By Atsushi Ito
スイスラウンド16回戦が終わり、いよいよスタンダードのトップ8デッキリストが出揃った。メタゲームブレークダウン雑感の時点では明かされなかった参加者たちの技術の粋、8つのデッキリストを順に見ていこう。
3 《森》 2 《山》 1 《島》 1 《沼》 1 《隠れた茂み》 4 《植物の聖域》 3 《尖塔断の運河》 3 《根縛りの岩山》 4 《霊気拠点》 -土地 (22)- 4 《牙長獣の仔》 4 《導路の召使い》 4 《ならず者の精製屋》 4 《つむじ風の巨匠》 2 《逆毛ハイドラ》 2 《栄光をもたらすもの》 2 《スカラベの神》 -クリーチャー (22)- |
4 《霊気との調和》 2 《マグマのしぶき》 4 《蓄霊稲妻》 1 《削剥》 3 《反逆の先導者、チャンドラ》 2 《秘宝探究者、ヴラスカ》 -呪文 (16)- |
3 《否認》 2 《チャンドラの敗北》 2 《人工物への興味》 2 《慮外な押収》 2 《自然に仕える者、ニッサ》 1 《多面相の侍臣》 1 《マグマのしぶき》 1 《呪文貫き》 1 《削剥》 -サイドボード (15)- |
スイスラウンド最上位に立ったのは、ティムール・エネルギーの亜種としての4色エネルギー。《逆毛ハイドラ》の枚数を減らして《反逆の先導者、チャンドラ》を増やした上に、タッチ黒で《スカラベの神》と《秘宝探究者、ヴラスカ》まで採っているのが特徴的だ。
カードの種類とマナ域を散らした構成を見るに、押し切る力よりも対応力を高めることをテーマに組まれているように思われる。エネルギーデッキの4ターン目以降の盤面構築の手順は対戦相手の動きに応じて無数に分岐する。そこにおいて「敗北するシチュエーションに至らないこと」は、エネルギー系デッキにとっては勝利に近づくことを意味している。
また、プロツアーにおけるメタゲームの当然の帰結としてトークン系デッキの増加は予想されていた。そこでトークン系の戦略に耐性を付けるべく、《逆毛ハイドラ》を減らして《反逆の先導者、チャンドラ》と《秘宝探究者、ヴラスカ》を増やした、「トークンに強いティムール・エネルギー」という文脈も感じられる。同マナ域帯での最高スペックのクリーチャー・除去・プレインズウォーカーたちをかき集めたグッドスタッフだからこそ、より弱点を潰した構築が重要となってきているのだろう。
《燻蒸》に対する《自然に仕える者、ニッサ》、エンチャント破壊を主な役割とする《人工物への興味》、《スカラベの神》や《逆毛ハイドラ》に対する《多面相の侍臣》など、サイドボードに関してはオーソドックスで言及すべき部分は少ないが、メインに《秘宝探究者、ヴラスカ》という相手の警戒を外したフィニッシャーが積まれているのでサイドに追加のフィニッシャー枠が少なく、総じて75枚中に赤単対策を比較的多めに採れているのもメインの構築の恩恵と言えるだろう。
3 《森》 2 《山》 1 《島》 1 《隠れた茂み》 4 《植物の聖域》 3 《尖塔断の運河》 4 《根縛りの岩山》 4 《霊気拠点》 -土地 (22)- 4 《牙長獣の仔》 4 《導路の召使い》 4 《ならず者の精製屋》 4 《つむじ風の巨匠》 3 《逆毛ハイドラ》 4 《栄光をもたらすもの》 -クリーチャー (23)- |
4 《霊気との調和》 1 《マグマのしぶき》 4 《蓄霊稲妻》 2 《削剥》 1 《慮外な押収》 1 《領事の旗艦、スカイソブリン》 2 《反逆の先導者、チャンドラ》 -呪文 (15)- |
3 《否認》 2 《チャンドラの敗北》 2 《造命師の動物記》 1 《多面相の侍臣》 1 《猛火の斉射》 1 《呪文貫き》 1 《削剥》 1 《人工物への興味》 1 《慮外な押収》 1 《川の叱責》 1 《自然に仕える者、ニッサ》 -サイドボード (15)- |
こちらはオーソドックスな「ティムール・エネルギー」。《削剥》が減ってきているのを見越し、メインから《領事の旗艦、スカイソブリン》が搭載されている。また《慮外な押収》は定番だが同型戦では除去以上に優秀なスペルとなるほか、対処手段が限られる《熱烈の神ハゾレト》への解答にもなる。
サイドボードでは《造命師の動物記》が目を引く。青黒系のコントロールを意識したものと思われるが、今回のメタゲームではあまり活躍の機会はなかったかもしれない。
7 《島》 6 《平地》 3 《灌漑農地》 4 《氷河の城砦》 2 《イプヌの細流》 -土地 (22)- 4 《査問長官》 4 《聖なる猫》 4 《機知の勇者》 4 《発明の天使》 -クリーチャー (16)- |
2 《選択》 4 《航路の作成》 4 《巧みな軍略》 4 《復元》 2 《アズカンタの探索》 2 《排斥》 4 《王神の贈り物》 -呪文 (22)- |
4 《博覧会場の警備員》 3 《賞罰の天使》 2 《ジェイスの敗北》 2 《否認》 1 《燻蒸》 1 《領事の権限》 1 《領事の旗艦、スカイソブリン》 1 《敵意ある砂漠》 -サイドボード (15)- |
一方、あまり馴染みがないであろうデッキもある。SCG Classicsで5位に入賞して以降細々と研究が続けられ、ついにはプロツアーの一週間前にMOPTQで3位という成績を残していた「白青王神」をチューンアップしたこちらのデッキは、これまでの《王神の贈り物》デッキと似て非なるコンセプトを有している。
最も異なるのは、《来世への門》を経由しない《王神の贈り物》デッキであるという点だ。《航路の作成》《巧みな軍略》《機知の勇者》という3種の「ドロー+墓地肥やし」によって、「《王神の贈り物》を墓地に送り込みつつ《復元》を手札に入れる」という結果を狙い、4ターン目の《復元》で《王神の贈り物》を着地させる。あとは《機知の勇者》などで連鎖して毎ターン出てくる4/4トークンが勝負を決めるという寸法だ。
《来世への門》型は墓地にクリーチャー6枚など越えなければならないハードルが高く、デッキ構築においても一定数のクリーチャーを入れる必要があるなどの制約があったが、この形ならばいずれも気にする必要はない。《聖なる猫》含めて8枚の絆魂クリーチャーが入っているので赤単耐性もあり、《貪る死肉あさり》や《屍肉あさりの地》が減ってきたこのタイミングでの墓地コンボという角度的にも、今大会のベストデッキだった可能性がある。
また、高速で墓地を肥やせることから、《アズカンタの探索》をマナブーストとして使用しての《発明の天使》や《王神の贈り物》の通常プレイも視野に入れられている点も強力だ。
サイドボードは《博覧会場の警備員》と《賞罰の天使》で、絞られたクロックと豊富なカウンターのみで殴りきろうとしてくるであろう対戦相手に対し、とにかく盤面をぐちゃぐちゃにしにいくことで対抗する。これだけ追放クリーチャーがいれば、《スカラベの神》に対して返し手がないということもないだろう。
4 《森》 2 《沼》 1 《島》 2 《異臭の池》 4 《花盛りの湿地》 4 《植物の聖域》 4 《霊気拠点》 -土地 (21)- 3 《歩行バリスタ》 4 《光袖会の収集者》 4 《牙長獣の仔》 4 《巻きつき蛇》 4 《ならず者の精製屋》 2 《ピーマの改革派、リシュカー》 3 《人質取り》 1 《スカラベの神》 -クリーチャー (25)- |
4 《霊気との調和》 4 《顕在的防御》 4 《致命的な一押し》 2 《ヴラスカの侮辱》 -呪文 (14)- |
3 《貪る死肉あさり》 3 《強迫》 2 《短命》 2 《否認》 2 《自然に仕える者、ニッサ》 1 《スカラベの神》 1 《本質の散乱》 1 《人工物への興味》 -サイドボード (15)- |
《巻きつき蛇》と《顕在的防御》を使用した、前環境の黒緑カウンターの発展形としての「スゥルタイ・エネルギー」は、発売週のSCG Openで優勝していた。
このデッキはメインボードはその形からマナベースも含めて2枚しか変わっていない (《歩行バリスタ》1枚と《人質取り》1枚が《ヴラスカの侮辱》になったのみ) が、サイドボードがより洗練されている。《短命》はエネルギーデッキにおいてはわずか2マナで《牙長獣の仔》/《つむじ風の巨匠》/《熱烈の神ハゾレト》/《栄光をもたらすもの》といった環境のキークリーチャーたちを除去することができ、《スカラベの神》に対しても一応1ターンは稼ぐことができる。
また最近の定番とはいえ《自然に仕える者、ニッサ》も、攻防の要所で相手の目論見をずらすことができる点が魅力のサイドボードだ。
6 《島》 4 《灌漑農地》 4 《氷河の城砦》 4 《尖塔断の運河》 4 《感動的な眺望所》 4 《霊気拠点》 -土地 (26)- 2 《奔流の機械巨人》 -クリーチャー (2)- |
4 《選択》 4 《検閲》 4 《蓄霊稲妻》 1 《本質の散乱》 1 《明日からの引き寄せ》 4 《不許可》 4 《天才の片鱗》 4 《残骸の漂着》 2 《副陽の接近》 2 《暗記+記憶》 2 《アズカンタの探索》 -呪文 (32)- |
3 《遵法長、バラル》 3 《焦熱の連続砲撃》 2 《奔流の機械巨人》 2 《ジェイスの敗北》 2 《否認》 1 《蝗の神》 1 《本質の散乱》 1 《明日からの引き寄せ》 -サイドボード (15)- |
元世界王者が持ち込んだのは、赤単とエネルギーの海の中で一際目立つ《副陽の接近》コントロール。このアーキタイプの課題といえば、私自身の記事でも書いたが、「赤単の克服」と「サイド後の克服」にあったところ、このデッキでは3色目に赤を足すことでメインに《蓄霊稲妻》、サイドに《焦熱の連続砲撃》という解答を用意することに成功している。
ボードコントロール力を高めることで安心してコントロール部分をドロー/カウンター/フィニッシャーとシャープに保てているその構成には脱帽というほかない。間違いなくこのデッキも、今大会のベストデッキの一つと言うべきだろう。
《暗記+記憶》は《熱烈の神ハゾレト》への数少ない解答。また、サイドボードの《遵法長、バラル》はアグロ対策とサイド後の能動性向上を兼ねる素晴らしいチョイスだ。
4 《森》 1 《島》 1 《山》 1 《沼》 1 《隠れた茂み》 4 《植物の聖域》 3 《尖塔断の運河》 1 《花盛りの湿地》 2 《根縛りの岩山》 4 《霊気拠点》 -土地 (22)- 4 《牙長獣の仔》 4 《導路の召使い》 4 《ならず者の精製屋》 4 《つむじ風の巨匠》 3 《逆毛ハイドラ》 2 《スカラベの神》 -クリーチャー (21)- |
4 《霊気との調和》 1 《顕在的防御》 4 《蓄霊稲妻》 3 《削剥》 1 《至高の意志》 2 《領事の旗艦、スカイソブリン》 2 《秘宝探究者、ヴラスカ》 -呪文 (17)- |
3 《否認》 2 《貪る死肉あさり》 2 《川の叱責》 2 《野望のカルトーシュ》 2 《自然に仕える者、ニッサ》 1 《チャンドラの敗北》 1 《ジェイスの敗北》 1 《人工物への興味》 1 《慮外な押収》 -サイドボード (15)- |
モダンのランタンコントロールの名手、”kanister”ことPiotr Glogowskiもエネルギーを選択した。ただSigristと異なり《反逆の先導者、チャンドラ》なしで《領事の旗艦、スカイソブリン》を2枚とっており、さらに《顕在的防御》と《至高の意志》を散らしている。《反逆の先導者、チャンドラ》を削ることで《山》と《根縛りの岩山》を1枚ずつ《森》と《花盛りの湿地》に変えることができているので、マナベースに着目したスペル選択とも言える。
《顕在的防御》はかなり「プロツアー的」な選択で、通常ティムール・エネルギーに入っていないカードを1枚でも入れることで最小限の投資で最大のバリューを得るという、Magic Online出身者らしい出し抜き方と言える。
14 《山》 4 《ラムナプの遺跡》 4 《陽焼けした砂漠》 2 《屍肉あさりの地》 -土地 (24)- 4 《ボーマットの急使》 4 《損魂魔道士》 4 《地揺すりのケンラ》 3 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》 2 《過酷な指導者》 3 《アン一門の壊し屋》 2 《暴れ回るフェロキドン》 4 《熱烈の神ハゾレト》 -クリーチャー (26)- |
4 《ショック》 4 《稲妻の一撃》 2 《削剥》 -呪文 (10)- |
3 《ピア・ナラー》 2 《暴れ回るフェロキドン》 2 《栄光をもたらすもの》 2 《チャンドラの敗北》 2 《削剥》 2 《霊気圏の収集艇》 2 《反逆の先導者、チャンドラ》 -サイドボード (15)- |
やはりエネルギー祭りの中をくぐりぬけるのは厳しかったか、トップ8に進出した赤単は1名のみとなった。
メイン・サイドともにほぼテンプレートだが、75枚の中に3枚目の《反逆の先導者、チャンドラ》がなく、代わりに《ピア・ナラー》を3枚積んだ上に《霊気圏の収集艇》と追加の《暴れ回るフェロキドン》も積んでいるなど、4マナ以上の重い部分ではなく主に3マナクリーチャーの択でずらして勝とうという意思が感じられる。
3 《山》 3 《平地》 2 《泥濘の峡谷》 4 《感動的な眺望所》 4 《秘密の中庭》 4 《産業の塔》 2 《霊気拠点》 1 《ラムナプの遺跡》 -土地 (23)- 2 《歩行バリスタ》 4 《発明者の見習い》 4 《模範的な造り手》 2 《ボーマットの急使》 4 《屑鉄場のたかり屋》 3 《経験豊富な操縦者》 2 《ピア・ナラー》 3 《熱烈の神ハゾレト》 -クリーチャー (24)- |
3 《致命的な一押し》 4 《無許可の分解》 4 《キランの真意号》 2 《霊気圏の収集艇》 -呪文 (13)- |
3 《暴れ回るフェロキドン》 3 《黄昏+払暁》 2 《強迫》 2 《マグマのしぶき》 2 《削剥》 1 《ピア・ナラー》 1 《反逆の先導者、チャンドラ》 1 《平地》 -サイドボード (15)- |
《削剥》の登場と《スレイベンの検査官》《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の退場により、最近は赤単や赤黒などの《熱烈の神ハゾレト》アグロのバリエーションとしての地位に甘んじていたマルドゥ機体だが、山本 賢太郎プロとのタイブレーカーを制してトップ8に勝ち残った。
このデッキも赤単に勝てないことが悩みの種だったが、《稲妻の一撃》の登場で《削剥》の採用枚数が減ってきていたことや、おそらくそれ以前にそれほど赤単とマッチングしなかったのではないかと思われる。
サイドにはエネルギーデッキ相手に《牙長獣の仔》《ならず者の精製屋》《逆毛ハイドラ》《栄光をもたらすもの》をまとめて吹き飛ばせる《黄昏+払暁》を3枚も採用しており、これが多くの場面で活躍したことでトップ8進出の決め手になったであろうことは想像に難くない。
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