なかしゅー世界一周 プロツアー『アモンケット』編

中村 修平

これまでのあらすじ

 あまり体調もよろしくない中、総合的に見てあまり楽しくなかったグランプリも終わり、気がつけばプロツアーまであと5日ばかりなのですが……

プロツアー『アモンケット』

混迷のスタンダード調整

 ともあれ問題はスタンダードの方です。

 グランプリ初日落ち勢&途中でドロップ勢が会議室で調整を続けていたようなので、週を空けたミーティングで新たな発見があればよいな……とは思いましたが、世の中そんなに簡単に上手く行くわけはありませんね。

 個人的には今回のプロツアーは「ローテーションが再変更されてしまう」というR&Dが明確に予定していなかった事態を迎えているので、調整段階で予期してなかったあろう組み合わせ、具体的には『アモンケット』と『戦乱のゼンディカー』ブロックが上手く調和したデッキが作れたらおそらく強いだろうな……なんてことを考えてはいたのですが。

 青ベースへと改造が加えられていた浅原サイクリングスペシャルが無残に打ち捨てられ、誰もその話をしていないところから見ても、推して知るべしです。

新たな視点葬送の影

 それでは次善策、プロツアーではどのようなデッキが出てくるか、つまりメタゲーム分布から最適の位置を考えようか、といういつもの流れに。

 議論の結果、ビートダウン筆頭のマルドゥ機体、コンボ筆頭の《霊気池の驚異》、そして形は定かではないものの《奔流の機械巨人》を使ったコントロールの3つを頂点として、4番手勢力としてはビートダウンからコントロールまで幅広い形が存在する黒緑、そして初出バージョンの完成度の低さからチーム内調整では選が漏れたものの、マジック・オンライン上では常に存在しつづけているゾンビ

 これらがだいたいのイメージでマルドゥ20、霊気池20、《奔流の機械巨人》コントロール15、黒緑が総計で10+、そしてゾンビが5%といったところでしょうか。この予想分布で手持ち札の中から勝率が高いものを探せば良いのですが……

残忍な剥ぎ取り排斥賞罰の天使

 丸1日、オリヴァー・ティウとアブザン昂揚のオンライン調整をしていたオンドレイが寂しげな笑顔でにっこり。

 「あかんねこれ」(意訳・マナ基盤の悪化に見合うほどデッキは良くなっていない)

 と言ってます。

 そして黒緑自体に良い印象があるかと言われると、どのバージョンにしても全く良くないのです。端的に言ってしまうと、器用貧乏の中速デッキ。マルドゥ機体のような最速の立ち回りはできず、かと言って《奔流の機械巨人》デッキのように打ち消しがあるわけではないので、《霊気池の驚異》一発で沈んでしまう。

 もちろん中速デッキというのは多かれ少なかれ両極端なまわりには対抗できないものですが、根本的な対処方法がない《絶え間ない飢餓、ウラモグ》ガチャが環境のトップに鎮座しているのは使うタイミングとしては最悪でしょう。せめて、ビートダウン型。それにしてもビートダウンを使うならマルドゥ機体で事足りている。

 そんな閉塞した状況で1日が終わろうとしたとき颯爽と現れたのは、先週からヘインとシグリストが黙々と廻していた一風変わった、これも黒緑のデッキでした。

黒緑アリストクラッツ

 コンセプトとしてはプロツアー『イニストラードを覆う影』のときにチーム・チャネルファイアーボールが持ち込み、ルイス・スコット・バルガスがトップ8に入賞したものと同じです。

 クリーチャーを並べて《謎の石の儀式》で更に展開力を加速させ、並べた生物を《ズーラポートの殺し屋》の燃料にして対戦相手のライフを吸い尽くす。

だいたいこんな感じのデッキです

 当時は使えて今はローテーション落ちしてしまった《ナントゥーコの鞘虫》の代役には《不死の援護者、ヤヘンニ》《栄光の神バントゥ》。そして《集合した中隊》役には《生類の侍臣》が収まった結果、実に60枚中35枚がクリーチャーというなんとも肉肉しい布陣。

 ちなみに《不死の援護者、ヤヘンニ》《栄光の神バントゥ》のラインは、ジョエルが調整していた白黒ミッドレンジにインスパイアされたものとなっています。


Joel Larsson「白黒ミッドレンジ」

8 《沼》
7 《平地》
4 《秘密の中庭》
4 《乱脈な気孔》
2 《放棄された聖域》

-土地 (25)-

2 《歩行バリスタ》
4 《戦慄の放浪者》
4 《聖なる猫》
4 《屑鉄場のたかり屋》
2 《永代巡礼者、アイリ》
3 《不死の援護者、ヤヘンニ》
3 《栄光の神バントゥ》
3 《大天使アヴァシン》
-クリーチャー (25)-
4 《致命的な一押し》
2 《闇の掌握》
4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》

-呪文 (10)-
hareruya

 写真の黒緑アリストクラッツに話を戻すと、とりあえずの仮想敵であるマルドゥ機体相手には、そもそも除去を打ち込むに値しないか本当に地味にアドバンテージを稼ぎ出すくらいのウザったさで構成された生物群に、攻撃クリーチャーとしては疑問符が付きますがこと守りに関しては信頼度抜群な当代のサクり台たちで地上をシャットダウン。

 あとは徐々に盤面が充実していくか、基本的にマルドゥ機体側が対処できない《不敬の皇子、オーメンダール》を叩きつけてゲームを決めます。地上戦について一度優位が確立すると《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を全く苦にしないというのは大きな強みですね。

キランの真意号刻み角

 まだ試作段階で2ターン目《キランの真意号》に4~5回小突かれて負けるというはっきりとした負けパターンがあるものの、余っているスロットに《刻み角》を積むことはほぼ決定しているため、このパターンは緩和されるはず。冒頭でも少し触れた「R&Dが予測していない組み合わせ」でもありますし、これは良いんじゃないかな……

 ……という期待をもってリッチモンド最終日へと向かったのですが。

 こりゃ駄目だ

 昔から苦手なのですよね、こういう弱いカードの集合体みたいなデッキは。

 《壌土のドライアド》《膨れ鞘》《刻み角》単体では何もしない3連星をただ出して、ただ淡々とゲームに負けるという展開とか辛抱たまりません。

 何かしら明確な到達目標があればまだ楽なのですが、ただ延命だけを考えて全てのリソースを投げうつのと、特定のカードがヒットしたときには逆にそれ以外のリソース全てを投げ捨てて対戦相手のライフを狙いに行く。その切替が難しく、例えば第5ターンの《薄暮見の徴募兵》を起動するかどうか、起動するとしてどういうマナの使い方をするかにかかっていたりするのです。

 こういうのが大好きなマット・ナスが喜々として回しているのを見ると、今から付け焼き刃で練習を開始しても彼のレベルにすら到達するのも難しいでしょうし、そのレベルに行ったとして、デッキとして上位3種類に満足に戦えるかは怪しい。

霊気池の驚異絶え間ない飢餓、ウラモグ

 しかも薄々予想がついたことですが、《霊気池の驚異》から出てくる《絶え間ない飢餓、ウラモグ》に対してはあまりにも無力《龍王オジュタイ》すら超えられなかった黒緑ーズが、キーカードを2つふっ飛ばされた上にタップ状態になってチームブロックしても壊れない10/10に対してどないせいと。そりゃライフ的には大丈夫ですけど、ほら、ウラさん。ライブラリーをダイレクトアタックしてくるので。

 ついでながらここまででお気づきでしょうけど《召喚の罠》のころから、《霊気池の驚異》のようにホームランを狙いに行くようなデッキ、大嫌いなんですよね。

 《奔流の機械巨人》デッキはコントロール好きなイヴァンが延々と回してますがあまり満足できていないようですし、となるとマルドゥ機体なのか……?

 一応、ほら、『戦乱のゼンディカー』ブロックのカードがデッキのキーにもなってますし。……《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》のことですけど。

 オンライン勢のジェイコブ、ティウ、そしてペトルあたりは早々とマルドゥ機体使う宣言をしており、細部を詰めている段階。私も二匹目のドジョウならぬ、二回目のマルドゥを使おうかな……

「マルドゥ使うよ」 by ペトル

やっぱりマルドゥ機体……?

 と、思った時期がありました。正確にはリッチモンドからナッシュビルへの移動日まで。私だけが午前のフライト、宿泊先も別のホテルだったので延々とマジック・オンラインで試し切りをしていたのですが。

 まるで勝てない。

 理由はとてもはっきりしています。ゾンビに勝てない。本当に勝てない。全く勝てない。どうやっても勝てないのです。

戦慄の放浪者戦墓の巨人リリアナの支配

 序盤は除去の数で不利を強いられ、ゾンビ側には撃ち漏らすと駄目なタイプのクリーチャーが多く、しかも《リリアナの支配》を貼られると盤面とクリーチャーの強化を同時にされてしまってだいたい手数が足りなくなる。

 かといってコントロールモードにしても数の暴力の前に戦線が支えきれず、やっぱり《リリアナの支配》で決壊してしまう。

 ビートダウンモードからプレインズウォーカーコントロールモード、中間構成にしてもやっぱり負け続けること7、8回目にしてようやくの初勝利でしたが、これもどちらかというと対戦相手のミスによるもの。マジックによくある、自分が対戦相手だったら3回は既に負けているというやつです。

マグマのしぶき造反者の解放

 ただでさえ赤の基本除去が《マグマのしぶき》になったことで《屑鉄場のたかり屋》への信頼度も下がってますし、『アモンケット』で入った各種アーティファクト除去もこのデッキにとって逆風。

 しかも予想されていたことですが《霊気池の驚異》に対しても、思った以上に勝てはしますが勝率は良くて五分弱。

 5回に2回くらいは対戦する《霊気池の驚異》に1勝1敗。1回くらい当たるゾンビに1敗で、合わせて2敗はどうしてもしてしまう。

 昼過ぎにホテルに到着して以降リーグを6回やって平均アベレージが3勝2敗というのは、こうやって各要因を並べていくととても順当なものではありましたが、これでプロツアーへ向かうという気分にはとてもなれるものではありません。

 さらに私を心配にさせたのは、チーム内のマルドゥ使用者がゾンビとのこの惨状についてあまり問題にしていないということ。《光輝の炎》3枚も取ってるから余裕でしょ、との返信が来ますが、3枚取っていても7連敗しているのです。そして私の感触ではプロツアーでは、ゾンビを使ってくるプレイヤーが多そう……

ということで

 プロツアー前日の木曜日、昼になってマルドゥ機体はギブアップ。この時点で一番勝率が高く、デッキとしては間違いなく強い《霊気池の驚異》に乗り換えました。

霊気池の驚異

 チームを離れていた1日の間に黒緑アリストクラッツが劇的な進化を遂げてたり、何か他のスペシャルデッキ、あるいはここにきて前回のような前日からの怒涛のゾンビ調整が入ったりしないか期待していたのですが、そんなこともなくみんな思い思いのデッキを使うことにしたようです。

 何を使えば良いんだって頭を抱えているパウロに、イヴァンが「諦めて使いたいデッキを使って次のプロツアーのことを考えよう」って慰めていたのが印象に残ってます。

 となると現状でチーム内に満足のいく《奔流の機械巨人》コントロールが組めなかった以上、好みではないとか言ってる場合ではなく、もう完全な消去法的選択でした。

 何はともあれ、デッキは決まりました。

 そしてこういう類のデッキは、最終的に自分とのフィーリングが合うかどうかというのがとても重要です。デッキ、シャッフルに偏りがどうしても発生してしまうことを認識した上で、その偏りをいかに自分にとって最適化させていくか。端的に言うと、一人回しでちゃんと回るかどうか。最適だと思われる枚数よりも心地よいと感じる枚数の方が正しいのです。

 こちらでは《霊気池の驚異》をルーレットに置き換えて、霊気池を起動するときは「スピン・ウラモグ」なんて言ってましたが、テストプレイ時に1発で《絶え間ない飢餓、ウラモグ》をヒットさせ続けて軽くマルドゥ機体に8勝2敗を叩き出したあのときのノリノリ具合に少しでも近づけられるよう、この最後の3時間で持っていかなければならないのです。

 結果、

 平均《絶え間ない飢餓、ウラモグ》ヒットまで、

 5回……

 だめだこりゃ、これマルドゥ機体相手に0勝5敗を記録したときと全く同じ。さよなら私のプロツアー。

 結果の方も言わずもがな、予想通りでしたね。

ドラフト1-2、構築2-3の初日でポン

おまけ

 と、ここで筆を折ろうとしたのですが、なにやらメモ帳にウラモグガチャ・憤死戦記と書かれたものがあったのでちょっと抜粋してみます。一応、ネタになるかと思って記録に付けていたのですね。あまりに辛い記憶なので、書いた当人も付けたこと自体を忘れていましたが……

・その1

 4ターン目に《霊気池の驚異》を設置したのに起動できたのは9ターン目。そして次のターンに手札から《絶え間ない飢餓、ウラモグ》を素出し。

 よく生きていたなと思いましたが、確かこのとき対戦相手が先手ダブルマリガンで本当に辛勝だったはず。

・その2

 隙あらば手札に忍び寄ってくる《絶え間ない飢餓、ウラモグ》

 ガチャを《没収》で没収されてロングゲームを覚悟した瞬間に2枚目を引いたのはまあ許しましょう。

絶え間ない飢餓、ウラモグ絶え間ない飢餓、ウラモグ絶え間ない飢餓、ウラモグ

 だけど戦場に土地9枚のときに引いた3枚目、お前は駄目だ。

 次のターン土地を引いたのですが、タップインだったため死にました。

・その3

 2本目に2枚に削ったら土地が14枚並んでも引かなくて死に、3本目には初手にあって2ターン目のドローが《絶え間ない飢餓、ウラモグ》

 1本目、めずらしくブン回った (+相手が事故った) と思ったらこれ。

 書いてて色々しょっぱくなってきました。

 ついでにデザートのチョコレートサンデー、上にトッピングされているのがチョコレートでコーティングされたベーコンで口の中まで甘しょっぱいです。もちろん悪い意味で。

 と、まるで良いところのなかったプロツアーですが、今回はもう少しだけ旅が続きます。というよりむしろここからが実は本番。 ちょっと南のとある島まで行ってきます。

 それではまたすぐに次回へ、地球の裏側で。

中村 修平

この記事内で掲載されたカード

Twitterでつぶやく

Facebookでシェアする

関連記事

このシリーズの過去記事