の機械巨人

ここでは俺たちのプレイテストについてはあまり詳細は語らないが、俺たちにとって環境のほとんどのことは明らかだった。俺たちが考えるメタゲームはTier 1にマルドゥ機体と霊気池、Tier 2にゾンビと青赤コントロール、そしてTier 3に黒緑エネルギーというもので、「昂揚」型の黒緑はもはや頭から消し去ってしまっていた。最悪のマッチアップである霊気池とそこかしこでぶつかるだろうことは明らかだったからな。

その上で俺たちのチームは2つの派閥に分かれることとなった。片方は、最高のデッキであり青赤コントロールしか苦手なマッチアップがないということで霊気池を選んだ派閥であり、もう片方は、マルドゥ機体というお客様がいる上に青赤コントロールも食い物にできるので、霊気池とゾンビには多少不利だとしても、黒緑エネルギーこそが優れた選択であると信じた者たちだった。

逆毛ハイドラ不屈の神ロナス

俺は以下に載せた「黒緑エネルギー」のリストでデッキ登録をした。《逆毛ハイドラ》《不屈の神ロナス》とのまさしく「不屈」と言うべきコンボは、マルドゥ機体のサイド後のプレインズウォーカープランをも踏み越えられるので、このマッチアップの相性を非常に良いものとした。それは黒緑エネルギーというデッキをよりスタンダードに適応させ、よりアグレッシブに進化させたデッキだった。

メインの《逆毛ハイドラ》《不屈の神ロナス》とともにマルドゥ機体に立ち向かうという革新にとどまらず、メインサイド合わせて3枚の飛行の「機体」は、ゾンビと霊気池相手にも実際には非常に効果的であることも、俺たちはよく知っていた。


Pierre Dagen「黒緑エネルギー」
プロツアー『アモンケット』

6 《森》
4 《沼》
4 《霊気拠点》
4 《花盛りの湿地》
3 《風切る泥沼》

-土地 (21)-

2 《歩行バリスタ》
4 《緑地帯の暴れ者》
4 《光袖会の収集者》
4 《牙長獣の仔》
4 《巻きつき蛇》
2 《ピーマの改革派、リシュカー》
1 《不屈の神ロナス》
3 《逆毛ハイドラ》
2 《新緑の機械巨人》

-クリーチャー (26)-
4 《霊気との調和》
3 《致命的な一押し》
3 《闇の掌握》
1 《造反者の解放》
2 《霊気圏の収集艇》

-呪文 (13)-
3 《不屈の追跡者》
2 《豪華の王、ゴンティ》
2 《没収》
2 《ヤヘンニの巧技》
2 《最後の望み、リリアナ》
1 《不屈の神ロナス》
1 《造反者の解放》
1 《不帰+回帰》
1 《領事の旗艦、スカイソブリン》

-サイドボード (15)-
hareruya

失敗その1: ドラフト卓のレベルの読み違い

ただ、この上さらに毎ラウンドごとの結果を連ねるだけの大会レポートで退屈させるつもりはない。その代わり、俺がこんな残念な結果に辿り着いてしまった原因となる間違いについてでこの記事を構成しようと思う。

ファーストドラフトは、平均的な白黒ゾンビデッキをドラフトして勝つことができた。平均的とはどういうことかというと、カードパワーがかなり低く (《研ぎ澄まされたコペシュ》を3枚と《侵入者への呪い》まで入っていた)、しかもフィニッシャーを欠いていた (マナカーブの頂点は3マナだった) からだ。とはいえ逆に考えれば、良いマナカーブで (3マナで終わるって言ったよな?) 山ほどの「不朽」クリーチャーもいて、安定はしていたとも言える。

じゃあどうやって勝ったのかって?そりゃあぶっちゃけ、卓のプレイヤーがめっちゃ弱かったからだ。俺が名前を覚えてたのはティエリー・ランボアくらいだし、ほとんど全員が”見え見えの戦略”であるアグロなデッキをドラフトしようとしてどん詰まってた。というのも、『アモンケット』ドラフトでアグロであるべきというのは明白だからだ。

ただ問題は、卓の全員がアグロデッキを組もうとするものだから、誰も2マナ域のクリーチャーをプレイし損ねたりしないってことにある。そこにきて俺のデッキは、中途半端なアグロデッキを咎めるにはうってつけだった。俺はただ序盤はクリーチャーを交換し、それらを「不朽」してから《研ぎ澄まされたコペシュ》で強化して殴れば良かった。しかも俺のデッキはとても安定してその動きをすることが可能だったんだ。まして、ちょっと厳しいなという盤面でも相手がミスるなどして、こちらのチャンスを増やしてくれたりもした。

さて2日目も、俺は全く同じようにドラフトをした。強力なフィニッシャーこそいないものの、完璧なマナカーブで安定した青白のデッキで、「不朽」を持つ軽量クリーチャーも大量に搭載し、より一層アグロデッキを咎めることができる構成だ。このプランに徹底的に沿うべく、3パック目で《周到の神ケフネト》を流して《ター一門の散兵》をピックしさえした。

ター一門の散兵周到の神ケフネト

ここでの問題は、今回のドラフトポッドはこれまで俺がドラフトした中で最も厳しいものだったってことだ。どいつもアグロなデッキなんて組ませてもらえるはずもなく、しかもそのことは承知の上で他の逃げ道を探せるほど上手いプレイヤーたちばかりだった。

結局俺が対戦したのは、まずクリス・ファネルの青緑”ランプ”で、俺の可愛い「不朽」クリーチャーたちは相手とついぞ交換などさせてもらえず、《象形の守り手》が俺を粉々に打ち砕いていった。続くエリック・フローリッヒは3ゲーム目、低マナ域なんてどこ吹く風の2体の《大いなるサンドワーム》を出してきて、俺の2マナ域クリーチャーたちはブロックすらさせてもらえなかった。八十岡 翔太のアグロデッキとだけは当たって0-3を回避できたのは、僥倖だったと言うほかない。

そんなわけで、要点その1。「卓に合わせた戦略を選択すること」。はっきり言っておくが、《ター一門の散兵》を引いた全部のゲームで、もしそれが《周到の神ケフネト》だったなら、かなりの確率で3-0できていただろう。だから、分散のせいになんかしたりするつもりは毛頭ない。

失敗その2: プロツアー初日向けのデッキを選択してしまったこと

全体から見ると、俺のスタンダードのデッキはこのプロツアーにおいて良い選択とは言えなかった。そういうことはよくあるけれども、今回俺は自分の怠慢が原因だと感じている。正しいデッキ選択をするための情報は全て出揃っていた。トップメタは霊気池とマルドゥ機体だとわかっていたし、ゾンビと霊気池がマルドゥ機体に対して好成績をあげるであろうことも、正しく理解していた。

ただそうは思っていても俺はこの、マルドゥ機体を最高のマッチアップとするデッキを選択した。ゾンビと霊気池がプロツアー初日で良い成績をあげるであろうと知っていたにもかかわらずだ。

初日はその恩恵を十分に受けられた。2人のマルドゥ機体を倒し (トーナメント全体でもこのマッチアップは3勝1敗だった) 、《炎呼び、チャンドラ》抜きでそんなに悪くない相性の霊気池も倒して (「GENESIS」が持ち込んだチャンドラ霊気池はマジで相性最悪だ。けど、他のバージョンは若干有利だと思う、特にスペルが多めの形ならなおさらだ) 、5戦全勝できた。

だが案の定、マルドゥ機体は2日目には勢力を弱め、代わりにたくさんのゾンビが猛威を振るっていた。言い換えればこの2日目のメタゲームの変遷のせいで、俺は「初日のメタゲームならうまくやれるけれども2日目には散々な目にあってしまう」という類のデッキを選んでしまったことになったわけだ。

キランの真意号絶え間ない飢餓、ウラモグ戦慄の放浪者

ゾンビもどうしても勝てないマッチアップというわけではなく、俺がゾンビに負けた3戦はいずれも非常にタイトで、俺がゲーム展開を読み違えなければ、あるいはもう少しツイてさえいれば (2日目の構築ラウンドはちょっとツイてなかったとは思う)、たやすく自分のペースに持ち込めたはずだった ……けれど黒緑エネルギーというデッキに関して言えば、明らかに積極的にゾンビとは当たりたくないデッキと言える。

てことで、要点その2。「プロツアーでデッキを決めるときは、2つのメタゲームを考慮しろ」。1つ目は初日のメタゲームで、これは大抵マジック・オンラインのメタゲームとよく似ている。だが2つ目は、それぞれのデッキが互いに積み重なった結果どうなると予想されるかに基づいて計算する必要がある。2日目に進出することはとても重要だが、2日目にうまく勝ちあがることも念頭に置いてしかるべきなのだ。

そして、このことはグランプリに参加するプレイヤーにも適用できる。たとえば、もしたった今スタンダードのグランプリに参加するとしたなら、たとえマルドゥ機体に弱いとしても、青赤コントロールをプレイすることを真剣に検討するだろう。なぜなら、2日目にはこのデッキにとってとても好ましいメタゲームが展開されていることだろうからな。

今日はここまでだ。俺の間違いから学びを得てくれるとありがたい。もちろん俺もまだまだ学ばなくちゃならないんだが……何せご存知の通り、俺もしょっちゅうやらかすもんだからな。

また次回。

Pierre Dagen

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