熊谷 陸のプロツアー『イクサラン』Kusemono調整録

熊谷 陸

はじめまして、Hareruya Prosの熊谷 陸です。

この記事は先日参加したプロツアー『イクサラン』の調整過程、本戦のレポートです。

1. ドラフト

プロツアードラフトの主な練習はMagic Online(以下、MO)での走り込みと各練習会への参加です。ひたすらにMOリーグをこなし、週末に晴れる屋のPros&Hopes ドラフト練習会や、Cygamesさんの合同ドラフト練習会であるTeam Cygames『イクサラン』にお邪魔して調整するという流れです。

今回のプロツアーではそれに加えて、チーム「Kusemono」(編注:中村 修平、瀧村 和幸、高橋 優太、井上 徹、藤村 和晃、そして熊谷 陸の6名)メンバー各々のドラフトの戦績、アーキタイプ別の勝率、雑感などを記録し、共有するという試みも行いました。百人力です。

このような練習を経た上での『イクサラン』ドラフトの戦略がこちらです。

縄張り持ちの槌頭輝くエアロサウルスアダントの先兵

まず一つ目は、クリーチャーの質が高く、2色の組み合わせに強力なアーキタイプが多い白をやりたいと願うことです。白赤、白黒、白青の3種類はその対応力の高さから綺麗に構築できた際の勝率が非常に高く、もし一線級のクリーチャーでデッキをまとめられなかったとしてもクリーチャーの層の厚さから0-3デッキになり辛いために、積極的に進むに足る色です。

葉を食む鞭尾イクサーリの卜占師轟く棘背びれ

もう一つは、流れてくる緑を積極的に受け入れることです。『イクサラン』の緑は他の色と違いただ一つの防御的な色です。

除去が弱く強化オーラや《海賊のカットラス》による轢殺が珍しくない『イクサラン』環境では、攻撃的なブン回りができない緑は戦略的に不利なポジションにいます。ただ、それ故に緑のカードは人気がなく、しばしば流れてきます。

巨大な戦慄大口

完成度が高いアグロ相手は厳しいですが、中の上程度のアグロやミッドレンジ相手ならば「探検」からの《巨大な戦慄大口》で圧倒できるでしょう。緑青の恐竜デッキが好みですが、緑赤、緑白、緑黒いずれの組み合わせも有力です。3-0はやや難しいですが2-1は安定して狙える、手堅いカラーです。

GP香港ドラフト

こちらはグランプリ・香港2017でのドラフトデッキ。2-1でしたが理想的な出来です。

逆に敬遠したいのは、神話コモン《海賊のカットラス》に依存している地を這う海賊ビートダウンと、卓一でもそこそこ弱いと評判の防御力皆無のマーフォークアグロです。1-1で《海賊のカットラス》が拾えたり、卓一らしさを感じた時に渋々やる程度です。

2. スタンダード

本戦に持って行ったデッキはこれです。

始まりは「赤単を使いたい」という思いからです。

ティムールは当然最後まで使用デッキの候補だとして、他の選択肢にまず挙がったのが赤単でした。青いコントロールや《王神の贈り物》などの「ティムールを意識したデッキ」に強く、土地事故への耐性や裏目が少ない戦略など、立ち位置と構造の強さが魅力的だったからです。

つむじ風の巨匠逆毛ハイドラ

これでティムールと五分程度の相性ならば言うことはないだろうと思いながら走り込みを始めたのですが、面白いほどにティムールとマッチして、そして笑えないほどに負け続けました。強い回りも弱い回りもすべてが《つむじ風の巨匠》《逆毛ハイドラ》に飲み込まれてしまい、勝てるイメージが持てなくなってしまったのです。

過酷な指導者暴れ回るフェロキドン

《過酷な指導者》《暴れ回るフェロキドン》をフル投入した今でいうところのヘイトベアー型も試してみましたが、ティムール側がどこに当てても同じだった火力を多少考えて撃つようになるくらいの差しか感じず、相性が改善されているとはとても思えませんでした。

今思うと余程僕のプレイが稚拙だったか、もしくはそれに加えて多少ツイてなかったのかもしれません。ただどちらにせよ当時の感触で赤単を選択するのは無理だったでしょう。

そんな流れでティムールの運転と《副陽の接近》コントロールの調整をしていたところ、Kusemonoミーティング中に話に出てきたのがこの黒赤アグロでした。話によるとチームメンバーのティムールをMOCS中に粉砕したとのこと

早速リーグに持ち込んでみると、感触や良好。《過酷な指導者》でも《暴れ回るフェロキドン》でも《反逆の先導者、チャンドラ》でも《栄光をもたらすもの》でも勝てなかったティムールへの切り札は、《バントゥ最後の算段》でした。

バントゥ最後の算段

盤面全振りのティムールは全体除去から復帰することが困難なため、《不死の援護者、ヤヘンニ》《熱烈の神ハゾレト》との組み合わせでなくとも、《バントゥ最後の算段》が決定打になりやすいのです

戦慄の放浪者

赤単に比べて《戦慄の放浪者》により打点も上がり、青系への強さは維持。クリーチャーがブロックに回れないせいで赤単相手は厳しそうに見えますが小型の生物は呪文で除去し合う展開になることが多く、除去耐性によるリソース勝ちが狙えるので十分に戦えます。

以上から黒赤を赤単の上位互換だと判断。チームメンバーの何人かにも黒赤は好評で、プロツアー前週の香港でのミーティング時にはメンバーのほとんどが「黒赤かティムールを使う」という流れに。

多面相の侍臣慮外な押収

使用候補のティムールデッキは《多面相の侍臣》《慮外な押収》をメインから多く積んで3色にまとめたものだったのですが、プロツアー会場でティムール同型メタがどれだけエスカレートするのか未知数だったために使用には不安が残りました。

こうしてプロツアー前日の22時、黒赤のリストをレジストページに打ち込みました。

3. 本戦

金曜の朝にKusemonoのメンバーに挨拶すると、6人全員が結局別々のデッキを選択していたことが明らかになります。まあそういうこともありますよね。

1stドラフト

初手は好みの色ではありませんが、他が並のカードだったため《深海艦隊の船長》。2手目もパッとせず《流血の空渡り》で色を揃えたところで、3手目以降に緑の流れが到来します。そのまま2パック目終了まで流れてくる緑を拾い続け、3パック目初手に《ヴラスカの侮辱》をピックして緑黒路線に。

《隠れ潜むチュパカブラ》などの「探検」を活かせるカードが欲しかったのですが終ぞ出会えず、デッキはシナジーなしの平凡な緑ミッドレンジに仕上がりました。

1stドラフト
ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 1赤黒オーラアグロ   ×
Round 2赤緑恐竜   〇
Round 3白青ミッドレンジ   〇

結果は2-1。初戦で非常に完成度の高い《向こう見ず》デッキに轢き殺されましたが、残りの試合は《巨大な戦慄大口》で踏み潰して勝利と緑色らしい結果に終わりました。

2ndドラフト

1パック目、上家と上上家が《軍団の上陸》を公開するスタート。《蠱惑的な船員》をピックし見守っていたところ、上家が白を放棄したので黙って回収し、白を主張しつつ流れてくる赤いカードを中心にピックします。

軍団の上陸

すると2パック目で下側から2枚目の《軍団の上陸》を始めとした優良な白いカードが大量に流れて来たためそのまま白赤へ一直線。除去が薄い以外は鬼のように強力なデッキが完成しました

2ndドラフト
ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 9白黒吸血鬼   〇
Round 10緑青マーフォーク   〇
Round 11白赤アグロ   〇

結果は3-0。デッキパワーによるごり押しの勝利が主ですが、R11の上上家白赤同型戦は2枚の《聳えるアルティサウルス》《アダントの先兵》たちを完封し勝利と、サイドが上手くハマり痛快でした。

スタンダード

ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 4グリクシスミッドレンジ   〇
Round 54Cエネルギー   ×
Round 6ティムールエネルギー   ×
Round 74Cエネルギー   ×
Round 8赤単   〇
ラウンド 対戦デッキ 勝敗
Round 12スゥルタイエネルギー   〇
Round 13青黒コントロール   ×
Round 14マルドゥ機体   ×
Round 15マルドゥ機体   ×
Round 16スゥルタイエネルギー   〇

結果は4-6。ここ最近のプロツアーでは一番負けました。

スカラベの神

主たる敗因は《スカラベの神》です。《バントゥ最後の算段》で盤面を整理するプランが、《スカラベの神》入りデッキ相手では成立しないわけですね。

僕の予想ではティムールエネルギーは3色純正型が主流になるだろうという見立てだったのですが、実際には4色型使用者はChannel Fireballを始めとして純正に匹敵する相当数がいました。4色相手では黒赤は赤単よりも勝率が悪くなってしまい、結果プロツアー会場での黒赤の強みはなくなっていたのです

4. 反省点と、次のプロツアーに向けて

今回の調整の反省点としては、自分自身でのティムールの練り込みが足りなかったことです。ティムールデッキを中心に回してくれているチームメンバーに甘えてしまい、自分でのエネルギー関連の調整が疎かになり理解が浅いものになってしまいました。

つむじ風の巨匠霊気との調和逆毛ハイドラ

もしも僕自身で良い4色型のリストを見出せていれば、そこまで行かずとも4色型の立ち位置を正しく理解できてさえいれば、デッキの選択、構成はまた違ったものになっていたでしょう。

次回のプロツアー『イクサランの相克』は苦手なモダンですが、諸々の反省を生かしてリベンジしたいですね。

読んで下さってありがとうございます。それではまた。

熊谷

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