この男、どこまで強いのか。
プラチナレベル・プロ、高橋 優太は、先週末の環境名人戦で準優勝したばかりだというのに、この第9期ヴィンテージ神挑戦者決定戦でもトップ8まで勝ち残ることに成功した。
ヴィンテージやPauperにすら精通している生粋のマジックフリークぶりが高橋の強みでもある。
だが、そんな高橋が準々決勝の開始前に呻く。
高橋「ヴィンテージの先手はでかいな……」
嘉藤「そうですね……先手いただきます」
7位通過の高橋は、2位通過の嘉藤に対して先手を取ることはできない。ということは高橋がマッチを勝利するためには、たとえ3ゲーム目までもつれこんだとしても、必ずどこかで1回、後手のゲームを勝つ必要があるということだ。
しかしMoxenが使えるヴィンテージにおいて、先手のアドバンテージによるマウントを覆すのは容易なことではない。
まして高橋が《先駆のゴーレム》まで入ったMagic Onlineの最新型MUDなのに対し嘉藤のデッキは「墓荒らし」、すなわちメインから《三角エイの捕食者》まで入ったデッキなのだ。
はたして高橋はこの試練を乗り越えることができるのか。はたまた、嘉藤が先手の利を生かして順当に勝利するのだろうか。
Game 1
《Underground Sea》と《Mox Emerald》を置いてターンを返した嘉藤に対して、ドローをした高橋が悩む。
高橋「この1ターン目の行動、悩ましいな……」
嘉藤「悩みますよね」
MUDの1ターン目は、セットする土地、唱えるスペル、展開の順番などプレイの選択肢が複数あり、しかも相手の手札によって正解が変わる。《意志の力》は、《不毛の大地》は、《突然の衰微》はあるのか。相手の返し手を想像した上で、「返せない盤面」を作り上げる必要があるのだ。
長考の末、意を決した高橋は《Mishra's Workshop》をセットして《鋳造所の検査官》を唱える。
『カラデシュ』でMUDに加わった新戦力の中でも、一見最も「らしくない」カードだろう。戦闘能力は、ただの3/2のバニラ。《意志の力》を持っていた嘉藤は、しかし《鋳造所の検査官》よりもこの後に出てくる重いアクションにこれを当てようと考えたのだろう、着地を許可する。
だが高橋は続けて《太陽の指輪》、《アメジストのとげ》、さらに《電結の荒廃者》と、《鋳造所の検査官》の恩恵を最大限受けて一気にパーマネントを展開。嘉藤の判断が裏目に出てしまう。
嘉藤 裕樹
それでも嘉藤は2ターン目に《三角エイの捕食者》を送り出すのだが、返す高橋は後手2ターン目に《歩行バリスタ》を「X=3」でプレイ。《アメジストのとげ》で《意志の力》が打てない嘉藤を尻目に、《三角エイの捕食者》を除去することに成功する。さらに《不毛の大地》で《Underground Sea》を割り、行動を縛りにいく。
嘉藤も《不毛の大地》で《Mishra's Workshop》を割るが、高橋はセット《ミシュラの工廠》から《ファイレクシアの破棄者》をプレイ。マナベースが《Tropical Island》《Mox Emerald》の加藤は《意志の力》せざるをえないが、さらに高橋は残ったマナから《ファイレクシアの変形者》!
2枚目の《電結の荒廃者》になり、1体目の《電結の荒廃者》で即生け贄にして《鋳造所の検査官》とともにアタックすると、嘉藤の残りライフは8点。
そして続くターンに高橋が《ミシュラの工廠》も含めた3体アタックを敢行すると、《アメジストのとげ》のせいで《不毛の大地》と《突然の衰微》のどちらかしか打てない嘉藤は、ライフを削りきられてしまった。
高橋 1-0 嘉藤
嘉藤「1ターン目だった (《鋳造所の検査官》を《意志の力》でカウンターした方が良かった) なー……」
高橋「カウンターされてたら全然スピードダウンしてましたね」
見事後手の1ゲーム目をもぎ取った高橋。《Mishra's Workshop》による超加速と《鋳造所の検査官》によるコスト軽減には、先手後手を逆転できる力がある。
高橋「しかしなぁ……スイスラウンドで《魔力流出》が入ってるのを見てるんだよなぁ……あのカードは本当にやばい」
だがその強さゆえにメタられるのもまたMUDの宿命。サイドボードからは大量のアーティファクト破壊が投入されることだろう。後手の不利をひっくり返したとはいえ、高橋は依然として気を抜くことはできない。
Game 2
マリガンから《古えの墳墓》を置くだけで1ターン目を終えた高橋に対し、先手の嘉藤はエンド前の《Ancestral Recall》でさらに手札差をつけると、2ターン目には《死儀礼のシャーマン》2枚を送り出す。
返す高橋のアクションは、《Mishra's Workshop》から《領事の旗艦、スカイソブリン》!
……は、さすがに嘉藤の《意志の力》で退場。ただ追放のコストとして《魔力流出》を切らせることには成功する。
高橋「おぉー、良いの切ってくれたw」
嘉藤「ちょっと (他に) なくって……w」
しかし土地が多めの手札をキープして動きのない高橋に対し、嘉藤は《三角エイの捕食者》、《精神を刻む者、ジェイス》と立て続けに脅威を送り出す。
さらに嘉藤が《タルモゴイフ》をプレイしたところで、 圧倒的な盤面を前に覆せないと判断した高橋は、投了して3ゲーム目に進むことを選択した。
高橋 1-1 嘉藤
Game 3
再び高橋がマリガン、だが引いた6枚があまりに良すぎたか、占術を忘れて《Black Lotus》をプレイすると、さらに《古えの墳墓》から《アメジストのとげ》を着地させる。対して嘉藤は《Underground Sea》から1マナ払って《Mox Emerald》でターンエンド。
続く高橋は《ミシュラの工廠》から《虚空の杯》「X=1」で嘉藤の行動を制限しにかかる。一方、対する嘉藤も《不毛の大地》で《古えの墳墓》を割り、土地の少ない高橋を攻める。
高橋 優太
数ターンのドローゴーののちに《Mishra's Workshop》を引き込んだ高橋は、さらに《抵抗の宝球》を設置。しかしこの《Mishra's Workshop》も即《不毛の大地》される。どうにか2枚目の《ミシュラの工廠》を引き込み、クリーチャー化して殴り出す。
だが嘉藤が5枚目の土地、《汚染された三角州》をセットすると、高橋から「あー、引かれたなー」と声が漏れる。嘉藤が土地以外の最初のパーマネントとして送り出したのは、《抵抗の宝球》で1マナ重くなった《闇の腹心》。さらに2マナが立っており、ここまで動きがなかった以上、《アメジストのとげ》と《抵抗の宝球》の上から《意志の力》を構えていることは明白だ。
このままではじりじりと追い詰められてしまう高橋は、それでも愚直に《ミシュラの工廠》で2点アタック。これを受けて嘉藤のライフは12、だがターンが返り《闇の腹心》の最初の誘発でめくれたのは、なんと《意志の力》!
嘉藤「これはやばい……」
思えば嘉藤はAsia Vintage Championshipでもあわや「ボブ死」というところまでいっていた。《意志の力》と《闇の腹心》を同居させた「墓荒らし」だからこそのリスクだが、ここにきてそれが顕在化してしまう。
ひとまず嘉藤が《闇の腹心》を立たせてターンを終えると、高橋も今度は《ミシュラの工廠》でアタックせずターンエンド。「相手に《闇の腹心》をコントロールさせ続ける」ことが勝利条件のため、わざわざブロックで《闇の腹心》の自殺の手助けをしたりはしない。
こうなると、嘉藤は選択を迫られる。ライフは7点、手札には唯一状況を打開できる可能性がある《突然の衰微》。高橋の場には《ミシュラの工廠》が2枚と《Black Lotus》《虚空の杯》《アメジストのとげ》《抵抗の宝球》。嘉藤の場は5枚の土地と《闇の腹心》。高橋のターンのエンド前、何を割るか。
嘉藤の選択は、《Black Lotus》。高橋の複数アクションの可能性を摘み取りにいく。
しかし、《闇の腹心》がめくったのはさらなる《闇の腹心》。嘉藤のライフは5点、こうなると高橋も動かない。次の誘発は《死儀礼のシャーマン》、だが《虚空の杯》で封じられている。残りライフは、4点。
高橋は《Mox Jet》を設置するのみで、次にめくれたのは《Tropical Island》。だがライフが減らないにしても状況を改善することもできない。そして続くターン、めくれたのは《タルモゴイフ》。これで残り2点。
こうなると既に《意志の力》のプレイすらも危うい。3枚目の《ミシュラの工廠》をセットした高橋は《ファイレクシアの変形者》をプレイ、これはなんとか《意志の力》した嘉藤だが、ついに残りライフは1点。
高橋「(自分のターンは) 終わりです!」
緊張のアップキープ。めくれたカードは……
《ヴェールのリリアナ》。嘉藤、ボブ死。
高橋 2-1 嘉藤
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