Translated by Yoshihiko Ikawa
(掲載日 2017/07/12)
マジックプレイヤーの1人として、俺たちはみんなマジックが大好きで仕方ないし、できる限り良いものにしたいと思っている。他のゲームと違って、実際にそれができるってことは何度か証明されてきた。たとえば2年前にWizardsが試して、最終的に導入された「バンクーバーマリガン」(実際にテストが行われたプロツアーの場所にちなんで名付けられたんだ)がそうだ。
これは大成功だった。バンクーバーマリガンのおかげで、ゲームが前より楽しくなったという共通見解が大多数だしな。これが成功した理由は、誰だってゲームが始まる前に分散と不運によって傷つけられることを望んでいないし、マリガンの改善はストレスを減らすし、そして間違いなくゲームを楽しくしてくれたからだ。
だが、この方向で考えていくと、きっと他の精査すべき問題に気づくだろう。そう、(先攻/後攻を決める)ダイスロールだ。
どうしてダイスロールが重要なのか?
「ダイスロールに勝つと、そのゲームの勝率が少し上がるから」。掲題の質問に対する、簡潔な答えはこれだ。言い換えると、もし4回連続でダイスロールに負けると、マッチを始める前から重大な不利益を背負ってることになる。
そしてこれは珍しいことじゃない。トーナメントに16人のプレイヤーがいれば1人は存在しうるし、それが1,600人のグランプリなら100人ぐらいはその状況に陥ってるってわけだ。その不運な人たちの中にはまだマッチに勝ち続けている人もいるだろうし、そうでない人は様々な理由で負けている。何人かはその理由に気づいてなかったり気にしてないかもしれないが、数人はその理由の根源がダイスロールであることに気付いてストレスを溜め、そして初日落ちしていくんだ。これは良くないよな。
別の例で考えてみよう。Magic Onlineのモダンリーグで、先攻プレイヤーの勝率が54%だとする。すべてのプレイヤーが合理的で、ダイスロールに勝ったときに先攻を選んでいるとすると、基本的にはダイスロールに勝利することで勝率が4%上昇していることになる。
その上昇値は時期やフォーマットによって変わる (俺が思うに、『戦乱のゼンディカー』ドラフトのような環境だとこの数値は下がるだろうし、「督励」がパワフルな『アモンケット』ドラフトだとこの数値は上がるんじゃないかな)。古いフォーマットに目を向けると、後攻の方が有利なこともあるだろうし (マジックを始めたばっかりだったから俺はあまり詳しくないが、『アラーラの断片』ドラフトなんかはそうだったんじゃないかな)、そうだとしても事象が変わるわけじゃない。要するに、どちらかのプレイヤーが不利益を被っているんだ。
まぁまぁ、俺だって分かっているさ。長期的なスパンでみれば、統計的にはダイスロールの勝率は50%に収束するし、すべてはバランスがとれているんだよな。
だが現実はこうだ。1週間みっちりと調整して、800kmも先の場所まで旅して、そして「ダイスロールが4勝0敗だったらなぁ」ってグチりながらR4のあとにドロップしたとしても、なんの補償はない。俺はそんなことにはならないだろうが、とても多くの人がダイスロールについてグチっているのを聞いたから、修正する価値があると俺は信じている。
ダイスロールを重要でないものにするには
多くのプレイヤーが、先攻の優位性に着目している。最近のフォーマットに対する大抵の不満は、最近のフォーマットが”先攻依存”になってきていることだ (知っての通り、《霊気池の驚異》が”当たる”かどうかに依存していたときを除いてな)。
昨年を思い返してみると、後手で巻き返すのが非常に厳しく、「対戦相手がダイスに勝ったから」という理由だけでゲームに負けるのが非常にシャクな、3枚のカードが特に考えられる。《密輸人の回転翼機》、(《サヒーリ・ライ》とコンボをする)《守護フェリダー》そして《反射魔道士》がそれだ。またある程度は、プレインズウォーカーというカードがこの問題を悪化させているといえるだろう。先攻4ターン目の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が、後攻4ターン目のそれと比較して倒すのがどれだけ難しかったか思い出してほしい。
この問題を解決するためにたくさんのアイディアが検討されているが、俺からは一つだけ提示させてもらおう。それは「ハースストーン」の”コイン”のように、後攻のプレイヤーの初期手札に《水蓮の花びら》と同様の効果を持つトークンを与えるというものだ(様々なシナジーを防ぐために、”アーティファクトでない”トークンを”戦場に出す”方が良いかもしれないが)。
だけど正直に言わせてもらおう、こういった方向性のアイディアはすべてダメだと、俺は思う。
その理由は、基本的には「後攻のプレイヤーに50%の勝利を与えるためにルールを曲げると、今度は先攻で勝ったか後攻で勝ったかを誰も気にしなくなるから」というものだ。”ブリッジ”のようなルールが永遠に変わらない古典的なゲームであれば、きっとうまくいくだろう。だがマジックは違うんだ。
まだ納得いかないって?分かった、もっと分かりやすく言おうか。
それでは、仮に”コイン”によって後手の勝率が4%上がったとしよう (そうなるとは俺は思わないが、まぁとりあえず付き合ってくれ)。よーし、よくやった。君はついにモダンの先攻/後攻差を是正することに成功した!今じゃもう誰もダイスロールの勝敗は気にしなくなったな。
ところで、元々先攻の勝率が51%だったフォーマットはどうなった?
そう、君はそのフォーマットの先攻/後攻問題を単に悪化させただけなんだ。そのフォーマットでは、みんなが後手を取りたがるようになったせいで、ダイスロールの勝敗はより致命的になっちまった。
フォーマットごとに別のルールを定めたいだろうか?それはさすがにないだろう。仮にすべてがうまくいったとしても、新エキスパンションが発売されたらどうなる?メタゲームが変わったら?
俺の意見はこうだ。ルール変更を経由してダイスロールの問題を解決するためには、後攻が被っている適正な(もしくはそれに限りなく近い)分の不利益から救えるルール変更が必要だ。だがその不利益は、フォーマットによって、時代によって、同一であることはない。だから、ダイスロールに勝ったプレイヤーに違う選択肢を与えているだけで、結局は何も解決しないんだ。
先週、ニコ・ボニーが別の面白いアイディアを持ってきた。それは”補償”というメカニックで、後攻の際には強くなるものだった (もし必要なら、後攻じゃなくて先攻のときに効果的にすることだって可能さ。もちろんね)。マジックのルール自体を変えるわけではないから俺は気に入ったが、だがこのアイディアは実際には大したことはないだろう(リミテッドでは素晴らしく、多分スタンダードでも少しは良くて、そしてそれより下のフォーマットでは影響ないも同然だろう)。 なぜなら、実際に《宝石の洞窟》というカードが既に存在するからだ。
このアイディアは現状を少しは改善するかもしれないだろうが、それでも少しでしかない。先攻のときにばっかり引いたり、後攻のときに全く引かなかったりといった、とにかく違う形のフラストレーションを生むだけだろう。 この方向は割といけそうな気がしたが、結局は大した解決策にはならないだろうな。
違う方向性を考えよう
さて、一度振り出しに戻って考えてみよう。すでに述べたように、俺がダイスロールで問題だと感じているのは、長期的に見て実際にプレイヤーが傷ついたりするからではなく (言い換えればそれ自体は”公平”ってことだ……イカサマに使われたりしなけりゃな。おっと、ここではその話は置いておこう) 、「短期間で起こること」と「確率の下振れ」によるフラストレーションを生んできたからだ。
なら、下振れが起こるのを回避しない理由はないよな?俺はWER(ペアリングを組んでいるシステムだ)が、先攻/後攻を決める責任を負わない理由がないと思う。無作為に身を任せることがなくなるおかげで、1大会を通しての先攻/後攻が限りなくフェアになるようにできるだろう。
ああ、わかってるさ、俺たちはワガママだから、過去の履歴まですべて振り返ってトータルの勝率が限りなく50%になるようなシステムを求めるようになるだろう。だが、それは今回の趣旨とはちょっと異なる。単にラウンド毎の先攻/後攻を交互にさせるようとするだけなら、ペアリングシステムに任せればそう難しいことじゃないんだ。
第一の方法は、R1で先攻を取れるやつをランダムに選び、そしてR2以降はこれまでで相手より少ない回数しか先攻を取っていないプレイヤーが先攻を得るんだ。だがこの方法だと、ペアリングを組む際の偏りが少ないように思われるので、次に紹介する方法の方が優れていると思う。
32人のトーナメントを例を挙げて考えてみよう。 まずペアリングシステムが同じ数の先攻/後攻を割り振って対戦させる (もちろん、同じポイント同士でな!)。引き分けが発生しないとすると、こうなる。
上の簡単な図を見てほしい。ラウンドが進むごとに複雑になっていくが、基本的な考えはずっと同じだ。このシステムを用いれば、R2終了時点でダイスロールの勝率が50%でない(=1勝1敗ではない)プレイヤーはたったの2人しかいない!従来のダイスロールだと16人だ。
これはかなり簡略化したものであることは間違いないが、だがそれでも俺が示したいことは分かってもらえただろう……ダイスロールがさして重要なものではなくなるよう、ペアリングを組むやり方がたくさんある。ダイスロールがゲームの勝敗に影響を及ぼさなくなるから、ではない。そんなことを時が経ってもずっと達成し続けるのは不可能だ。そうではなく、極めて短期的に見たとしても、その大会において先攻と後攻の回数が完全に一致するか、もしくは少なくとも君自身のトーナメントでの成功の可能性を全く阻害しえないくらいの差しか出ない、というくらいのものになるだろうと考えられるからだ。
現代の技術ならば、これを実装するのは容易いだろう。先攻/後攻のバランスを考えながらペアリングを組むアルゴリズムをプログラムすることは、そんなに時間のかかるもんじゃないし、ペアリングを確認しているプレイヤーに伝えることも簡単にできる。
これが実装されて起こりそうな事案としてはどっちが先攻かチェックすることを忘れてしまうことだが、そうしたらもう一度ペアリングを見に行けばいいだけだ。このシステムは最初の数イベント、特に2000人を越えて人混みになりそうなグランプリでは、イベントの遅延を招いてしまう可能性がある。だが現在では多くのプレイヤーがオンラインペアリングで自分の座席を確認しているし、その傾向は今後も続くだろう。このシステムであれば、「424番テーブル」を「424番テーブルのA」「424番テーブルのB」という風に分けてしまって(会場の一方がAでもう一方がBなど)、常にAのプレイヤーがダイスロールに勝ったことにすることだってできる。
潜在的にはまだいくつか解決しなければならない問題があるだろうが、どれもそんなに大した時間を要さないだろうと俺は思う。
最後に紹介するこのシステムのメリットは、イカサマを防止できることだ。正直に言うと、今ではイカサマはそんな頻繁に起こるようなもんではないと思っているが、俺が知らないだけかもしれないよな?数百回のマッチで1回でもイカサマをされたら、それは忘れられない最悪な体験になってしまうだろう。俺は、一部のプレイヤーがダイスの結果を「ある種」コントロールしているというのを聞いたことがある。そう、大抵はダイスを転がらせずにピタっと着地させるやつだ。
これがもし実行可能ならこれまでで最も簡単なイカサマだといえるだろうな。そうそう、俺も最近体験したさ、対戦相手はダイスを全く転がすことなく「6・6」を出した。俺はその対戦相手がイカサマやその類をしたとは思っていないが、そのことを考えたという単純な事実は、残りのゲーム中ずっと俺に不快な疑念を抱かせた。また、これがこれの一番問題な部分でもあるかもしれないが、「ダイスを振ったらよく転がらずに着地してしまった」なんてことは誰にだって偶然起こることだから (俺にもたまに起こるし、そのダイスの目が少ないとほっとするよな) 、こんなことに不快感を感じるべきではないんだ。
今回の記事の内容を要約するとこうだ。
ダイスロールってのはそれ自体はアンフェアなものじゃないし、いつだってマジックはダイスロールに少しの優位性を与えていることは間違いない (だから先攻を取ったり、後攻を選んだりするんだよな)。
その点に修正すべき緊急性があるわけではないが、それがフラストレーションを生んだり、修正するのが簡単だったりするのは事実だ。じゃあ、俺たちはどうすべきだい?
じゃあ、また次回な。
Pierre Dagen
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