副陽はまたのぼりくりかえす

伊藤 敦

 『イクサラン』環境のスタンダードが面白い。

 ティムールエネルギーとラムナプレッドという、前環境から引き続いてのトップメタが居座っているとはいえ、ビートダウン、ミッドレンジ、コントロールがしかもどれも複数種類、バランス良くメタゲームに分布し、それぞれの勢力を保っている。

 前環境では禁止だなんだと色々残念な出来事があったが、ローテーションを経た「このスタンダード」に瑕疵はない。面白い環境を遊ばないのはもったいないということで、普段はもっぱらモダンばかり遊んでいる私も、『イクサラン』環境のスタンダードに触ってみることにした。

 とはいえ、そこで素直にトップメタを握れる性格ならこんなに簡単な話もないのだが、ありふれたデッキであるティムールエネルギーやラムナプレッドは正直言って使いたくない。

 では、はたして何のデッキを使うべきか?

 ここで私は、ひとまずMagic Onlineでそのとき勝っているデッキリストを見直してみることにした。もしそれで琴線に触れるデッキが何もないようなら、改めて自分で何か考えればいいだけの話だ。

 晴れる屋のデッキ検索で「スタンダード」を指定した私は、早速上からリストをチェックしていき……

 そのデッキ・・・・・に、出会ったのだった。

1. 副陽


JJTibbs「4色ランプ副陽」
Competitive Standard Constructed League(5-0)

2 《平地》
1 《森》
1 《島》
1 《沼》
4 《灌漑農地》
4 《植物の聖域》
3 《陽花弁の木立ち》
4 《イプヌの細流》
2 《不屈の砂漠》
1 《ハシェプのオアシス》
1 《シェフェトの砂丘》
1 《屍肉あさりの地》

-土地 (25)-


-クリーチャー (0)-
1 《明日からの引き寄せ》
4 《至高の意志》
1 《残骸の漂着》
4 《燻蒸》
4 《約束の刻》
4 《副陽の接近》
4 《開拓+精神》
3 《アズカンタの探索》
3 《楽園の贈り物》
4 《排斥》
3 《魔学コンパス》

-呪文 (35)-
4 《否認》
3 《砂漠の拘留》
2 《スカラベの神》
2 《領事の権限》
2 《イクサランの束縛》
1 《残骸の漂着》
1 《腹背+面従》

-サイドボード (15)-
hareruya

副陽の接近約束の刻魔学コンパス

 そのデッキは、私の心を射抜くのに十分すぎる斬新さを持っていた。

 《副陽の接近》デッキでありながら「砂漠」と《約束の刻》のシナジー要素を盛り込んだ、あまりに異端の構成。

 そして何より3枚も搭載された《魔学コンパス》まさかスタンダードで《イス卿の迷路》が使えるとは。

 デッキを見た瞬間に興奮を抑えきれず、Magic Online上で1枚7チケの《アズカンタの探索》1枚42チケの《スカラベの神》を血反吐を吐きながら購入して即座にデッキを組み上げ、フレンドリーリーグに突入するほどであった。

 はたして結果は4-1。その使い心地は、言わばレガシー環境における「土地単」のよう。

開拓+精神アズカンタの探索

 このデッキが面白いのは、《アズカンタの探索》《魔学コンパス》という6枚の2マナ域が5~6ターン目以降の《不屈の自然》としてカウントされている 部分にある。

 3ターン目《開拓+精神》から4ターン目《約束の刻》という動きは5ターン目にして《オラーズカの尖塔》の起動を可能にするし、そのまま《副陽の接近》を連打しても良い。「3→5→7」と連続でマナ域をジャンプする感覚は、かつて世界選手権で優勝した「イヤナガケッシグ」を彷彿とさせる。

 また《アズカンタの探索》は後半に探す基本地形のなくなった《開拓+精神》をダイレクトに墓地に送り込みつつ、《水没遺跡、アズカンタ》に変身すれば《副陽の接近》や1枚差しの《明日からの引き寄せ》を探すことができる。

 豊富な基本地形サーチと《楽園の贈り物》から出てくるタッチの《スカラベの神》も予想外の角度のフィニッシャーとなる。

 《副陽の接近》というコンセプト自体がトップメタであるティムールエネルギーに対してメインは圧倒的に強いこともあり、確かなポテンシャルを感じた私は、ひとまずこの「4色ランプ副陽」を使い込んでみることに決めたのだった。

2. 暗雲

 だが、転換点は意外に早く訪れた。勢い勇んで参加した競技リーグで、1-3ドロップののちに0-2ドロップしてしまったのだ。

 この段階で、私はデッキの構成にとある疑問を持つようになっていた。具体的には、このデッキは白青純正バージョンの問題を解決できていないのではないかという疑問である。

 そもそもトップメタであるティムールエネルギーに対してメインボードでは圧倒的な勝率を誇るはずの白青純正の《副陽の接近》コントロールが、メタゲームで支配的な地位を獲得できていないのはなぜか?

 それはラムナプレッドに弱いことと、ティムールエネルギー相手の場合を含め、ほとんどのマッチアップでサイド後は《否認》《強迫》などで苦しい戦いを強いられてしまうからだ。

 そして奇抜な構成に目を奪われはしたものの、結局「4色ランプ副陽」の方も、「耐えて《副陽の接近》を2回打つ」という勝利手段であることに変わりはないのである。である以上、「ラムナプレッドに弱い」「それ以外のマッチでも結局サイド後は勝てない」という2つの欠点は、あろうことか何一つ解決していないのだった。

 けれども、それも無理のない話かもしれない。

 《副陽の接近》というカードが7マナのソーサリーである以上、土地を7枚並べる必要があることはもちろん、それまでは実質マリガンのような状態で戦うことを余儀なくされてしまう。当然《強迫》を打ち込まれればなおさら苦しいし、万が一《失われた遺産》が通ろうものなら、勝つことそのものが著しく難しくなる。また7マナというのは、コントロール同型戦でもない限り、プレイしつつ同時にカウンターを構えることをおよそ許さない重さなのだ。

 それはつまり、《副陽の接近》というコンセプトを維持する限り・・・・・・・・・・・・、これらの欠点を克服することはおよそ不可能ということを意味していた。

 《副陽の接近》がトップメタになれないのはなぜか。理解してしまえば何てことない話だ。

 そして、こうして十分な勝率を担保できないことがわかってしまった以上、私にとって「4色ランプ副陽」デッキを使う理由はもはやなかった。

3. 光明

 しかし、他方で。ここで私は同時に、光明を見出してもいた。

 「4色ランプ副陽」を使っていても思ったことだが、《副陽の接近》というコンセプトはティムールエネルギーに限らずかなり幅広いマッチアップにおいて、メイン戦では高い勝率を誇るのである。

呪文貫き否認強迫失われた遺産

 ただしサイド後は、相手が青いデッキだったならば《呪文貫き》《否認》を構えられ、黒いデッキだったならば《光袖会の収集者》を出された後で《強迫》《失われた遺産》を連打されることになる。そしてこれは、相手が赤いアグロデッキだった場合以外のすべてで起こる現象なのだ。そもそもアグロ以外で「メインもサイドも《副陽の接近》への対抗手段がない」なんていうデッキがメタゲームに存在するはずもない。

 だが、だとすれば。

 もし《副陽の接近》デッキが、「サイド後の《呪文貫き》《否認》《強迫》《失われた遺産》を回避するプラン」を持っていたとしたならば、そのデッキは最強ではないだろうか?

 荒唐無稽な発想かもしれない。そもそも《副陽の接近》の優位は、「メインがノンクリーチャーであるがゆえに相手の除去呪文が腐る」「フィニッシャーが《副陽の接近》という盤面の状況に関与しないカードであるため、他のスペルは全力で盤面のコントロールに集中できる」という点に支えられている。

 つまりデッキのコンセプト上、《副陽の接近》デッキの呪文は極度にボードコントロールに寄っているという前提があるのである。

 そんなデッキが多少サイドボーディングをしたところで ・・・・・・・・・・・・・・・・・・《呪文貫き》《否認》《強迫》《失われた遺産》を回避できるようになるわけがない。

 ならばどうするか?決まっている。

 15枚全部を使ってサイドボーディングをすればいいのだ。

 そう、変形サイドボーディングこそが答えだった。

 《呪文貫き》《否認》《強迫》はすべて「クリーチャーでない呪文」を対象にしている。また《失われた遺産》の指定は《副陽の接近》に決まっている。ならば相手がそれらの呪文をサイドインしたところで、こちらもサイドボードから15枚のクリーチャーを投入し、突如アグロデッキへと変貌したとしたら?

 相手は全く効果的ではない呪文をサイドインしたことになり、こちらのビートダウンに成す術なく蹂躙されることだろう。

 だがこの発想にはまだ、問題点が一つ残っていた。それはたった15枚のクリーチャーをサイドインするだけで本当にゲームに勝てるのか?というものだ。

 なんといってもメインボードが《副陽の接近》デッキなのである。土地26枚を除いた34枚のスペルのうち15枚を入れ替えたとしても、まだ残り19枚はボードコントロールを指向したカードが入っているのだ。

 実際、前掲の画像のリスト (クソライフゲインスペルたちは赤単が憎かったので適当に入れた) で対戦してみたところで、なかなかうまくいかないということを私は実感した。

 変形サイドボードをしてもクリーチャーがたった15枚と少ないため、初手で望むマナ域のカードを望むだけ引き込めず、ちぐはぐな展開になってしまいやすいのだ。

 また、《栄光半ばの修練者》《光袖会の収集者》のコンビが最良の2マナ域であることに疑いはないものの、所詮地上のバニラに過ぎないため、結局これらのクリーチャーだけでは相手のライフを削りきることができないというのも難点であった。

 つまり、必要なのは15枚のスロットしかないにもかかわらず16枚以上のクリーチャー。さらに地上のバニラを越えられる能力を持つ必要がある。

 やはり、無理なのか。

 諦めかけた私は、それでも求める条件・・・・・ をMagic Onlineの検索窓に入力し。

 そして、答えに行きついたのだった。

4. 爆誕

 それは、本当に偶然の産物だった。

 諦めかけた私は、最後にもう一つ思いついたアイデアを試してみようと、「瞬速」持ちのクリーチャーを検索した。

 なぜなら変形サイドボーディングを行ったとき、《副陽の接近》は真っ先にサイドアウトされるとして、《アズカンタの探索》もスペルが少なくなるので抜けるカード筆頭となる。相手によるが《残骸の漂着》も、受け身でないなら枚数は減らして良いだろう。

 そうなると必然的に《検閲》《至高の意志》が変形後のデッキにもある程度残ることになる。ならば「瞬速」持ちのクリーチャーはカウンター呪文との両面構えとなるので相性が良い。そう考えていたからだ。

 だが検索結果に出てきたそのカードを見て、私は瞬時に自らがソリューションに達したことを悟ったのだ。

敏捷な妨害術師

 《敏捷な妨害術師》

 このカードにたどり着いた以上、もはや迷うことは何もなかった。


伊藤 敦「エスパー副陽」

3 《平地》
4 《灌漑農地》
3 《異臭の池》
4 《水没した地下墓地》
4 《氷河の城砦》
4 《秘密の中庭》
1 《放棄された聖域》
3 《霊気拠点》

-土地 (26)-

4 《敏捷な妨害術師》
4 《秘法の管理者》

-クリーチャー (8)-
3 《致命的な一押し》
4 《検閲》
4 《至高の意志》
4 《残骸の漂着》
4 《副陽の接近》
3 《アズカンタの探索》
4 《排斥》

-呪文 (26)-
4 《栄光半ばの修練者》
4 《光袖会の収集者》
2 《アムムトの永遠衆》
2 《人質取り》
2 《スカラベの神》
1 《霊気烈風の古きもの》

-サイドボード (15)-
hareruya

 私を悩ませていた条件たち。「メインボードはボードコントロールに終始するデッキ」「サイドボード後は16枚以上のクリーチャーが必要」「バニラではダメ」……これらを一挙に解決する答えが、そこにはあった。

 そう、それは「サイクリング」だ。

 《敏捷な妨害術師》、そして《秘法の管理者》。これら「普通に出しても強い、飛行と『サイクリング』持ちのクリーチャー」をメインから採用することで、メインのコントロールプランを一切阻害することなくサイド後の変形サイドボードを強化できるスロットの魔法が可能になるのである。

 これこそネクストレベル《副陽の接近》。そう確信した私は、早速Magic Onlineの競技リーグに乗り込んだ。

 その結果は、驚くべきことに2回のリーグで10-0。

ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 1マルドゥ機体 ×〇〇
Round 2ティムールエネルギー 〇〇
Round 3青黒コントロール 〇〇
Round 4ジェスカイコントロール 〇×〇
Round 5エスパートークン 〇〇
Round 1アブザントークン 〇〇
Round 2青黒コントロール 〇〇
Round 3ラムナプレッド 〇〇
Round 4ティムールエネルギー 〇〇
Round 5赤黒機体 〇×〇

 しかも赤系アグロ、エネルギー、トークン、コントロールとメタデッキを満遍なく踏みつつ、メイン戦での勝率を落とさないままにサイド後もきっちり勝ち切ったのである。

 サイド後はすべてのマッチアップで変形サイドボードを敢行したが、効果は絶大だった。《強迫》《否認》を打ってくる相手を尻目に、《敏捷な妨害術師》が、《秘法の管理者》が空から次々と対戦相手を屠っていったのだった。

残骸の漂着

 また、このデッキは3色でタップインが多い関係上、全体除去のスロットにおいて通常《燻蒸》と散らすべき部分を裏目がないようにすべて《残骸の漂着》にしているのだが、このカードは自分が殴りながらでも打てるため、アグロサイドに噛み合っていたというのも嬉しい誤算だった。

変形サイドボードの一例


Out

副陽の接近 副陽の接近 副陽の接近 副陽の接近
アズカンタの探索 アズカンタの探索 アズカンタの探索
排斥 排斥 残骸の漂着 残骸の漂着
至高の意志 至高の意志
検閲


In

栄光半ばの修練者 栄光半ばの修練者 栄光半ばの修練者 栄光半ばの修練者
光袖会の収集者 光袖会の収集者 光袖会の収集者 光袖会の収集者
アムムトの永遠衆 アムムトの永遠衆
人質取り 人質取り
スカラベの神 スカラベの神

《残骸の漂着》《排斥》を残す枚数は対戦相手のデッキによる

※ ちなみにあとで健志に指摘されたが、サイドの《霊気烈風の古きもの》はトークンデッキ相手の《妖精の女王、ウーナ》のイメージで入っているところ、より軽い上にどんなマッチアップでもサイドインできる《イフニルの魔神》の方が良いと思われる

5. 未来

 もちろん、この結果だけを受けて「このデッキが最強だ」などと言うつもりは毛頭ない。

 そもそも変形サイドボードは相手がこちらの構成を知らない前提の奇襲、奇策、奇術の類……いわば邪道だ。

 《残骸の漂着》しかないとわかれば相手はケアをしてくるだろうし、変形サイドボードを事前に知っていればサイド後に《致命的な一押し》を残したりもするようになるだろう。そうなれば、容易には勝てなくなるに違いない。

 だがら私が言いたいのはそういうことではなく、スタンダードにはまだまだ工夫の余地が無数にあるということだ。

 来週末にはプロツアー『イクサラン』が開催され、プロプレイヤーたちは久しぶりに環境初期ではなく、環境中期のスタンダードに挑戦することになる。

 そこでは赤単とティムールエネルギーの2強を筆頭に、トークン/機体/王神/青黒コントロール/副陽など、それぞれのデッキをどうブラッシュアップするかが焦点となるだろう。

 なぜなら知られているアーキタイプであっても、いや知られているからこそ、未知のサイドプランをとることもまた、大きな武器となるからだ。

 だが、こんなに面白い環境でプロツアーの結果を待っているだけなんて面白くない。

 コピーデッキに溢れた現代だからこそ、ほんのちょっとの想像と創造がもたらす効果は絶大だ。

 だから最後に、諸君。

 未来を、自分の手で切り拓いてみる気はないか?

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