By Yohei Tomizawa
「無敗神」として君臨し、4期目の防衛に挑む森田 侑。
2016 Asia Vintage Championshipでトップ8入賞と大舞台での経験もあるヴィンテージ界の先駆者は、神の座について以来、圧倒的な洞察力と的確なプレイで挑戦者を退けてきた。
これまでの挑戦者を振り返ってみると、
神の座を争ったヴィンテージ神決定戦で対峙したのはBIG MAGIC所属シルバーレベルプロ松本 友樹。
初の防衛戦は同じのコミュニティーに所属し、プレイヤー兼ジャッジと様々な顔を持つ藤井 秀和。
2期目の防衛戦は現日本チャンプ、Hreruya Pros所属ゴールドレベルプロ原根 健太。
3期目はレガシーを主戦場とし、「神殺し」の決意で挑んだ佐野 大基。
という顔ぶれであった。
プロプレイヤー、手の内を知り合った友、レガシー界の強者、いずれも一筋縄ではいかない挑戦者たちに対し、森田は時にはデッキ選択で、時には経験の差から生まれるアドバンテージをプレイに活かし、勝利してきた。
ヴィンテージを知り尽くしている、いや、体の一部となっている、それが森田 侑。
対する挑戦者は深淵からやってきた。
挑戦者インタビューで語るとおり、倉田 由彦はヴィンテージからマジックを始め、休むことなく今日まで続けている。
デッキについても現状に甘んじず、「やりたいことをやる」という信念の元改良を重ね、第9期ヴィンテージ神挑戦者決定戦における「《逆説的な結果》入りテゼレッター」として結果を残している。
これまで神に挑み、返り討ちにあってきた挑戦者達は誰一人としてヴィンテージからマジックをスタートしてはいなかった。
マジックの原点にして深淵、ヴィンテージ。
今回の挑戦者、倉田 由彦は最も深き闇ヴィンテージからマジックを開始したヴィンテージの申し子といえる。
挑戦者は深淵からやってきた。
その最も奥底に眠るデッキと共に。
Game 1
ダイスロールで先手は森田、7枚の手札をキープ。
対する倉田はマリガン。2度繰り返し5枚への手札から「ここで使いたくなかった」と言いながら1枚のカードを公開する。
倉田のデッキは《Bazaar of Baghdad》というたった1枚のカードによって成り立っており、そのカードを引く確率をあげるために《血清の粉末》まで採用されている。故に引き込めるまでマリガンは終わらない。
倉田は《Bazaar of Baghdad》を求めてマリガンを繰り返す。《Bazaar of Baghdad》が手札に来た時点で手札は2枚。通常のデッキならば何かしらの奇跡を願わなければならないが、倉田のデッキは深淵の奥底に眠る「発掘」。マリガンの差分など発掘カードで瞬時に補うことができる……はずだった。
試合開始の合図とともに森田は《平地》、《Mox Sapphire》を横に倒し2マナクリーチャーを召喚する。
マナコストを支払わずにクリーチャーを場に出すことを許さないこのカード。「リアニメイト」や「オース」に対するアンチテーゼであるが、倉田のデッキも例外ではない。
発掘過程で《ナルコメーバ》、《恐血鬼》といったクリーチャーをマナコストを支払わずに場に出すことで攻め手を確保し、《陰謀団式療法》や《戦慄の復活》のコストに宛てがい、《黄泉からの橋》の誘発型能力へとつなげる、その初動を封じられてしまう。
倉田の予想に反し、森田のデッキ選択は「白単エルドラージ」。さらに天敵といえる《封じ込める僧侶》がメインボード採用されていることが判明し、苦しげな表情を浮かべつつも《Bazaar of Baghdad》を起動する。
しかしカードを引けども戦場に出た《封じ込める僧侶》に対する回答は倉田のメインデッキにはない。
森田の手から《変位エルドラージ》が追加され、ダメージクロックが5点となると、
倉田「次行きましょう」
と倉田は投了を宣言した。
森田 1-0 倉田
倉田「『白単エルドラージ』かぁ」
予想に反したデッキ選択、そして天敵といえるカードの採用に倉田は独り言つ。
倉田は度重なるマリガンによる不運と森田の《封じ込める僧侶》をキープしているという幸運の板ばさみによりGame 1を落としてしまう。
しかし森田は試合後にこう語ってくれた。《封じ込める僧侶》をキープしたは、ただの偶然ではないということを。
「白単エルドラージ」にとってはいずれも対処方法が制限され、相性的にも厳しいカードたち。それらへの勝てる可能性をあげるためにも、《封じ込める僧侶》は元々キープすることに決めていた、という。
さらに森田の洞察は終わらない。
森田は一瞬を見逃さなかった。すなわち倉田が2マリガンを宣言しているにもかかわらず、あまり苦にしているように見えない表情を。故に思考し、一つの可能性へと到達する。マリガンを苦にしないデッキへの可能性。
「発掘」というアーキタイプへ。
そして《血清の粉末》を公開することで、可能性は確信となる。
7枚でキープを宣言している森田が、相手のデッキが判明した時点で手札を変更することはできない。
しかし先手での選択肢、具体的には《無のロッド》か《封じ込める僧侶》かの二択を決める根拠となりえた。
神は洞察し、思考し続ける。
例えわずかな情報であっても仮説を立て、「発掘」という結論へと導いていく。
Game 2
倉田は《血清の粉末》の効果で7枚のカードを引き直すが、《Bazaar of Baghdad》はない。
お互いのキーカードである《Bazaar of Baghdad》と《封じ込める僧侶》を探し求めマリガンを行い、6枚でキープを宣言する。
倉田は上々といえる手札からセオリーどおり《Bazaar of Baghdad》をセットランドし能力を起動、手札破壊呪文である《暴露》を探しつつ、《ゴルガリの墓トロール》、《命運縫い》×2を墓地へ送り込み、発掘の下準備を終える。
森田の手札は《封じ込める僧侶》、《スレイベンの守護者、サリア》、《変位エルドラージ》、《Mox Emerald》、《平地》、《エルドラージの寺院》と1ターン目《封じ込める僧侶》が確約されている。
手札破壊をキャストされなかったため、森田は当然《Mox Emerald》の力を借りつつ1ターン目にキラーカードである《封じ込める僧侶》を召喚。
倉田は通常ドローからメインフェイズに《Bazaar of Baghdad》を起動し《ゴルガリの墓トロール》を発掘、1ターン遅く届けられた《暴露》をキャストし、森田の手から《変位エルドラージ》を捨てさせる。
森田は《スレイベンの守護者、サリア》を追加すると《封じ込める僧侶》を攻撃に送り出す。
毎ターン増える森田のクリーチャーを前に、倉田はダメージレースをするべく《恐血鬼》を召喚するが、すでにクロックは6点。
さらに追い討ちをかけるように《ファイレクシアの破棄者》で《命運縫い》を指定されてしまう。
倉田は《Bazaar of Baghdad》を起動するも状況を打開するには至らない。
倉田「(メイン戦が勝てなかったため)このデッキ選んだ意味がなくなったなぁ。(《封じ込める僧侶》が)厳しい、厳しすぎる。」
森田 2-0 倉田
倉田の表情は冴えない。
普段と違う会場、慣れないデッキ、対戦相手の選択、それらが相まって神決定戦の場における緊張感となり、倉田へ襲い掛かる。
Game2、配られた手札には二つの選択肢が示されていた。
一つ目は、実際にプレイしたとおり《Bazaar of Baghdad》からデッキを循環しつつ《暴露》を探しにいくもの。
二つ目は、《マナの合流点》から《陰謀団式療法》で《封じ込める僧侶》を捨てさせるもの。
普段の倉田であれば容易に辿りつくであろう選択肢に、神決定戦のプレッシャーから気がつくことができなかった。
そしてその一瞬の隙を逃さず、森田は《封じ込める僧侶》を着地させた。
倉田が《暴露》を引いたのは、次のターンであった。
たった1ターンの差、されどその1ターンが致命傷となり勝敗を分けた。
メイン戦2本を含む3本先取という神決定戦方式の特性上、爆発力を売りにする「発掘」というデッキの構成上、是が非でもGame 1は取りたかったはずだ。
だからといって諦めた訳ではない。
「やりたいことをやる」
信念を貫く槍は、サイドボードに忍ばせてある。
《封じ込める僧侶》を対処する《突然の衰微》があり、軸をずらす《グルマグのアンコウ》と《虚ろな者》もいる。
サイドボードを入れ替えると、倉田はもくもくとデッキをシャッフルし始める。
森田のサイドボード
■ IN ■ OUT- 2 《ファイレクシアの破棄者》
- 2 《スレイベンの守護者、サリア》
- 2 《無のロッド》
- 1 《虚空の杯》
- 1 《アメジストのとげ》
- 1 《三なる宝球》
Game 3
倉田はマリガンし、6枚の手札から《血清の粉末》。
再度マリガンを宣言すると5枚の手札から《血清の粉末》を公開し5枚引き直す。
3枚目の《血清の粉末》の公開を経て、5枚の手札をキープする。
《Bazaar of Baghdad》ではなく《マナの合流点》をセットするとペイ1ライフから必殺の《陰謀団式療法》をキャストし、《封じ込める僧侶》を指定する。
森田は丁寧に手札を公開していく。
《封じ込める僧侶》、《Black Lotus》、《異端聖戦士、サリア》、《梅澤の十手》、《平地》、《平地》、《カラカス》。
三度初手に握られる《封じ込める僧侶》、それを見事に叩き落とすことに成功する。
出鼻をくじかれてしまった森田は《Black Lotus》から《異端聖戦士、サリア》をキャスト。《封じ込める僧侶》に比べると頼りなく感じるクリーチャーであるが、倉田のデッキが《Bazaar of Baghdad》から動きだすことを考えると擬似《Time Walk》と言えるだろう。
2ターン目、倉田は《Bazaar of Baghdad》をセットランドするが、《異端聖戦士、サリア》の効果でタップイン状態で戦場に出ることになってしまう。
この隙にダメージを稼ぎたい森田は《Mox Pearl》から《変位エルドラージ》を追加し6点クロックを形成、倉田のライフは16へ。
倉田はアップキープにこのゲーム初めてとなる《Bazaar of Baghdad》の起動で《戦慄の復活》、《命運縫い》、《臭い草のインプ》を捨て、ドローフェイズで置換を行う。
《ナルコメーバ》を公開しつつ《嵐の憤怒、コラガン》が墓地に落ち、1ターン遅れながらも墓地が潤ってくる。
墓地に控える2枚の《陰謀団式療法》は、公開情報である森田の《梅澤の十手》を捕らえるのだろうか。
しかし《黄泉からの橋》が墓地になくトークンが生まれないという状況に、倉田は《陰謀団式療法》のキャストを躊躇し、2枚目の《Bazaar of Baghdad》をタップインするとターンを返してしまう。
森田は《梅澤の十手》をキャストし、《異端聖戦士、サリア》に装備すると2体のクリーチャーでアタック。倉田のライフを10点とし、《梅澤の十手》の能力により《ナルコメーバ》を除去する。
倉田は2枚の《Bazaar of Baghdad》を代わる代わる起動し、発掘。《臭い草のインプ》が《ゴルガリの墓トロール》を呼び込み連鎖が始まる。
発掘過程で公開された《ナルコメーバ》を《陰謀団式療法》のコストに充てることで墓地に2枚ある《黄泉からの橋》の効果で2体のトークンがタップ状態で生み出される。
森田の手札は土地のみ。再度6点のダメージを与え倉田の残ライフを4とし、《梅澤の十手》上のカウンターを3個のままターンエンドを宣言。
盤面だけでは次のターンに勝敗が決してしまう。倉田はライブラリーの枚数を数えると《Bazaar of Baghdad》を起動し《臭い草のインプ》を2枚発掘、通常ドローは《虚ろな者》。
《戦慄の復活》や《黄泉からの橋》を含め墓地には十分なカードがあり、手札からもクリーチャーを召喚することができる。
ブロッカーを配置することなど他愛もないことである。
たった1枚のカードさえなければ。
擬似《Time Walk》により遅れた《Bazaar of Baghdad》の起動はすなわちデッキの循環に、盤面形成へと響いていく。
スタンダードを主戦場とする彼女が、ヴィンテージで存在感を示した瞬間である。
倉田は、右手を差し出した。
森田 3-0 倉田
対戦前、森田はにこやかに「1ターン目の土地セットが怖いんだよなぁ」と呟いていた。
その発言は「自身のデッキと相手のデッキとの相性差を考えての不安」からだろうか。
いや、むしろ「中身がわからないびっくり箱を前に佇むドキドキわくわくしている子供のような好奇心」のように見えた。
神になるには勝つしかない。しかし挑戦者に勝利し神になるだけでは十分ではない。神を決めるこの戦い自体を楽しむこと、つまりはお互いの思考同士が、デッキ同士がぶつかり合い、楽しんだ結果が神であるということだ。
互いの意志と意志がぶつかり合うからこそ、想いが伝播し、だから敗れた倉田も再び神決定戦の地へ戻ってくることを誓う。
倉田「必ずこの場所に戻ってきますよ」
その言葉に対し森田も短く答える。
森田「待っています」
倉田の今回の挑戦は終わってしまったが、倉田自身がマジックを続ける限り、常に神へ挑戦する権利はある。深淵からやってきた挑戦者は深淵へと戻る。次こそ神を打つために。
森田が神たる由縁、それは純粋に勝利だけを追い求めているからではない。マジックを、ヴィンテージを、目の前の相手との対戦自体を楽しむ、その心の余裕が鋭い洞察力と的確なプレイへと結びつき勝利の二文字がもたらされ、結果として神であり続けている。
神、それはヴィンテージ界における森田自身を表す言葉。
神、それは森田が神決定戦の地で勝ちとった結果。
神、それは今日一番、ヴィンテージを楽しんだものに与えられる称号。
第9期ヴィンテージ神決定戦、勝者は森田 侑!
おめでとう!!
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